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一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】
第21話 噂
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ミシュリーヌは午前中に三人の治療を終えて、隣接する医師の自宅で一息ついた。ニコラとヤニックも護衛のように付き添ってくれている。
「みんな調子いいよな」
「この街の状況を考えれば、仕方がないさ」
ヤニックの相棒の治療が成功したあとは、自分の家族や友人を助けてくれと、ミシュリーヌに詰め寄る者もいた。ニコラの忠告を聞いて、『師匠』の存在を作り上げておいて、本当に良かったと思う。
「患者さんが多くて驚きました」
ミシュリーヌが想定していたより倍くらいの患者がいた。リュックのように自宅にいる者も合わせると、商会の出発には間に合いそうにない。
「これでも、十数人は減ったんだがな」
ヤニックが王都に向かった頃には、この療養所に五十人近くの人がいたらしい。
この街から王都に浄化薬を取りに行った者は、サビーヌやヤニックの他にもいた。そのほとんどが、ここ半年で魔素に侵された者の関係者だったようだ。
その時期に魔素を受けた者なら、浄化薬が間に合う。無理をしてでも王都に出る者が多く、浄化薬を使い療養所を出ていった。
「もしかして、ヤニックさんやサビーヌさんが乗合馬車を使わなかったのは……」
「効く可能性が低いのに、他の奴の可能性を潰すわけにはいかないだろう?」
商会に同行するより、乗合馬車を使った方が早く移動ができる。それはそのまま浄化薬を早く届けられることを意味していた。ミシュリーヌが乗合馬車を使わなかったのは、目的地への早い到着よりも、あの街を早く出ることを優先したためだ。あの日の早い時間に大きな地方都市に向かう乗合馬車はなかった。
ヤニックは帰りの乗合馬車の予約をとっていたが、同郷の他の者に譲ったらしい。王都は祭り騒ぎが続いていたので、この街に戻る乗合馬車が想像より少なかったようだ。他にも多くの者が浄化薬を欲していたことを考えれば、預けず自分で運びたいという気持ちも分かる。
ヤニックの相棒が助かって、すごく喜んでいる男性がいたが、その人が席を譲った相手らしい。自分の家族は助かったが、ヤニックに恩を感じて療養所の手伝いを続けていたようだ。
「ここに残っている患者は、ほとんどが八ヶ月前に魔素を受けた者だな」
浄化薬の値上げは一年前。では、八ヶ月より以前に魔素を受けた人間は……聞かなくても、答えは想像できる。
間に合ったとは言い切れない現実に、ミシュリーヌはひとり震えた。
「ミーシャが気にすることじゃないよ。悪いのは、王都でわがまま放題に暮らしている聖女様さ」
「おい、ニコラ。やめろ」
ニコラの軽口に、ヤニックが慌てたように反応する。ニコラは「他に誰も聞いていないから不敬にはならない」と言ってケラケラと笑った。
『わがまま放題に暮らしている聖女様』
ミシュリーヌは、市井での想定外の評判に目眩がした。どの行動がいけなかったのだろう? ミシュリーヌには窘められた記憶もなく、推測すらままならない。
「だって、そうだろう? ミーシャは浄化薬をたくさん持ってる。ということは、特別な事情があって浄化薬が作れなくなったわけじゃない。噂が本当だったってことじゃん」
「だが……」
「噂ってなんですか?」
ミシュリーヌは恐る恐る聞いた。ミシュリーヌはどこに行っても、皆に歓迎されていた。守られ隠されてきた本当の評判を知りたい。
「いや、それが……」
ヤニックがミシュリーヌを困ったような顔で見ている。聖女であることは知られていないと思うが、王都の人間であることは知っている。ヤニックは、ミシュリーヌが不敬罪だと役人に訴え出る事を心配しているのかもしれない。
「大丈夫です。私は王都の人間ですが、聖女が人格者でないことは分かっています」
聖女は優しい人に囲まれて、ぬくぬくと暮らしてきた世間知らずだ。そのことはミシュリーヌが一番良く知っている。
「ヤニックさん、ミーシャに隠すことなんてないだろう? まぁ、どの噂が本当なのかは分からないし、聖女様が悪いんじゃなくて、贈り物のお金も用意できない甲斐性なしの旦那のせいかもしれないけどな」
「甲斐性なしの旦那……」
ミシュリーヌが離婚を切り出したことはまだ公にされていないから、『旦那』とはオーギュストのことだろう。ミシュリーヌのせいでオーギュストの評判も下がっているのだろうか?
そう考えると、オーギュストが別の女性を求めたことも当然のことのように思えてくる。
「ニコラ、黙ってろ。俺から話す」
「……お願いします」
ミシュリーヌは声が震えないように気をつけながら言った。ヤニックはミシュリーヌを気遣うように見てから話し始めた。
「みんな調子いいよな」
「この街の状況を考えれば、仕方がないさ」
ヤニックの相棒の治療が成功したあとは、自分の家族や友人を助けてくれと、ミシュリーヌに詰め寄る者もいた。ニコラの忠告を聞いて、『師匠』の存在を作り上げておいて、本当に良かったと思う。
「患者さんが多くて驚きました」
ミシュリーヌが想定していたより倍くらいの患者がいた。リュックのように自宅にいる者も合わせると、商会の出発には間に合いそうにない。
「これでも、十数人は減ったんだがな」
ヤニックが王都に向かった頃には、この療養所に五十人近くの人がいたらしい。
この街から王都に浄化薬を取りに行った者は、サビーヌやヤニックの他にもいた。そのほとんどが、ここ半年で魔素に侵された者の関係者だったようだ。
その時期に魔素を受けた者なら、浄化薬が間に合う。無理をしてでも王都に出る者が多く、浄化薬を使い療養所を出ていった。
「もしかして、ヤニックさんやサビーヌさんが乗合馬車を使わなかったのは……」
「効く可能性が低いのに、他の奴の可能性を潰すわけにはいかないだろう?」
商会に同行するより、乗合馬車を使った方が早く移動ができる。それはそのまま浄化薬を早く届けられることを意味していた。ミシュリーヌが乗合馬車を使わなかったのは、目的地への早い到着よりも、あの街を早く出ることを優先したためだ。あの日の早い時間に大きな地方都市に向かう乗合馬車はなかった。
ヤニックは帰りの乗合馬車の予約をとっていたが、同郷の他の者に譲ったらしい。王都は祭り騒ぎが続いていたので、この街に戻る乗合馬車が想像より少なかったようだ。他にも多くの者が浄化薬を欲していたことを考えれば、預けず自分で運びたいという気持ちも分かる。
ヤニックの相棒が助かって、すごく喜んでいる男性がいたが、その人が席を譲った相手らしい。自分の家族は助かったが、ヤニックに恩を感じて療養所の手伝いを続けていたようだ。
「ここに残っている患者は、ほとんどが八ヶ月前に魔素を受けた者だな」
浄化薬の値上げは一年前。では、八ヶ月より以前に魔素を受けた人間は……聞かなくても、答えは想像できる。
間に合ったとは言い切れない現実に、ミシュリーヌはひとり震えた。
「ミーシャが気にすることじゃないよ。悪いのは、王都でわがまま放題に暮らしている聖女様さ」
「おい、ニコラ。やめろ」
ニコラの軽口に、ヤニックが慌てたように反応する。ニコラは「他に誰も聞いていないから不敬にはならない」と言ってケラケラと笑った。
『わがまま放題に暮らしている聖女様』
ミシュリーヌは、市井での想定外の評判に目眩がした。どの行動がいけなかったのだろう? ミシュリーヌには窘められた記憶もなく、推測すらままならない。
「だって、そうだろう? ミーシャは浄化薬をたくさん持ってる。ということは、特別な事情があって浄化薬が作れなくなったわけじゃない。噂が本当だったってことじゃん」
「だが……」
「噂ってなんですか?」
ミシュリーヌは恐る恐る聞いた。ミシュリーヌはどこに行っても、皆に歓迎されていた。守られ隠されてきた本当の評判を知りたい。
「いや、それが……」
ヤニックがミシュリーヌを困ったような顔で見ている。聖女であることは知られていないと思うが、王都の人間であることは知っている。ヤニックは、ミシュリーヌが不敬罪だと役人に訴え出る事を心配しているのかもしれない。
「大丈夫です。私は王都の人間ですが、聖女が人格者でないことは分かっています」
聖女は優しい人に囲まれて、ぬくぬくと暮らしてきた世間知らずだ。そのことはミシュリーヌが一番良く知っている。
「ヤニックさん、ミーシャに隠すことなんてないだろう? まぁ、どの噂が本当なのかは分からないし、聖女様が悪いんじゃなくて、贈り物のお金も用意できない甲斐性なしの旦那のせいかもしれないけどな」
「甲斐性なしの旦那……」
ミシュリーヌが離婚を切り出したことはまだ公にされていないから、『旦那』とはオーギュストのことだろう。ミシュリーヌのせいでオーギュストの評判も下がっているのだろうか?
そう考えると、オーギュストが別の女性を求めたことも当然のことのように思えてくる。
「ニコラ、黙ってろ。俺から話す」
「……お願いします」
ミシュリーヌは声が震えないように気をつけながら言った。ヤニックはミシュリーヌを気遣うように見てから話し始めた。
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