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二章 無事を祈って【オーギュスト】
第17話 手紙【ミシュリーヌ】
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ミシュリーヌが手紙を開くと、街に人の姿が戻ってきた。やはり、彼らが魔法で人避けをしていたようだ。
八個の瞳が今もミシュリーヌを油断なく見つめている。オーギュストにきちんと見張るように言われているのだろう。フリルネロ公爵領の状況が改善するまでは、ミシュリーヌの力がこの国にはまだ必要だ。
ミシュリーヌは気にしないことにして便箋に視線を落とす。ミシュリーヌの魔力で開いた手紙には、オーギュストらしい真面目で美しい文字が並んでいた。
【ミシュリーヌの手紙を読んで……――】
一枚目には魔導師団を使って捜査を開始したことや、四人一組の先発隊をフリルネロ公爵領に派遣し、手分けして調べさせていることなどが書かれていた。
オーギュストはミシュリーヌの言葉を信じてくれたらしい。ヤニックがオーギュストのもとに辿り着くことができたのも大きいだろう。
ミシュリーヌはオーギュストに感謝して、二枚目を読み始めたのだが……
【しっかり食事を摂っているか? 夜は危険だから、出歩かないようにしなさい。魔力を使いすぎると……――】
二枚に渡ってびっしりと書かれていたのは、ミシュリーヌへの注意事項だった。サビーヌに注意されたこともいくつか書かれており、必要ないと怒ることもできない。
「私のことなんか放っておいて良いのに……」
つい愚痴のような言葉が漏れる。マリエルたちがピクリと反応した。
オーギュストは今でもミシュリーヌを家族として大切に想ってくれているのかもしれない。ミシュリーヌの未練がまた顔を出す。
違うわ。殿下は私を邪魔に思っていたはずだもの。
オーギュストは追跡魔法も得意だ。それなのに、追いかけてきてくれなかった。それが彼の答えなのだ。心配されたくらいで喜んではいけない。
ミシュリーヌは二枚目、三枚目を流し読みして、最後の四枚目を読み進める。そこには、四人の護衛を受け入れてほしいと書かれていた。先程、『王太子の殺害予告』の話をマリエルたちから聞いたが、【よくない動きがある】とオーギュストの手紙ではぼやかして書かれている。ミシュリーヌを怖がらせないために大切なことを教えてくれないのは、いつものことだ。
ヴァネッサにはきちんと話して相談できているのだろうか? オーギュストの幸せのためにはそうあってほしいと思うのに、どうしても心が違っていてほしいと訴えてくる。
【――……ミシュリーヌが私の元を去った理由が分からないんだ。こんな夫ですまない。落ち着いたら話し合いの場を設けてもらえないだろうか? どうしょうもない私に、もう一度だけ機会を与えてほしい】
ミシュリーヌは最後に書かれていた言葉に縋りそうになってしまう。オーギュストはミシュリーヌを呼び戻してどうするつもりなのだろう? この国は基本的に一夫一婦制をとっている。国王と王太子は例外が許されているが、王位につく可能性の低いオーギュストが妃を二人娶ることなんてありえない。
ミシュリーヌの愛するオーギュストは、とても誠実な人だ。ヴァネッサと結婚式を挙げるのなら、ミシュリーヌをそばに置くはずがない。ずっと近くにいたはずなのに、オーギュストが何を考えているのか分からない。
「妃殿下、日暮れが近くなっております。そろそろ、宿に戻りましょう。今晩はこちらをお召し上がり下さい」
眼の前に出されたのは、ミシュリーヌの好物が詰まった大きなバスケットだった。トマトをたっぷり使ったスープからは湯気が立ちのぼっている。ハンバーグの上のチーズはとろとろだ。マジックバッグから取り出したのだろうが、誰の指示で用意されたものかは明白だった。
「私は貴女たちの護衛を受け入れるつもりはないわ。ここにいるのは『妃殿下』でも『聖女』でもなく、ただの『ミーシャ』なの」
ミシュリーヌは離宮に戻されそうになった心を何とか落ち着かせて、はっきりと伝える。護衛を受け入れ、毎日オーギュストの話を聞かされたら、会いたくなってしまう。
「団長はミーシャ様がきちんと食事をなさっているのか心配されていました。これだけでもお受け取り下さい」
「ミーシャ様をお引き止めしてしまったお詫びだと思って下さい。離宮の料理人がミーシャ様のことを想って作った食事です。捨ててしまうのはもったいないと思いませんか?」
マリエルが言いながら、ミシュリーヌに押し付けるようにバスケットを渡してくる。離宮の料理人の話まで出されたら断れない。マリエルはミシュリーヌのことをよく分かっている。
「……」
ミシュリーヌが無言で受け取ると、マリエルがホッとしたように微笑む。ミシュリーヌは、お礼代わりに聖女の加護を彼女たちに贈ってから歩き出す。彼女たちに降りかかる災いを遠ざけてくれることだろう。四人はミシュリーヌを追いかけることなく、その場で頭を下げて見送ってくれた。
ただ、彼女たちが本気で隠れたなら、ミシュリーヌのそばにいても分からない。護衛を続けられている確信を持ちながら、ミシュリーヌは気にせず宿を目指した。
八個の瞳が今もミシュリーヌを油断なく見つめている。オーギュストにきちんと見張るように言われているのだろう。フリルネロ公爵領の状況が改善するまでは、ミシュリーヌの力がこの国にはまだ必要だ。
ミシュリーヌは気にしないことにして便箋に視線を落とす。ミシュリーヌの魔力で開いた手紙には、オーギュストらしい真面目で美しい文字が並んでいた。
【ミシュリーヌの手紙を読んで……――】
一枚目には魔導師団を使って捜査を開始したことや、四人一組の先発隊をフリルネロ公爵領に派遣し、手分けして調べさせていることなどが書かれていた。
オーギュストはミシュリーヌの言葉を信じてくれたらしい。ヤニックがオーギュストのもとに辿り着くことができたのも大きいだろう。
ミシュリーヌはオーギュストに感謝して、二枚目を読み始めたのだが……
【しっかり食事を摂っているか? 夜は危険だから、出歩かないようにしなさい。魔力を使いすぎると……――】
二枚に渡ってびっしりと書かれていたのは、ミシュリーヌへの注意事項だった。サビーヌに注意されたこともいくつか書かれており、必要ないと怒ることもできない。
「私のことなんか放っておいて良いのに……」
つい愚痴のような言葉が漏れる。マリエルたちがピクリと反応した。
オーギュストは今でもミシュリーヌを家族として大切に想ってくれているのかもしれない。ミシュリーヌの未練がまた顔を出す。
違うわ。殿下は私を邪魔に思っていたはずだもの。
オーギュストは追跡魔法も得意だ。それなのに、追いかけてきてくれなかった。それが彼の答えなのだ。心配されたくらいで喜んではいけない。
ミシュリーヌは二枚目、三枚目を流し読みして、最後の四枚目を読み進める。そこには、四人の護衛を受け入れてほしいと書かれていた。先程、『王太子の殺害予告』の話をマリエルたちから聞いたが、【よくない動きがある】とオーギュストの手紙ではぼやかして書かれている。ミシュリーヌを怖がらせないために大切なことを教えてくれないのは、いつものことだ。
ヴァネッサにはきちんと話して相談できているのだろうか? オーギュストの幸せのためにはそうあってほしいと思うのに、どうしても心が違っていてほしいと訴えてくる。
【――……ミシュリーヌが私の元を去った理由が分からないんだ。こんな夫ですまない。落ち着いたら話し合いの場を設けてもらえないだろうか? どうしょうもない私に、もう一度だけ機会を与えてほしい】
ミシュリーヌは最後に書かれていた言葉に縋りそうになってしまう。オーギュストはミシュリーヌを呼び戻してどうするつもりなのだろう? この国は基本的に一夫一婦制をとっている。国王と王太子は例外が許されているが、王位につく可能性の低いオーギュストが妃を二人娶ることなんてありえない。
ミシュリーヌの愛するオーギュストは、とても誠実な人だ。ヴァネッサと結婚式を挙げるのなら、ミシュリーヌをそばに置くはずがない。ずっと近くにいたはずなのに、オーギュストが何を考えているのか分からない。
「妃殿下、日暮れが近くなっております。そろそろ、宿に戻りましょう。今晩はこちらをお召し上がり下さい」
眼の前に出されたのは、ミシュリーヌの好物が詰まった大きなバスケットだった。トマトをたっぷり使ったスープからは湯気が立ちのぼっている。ハンバーグの上のチーズはとろとろだ。マジックバッグから取り出したのだろうが、誰の指示で用意されたものかは明白だった。
「私は貴女たちの護衛を受け入れるつもりはないわ。ここにいるのは『妃殿下』でも『聖女』でもなく、ただの『ミーシャ』なの」
ミシュリーヌは離宮に戻されそうになった心を何とか落ち着かせて、はっきりと伝える。護衛を受け入れ、毎日オーギュストの話を聞かされたら、会いたくなってしまう。
「団長はミーシャ様がきちんと食事をなさっているのか心配されていました。これだけでもお受け取り下さい」
「ミーシャ様をお引き止めしてしまったお詫びだと思って下さい。離宮の料理人がミーシャ様のことを想って作った食事です。捨ててしまうのはもったいないと思いませんか?」
マリエルが言いながら、ミシュリーヌに押し付けるようにバスケットを渡してくる。離宮の料理人の話まで出されたら断れない。マリエルはミシュリーヌのことをよく分かっている。
「……」
ミシュリーヌが無言で受け取ると、マリエルがホッとしたように微笑む。ミシュリーヌは、お礼代わりに聖女の加護を彼女たちに贈ってから歩き出す。彼女たちに降りかかる災いを遠ざけてくれることだろう。四人はミシュリーヌを追いかけることなく、その場で頭を下げて見送ってくれた。
ただ、彼女たちが本気で隠れたなら、ミシュリーヌのそばにいても分からない。護衛を続けられている確信を持ちながら、ミシュリーヌは気にせず宿を目指した。
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