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二章 無事を祈って【オーギュスト】
第19話 神官長
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「あとはフリルネロ公爵領の神殿についてでしたね」
クリストフが三つ目のケーキを食べながら、話を進める。大きめのアップルパイが驚くような早さで減っているが、気にしたら負けだ。
「それで、何か分かったか?」
「残念ながら、詳しい者はおりませんでした。ご存知のとおり、神殿同士の横のつながりは希薄ですからね」
水晶の浄化が上手くいっていたのは、オーギュストが生まれる前までの話だ。神官は攻撃魔法を放棄しないと得られない聖魔法使いである。剣術で魔獣を退けられる者は少なく、安全面を考えて他の領地に出向くことは少ない。
「ただ、フリルネロ公爵領の神官長の評判は良いみたいですよ」
「そうなのか?」
フリルネロ公爵領の神官長を知っている者は、一様に立派な人物だと評価しているようだ。
「殿下の話と食い違っていて妙ですよね。今回の件に、神官長が関わっていないはずがない」
「私もそう思う」
水晶の浄化を正しく行っていれば、公爵領が今の状況に陥ることはなかっただろう。そして、神官長が水晶の状態を把握していないなどありえない。『立派な人物』ならなおさらだ。
「水晶がきちんと浄化されているのに、この状況になっている可能性はあるか?」
「どうでしょう? 私の知る神殿の知識では、水晶の力を妨害するような方法はありません」
「やはり、そうか」
オーギュストも禁書の中を探したが見つけることは出来なかった。あるにはあったが、聖女が水晶を緊急停止させる方法で、ミシュリーヌ以外に聖女がいたとしても水晶を管理する神官長の協力なしには成し得ない。
「その神官長には裏がありそうだな」
「そうですね。現在の神官長であるトリスタン・オーキドについて、僅かですが得られた情報をお伝えしておきます」
トリスタンが神官長に就任したのは四年前のようだ。それ以前からフリルネロ公爵領の神殿に勤務しており、前任者の引退で副神官長だったトリスタンが指名された。
「私も巡礼の旅で会っていた可能性があるわけか」
「そうなりますね。その反応は……」
「全く記憶にない」
「まぁ、そうですよね」
クリストフは理由を知っているので、気不味そうに笑う。どこの神殿に行っても、神官たちがミシュリーヌを懐柔しようとあの手この手で近づいて来る。小さかった頃は明らかに怯えていたし、神官からミシュリーヌを守ることに力を注いでいて、友好的な会話をする余裕などオーギュストにはなかった。
オーギュストは、ピッタリとくっついて離れなかった幼いミシュリーヌを思い出して小さく笑う。一人で対応できるようになったときには成長を喜んだが、寂しさのほうが勝っていた気がする。
「話を戻しますが、神官長就任については特に怪しい点はありません。なぜ、尊敬されているのかというと、修行を終えた神官を他領に送り出して、代わりに見習いを受け入れていたようなのです」
神官は聖魔法を得ても、修行を積まないと水晶を浄化したりすることはできない。元々持っているものではないので、力の制御が難しいのだ。
「浄化が終わっていなかった地域の神殿には、それに助けられた場所がいくつもあるようですよ」
王都の神殿には、実際に関わった者はおらず、得られた情報は全て伝聞だったようだ。感謝している者が話して回っているのかもしれない。
「フリルネロ公爵領は浄化が早い時期に行われた。他領を支援するのは、普通のことではないのか?」
「残念ながら、普通ではないですね。王都の神殿さえ人材不足なんです。修行を終えた神官を他領になんか渡しませんよ。神官は、いざというときに自分の身さえ守れないですからね。なり手が少ないんです」
「そうか」
神官は市民から尊敬されるが、職業としての人気は低いらしい。希望者は来るが、代償を知って残る者は少ない。神官の聖魔法は魔力がある者が普通の魔法を放棄して得る力だ。魔力を持つ者はそれに頼って生活している場合が多く、その後に控える修行を想像すれば、放棄を躊躇う者も多い。
落ち着いたら、ミシュリーヌを広告塔に使いたいと言われたが、オーギュストは曖昧に笑うだけにとどめた。
クリストフが三つ目のケーキを食べながら、話を進める。大きめのアップルパイが驚くような早さで減っているが、気にしたら負けだ。
「それで、何か分かったか?」
「残念ながら、詳しい者はおりませんでした。ご存知のとおり、神殿同士の横のつながりは希薄ですからね」
水晶の浄化が上手くいっていたのは、オーギュストが生まれる前までの話だ。神官は攻撃魔法を放棄しないと得られない聖魔法使いである。剣術で魔獣を退けられる者は少なく、安全面を考えて他の領地に出向くことは少ない。
「ただ、フリルネロ公爵領の神官長の評判は良いみたいですよ」
「そうなのか?」
フリルネロ公爵領の神官長を知っている者は、一様に立派な人物だと評価しているようだ。
「殿下の話と食い違っていて妙ですよね。今回の件に、神官長が関わっていないはずがない」
「私もそう思う」
水晶の浄化を正しく行っていれば、公爵領が今の状況に陥ることはなかっただろう。そして、神官長が水晶の状態を把握していないなどありえない。『立派な人物』ならなおさらだ。
「水晶がきちんと浄化されているのに、この状況になっている可能性はあるか?」
「どうでしょう? 私の知る神殿の知識では、水晶の力を妨害するような方法はありません」
「やはり、そうか」
オーギュストも禁書の中を探したが見つけることは出来なかった。あるにはあったが、聖女が水晶を緊急停止させる方法で、ミシュリーヌ以外に聖女がいたとしても水晶を管理する神官長の協力なしには成し得ない。
「その神官長には裏がありそうだな」
「そうですね。現在の神官長であるトリスタン・オーキドについて、僅かですが得られた情報をお伝えしておきます」
トリスタンが神官長に就任したのは四年前のようだ。それ以前からフリルネロ公爵領の神殿に勤務しており、前任者の引退で副神官長だったトリスタンが指名された。
「私も巡礼の旅で会っていた可能性があるわけか」
「そうなりますね。その反応は……」
「全く記憶にない」
「まぁ、そうですよね」
クリストフは理由を知っているので、気不味そうに笑う。どこの神殿に行っても、神官たちがミシュリーヌを懐柔しようとあの手この手で近づいて来る。小さかった頃は明らかに怯えていたし、神官からミシュリーヌを守ることに力を注いでいて、友好的な会話をする余裕などオーギュストにはなかった。
オーギュストは、ピッタリとくっついて離れなかった幼いミシュリーヌを思い出して小さく笑う。一人で対応できるようになったときには成長を喜んだが、寂しさのほうが勝っていた気がする。
「話を戻しますが、神官長就任については特に怪しい点はありません。なぜ、尊敬されているのかというと、修行を終えた神官を他領に送り出して、代わりに見習いを受け入れていたようなのです」
神官は聖魔法を得ても、修行を積まないと水晶を浄化したりすることはできない。元々持っているものではないので、力の制御が難しいのだ。
「浄化が終わっていなかった地域の神殿には、それに助けられた場所がいくつもあるようですよ」
王都の神殿には、実際に関わった者はおらず、得られた情報は全て伝聞だったようだ。感謝している者が話して回っているのかもしれない。
「フリルネロ公爵領は浄化が早い時期に行われた。他領を支援するのは、普通のことではないのか?」
「残念ながら、普通ではないですね。王都の神殿さえ人材不足なんです。修行を終えた神官を他領になんか渡しませんよ。神官は、いざというときに自分の身さえ守れないですからね。なり手が少ないんです」
「そうか」
神官は市民から尊敬されるが、職業としての人気は低いらしい。希望者は来るが、代償を知って残る者は少ない。神官の聖魔法は魔力がある者が普通の魔法を放棄して得る力だ。魔力を持つ者はそれに頼って生活している場合が多く、その後に控える修行を想像すれば、放棄を躊躇う者も多い。
落ち着いたら、ミシュリーヌを広告塔に使いたいと言われたが、オーギュストは曖昧に笑うだけにとどめた。
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