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二章 無事を祈って【オーギュスト】
第7話 公爵領の状況
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隊長以下四人が戻ってくるのを待って、ヤニックに改めてフリルネロ公爵領の状況を説明してもらった。これが人災なら大変なことだ。
「窮状が王都に伝わってきていないのはなぜだろうな。国の組織への訴えが退けられていたとしても、普通なら酒場で噂くらいにはなるだろう?」
「それは……」
ヤニックが言葉を詰まらせる。助けを求めるようにジョエルを見たが、ジョエルは首を傾げるだけだ。
「発言させて頂いてもよろしいですか?」
「もちろんだ」
代わりに説明してくれたのは、小隊長の一人だった。平民出身で市井のことにも詳しい。
「団長もご存知かと思いますが、ほとんどの領主が魔素の増加を機に他領からの移住者を制限していました」
「ああ、そうだな」
ミシュリーヌが来る前のこの国は、ぎりぎりの状態だった。魔素が常態的に濃くなり魔獣が増えたが、聖女が嫁いで来るのを拒み続けていたことから解決の目処もたたない。
未来を見越して対策を練っていた領地と、そうでない領地で生活に差が出始めていた。当然のように、豊かな土地に人が集まりはじめる。それでは対策の意味がないと、領主たちは移住制限をはじめたのだ。
非情な策ではあるが、領民の命を優先した結果だ。楽観的な国王のせいで対策が後手に回った国には、口を出すことが出来なかった。
「そんな中で浄化が始まったわけです」
浄化はそんな領主の対策とは無関係に、国の上層部の判断で順番が決められた。オーギュストの立場から見れば、多くの人を守るために効率的な順番を選んだのだと理解できる。
だが、後回しにされた市民の側に立てば、簡単に納得できる話ではなかっただろう。それについてはオーギュストの耳にも入ってきている。
「浄化が終わり生活が改善した領地と、他とでは生活がかなり違います。皆、仕方がないことだと分かっていたのです。でも、一時は出身地について話すことも難しい状態でした」
「そうか」
魔導師団には才能ある者が全国から集まってくる。オーギュストが気づいていなかったのだから、団員達は私的な感情を隠して働いてくれていたのだろう。
「今も、どの地に魔獣が多いなどという話はマナー違反のようになっています」
「それで、噂話としても広がりにくいのか」
「おそらく、そのとおりかと思われます」
フルーナ王国の国民は、自分の領地から一生出ない者の方が多い。そんな中で王都に出て来れるような優秀な人間は、火種になるような安直な発言をしないということだろう。公爵領の者が市井で話したとしても広がらない。
ヤニックが小隊長にお礼を言って話を引き継ぐ。
「そもそも、市井で訴える者も少なかったんだと思います。噂が広まれば、物や人が領地に入って来なくなる。私も他で語ったことはありませんでした」
ミシュリーヌやヤニックが同行していたという商会は、フリルネロ公爵領を拠点にしているため、危険を犯して物資を運んでいるようだ。領内の冒険者ギルドが領民のために安価で協力している。
「全国的に浄化が終了し、移住が緩和されたため、今回の件でフリルネロ公爵領を出た者も多くいました。そういう者たちも罪悪感から語らないでしょう」
「苦労をかけてすまない」
「いいえ。救援の目処が経っただけで、私達にしてみれば奇跡のようなものです」
ヤニックは嘘のない笑顔を浮かべている。それがオーギュストには辛かった。本当は誰もが当たり前に受けることのできる支援だ。
「明日の朝には魔導師団の小隊を公爵領へ向かわせる。何か他に望みはあるか?」
「……図々しいお願いですが、故郷の者にこのことを知らせて頂くことは出来ますか?」
ヤニックが遠慮がちに取り出したのは、魔法薬の入った小瓶だった。伝書鳩用に作られた魔法薬で、飲ませれば予め魔法薬に入れておいた魔力の持ち主のもとに飛んでいく。ミシュリーヌが所持していたもので、ヤニックの故郷にあるギルドの長の魔力が入っているらしい。
「そういえば、ミシュリーヌからの手紙にも書いてあったな。知り合いからの手紙のほうが良いだろう。今から手紙を書いてくれるか?」
オーギュストがジョエルを見ると、小さく頷いて紙とペンをヤニックの前に置く。
「貴殿には、しばらく王宮に滞在してもらう。その事も書いておくと良い」
「畏まりました」
オーギュストはヤニックが書き始めるのを確認し、離宮にいる伝書鳩を一羽、魔法で召喚して呼び寄せる。魔法薬を器に出して、伝書鳩に飲ませた。
「書けました。確認していただけますか?」
「ああ」
オーギュストはヤニックから手紙を受け取って、サラリと読むと伝書鳩に結びつける。ジョエルが開けた窓から伝書鳩を外に放つと、フリルネロ公爵領の方角に真っ直ぐと飛んでいった。
「ジョエル、ヤニックを目立たないように離宮へ送り届けてくれ」
「畏まりました。殿下はどちらへ?」
「ちょっと、街に出てくる」
「日が暮れるまでに帰って下さいよ」
「ああ」
護衛をつけられるようなら巻くつもりでいたが、ジョエルはそのこともお見通しのようだ。オーギュストは転移した離宮で目立たぬ服に着替え、一人で王都の街に出発した。
「窮状が王都に伝わってきていないのはなぜだろうな。国の組織への訴えが退けられていたとしても、普通なら酒場で噂くらいにはなるだろう?」
「それは……」
ヤニックが言葉を詰まらせる。助けを求めるようにジョエルを見たが、ジョエルは首を傾げるだけだ。
「発言させて頂いてもよろしいですか?」
「もちろんだ」
代わりに説明してくれたのは、小隊長の一人だった。平民出身で市井のことにも詳しい。
「団長もご存知かと思いますが、ほとんどの領主が魔素の増加を機に他領からの移住者を制限していました」
「ああ、そうだな」
ミシュリーヌが来る前のこの国は、ぎりぎりの状態だった。魔素が常態的に濃くなり魔獣が増えたが、聖女が嫁いで来るのを拒み続けていたことから解決の目処もたたない。
未来を見越して対策を練っていた領地と、そうでない領地で生活に差が出始めていた。当然のように、豊かな土地に人が集まりはじめる。それでは対策の意味がないと、領主たちは移住制限をはじめたのだ。
非情な策ではあるが、領民の命を優先した結果だ。楽観的な国王のせいで対策が後手に回った国には、口を出すことが出来なかった。
「そんな中で浄化が始まったわけです」
浄化はそんな領主の対策とは無関係に、国の上層部の判断で順番が決められた。オーギュストの立場から見れば、多くの人を守るために効率的な順番を選んだのだと理解できる。
だが、後回しにされた市民の側に立てば、簡単に納得できる話ではなかっただろう。それについてはオーギュストの耳にも入ってきている。
「浄化が終わり生活が改善した領地と、他とでは生活がかなり違います。皆、仕方がないことだと分かっていたのです。でも、一時は出身地について話すことも難しい状態でした」
「そうか」
魔導師団には才能ある者が全国から集まってくる。オーギュストが気づいていなかったのだから、団員達は私的な感情を隠して働いてくれていたのだろう。
「今も、どの地に魔獣が多いなどという話はマナー違反のようになっています」
「それで、噂話としても広がりにくいのか」
「おそらく、そのとおりかと思われます」
フルーナ王国の国民は、自分の領地から一生出ない者の方が多い。そんな中で王都に出て来れるような優秀な人間は、火種になるような安直な発言をしないということだろう。公爵領の者が市井で話したとしても広がらない。
ヤニックが小隊長にお礼を言って話を引き継ぐ。
「そもそも、市井で訴える者も少なかったんだと思います。噂が広まれば、物や人が領地に入って来なくなる。私も他で語ったことはありませんでした」
ミシュリーヌやヤニックが同行していたという商会は、フリルネロ公爵領を拠点にしているため、危険を犯して物資を運んでいるようだ。領内の冒険者ギルドが領民のために安価で協力している。
「全国的に浄化が終了し、移住が緩和されたため、今回の件でフリルネロ公爵領を出た者も多くいました。そういう者たちも罪悪感から語らないでしょう」
「苦労をかけてすまない」
「いいえ。救援の目処が経っただけで、私達にしてみれば奇跡のようなものです」
ヤニックは嘘のない笑顔を浮かべている。それがオーギュストには辛かった。本当は誰もが当たり前に受けることのできる支援だ。
「明日の朝には魔導師団の小隊を公爵領へ向かわせる。何か他に望みはあるか?」
「……図々しいお願いですが、故郷の者にこのことを知らせて頂くことは出来ますか?」
ヤニックが遠慮がちに取り出したのは、魔法薬の入った小瓶だった。伝書鳩用に作られた魔法薬で、飲ませれば予め魔法薬に入れておいた魔力の持ち主のもとに飛んでいく。ミシュリーヌが所持していたもので、ヤニックの故郷にあるギルドの長の魔力が入っているらしい。
「そういえば、ミシュリーヌからの手紙にも書いてあったな。知り合いからの手紙のほうが良いだろう。今から手紙を書いてくれるか?」
オーギュストがジョエルを見ると、小さく頷いて紙とペンをヤニックの前に置く。
「貴殿には、しばらく王宮に滞在してもらう。その事も書いておくと良い」
「畏まりました」
オーギュストはヤニックが書き始めるのを確認し、離宮にいる伝書鳩を一羽、魔法で召喚して呼び寄せる。魔法薬を器に出して、伝書鳩に飲ませた。
「書けました。確認していただけますか?」
「ああ」
オーギュストはヤニックから手紙を受け取って、サラリと読むと伝書鳩に結びつける。ジョエルが開けた窓から伝書鳩を外に放つと、フリルネロ公爵領の方角に真っ直ぐと飛んでいった。
「ジョエル、ヤニックを目立たないように離宮へ送り届けてくれ」
「畏まりました。殿下はどちらへ?」
「ちょっと、街に出てくる」
「日が暮れるまでに帰って下さいよ」
「ああ」
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