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二章 無事を祈って【オーギュスト】
【幕間1】ある新人魔導師の災難
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半年に渡る新人研修が終わり、配属先を決める大切な試験が行われる。会場は地下にある召喚部屋だ。
私は緊張しながら年季の入った石段をゆっくりと降りる。私を含めた新人魔導師は、これから行われる異世界からの聖女召喚という歴史的な出来事に立ち会うことになる。
ミシュリーヌ妃殿下が我が国に嫁いで来られて七年。浄化が終わった現在は、魔導師団員に死者が出るような魔獣の出現はないと聞く。それでも、聖女不在では、この国はやっていけないのだろう。まだまだ新人の私でも、妃殿下が過労で倒れられた三ヶ月前から、魔導師団がざわついていることは知っている。
特に魔導師団長であるオーギュスト殿下の変わりようは、言葉では言い表しにくい。妃殿下を心配しているというのもあるだろうが、世界の終わりが近づいているかのような、そんな張り詰めた空気をまとっていた。
「やったぞ!」
「召喚成功だ!」
「本当に異世界から聖女様がお越し下さった!」
オーギュスト殿下が魔法を使うと、一人の美しい女性が召喚された。同期の仲間たちは喜んでいるが、私は動揺を隠せない。
だって、あの女性は……
「浮かれている場合ではありませんよ。レポートと面接で配属先が決まります。そのつもりで真剣に取り組みなさい」
召喚された聖女がオーギュスト殿下に抱き抱えられて部屋を去ると、興奮冷めやらぬ部屋に副団長のどこか冷めた声が響く。私が副団長をみると、視線が合って微笑みを返された。
私は副団長の笑顔を見て震え上がる。副団長が理由もなく笑顔でいるときには警戒しろと、学生時代の先輩たちが助言してくれていたのを思い出したのだ。
今が先輩たちの助言を活かす時なのだろう。私は興奮する同期たちを横目に書き留めた魔法陣を凝視した。
……
「それでは、先日の召喚について君の意見を聞かせてもらいましょう。最初に違和感を持ったのはどこですかな?」
副団長の言葉に、私は震えながら頷いた。
召喚から十数日が経ち、私は呼び出されて面接を受けている。副団長が出席することは予想していたが、オーギュスト殿下までいるとは思わなかった。雰囲気が前より柔らかくなった気がするが、それでもやはり緊張する。
同期の半分以上が、昨日までに面接を終えて、何れも地方都市に配属されたと聞く。私の後に面接が予定されている同期は、出世コースに乗れたと喜んでいたが本当にそうだろうか?
「最初におかしいと思ったのは、召喚により現れた女性を見たときです。恐れながら、ミシュリーヌ妃殿下だったのではないかと推察しています」
私が妃殿下の名前を上げた瞬間に、オーギュスト殿下の瞳が鋭くなる。先程までの雰囲気とは違い、今は少しでも動けば殺されてしまいそうだ。私はぷるぷると震えながら、副団長に助けを求めようと視線を向けた。副団長は殺気に満ちた部屋の中で、平然とレポートを眺めている。
「ミシュリーヌは儀式用の化粧をしていなかったし髪の色も変えていた。どこで分かったんだ? まさか、素顔のミシュリーヌを近くで見たことがあるなんて言わないよな?」
私は否定すべきだと分かっているのに、声を発することができなかった。
「オーギュスト殿下、圧迫面接だとしても流石に可愛そうです。彼は新人なんですよね? 妃殿下と会ったことがあるわけないじゃないですか」
「そうだな。悪かった」
その言葉とともに、オーギュスト殿下の殺気が弱まる。
仲裁してくれたのは、面接官の一人になっている近衛騎士だった。階級章を見ると隊を束ねるような立場にいる人のようだが、私の面接に参加している理由が分からない。
「副団長も止めて下さいよ」
「彼の配属先の候補を考えれば、この殺気にも慣れる必要があるでしょうな」
副団長は朗らかな笑顔を近衛騎士に向けている。本能的に副団長の方がオーギュスト殿下より危険だと感じる。逆らわないほうが良さそうだ。
「それで? 何で、ミシュリーヌだと分かったんだ?」
「履歴書にも書きましたが、私は魔法の中でも変装術が得意なんです。ご存知のとおり、変装術で一番難しいのは骨格を変えることです。それで、私は人の骨格を観察するのが癖になっているんです。妃殿下のことは、二年前に私が住んでいた街の浄化にいらっしゃった際に、何度かお見かけしておりました。もちろん、儀式用の装いをされている時です」
「なるほど、想定外の切り口だな」
オーギュスト殿下の関心した声を聞いて嬉しくなる。私の存在を覚えて貰えただろうか。
「変装術が得意な者には、そんな技術もあるのか。本格的に騎士団にほしくなりますね」
「うちの大切な新人を簡単に騎士団には渡しませんぞ」
二人の会話を聞く限り、近衛騎士や副団長にも良い印象を与えられたらしい。
生まれ育った田舎では、私は突出した才能を持つ魔導師だった。だが、地方にある魔導師養成所時代でさえ周りの才能に埋もれて、褒められることなどほとんどなかった気がする。それでも何とか喰らいついて、コツコツと地味に努力して来て本当に良かった。
「筋肉や脂肪のつき方が変化しても、観察したことがある人物であれば見分けられる自信があります!」
「筋肉や脂肪? ミシュリーヌをどんな目で観察していたんだ?」
オーギュスト殿下の冷たい声に、私は凍りつく。その後の質問にきちんと答えられたのは奇跡だったと思う。
幕間1 終
――――――――
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます。三章は23:50の公開となりますので、よろしくお願いいたします。
私は緊張しながら年季の入った石段をゆっくりと降りる。私を含めた新人魔導師は、これから行われる異世界からの聖女召喚という歴史的な出来事に立ち会うことになる。
ミシュリーヌ妃殿下が我が国に嫁いで来られて七年。浄化が終わった現在は、魔導師団員に死者が出るような魔獣の出現はないと聞く。それでも、聖女不在では、この国はやっていけないのだろう。まだまだ新人の私でも、妃殿下が過労で倒れられた三ヶ月前から、魔導師団がざわついていることは知っている。
特に魔導師団長であるオーギュスト殿下の変わりようは、言葉では言い表しにくい。妃殿下を心配しているというのもあるだろうが、世界の終わりが近づいているかのような、そんな張り詰めた空気をまとっていた。
「やったぞ!」
「召喚成功だ!」
「本当に異世界から聖女様がお越し下さった!」
オーギュスト殿下が魔法を使うと、一人の美しい女性が召喚された。同期の仲間たちは喜んでいるが、私は動揺を隠せない。
だって、あの女性は……
「浮かれている場合ではありませんよ。レポートと面接で配属先が決まります。そのつもりで真剣に取り組みなさい」
召喚された聖女がオーギュスト殿下に抱き抱えられて部屋を去ると、興奮冷めやらぬ部屋に副団長のどこか冷めた声が響く。私が副団長をみると、視線が合って微笑みを返された。
私は副団長の笑顔を見て震え上がる。副団長が理由もなく笑顔でいるときには警戒しろと、学生時代の先輩たちが助言してくれていたのを思い出したのだ。
今が先輩たちの助言を活かす時なのだろう。私は興奮する同期たちを横目に書き留めた魔法陣を凝視した。
……
「それでは、先日の召喚について君の意見を聞かせてもらいましょう。最初に違和感を持ったのはどこですかな?」
副団長の言葉に、私は震えながら頷いた。
召喚から十数日が経ち、私は呼び出されて面接を受けている。副団長が出席することは予想していたが、オーギュスト殿下までいるとは思わなかった。雰囲気が前より柔らかくなった気がするが、それでもやはり緊張する。
同期の半分以上が、昨日までに面接を終えて、何れも地方都市に配属されたと聞く。私の後に面接が予定されている同期は、出世コースに乗れたと喜んでいたが本当にそうだろうか?
「最初におかしいと思ったのは、召喚により現れた女性を見たときです。恐れながら、ミシュリーヌ妃殿下だったのではないかと推察しています」
私が妃殿下の名前を上げた瞬間に、オーギュスト殿下の瞳が鋭くなる。先程までの雰囲気とは違い、今は少しでも動けば殺されてしまいそうだ。私はぷるぷると震えながら、副団長に助けを求めようと視線を向けた。副団長は殺気に満ちた部屋の中で、平然とレポートを眺めている。
「ミシュリーヌは儀式用の化粧をしていなかったし髪の色も変えていた。どこで分かったんだ? まさか、素顔のミシュリーヌを近くで見たことがあるなんて言わないよな?」
私は否定すべきだと分かっているのに、声を発することができなかった。
「オーギュスト殿下、圧迫面接だとしても流石に可愛そうです。彼は新人なんですよね? 妃殿下と会ったことがあるわけないじゃないですか」
「そうだな。悪かった」
その言葉とともに、オーギュスト殿下の殺気が弱まる。
仲裁してくれたのは、面接官の一人になっている近衛騎士だった。階級章を見ると隊を束ねるような立場にいる人のようだが、私の面接に参加している理由が分からない。
「副団長も止めて下さいよ」
「彼の配属先の候補を考えれば、この殺気にも慣れる必要があるでしょうな」
副団長は朗らかな笑顔を近衛騎士に向けている。本能的に副団長の方がオーギュスト殿下より危険だと感じる。逆らわないほうが良さそうだ。
「それで? 何で、ミシュリーヌだと分かったんだ?」
「履歴書にも書きましたが、私は魔法の中でも変装術が得意なんです。ご存知のとおり、変装術で一番難しいのは骨格を変えることです。それで、私は人の骨格を観察するのが癖になっているんです。妃殿下のことは、二年前に私が住んでいた街の浄化にいらっしゃった際に、何度かお見かけしておりました。もちろん、儀式用の装いをされている時です」
「なるほど、想定外の切り口だな」
オーギュスト殿下の関心した声を聞いて嬉しくなる。私の存在を覚えて貰えただろうか。
「変装術が得意な者には、そんな技術もあるのか。本格的に騎士団にほしくなりますね」
「うちの大切な新人を簡単に騎士団には渡しませんぞ」
二人の会話を聞く限り、近衛騎士や副団長にも良い印象を与えられたらしい。
生まれ育った田舎では、私は突出した才能を持つ魔導師だった。だが、地方にある魔導師養成所時代でさえ周りの才能に埋もれて、褒められることなどほとんどなかった気がする。それでも何とか喰らいついて、コツコツと地味に努力して来て本当に良かった。
「筋肉や脂肪のつき方が変化しても、観察したことがある人物であれば見分けられる自信があります!」
「筋肉や脂肪? ミシュリーヌをどんな目で観察していたんだ?」
オーギュスト殿下の冷たい声に、私は凍りつく。その後の質問にきちんと答えられたのは奇跡だったと思う。
幕間1 終
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【あとがき】
お読みいただきありがとうございます。三章は23:50の公開となりますので、よろしくお願いいたします。
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