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二章 無事を祈って【オーギュスト】
第12話 魔獣草
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オーギュストが魔導師団の会議室に入ると、集まっていた団員たちが座ったまま礼をする。その中に混ざってヤニックの姿も見えた。ヤニックは離宮に滞在し、日中は魔導師団で助言役として働いている。先発隊の報告を待って、本格的な部隊を派遣する準備をしているためだ。
今日は魔獣を使って街を襲わせたと思われる件で集まってもらっている。口の固い信用できる者をと言っておいたため、面倒事のたびに招集されるオーギュストの見知った者も多い。
「副団長はいらっしゃらないんですね」
小隊長の一人が不思議そうに声を上げる。こういった場には、ヌーヴェル伯爵もほとんどの場合は出席する。オーギュストが聖女関連の仕事で不在のことが多いため、その時の責任者として予め情報を共有しておくためだ。今回は異例だが、オーギュストを公爵領へ向かわせないという無言の圧を感じる。
「副団長は新人研修中だ」
第一部隊の隊長が代表して答える。魔導師団の新人は、半年間の研修を受けてから、それぞれの隊に配属される。研修の後半は副団長が講義を行うことも多い。新人配属の責任者である副団長が、新人の能力などを直接見るためだ。
「ああ。なるほど、そんな時期でしたね」
「私もそろそろ卒業試験の内容を考えなくてはいけないな。毎年、頭を悩ませるよ」
オーギュストはヌーヴェル伯爵に催促されていることを思い出して苦笑する。研修修了時に行われる卒業試験は、特殊な状況を作り出して行う。新人から苦情が出たときのことを考えて、王族であるオーギュストが決めることになっているのだ。
「そろそろ、始めましょうか」
ジョエルの一言で、皆が真剣な表情に変わる。
「そうだな。すでに聞いていると思うが、ここで話したことは団内でも話題にすることを禁じる」
オーギュストは喋りながら、会議室に盗聴防止の結界を張った。扉を閉じるだけで防音にはなっているが万が一ということもある。加えて、団員たちの気持ちを引き締める意味もあった。
「図書館の禁書を調べたところ、魔獣を引き寄せるために必要な材料が分かった。犯人を特定する証拠にもなるから、ここで全てを明かすことはできないが、極秘で調査してもらいたいと思っている」
本当は特別室で得た情報だから話せないのだが、士気に関わるのでぼやかしておく。第一部隊の隊長の顔に緊張が見て取れる。彼は気づいているのだろうし、自分や部下のためにも聞くべきではないと分かっているのだろう。
「調べてほしいのは魔獣草の入手経路だ。魔獣を呼び寄せるには一回に魔獣草5000束を必要とするらしい」
研究日誌に書かれていた材料は、誰にでも買うことのできるものばかりだった。それこそ、冒険者ギルドでは毎日のように取引されているだろう。
その中で、魔獣草だけが通常の取引では考えられない量だった。そこで、オーギュストは購入者を特定できるのてはないかと推測したのだ。ジョエルも聞くことを拒んだため、オーギュスト一人で考えることになったが、責任を一人で負うのも王族の仕事の一つだ。
「魔獣草5000束ですか?」
「ああ。魔導師団では使わないものだから調べた。小隊なら一回の野営で8束、騎士団の遠征でも30束あれば足りるものらしい」
魔獣草は魔獣避けに使うものだが、魔導師団では魔法で魔獣を避けるので使わない。冒険者をしているヤニックをチラリと見ると、小さく頷いた。図書館で得た情報だが、実際もその通りのようだ。
「単純に計算しても160日分はありますね。途中で街に泊まることを考えれば、騎士団の一部隊が一年間で消費する量より多いかもしれません」
「そんなに買えば目立つでしょうね」
「もしかして……」
「どうした、ヤニック?」
オーギュストは小さく呟いた声を拾った。ヤニックは怒りに耐えるような表情を浮かべている。
「最近、魔獣草の価格が急激に上がったんです。犯人による買い占めのせいだとしたら……」
「襲撃の間隔が空いたのも、魔獣草が入りづらくなったからだとしたら辻褄が合いますね」
隊長の言葉を受けて、皆が公爵領の地図に視線を向ける。きちんと調べる必要はあるが、公爵領への運搬を考えれば、価格上昇と襲撃間隔の変化の時期に矛盾はなさそうだ。
隊長の指揮で具体的な調査方法が決められていく。オーギュストはそれを聞きながら、内心安堵していた。
魔獣を集める方法については、魔導師団内の研究所や王太子を通じて外部にも秘密裏に問い合わせを行っていた。しかし、どこも魔獣が集まってこないようにする研究はしていても、魔獣を集めることに関して詳しい者がいなかったのだ。犯人がこの方法以外を取っていたなら、魔獣の襲撃から犯人を探す手段はなくなっていた。
「――……では、明日からそれぞれ慎重に動いてくれ」
隊長が締めの言葉を述べて、オーギュストに視線を向けてくる。
「今回の件は、人の命を軽んじている者の犯行だ。捜査にあたる魔導師団員はくれぐれも注意してくれ。危険を感じたら深追いしなくて構わない」
オーギュストの言葉に、一瞬だけヤニックが悲しそうな顔をしていた。口には出さないが、フリルネロ公爵領の事を思えば、危険を犯してでも調べてほしいというのが本音だろう。
「必ず、二人以上で捜査にあたるように徹底してくれ。隊長の言う通り、慎重にな」
「畏まりました」
オーギュストは何か言われたとしても、指示を曲げるつもりはない。ヤニックは捜査に加わりたいと申し出てくれたが、それも断るしかなかった。
今日は魔獣を使って街を襲わせたと思われる件で集まってもらっている。口の固い信用できる者をと言っておいたため、面倒事のたびに招集されるオーギュストの見知った者も多い。
「副団長はいらっしゃらないんですね」
小隊長の一人が不思議そうに声を上げる。こういった場には、ヌーヴェル伯爵もほとんどの場合は出席する。オーギュストが聖女関連の仕事で不在のことが多いため、その時の責任者として予め情報を共有しておくためだ。今回は異例だが、オーギュストを公爵領へ向かわせないという無言の圧を感じる。
「副団長は新人研修中だ」
第一部隊の隊長が代表して答える。魔導師団の新人は、半年間の研修を受けてから、それぞれの隊に配属される。研修の後半は副団長が講義を行うことも多い。新人配属の責任者である副団長が、新人の能力などを直接見るためだ。
「ああ。なるほど、そんな時期でしたね」
「私もそろそろ卒業試験の内容を考えなくてはいけないな。毎年、頭を悩ませるよ」
オーギュストはヌーヴェル伯爵に催促されていることを思い出して苦笑する。研修修了時に行われる卒業試験は、特殊な状況を作り出して行う。新人から苦情が出たときのことを考えて、王族であるオーギュストが決めることになっているのだ。
「そろそろ、始めましょうか」
ジョエルの一言で、皆が真剣な表情に変わる。
「そうだな。すでに聞いていると思うが、ここで話したことは団内でも話題にすることを禁じる」
オーギュストは喋りながら、会議室に盗聴防止の結界を張った。扉を閉じるだけで防音にはなっているが万が一ということもある。加えて、団員たちの気持ちを引き締める意味もあった。
「図書館の禁書を調べたところ、魔獣を引き寄せるために必要な材料が分かった。犯人を特定する証拠にもなるから、ここで全てを明かすことはできないが、極秘で調査してもらいたいと思っている」
本当は特別室で得た情報だから話せないのだが、士気に関わるのでぼやかしておく。第一部隊の隊長の顔に緊張が見て取れる。彼は気づいているのだろうし、自分や部下のためにも聞くべきではないと分かっているのだろう。
「調べてほしいのは魔獣草の入手経路だ。魔獣を呼び寄せるには一回に魔獣草5000束を必要とするらしい」
研究日誌に書かれていた材料は、誰にでも買うことのできるものばかりだった。それこそ、冒険者ギルドでは毎日のように取引されているだろう。
その中で、魔獣草だけが通常の取引では考えられない量だった。そこで、オーギュストは購入者を特定できるのてはないかと推測したのだ。ジョエルも聞くことを拒んだため、オーギュスト一人で考えることになったが、責任を一人で負うのも王族の仕事の一つだ。
「魔獣草5000束ですか?」
「ああ。魔導師団では使わないものだから調べた。小隊なら一回の野営で8束、騎士団の遠征でも30束あれば足りるものらしい」
魔獣草は魔獣避けに使うものだが、魔導師団では魔法で魔獣を避けるので使わない。冒険者をしているヤニックをチラリと見ると、小さく頷いた。図書館で得た情報だが、実際もその通りのようだ。
「単純に計算しても160日分はありますね。途中で街に泊まることを考えれば、騎士団の一部隊が一年間で消費する量より多いかもしれません」
「そんなに買えば目立つでしょうね」
「もしかして……」
「どうした、ヤニック?」
オーギュストは小さく呟いた声を拾った。ヤニックは怒りに耐えるような表情を浮かべている。
「最近、魔獣草の価格が急激に上がったんです。犯人による買い占めのせいだとしたら……」
「襲撃の間隔が空いたのも、魔獣草が入りづらくなったからだとしたら辻褄が合いますね」
隊長の言葉を受けて、皆が公爵領の地図に視線を向ける。きちんと調べる必要はあるが、公爵領への運搬を考えれば、価格上昇と襲撃間隔の変化の時期に矛盾はなさそうだ。
隊長の指揮で具体的な調査方法が決められていく。オーギュストはそれを聞きながら、内心安堵していた。
魔獣を集める方法については、魔導師団内の研究所や王太子を通じて外部にも秘密裏に問い合わせを行っていた。しかし、どこも魔獣が集まってこないようにする研究はしていても、魔獣を集めることに関して詳しい者がいなかったのだ。犯人がこの方法以外を取っていたなら、魔獣の襲撃から犯人を探す手段はなくなっていた。
「――……では、明日からそれぞれ慎重に動いてくれ」
隊長が締めの言葉を述べて、オーギュストに視線を向けてくる。
「今回の件は、人の命を軽んじている者の犯行だ。捜査にあたる魔導師団員はくれぐれも注意してくれ。危険を感じたら深追いしなくて構わない」
オーギュストの言葉に、一瞬だけヤニックが悲しそうな顔をしていた。口には出さないが、フリルネロ公爵領の事を思えば、危険を犯してでも調べてほしいというのが本音だろう。
「必ず、二人以上で捜査にあたるように徹底してくれ。隊長の言う通り、慎重にな」
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