【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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二章 無事を祈って【オーギュスト】

第28話 派遣要請

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 翌日から、オーギュストはフリルネロ公爵領について積極的に調べ始めた。何人もの文官が怯えながら探るように質問してきたが、ヘクターの指示で動いている者なのかどうかは判断がつかない。オーギュストが文官の中に入ると、思った以上に異質で目立つらしく、普通じゃない反応をする者が多すぎるのだ。結局、探りを入れてきた文官の名前と特徴を記憶して、後は文官たちにも詳しいノルベルトに判断してもらった。

 そんなことをしながら三日ほどが経った頃、ヘクターから魔導師団長オーギュスト宛に『フリルネロ公爵領への派遣要請』が届けられた。書類に添えられたオーギュストへの私信には、ヘクターの直筆で謝罪が書かれている。

 ヘクターの命令を受けた文官は、祝賀パーティーの直後に公爵領に視察に向かった。しかし、魔獣が多く戦闘員が足りなかったため危険だと判断し、領内の街に入ることなく引き返して来たようだ。自分たちの不甲斐なさをヘクターに知られたくなかったため、報告を上げないでいたらしい。すでにヘクターにより関わった文官はそれ相応の処分を受けたようだ。

 起こりそうな出来事なので、普段のオーギュストならそのまま信じただろう。その晩、ノルベルトから届けられた情報によると、実際にほとんど事実らしい。ヘクターは、普段からサボりがちで重要案件を渡せないような相手に、わざわざこの件を任せたようだ。

『ヘクターに仲間はいるのだろうか?』

 ノルベルトが小さく漏らした言葉が印象的だった。敵対する立場になってもノルベルトにとってヘクターは共に育ってきた弟なのだろう。

 オーギュストたちが抱えることになった複雑な気持ちはともかく、ノルベルトの思惑通り、ヘクターから依頼を受けることはできた。加えて、ノルベルトは監督責任を問い、この件からヘクターを完全に切り離してくれたようだ。文官たちは手を引き、オーギュストを責任者とした魔導師団が中心となり動くことになる。これで遠征中に横槍が入ることはなくなったわけだ。


 そして、出発を二日後に控え、オーギュストは調査隊に参加する団員達と最終確認のための会議を行っている。調査隊に組み込まれる第二部隊の団員にも通達が出され、団内は忙しない雰囲気だ。

 調査隊の指揮を任せた第二部隊隊長の説明が終わると、オーギュストは新しく作った小さなマジックバックを机の上に置く。

「個人のマジックバックに加えて、これを運んでくれる者も人選してほしい。騎士団の荷物を馬車二台分、魔導師団で引き受けることになった」

「ルネの引き渡しの見返りですかな?」

「ああ、その通りだ。マジックバックだけなら良いんだが、第二部隊には苦労をかけることになりそうだ」

 オーギュストは、質問してきたヌーヴェル伯爵にマジックバッグから出した封筒を手渡す。騎士団との連絡を仲介してくれているミシュリーヌ担当の近衛騎隊長から預かったものだ。

 ルネは騎士団員だった。ルネの件は通常ならば途中で騎士団も捜査に加わり、最終的な身柄は騎士団が引き渡すのが通例だ。それなのに、騎士団は全ての権利を魔導師団に渡し、団内の情報までまとめてくれた。合同遠征を通じて関係性を築いてきたおかげではあるが、それだけで済ますわけにもいかない。

「貴族の坊っちゃんが三人ほど騎士団の遠征部隊にねじ込まれたらしい。そういう経緯も踏まえて人選してくれ。一人は私の再従兄弟はとこだと聞いている」

 オーギュストはため息交じりに伝える。ヘクターとの繋がりは見つかっていないが、身分だけあって仕事をする気がないというだけで本当に厄介だ。高位貴族には魔導師の適性がある者も多い。騎士団に無理やり入った再従弟も例外ではないようなので、魔導師団に入って真面目に修行していれば、この会議を仕切っていてもおかしくない。だが、彼は混乱期に国のために働く気はなかったようだ。国が平和になり自分の立場の危うさに気づいて、父である公爵に泣きつきでもしたのだろう。

 騎士団内でも不満が出ているようで彼らのせいで増えてしまった荷物の一部を魔導師団で預かることになったのだ。

「その仕事は私が引き受けましょう」

 第二部隊の隊長が自ら名乗り出て、小隊長の何人かが驚きの声を上げる。一日一回野営地についたときに、馬車をマジックバッグから出せば良いだけなので、魔力がある程度ある魔導師団員なら誰でもできる。だが、高位貴族を相手にするなら、それなりに力のある人間の方が良いだろう。遠征をよく知らない者なので、ありえない命令をしてくる可能性もある。

「そうしてもらえると助かる。何かあれば、私の名前を使ってもらって構わない」

 隊長の好戦的な笑みを見れば、わがままの代償は小さくないだろう。若いうちに傲慢さは捨てたほうが良い。そういう目的で子供をねじ込んでくる貴族もいるが、浄化が終了した今を選んだのだから、そんな裏はなさそうだ。

「有効に使わせていただきます」

「治せる程度に留めろよ」

 隊長は伝えても忘れそうなので、好きにしてもらうことにした。伯爵位を持つ彼なら、大抵のことは自身の責任でおさめることも可能だ。

 オーギュストは楽しそうな隊長にマジックバックを渡して、改めて労いの言葉をかけた。
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