【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

文字の大きさ
66 / 160
二章 無事を祈って【オーギュスト】

【幕間1】ある新人魔導師の災難

しおりを挟む
 半年に渡る新人研修が終わり、配属先を決める大切な試験が行われる。会場は地下にある召喚部屋だ。

 私は緊張しながら年季の入った石段をゆっくりと降りる。私を含めた新人魔導師は、これから行われる異世界からの聖女召喚という歴史的な出来事に立ち会うことになる。

 ミシュリーヌ妃殿下が我が国に嫁いで来られて七年。浄化が終わった現在は、魔導師団員に死者が出るような魔獣の出現はないと聞く。それでも、聖女不在では、この国はやっていけないのだろう。まだまだ新人の私でも、妃殿下が過労で倒れられた三ヶ月前から、魔導師団がざわついていることは知っている。

 特に魔導師団長であるオーギュスト殿下の変わりようは、言葉では言い表しにくい。妃殿下を心配しているというのもあるだろうが、世界の終わりが近づいているかのような、そんな張り詰めた空気をまとっていた。

「やったぞ!」
「召喚成功だ!」
「本当に異世界から聖女様がお越し下さった!」

 オーギュスト殿下が魔法を使うと、一人の美しい女性が召喚された。同期の仲間たちは喜んでいるが、私は動揺を隠せない。

 だって、あの女性は……

「浮かれている場合ではありませんよ。レポートと面接で配属先が決まります。そのつもりで真剣に取り組みなさい」

 召喚された聖女がオーギュスト殿下に抱き抱えられて部屋を去ると、興奮冷めやらぬ部屋に副団長のどこか冷めた声が響く。私が副団長をみると、視線が合って微笑みを返された。

 私は副団長の笑顔を見て震え上がる。副団長が理由もなく笑顔でいるときには警戒しろと、学生時代の先輩たちが助言してくれていたのを思い出したのだ。

 今が先輩たちの助言を活かす時なのだろう。私は興奮する同期たちを横目に書き留めた魔法陣を凝視した。


 ……


「それでは、先日の召喚について君の意見を聞かせてもらいましょう。最初に違和感を持ったのはどこですかな?」

 副団長の言葉に、私は震えながら頷いた。

 召喚から十数日が経ち、私は呼び出されて面接を受けている。副団長が出席することは予想していたが、オーギュスト殿下までいるとは思わなかった。雰囲気が前より柔らかくなった気がするが、それでもやはり緊張する。

 同期の半分以上が、昨日までに面接を終えて、何れも地方都市に配属されたと聞く。私の後に面接が予定されている同期は、出世コースに乗れたと喜んでいたが本当にそうだろうか?

「最初におかしいと思ったのは、召喚により現れた女性を見たときです。恐れながら、ミシュリーヌ妃殿下だったのではないかと推察しています」

 私が妃殿下の名前を上げた瞬間に、オーギュスト殿下の瞳が鋭くなる。先程までの雰囲気とは違い、今は少しでも動けば殺されてしまいそうだ。私はぷるぷると震えながら、副団長に助けを求めようと視線を向けた。副団長は殺気に満ちた部屋の中で、平然とレポートを眺めている。

「ミシュリーヌは儀式用の化粧をしていなかったし髪の色も変えていた。どこで分かったんだ? まさか、素顔のミシュリーヌを近くで見たことがあるなんて言わないよな?」

 私は否定すべきだと分かっているのに、声を発することができなかった。

「オーギュスト殿下、圧迫面接だとしても流石に可愛そうです。彼は新人なんですよね? 妃殿下と会ったことがあるわけないじゃないですか」

「そうだな。悪かった」

 その言葉とともに、オーギュスト殿下の殺気が弱まる。

 仲裁してくれたのは、面接官の一人になっている近衛騎士だった。階級章を見ると隊を束ねるような立場にいる人のようだが、私の面接に参加している理由が分からない。

「副団長も止めて下さいよ」

「彼の配属先の候補を考えれば、この殺気にも慣れる必要があるでしょうな」
 
 副団長は朗らかな笑顔を近衛騎士に向けている。本能的に副団長の方がオーギュスト殿下より危険だと感じる。逆らわないほうが良さそうだ。

「それで? 何で、ミシュリーヌだと分かったんだ?」

「履歴書にも書きましたが、私は魔法の中でも変装術が得意なんです。ご存知のとおり、変装術で一番難しいのは骨格を変えることです。それで、私は人の骨格を観察するのが癖になっているんです。妃殿下のことは、二年前に私が住んでいた街の浄化にいらっしゃった際に、何度かお見かけしておりました。もちろん、儀式用の装いをされている時です」

「なるほど、想定外の切り口だな」

 オーギュスト殿下の関心した声を聞いて嬉しくなる。私の存在を覚えて貰えただろうか。

「変装術が得意な者には、そんな技術もあるのか。本格的に騎士団にほしくなりますね」

「うちの大切な新人を簡単に騎士団には渡しませんぞ」

 二人の会話を聞く限り、近衛騎士や副団長にも良い印象を与えられたらしい。

 生まれ育った田舎では、私は突出した才能を持つ魔導師だった。だが、地方にある魔導師養成所時代でさえ周りの才能に埋もれて、褒められることなどほとんどなかった気がする。それでも何とか喰らいついて、コツコツと地味に努力して来て本当に良かった。
 
「筋肉や脂肪のつき方が変化しても、観察したことがある人物であれば見分けられる自信があります!」

「筋肉や脂肪? ミシュリーヌをどんな目で観察していたんだ?」

 オーギュスト殿下の冷たい声に、私は凍りつく。その後の質問にきちんと答えられたのは奇跡だったと思う。


 幕間1 終
―――――――― 
【あとがき】
 お読みいただきありがとうございます。三章は23:50の公開となりますので、よろしくお願いいたします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

婚約破棄されたら、辺境伯とお試し結婚することになりました

ミズメ
恋愛
婚約者を妹に奪われ、悪女として断罪された公爵令嬢フィオレッタ・グラシェルは、王都を追われ、身分を隠して辺境の町で静かに暮らしていた。ある日、迷子の少女ティナと出会い、川辺で花を摘み笑い合うひとときを過ごす。そこに現れたのは、ティナを捜していた辺境の若き領主ヴェルフリート・エルグランドだった。 ティナに懐かれたフィオレッタは子育てのために契約結婚をすることに。ティナの子守りをしながら、辺境で自らの才覚を発揮していくフィオレッタに、ヴェルフリートや領地の人々も惹かれていく。 「俺は、君を幸せにしたい」 いずれ幸せになる、追放令嬢のお話。 ・感想いただけると元気もりもりになります!!

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...