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三章 犯人を追って【オーギュスト】
第7話 囮【ミシュリーヌ】
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ミシュリーヌは守られてばかりだが、できればオーギュストのことも守りたい。何か出来ることはないだろうか?
ヘクター殿下は、わたくしを捕らえたいのよね……
「そうだわ! わたくしが囮になるのはどうでしょう。わたくしを使って誘き寄せれば良いのですわ」
ヴァネッサに渡されたメモの屋敷には、今も怪しげな者たちが出入りしているという。かなり怖いがミシュリーヌがそんな場所で捕まり、ヘクターが現れたなら、これ以上の証拠はない。
「兄上の関与を伝えたときにあんなに震えていたのに、何を言っているんだ」
「蒸し返さないで下さいませ」
ミシュリーヌは睨んでみたが、オーギュストは笑うだけだ。
「どちらにしろ、私とミシュリーヌが二人で歩いているところを目撃された後だ。街に出ていっても不自然なだけだよ」
「そのために妃殿下の姿を消さずに移動されたのですか?」
ジョエルがオーギュストを胡散臭そうに見ている。ミシュリーヌも隠れて移動しなかったことには疑問を感じていた。伯爵に離宮まで来てもらうことだって可能だっただろう。
「聖女の偽物が出たんだ。ミシュリーヌが健在であることを知らせる必要があっただろう?」
「そうですよね。そういうことにしておきます」
ジョエルは全く納得していない顔で頷いた。
わざとかどうかは別にしても、今さら不貞を疑って北町の屋敷に行くのは不自然かもしれない。
何か他に良い方法はないだろうか?
オーギュストのためにもなんとかしたいが、ミシュリーヌにも切実な理由がある。ヘクターの標的がミシュリーヌであるなら、解決するまで安全のために離宮から出してはもらえない気がするのだ。逃げ出して迷惑をかけたばかりなので文句は言えないが、離宮にある本は飽きるほど読んでしまったし、閉じ込められるのは辛い。
「……そうだわ。わたくしが毎日同じ時間に図書館に通うのはどうかしら? そうすれば、誰かがわたくしを捕らえに来るかもしれませんよ」
「図書館に行きたいのか? 毎日でも一緒に行ってあげるから、囮の話はなしだ」
一石二鳥だと思ったが、オーギュストにはお見通しだったようだ。
「しかし、十日後のパーティーには、妃殿下も出席していただかなくてはなりません。それまでに解決する方法が見つかるでしょうか? 相手がヘクター殿下では、近衛は手も足も出ない」
近衛隊長は悔しそうだ。
「心配するな。私がミシュリーヌを守る」
「妃殿下は成人を迎えられたのですぞ。殿下といえども、パーティーの間中そばにいるのは不可能では?」
「それは……」
今までのパーティーならば、ミシュリーヌは途中で退席してしまうことができた。しかし、次のパーティーでは成人を迎えた後なので、大人の王族が退席する時間まで会場に残らなければならない。滞在時間が長ければ隙も生まれる。
ヘクターも出席するのだ。祝賀パーティーのときのように何か仕掛けてくる可能性も高い。最近のパーティーのように体調不良で欠席という手もあるが、ずっと欠席し続けるわけにもいかない。社交シーズンを締めくくるパーティーであることを考えれば、聖女は健在であると伝えるために出席するべきなのだ。
「確か、五日後に橋の完成を祝う式典がありましたな。その日ならば王宮の警備が手薄になるので、上手く誘き寄せられるかもしれませんぞ」
「伯爵まで何を言い出すんだ」
伯爵はオーギュストに睨まれても朗らかに笑っている。
「ヌーヴェル伯爵、詳しく教えてくださいませ」
ミシュリーヌはオーギュストの困惑を無視して、伯爵に先を促した。
「お忍びのフリをして通うのが良いでしょうな。そうでなければ、襲わせるスキを作るのは難しいでしょう?」
「伯爵のおっしゃるとおりです。お忍びでなければ、近衛隊が妃殿下にぴったり張り付いていないと不自然ですからね。もちろん、作戦でなければ、離れていても警備に穴は作りません」
「勝手に話を進めるな」
「オーギュスト様は黙っていて下さいませ」
オーギュストは少し怒っていたが、ミシュリーヌが声を掛けると困った顔をして黙り込む。オーギュストはなんだかんだ言っても、ミシュリーヌには甘い。
「あちらもミシュリーヌ妃殿下を拘束できずに焦ってきているはずですからな。きっと、うまくいきますぞ。他国が絡んでいるなら期限もあるでしょう」
「毎日、オーギュスト様と図書館に通って姿を見せておく。式典の日にはオーギュスト様が警備でいらっしゃらないので、一人で図書館に行っても不自然ではない。囮作戦にはぴったりというわけですわね」
「ミシュリーヌ、遊びではないんだ。絶対に駄目だからな!」
団長室にオーギュストの聞いたこともない大きな声が響く。ミシュリーヌは懇願するように見つめたが、オーギュストは視線も合わせてくれなかった。
ヘクター殿下は、わたくしを捕らえたいのよね……
「そうだわ! わたくしが囮になるのはどうでしょう。わたくしを使って誘き寄せれば良いのですわ」
ヴァネッサに渡されたメモの屋敷には、今も怪しげな者たちが出入りしているという。かなり怖いがミシュリーヌがそんな場所で捕まり、ヘクターが現れたなら、これ以上の証拠はない。
「兄上の関与を伝えたときにあんなに震えていたのに、何を言っているんだ」
「蒸し返さないで下さいませ」
ミシュリーヌは睨んでみたが、オーギュストは笑うだけだ。
「どちらにしろ、私とミシュリーヌが二人で歩いているところを目撃された後だ。街に出ていっても不自然なだけだよ」
「そのために妃殿下の姿を消さずに移動されたのですか?」
ジョエルがオーギュストを胡散臭そうに見ている。ミシュリーヌも隠れて移動しなかったことには疑問を感じていた。伯爵に離宮まで来てもらうことだって可能だっただろう。
「聖女の偽物が出たんだ。ミシュリーヌが健在であることを知らせる必要があっただろう?」
「そうですよね。そういうことにしておきます」
ジョエルは全く納得していない顔で頷いた。
わざとかどうかは別にしても、今さら不貞を疑って北町の屋敷に行くのは不自然かもしれない。
何か他に良い方法はないだろうか?
オーギュストのためにもなんとかしたいが、ミシュリーヌにも切実な理由がある。ヘクターの標的がミシュリーヌであるなら、解決するまで安全のために離宮から出してはもらえない気がするのだ。逃げ出して迷惑をかけたばかりなので文句は言えないが、離宮にある本は飽きるほど読んでしまったし、閉じ込められるのは辛い。
「……そうだわ。わたくしが毎日同じ時間に図書館に通うのはどうかしら? そうすれば、誰かがわたくしを捕らえに来るかもしれませんよ」
「図書館に行きたいのか? 毎日でも一緒に行ってあげるから、囮の話はなしだ」
一石二鳥だと思ったが、オーギュストにはお見通しだったようだ。
「しかし、十日後のパーティーには、妃殿下も出席していただかなくてはなりません。それまでに解決する方法が見つかるでしょうか? 相手がヘクター殿下では、近衛は手も足も出ない」
近衛隊長は悔しそうだ。
「心配するな。私がミシュリーヌを守る」
「妃殿下は成人を迎えられたのですぞ。殿下といえども、パーティーの間中そばにいるのは不可能では?」
「それは……」
今までのパーティーならば、ミシュリーヌは途中で退席してしまうことができた。しかし、次のパーティーでは成人を迎えた後なので、大人の王族が退席する時間まで会場に残らなければならない。滞在時間が長ければ隙も生まれる。
ヘクターも出席するのだ。祝賀パーティーのときのように何か仕掛けてくる可能性も高い。最近のパーティーのように体調不良で欠席という手もあるが、ずっと欠席し続けるわけにもいかない。社交シーズンを締めくくるパーティーであることを考えれば、聖女は健在であると伝えるために出席するべきなのだ。
「確か、五日後に橋の完成を祝う式典がありましたな。その日ならば王宮の警備が手薄になるので、上手く誘き寄せられるかもしれませんぞ」
「伯爵まで何を言い出すんだ」
伯爵はオーギュストに睨まれても朗らかに笑っている。
「ヌーヴェル伯爵、詳しく教えてくださいませ」
ミシュリーヌはオーギュストの困惑を無視して、伯爵に先を促した。
「お忍びのフリをして通うのが良いでしょうな。そうでなければ、襲わせるスキを作るのは難しいでしょう?」
「伯爵のおっしゃるとおりです。お忍びでなければ、近衛隊が妃殿下にぴったり張り付いていないと不自然ですからね。もちろん、作戦でなければ、離れていても警備に穴は作りません」
「勝手に話を進めるな」
「オーギュスト様は黙っていて下さいませ」
オーギュストは少し怒っていたが、ミシュリーヌが声を掛けると困った顔をして黙り込む。オーギュストはなんだかんだ言っても、ミシュリーヌには甘い。
「あちらもミシュリーヌ妃殿下を拘束できずに焦ってきているはずですからな。きっと、うまくいきますぞ。他国が絡んでいるなら期限もあるでしょう」
「毎日、オーギュスト様と図書館に通って姿を見せておく。式典の日にはオーギュスト様が警備でいらっしゃらないので、一人で図書館に行っても不自然ではない。囮作戦にはぴったりというわけですわね」
「ミシュリーヌ、遊びではないんだ。絶対に駄目だからな!」
団長室にオーギュストの聞いたこともない大きな声が響く。ミシュリーヌは懇願するように見つめたが、オーギュストは視線も合わせてくれなかった。
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