56 / 160
二章 無事を祈って【オーギュスト】
第28話 派遣要請
しおりを挟む
翌日から、オーギュストはフリルネロ公爵領について積極的に調べ始めた。何人もの文官が怯えながら探るように質問してきたが、ヘクターの指示で動いている者なのかどうかは判断がつかない。オーギュストが文官の中に入ると、思った以上に異質で目立つらしく、普通じゃない反応をする者が多すぎるのだ。結局、探りを入れてきた文官の名前と特徴を記憶して、後は文官たちにも詳しいノルベルトに判断してもらった。
そんなことをしながら三日ほどが経った頃、ヘクターから魔導師団長宛に『フリルネロ公爵領への派遣要請』が届けられた。書類に添えられたオーギュストへの私信には、ヘクターの直筆で謝罪が書かれている。
ヘクターの命令を受けた文官は、祝賀パーティーの直後に公爵領に視察に向かった。しかし、魔獣が多く戦闘員が足りなかったため危険だと判断し、領内の街に入ることなく引き返して来たようだ。自分たちの不甲斐なさをヘクターに知られたくなかったため、報告を上げないでいたらしい。すでにヘクターにより関わった文官はそれ相応の処分を受けたようだ。
起こりそうな出来事なので、普段のオーギュストならそのまま信じただろう。その晩、ノルベルトから届けられた情報によると、実際にほとんど事実らしい。ヘクターは、普段からサボりがちで重要案件を渡せないような相手に、わざわざこの件を任せたようだ。
『ヘクターに仲間はいるのだろうか?』
ノルベルトが小さく漏らした言葉が印象的だった。敵対する立場になってもノルベルトにとってヘクターは共に育ってきた弟なのだろう。
オーギュストたちが抱えることになった複雑な気持ちはともかく、ノルベルトの思惑通り、ヘクターから依頼を受けることはできた。加えて、ノルベルトは監督責任を問い、この件からヘクターを完全に切り離してくれたようだ。文官たちは手を引き、オーギュストを責任者とした魔導師団が中心となり動くことになる。これで遠征中に横槍が入ることはなくなったわけだ。
そして、出発を二日後に控え、オーギュストは調査隊に参加する団員達と最終確認のための会議を行っている。調査隊に組み込まれる第二部隊の団員にも通達が出され、団内は忙しない雰囲気だ。
調査隊の指揮を任せた第二部隊隊長の説明が終わると、オーギュストは新しく作った小さなマジックバックを机の上に置く。
「個人のマジックバックに加えて、これを運んでくれる者も人選してほしい。騎士団の荷物を馬車二台分、魔導師団で引き受けることになった」
「ルネの引き渡しの見返りですかな?」
「ああ、その通りだ。マジックバックだけなら良いんだが、第二部隊には苦労をかけることになりそうだ」
オーギュストは、質問してきたヌーヴェル伯爵にマジックバッグから出した封筒を手渡す。騎士団との連絡を仲介してくれているミシュリーヌ担当の近衛騎隊長から預かったものだ。
ルネは騎士団員だった。ルネの件は通常ならば途中で騎士団も捜査に加わり、最終的な身柄は騎士団が引き渡すのが通例だ。それなのに、騎士団は全ての権利を魔導師団に渡し、団内の情報までまとめてくれた。合同遠征を通じて関係性を築いてきたおかげではあるが、それだけで済ますわけにもいかない。
「貴族の坊っちゃんが三人ほど騎士団の遠征部隊にねじ込まれたらしい。そういう経緯も踏まえて人選してくれ。一人は私の再従兄弟だと聞いている」
オーギュストはため息交じりに伝える。ヘクターとの繋がりは見つかっていないが、身分だけあって仕事をする気がないというだけで本当に厄介だ。高位貴族には魔導師の適性がある者も多い。騎士団に無理やり入った再従弟も例外ではないようなので、魔導師団に入って真面目に修行していれば、この会議を仕切っていてもおかしくない。だが、彼は混乱期に国のために働く気はなかったようだ。国が平和になり自分の立場の危うさに気づいて、父である公爵に泣きつきでもしたのだろう。
騎士団内でも不満が出ているようで彼らのせいで増えてしまった荷物の一部を魔導師団で預かることになったのだ。
「その仕事は私が引き受けましょう」
第二部隊の隊長が自ら名乗り出て、小隊長の何人かが驚きの声を上げる。一日一回野営地についたときに、馬車をマジックバッグから出せば良いだけなので、魔力がある程度ある魔導師団員なら誰でもできる。だが、高位貴族を相手にするなら、それなりに力のある人間の方が良いだろう。遠征をよく知らない者なので、ありえない命令をしてくる可能性もある。
「そうしてもらえると助かる。何かあれば、私の名前を使ってもらって構わない」
隊長の好戦的な笑みを見れば、わがままの代償は小さくないだろう。若いうちに傲慢さは捨てたほうが良い。そういう目的で子供をねじ込んでくる貴族もいるが、浄化が終了した今を選んだのだから、そんな裏はなさそうだ。
「有効に使わせていただきます」
「治せる程度に留めろよ」
隊長は伝えても都合よく忘れそうなので、好きにしてもらうことにした。伯爵位を持つ彼なら、大抵のことは自身の責任でおさめることも可能だ。
オーギュストは楽しそうな隊長にマジックバックを渡して、改めて労いの言葉をかけた。
そんなことをしながら三日ほどが経った頃、ヘクターから魔導師団長宛に『フリルネロ公爵領への派遣要請』が届けられた。書類に添えられたオーギュストへの私信には、ヘクターの直筆で謝罪が書かれている。
ヘクターの命令を受けた文官は、祝賀パーティーの直後に公爵領に視察に向かった。しかし、魔獣が多く戦闘員が足りなかったため危険だと判断し、領内の街に入ることなく引き返して来たようだ。自分たちの不甲斐なさをヘクターに知られたくなかったため、報告を上げないでいたらしい。すでにヘクターにより関わった文官はそれ相応の処分を受けたようだ。
起こりそうな出来事なので、普段のオーギュストならそのまま信じただろう。その晩、ノルベルトから届けられた情報によると、実際にほとんど事実らしい。ヘクターは、普段からサボりがちで重要案件を渡せないような相手に、わざわざこの件を任せたようだ。
『ヘクターに仲間はいるのだろうか?』
ノルベルトが小さく漏らした言葉が印象的だった。敵対する立場になってもノルベルトにとってヘクターは共に育ってきた弟なのだろう。
オーギュストたちが抱えることになった複雑な気持ちはともかく、ノルベルトの思惑通り、ヘクターから依頼を受けることはできた。加えて、ノルベルトは監督責任を問い、この件からヘクターを完全に切り離してくれたようだ。文官たちは手を引き、オーギュストを責任者とした魔導師団が中心となり動くことになる。これで遠征中に横槍が入ることはなくなったわけだ。
そして、出発を二日後に控え、オーギュストは調査隊に参加する団員達と最終確認のための会議を行っている。調査隊に組み込まれる第二部隊の団員にも通達が出され、団内は忙しない雰囲気だ。
調査隊の指揮を任せた第二部隊隊長の説明が終わると、オーギュストは新しく作った小さなマジックバックを机の上に置く。
「個人のマジックバックに加えて、これを運んでくれる者も人選してほしい。騎士団の荷物を馬車二台分、魔導師団で引き受けることになった」
「ルネの引き渡しの見返りですかな?」
「ああ、その通りだ。マジックバックだけなら良いんだが、第二部隊には苦労をかけることになりそうだ」
オーギュストは、質問してきたヌーヴェル伯爵にマジックバッグから出した封筒を手渡す。騎士団との連絡を仲介してくれているミシュリーヌ担当の近衛騎隊長から預かったものだ。
ルネは騎士団員だった。ルネの件は通常ならば途中で騎士団も捜査に加わり、最終的な身柄は騎士団が引き渡すのが通例だ。それなのに、騎士団は全ての権利を魔導師団に渡し、団内の情報までまとめてくれた。合同遠征を通じて関係性を築いてきたおかげではあるが、それだけで済ますわけにもいかない。
「貴族の坊っちゃんが三人ほど騎士団の遠征部隊にねじ込まれたらしい。そういう経緯も踏まえて人選してくれ。一人は私の再従兄弟だと聞いている」
オーギュストはため息交じりに伝える。ヘクターとの繋がりは見つかっていないが、身分だけあって仕事をする気がないというだけで本当に厄介だ。高位貴族には魔導師の適性がある者も多い。騎士団に無理やり入った再従弟も例外ではないようなので、魔導師団に入って真面目に修行していれば、この会議を仕切っていてもおかしくない。だが、彼は混乱期に国のために働く気はなかったようだ。国が平和になり自分の立場の危うさに気づいて、父である公爵に泣きつきでもしたのだろう。
騎士団内でも不満が出ているようで彼らのせいで増えてしまった荷物の一部を魔導師団で預かることになったのだ。
「その仕事は私が引き受けましょう」
第二部隊の隊長が自ら名乗り出て、小隊長の何人かが驚きの声を上げる。一日一回野営地についたときに、馬車をマジックバッグから出せば良いだけなので、魔力がある程度ある魔導師団員なら誰でもできる。だが、高位貴族を相手にするなら、それなりに力のある人間の方が良いだろう。遠征をよく知らない者なので、ありえない命令をしてくる可能性もある。
「そうしてもらえると助かる。何かあれば、私の名前を使ってもらって構わない」
隊長の好戦的な笑みを見れば、わがままの代償は小さくないだろう。若いうちに傲慢さは捨てたほうが良い。そういう目的で子供をねじ込んでくる貴族もいるが、浄化が終了した今を選んだのだから、そんな裏はなさそうだ。
「有効に使わせていただきます」
「治せる程度に留めろよ」
隊長は伝えても都合よく忘れそうなので、好きにしてもらうことにした。伯爵位を持つ彼なら、大抵のことは自身の責任でおさめることも可能だ。
オーギュストは楽しそうな隊長にマジックバックを渡して、改めて労いの言葉をかけた。
38
あなたにおすすめの小説
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~
夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。
しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。
しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。
夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。
いきなり事件が発生してしまう。
結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。
しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。
(こうなったら、私がなんとかするしかないわ!)
腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。
それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
婚約破棄されたら、辺境伯とお試し結婚することになりました
ミズメ
恋愛
婚約者を妹に奪われ、悪女として断罪された公爵令嬢フィオレッタ・グラシェルは、王都を追われ、身分を隠して辺境の町で静かに暮らしていた。ある日、迷子の少女ティナと出会い、川辺で花を摘み笑い合うひとときを過ごす。そこに現れたのは、ティナを捜していた辺境の若き領主ヴェルフリート・エルグランドだった。
ティナに懐かれたフィオレッタは子育てのために契約結婚をすることに。ティナの子守りをしながら、辺境で自らの才覚を発揮していくフィオレッタに、ヴェルフリートや領地の人々も惹かれていく。
「俺は、君を幸せにしたい」
いずれ幸せになる、追放令嬢のお話。
・感想いただけると元気もりもりになります!!
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる