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一章 役目を終えて【ミシュリーヌ】
第26話 手紙
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ミシュリーヌは手紙を書き終えて、羽根ペンを置く。向かいに座るヤニックとギルド長は戦闘時に感じたことなどをまとめ、ニコラは地図の写しを作ってくれている。それぞれ二通ずつだ。
「どうやって届けるのか聞いても良いか?」
「はい。直接伝える方法も考えましたが、治療がありますし……個人的にも王都には戻りたくないんです。ですから、今回はこれを使おうと思っています」
ミシュリーヌはマジックバッグから木箱を取り出す。箱を開けて、ガラス瓶に入った蝋をヤニックに手渡した。
「封蝋? 魔法がかかっているのか?」
「そのとおりです。特殊なものですが、回復薬や浄化薬のような魔法薬の一種なんですよ」
オーギュストが手紙を送る際には、必ず使っていたものだ。これで封をした手紙は、指定した相手にしか開封することができない。封蝋を施したのが誰なのかも、その相手が魔道具で鑑定すれば正確に知ることができる。
ミシュリーヌが説明すると、皆が感心したように頷く。オーギュストなら、自分宛てではなくても見ただけで差出人の魔力を鑑定できるが、特殊すぎるので言わなくても良いだろう。
「ギルド長は見たことがあるんじゃないですか?」
「送られて来たことはあるが、冒険者ギルドでこんな高価なものは買えねぇよ」
「わ、私も知人が作ったのをもらっただけです!」
ミシュリーヌが慌てて言い訳をすると、ヤニックがニコラに口止めを始めた。ヤニックとギルド長にはバレていそうだが、このままではニコラにまで正体を知られてしまいそうだ。ミシュリーヌの周りの常識が、どれだけ国民の非常識だったかを痛感させられる。
ミシュリーヌは冷や汗をかきながら、蝋を専用の道具を使って溶かし手紙に垂らした。
「【この手紙の開封は、前ヴァーグ伯爵にのみ許します】」
ミシュリーヌは前ヴァーグ伯爵の顔を思い浮かべながら、封蝋印に魔力を流して蝋に押し付けた。ほのかに輝いて、光が手紙に吸い込まれる。
ミシュリーヌは封蝋に触れて開かないことを確認しホッと息を吐いた。
「前ヴァーグ伯爵というと、魔導師団長を務めていた人物か?」
「はい。公表されているわけではありませんが、前伯爵の次男のジョエル様は、現魔導師団長の侍従をしています。前伯爵が手紙を読んだら、彼に伝書鳩を飛ばして下さると思うので、確実に魔導師団の上層部に状況が伝わります」
他にも同じことができる人物はいるが、オーギュストの絶対的な味方と呼べる者に託したい。その点、前ヴァーグ伯爵はオーギュストの師匠であるし、その夫人は乳母を務めていた。
前伯爵はジョエルの兄である伯爵に全てを譲り、王都の祝賀パーティにも出席していなかった。パーティで会った伯爵の話によれば、領都の屋敷で隠居生活を楽しんでいるらしい。居場所が確定しているというのも選んだ理由の一つだ。
「……前伯爵が手紙を読んで下さるかが問題だな」
「大丈夫だと思いますが、念のためにこれを使います」
ミシュリーヌはマジックバックから浄化薬を取り出す。
「ヴァーグ伯爵領にある屋敷に着いたら、浄化薬を執事か無理なら門番に渡してもらおうと思います。そうすれば、取り次いでくれるでしょう。魔導師の家系ですから、そういった知識は使用人にも浸透しているはずです」
「なるほど、浄化薬があれば確実だな」
祝賀パーティの日は例外だったが、一般人が浄化薬を持っている可能性はゼロに近い。それを見せるだけで、神殿やミシュリーヌにつながる。
「ギルド長、王都とヴァーグ伯爵領に手紙を届けてもらいたいのですが、人員の確保をお願いできますか?」
「それは構わないが……」
「ミーシャの護衛も必要だな。俺もついて行くつもりだが、二人はまずいだろう」
「いいえ、私の護衛は必要ありません。ヤニックさんも手伝って下さるなら、王都への手紙をお願いしたいです。直接、魔導師団長に説明していただけませんか? 手紙を渡せば、魔導師団から呼び出されると思うんです」
伝書鳩は一度に送れる重さの上限がある。魔力で補強しても、用意した全ての情報を送るのは難しい。前伯爵が王都に人を送ってくれるだろうが、時間がかかりすぎる。それに、オーギュストが書き出したこと以外のことを知りたがる可能性もある。
「魔導師団に俺が行っても無理じゃないか? 仲間の中には魔導師団に直接訴えに行って追い出された奴もいるんだぞ」
「手紙があるので大丈夫だと思いますが……念のために、前伯爵への手紙にもヤニックさんのことを書いておきましょう」
結局、ヴァーグ伯爵領にはニコラが護衛とともに向かうことになった。ヤニックがクドクドとニコラに言い聞かせていたが、ギルド長が共に向かう護衛の名を告げると、安心したように黙った。どうやら、信頼できる人物らしい。
「本当はミーシャの護衛に付けようと思って呼んだんだ。本当に大丈夫か? 噂については聞いたんだろう? 印象は最悪だぞ」
「覚悟しています。その印象を変えるためにも、できるだけのことはしたいんです」
この地の夜は危険だが、日のあるうちならば、他領の夜のように魔素を浄化しながら進むことができる。魔獣に合わなければ、早く移動することが可能だ。だが、広範囲を浄化しながら動くのは難しい。馬を癒しながら進む必要もあり、一人でなければ使えない手だ。
「でもな……」
「それより、回復薬がほしいです。これで買えるだけ用意して頂けませんか?」
ミシュリーヌはドサリと麻袋に入った金貨を机の上に置く。回復薬は浄化薬の原料だ。なるべく多くを確保しておきたい。
ギルド長は諦めたように息を吐いて、机の上の麻袋を開けた。
「上級回復薬は不足しているんだ。掻き集めても30本が限度だな」
「いいえ、低級回復薬でお願いします」
神官が浄化薬を作る場合には上級を原料にするが、ミシュリーヌなら低級からでも作ることができる。完成後の効果は同じだ。
「低級ならある程度の数を用意できるが……何万本ほしいんだ?」
「へ?」
ギルド長が引き攣った顔でミシュリーヌを見ている。
ミシュリーヌは低級回復薬の値段を聞いて、金貨を三枚だけ残してバッグにしまった。恥ずかしくて頬が熱を持つ。
お金の価値は難しい。
ギルド長が薬草採取の依頼と、回復薬製作の依頼を出してくれたので、この街の患者の治療を終えて出発する日までには、必要量を揃えることができそうだ。
一章 終
――――――――
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます。二章はお昼12:10の公開となりますので、よろしくお願いいたします。
「どうやって届けるのか聞いても良いか?」
「はい。直接伝える方法も考えましたが、治療がありますし……個人的にも王都には戻りたくないんです。ですから、今回はこれを使おうと思っています」
ミシュリーヌはマジックバッグから木箱を取り出す。箱を開けて、ガラス瓶に入った蝋をヤニックに手渡した。
「封蝋? 魔法がかかっているのか?」
「そのとおりです。特殊なものですが、回復薬や浄化薬のような魔法薬の一種なんですよ」
オーギュストが手紙を送る際には、必ず使っていたものだ。これで封をした手紙は、指定した相手にしか開封することができない。封蝋を施したのが誰なのかも、その相手が魔道具で鑑定すれば正確に知ることができる。
ミシュリーヌが説明すると、皆が感心したように頷く。オーギュストなら、自分宛てではなくても見ただけで差出人の魔力を鑑定できるが、特殊すぎるので言わなくても良いだろう。
「ギルド長は見たことがあるんじゃないですか?」
「送られて来たことはあるが、冒険者ギルドでこんな高価なものは買えねぇよ」
「わ、私も知人が作ったのをもらっただけです!」
ミシュリーヌが慌てて言い訳をすると、ヤニックがニコラに口止めを始めた。ヤニックとギルド長にはバレていそうだが、このままではニコラにまで正体を知られてしまいそうだ。ミシュリーヌの周りの常識が、どれだけ国民の非常識だったかを痛感させられる。
ミシュリーヌは冷や汗をかきながら、蝋を専用の道具を使って溶かし手紙に垂らした。
「【この手紙の開封は、前ヴァーグ伯爵にのみ許します】」
ミシュリーヌは前ヴァーグ伯爵の顔を思い浮かべながら、封蝋印に魔力を流して蝋に押し付けた。ほのかに輝いて、光が手紙に吸い込まれる。
ミシュリーヌは封蝋に触れて開かないことを確認しホッと息を吐いた。
「前ヴァーグ伯爵というと、魔導師団長を務めていた人物か?」
「はい。公表されているわけではありませんが、前伯爵の次男のジョエル様は、現魔導師団長の侍従をしています。前伯爵が手紙を読んだら、彼に伝書鳩を飛ばして下さると思うので、確実に魔導師団の上層部に状況が伝わります」
他にも同じことができる人物はいるが、オーギュストの絶対的な味方と呼べる者に託したい。その点、前ヴァーグ伯爵はオーギュストの師匠であるし、その夫人は乳母を務めていた。
前伯爵はジョエルの兄である伯爵に全てを譲り、王都の祝賀パーティにも出席していなかった。パーティで会った伯爵の話によれば、領都の屋敷で隠居生活を楽しんでいるらしい。居場所が確定しているというのも選んだ理由の一つだ。
「……前伯爵が手紙を読んで下さるかが問題だな」
「大丈夫だと思いますが、念のためにこれを使います」
ミシュリーヌはマジックバックから浄化薬を取り出す。
「ヴァーグ伯爵領にある屋敷に着いたら、浄化薬を執事か無理なら門番に渡してもらおうと思います。そうすれば、取り次いでくれるでしょう。魔導師の家系ですから、そういった知識は使用人にも浸透しているはずです」
「なるほど、浄化薬があれば確実だな」
祝賀パーティの日は例外だったが、一般人が浄化薬を持っている可能性はゼロに近い。それを見せるだけで、神殿やミシュリーヌにつながる。
「ギルド長、王都とヴァーグ伯爵領に手紙を届けてもらいたいのですが、人員の確保をお願いできますか?」
「それは構わないが……」
「ミーシャの護衛も必要だな。俺もついて行くつもりだが、二人はまずいだろう」
「いいえ、私の護衛は必要ありません。ヤニックさんも手伝って下さるなら、王都への手紙をお願いしたいです。直接、魔導師団長に説明していただけませんか? 手紙を渡せば、魔導師団から呼び出されると思うんです」
伝書鳩は一度に送れる重さの上限がある。魔力で補強しても、用意した全ての情報を送るのは難しい。前伯爵が王都に人を送ってくれるだろうが、時間がかかりすぎる。それに、オーギュストが書き出したこと以外のことを知りたがる可能性もある。
「魔導師団に俺が行っても無理じゃないか? 仲間の中には魔導師団に直接訴えに行って追い出された奴もいるんだぞ」
「手紙があるので大丈夫だと思いますが……念のために、前伯爵への手紙にもヤニックさんのことを書いておきましょう」
結局、ヴァーグ伯爵領にはニコラが護衛とともに向かうことになった。ヤニックがクドクドとニコラに言い聞かせていたが、ギルド長が共に向かう護衛の名を告げると、安心したように黙った。どうやら、信頼できる人物らしい。
「本当はミーシャの護衛に付けようと思って呼んだんだ。本当に大丈夫か? 噂については聞いたんだろう? 印象は最悪だぞ」
「覚悟しています。その印象を変えるためにも、できるだけのことはしたいんです」
この地の夜は危険だが、日のあるうちならば、他領の夜のように魔素を浄化しながら進むことができる。魔獣に合わなければ、早く移動することが可能だ。だが、広範囲を浄化しながら動くのは難しい。馬を癒しながら進む必要もあり、一人でなければ使えない手だ。
「でもな……」
「それより、回復薬がほしいです。これで買えるだけ用意して頂けませんか?」
ミシュリーヌはドサリと麻袋に入った金貨を机の上に置く。回復薬は浄化薬の原料だ。なるべく多くを確保しておきたい。
ギルド長は諦めたように息を吐いて、机の上の麻袋を開けた。
「上級回復薬は不足しているんだ。掻き集めても30本が限度だな」
「いいえ、低級回復薬でお願いします」
神官が浄化薬を作る場合には上級を原料にするが、ミシュリーヌなら低級からでも作ることができる。完成後の効果は同じだ。
「低級ならある程度の数を用意できるが……何万本ほしいんだ?」
「へ?」
ギルド長が引き攣った顔でミシュリーヌを見ている。
ミシュリーヌは低級回復薬の値段を聞いて、金貨を三枚だけ残してバッグにしまった。恥ずかしくて頬が熱を持つ。
お金の価値は難しい。
ギルド長が薬草採取の依頼と、回復薬製作の依頼を出してくれたので、この街の患者の治療を終えて出発する日までには、必要量を揃えることができそうだ。
一章 終
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【あとがき】
お読みいただきありがとうございます。二章はお昼12:10の公開となりますので、よろしくお願いいたします。
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