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三章 犯人を追って【オーギュスト】
第13話 拠点【ミシュリーヌ】
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ミシュリーヌはオーギュストに抱き上げられたまま、山道を進む。背後を振り返ると、魔導師団員たちが馬とともに距離をとってついてきているのが見えた。彼らも隠蔽魔法を使っているはずだ。オーギュストがミシュリーヌを不安にさせないため、見えるようにしてくれているのだろう。彼らからは、ミシュリーヌたちは見えていないと聞いている。
一時間ほど山を下っただろうか。急に視界が開け、広場のような場所に出た。人の気配はないが、テントなどが作られており、魔獣草も炊かれている。備品にナチュレ公爵家の紋章があることから、彼らの拠点であると推測できた。
「あの小屋はこんなに街道から近かったのか」
オーギュストが前方の林を見て呟いた。
「街道ですか?」
「ああ。そこの林を超えれば、すぐに街道だ。王都からもそこまで距離はないと思うよ」
ミシュリーヌの目には見えないが、オーギュストは何らかの魔法で確認したのだろう。獣道を移動していたミシュリーヌたちより、短い時間で到着できた可能性が高いらしい。
「この建物で朝を待つみたいだね。しっかり、つかまっているんだよ」
ナチュレ公爵領の騎士が車輪のついた小さな建物の鍵を開けている。ミシュリーヌはオーギュストの意図を察して、ギュッと抱きついた。
扉が開かれると、アダンを抱き上げた騎士が入っていく。オーギュストもすごい速さで扉に滑り込み、ミシュリーヌを入口から一番遠いところに降ろした。
中の構造は、ミシュリーヌが浄化の旅で寝室として使っていたものに似ている。小さめのベッドと机なども置かれており、庶民の部屋の構造を真似た造りなのだと聞いたことがある。
車輪はついているので馬で動かすことも短距離なら可能だろうが、マジックバッグを使う事を前提に作られているものだ。オーギュストはマジックバッグにいくつも入れているが、これも誰かがマジックバッグで運んだのだろう。魔力を魔導師なみに持つ者にしかできないので、おそらく、ヘクターだと思われる。
「安全確認するから、動かないでね」
オーギュストは隣にいて手しか動かしていないが、建物の中を調べているようだ。その近くでは、アダンが丁寧にベッドに寝かされているのが目に入る。
「軍医を連れてまいりますので、しばらくご辛抱下さい」
騎士は紳士的な態度でアダンに告げると建物を出ていった。とても、誘拐犯と繋がっているとは思えない。ヘクターに騙されているのだろうか?
オーギュストの紫に輝く美しい髪が銀色に戻ったと思ったら、アダンがこちらを見て驚いた顔をした。どうやら、隠蔽魔法を解いたらしい。
「結界を張った。自由に話して構わない」
「お、お疲れ様です。こんなところからすみません」
先程までグッタリとしていたアダンが飛び起きる。体調が悪いようには見えないので、本当に演技だったのだろう。
アダンは慌ててベッドから出ようとしていたが、オーギュストに押し止められる。アダンが居心地悪そうにベッドに座っているので、ミシュリーヌたちも椅子を出して座って話すことにした。
「アダン、予想以上の働きだ。ただ、ここから何があるか分からない。私がそばで補佐をするから、もうひと頑張りしてくれ。ナチュレ公爵家の騎士は敵方だと思って動いてほしい」
「はい!」
「小屋ではずっと見張りがいたと聞いている。まずは食事だな」
オーギュストは言いながら、マジックバッグから出したパンをアダンに手渡した。バターのたっぷり練り込まれたパンに分厚い魔獣肉と野菜が挟まれている。アダンは受け取ったまま、ジーッとパンを見つめている。食べるのを躊躇っているようだ。
あのパンは美味しいが、バターが多く使われているので毎日食べると太りやすい。オーギュストは食事が面倒なときに食べているようだが、ミシュリーヌは滅多に口にしない。非常時なのだから、食べても良いと思うがどうしたのだろう?
「なんだ? 苦手なものでも入っているか?」
「まさか! こんな高価なお肉なんて食べたことがありません!!」
お肉はオーギュストが狩ったもので、焼きすぎると不味くなるし、腐りやすいので扱いにくいと言っていた。マジックバッグを持つ者が保管するしかないので、ミシュリーヌたちはよく食べている。
「高いのは足が早いせいだろうな。とにかく、苦手じゃないなら食べろ。疲労回復効果があるから、こういうときにはピッタリだ」
「はい!」
アダンは恐る恐る一口食べて、目を輝かせた。と思ったら、「私の三日分の食費が一口で消えた」と呟いて落ち込んでいる。なんだか忙しそうだが、二つ目もペロリと食べていたので、苦手ではなさそうだ。
「魔導師団員なら新人でも、給料は良いはずだが……」
「すみません。仕送りをしたいので食費は節約しているんです」
「謝ることではない」
オーギュストが肉の塊を出して、遠慮するアダンのマジックバッグに強引に入れている。
アダンは小さな村の出身で、魔獣の増加により村ごと街の中に移住していたのだという。浄化終了によりアダンの家族を含む村人は、村に戻りはじめている。しかし、元の生活とは程遠く、復興にはお金も人手も必要だ。
「支援が追いつかず申し訳ない」
「謝っていただくような話ではありませんよ。魔獣は自然災害ですし、私達の村が特別不幸なわけではありません」
浄化の旅で見てきた放棄された村々がミシュリーヌの脳裏に浮かぶ。今はどうなっているのだろう。王都には立派な橋ができたが、国全体が落ち着くまでの道のりは長そうだ。
「今回の報奨が役に立てば良いが……」
「それは少し期待しています」
アダンがオーギュストに、はにかんだ笑顔を見せる。変装をしているのでミシュリーヌと同じ顔なのに、アダンの笑顔は誰かを守る強さがあって魅力的だ。なんとなく、オーギュストの反応は見たくない。
わたくしも国民の役に立ちたいわ。
ミシュリーヌは嫉妬している自分を恥じて、聖女として復興の協力をしようと心に誓った。
―――――――
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます✨明日からは21:50の公開となります。よろしくお願いします。
一時間ほど山を下っただろうか。急に視界が開け、広場のような場所に出た。人の気配はないが、テントなどが作られており、魔獣草も炊かれている。備品にナチュレ公爵家の紋章があることから、彼らの拠点であると推測できた。
「あの小屋はこんなに街道から近かったのか」
オーギュストが前方の林を見て呟いた。
「街道ですか?」
「ああ。そこの林を超えれば、すぐに街道だ。王都からもそこまで距離はないと思うよ」
ミシュリーヌの目には見えないが、オーギュストは何らかの魔法で確認したのだろう。獣道を移動していたミシュリーヌたちより、短い時間で到着できた可能性が高いらしい。
「この建物で朝を待つみたいだね。しっかり、つかまっているんだよ」
ナチュレ公爵領の騎士が車輪のついた小さな建物の鍵を開けている。ミシュリーヌはオーギュストの意図を察して、ギュッと抱きついた。
扉が開かれると、アダンを抱き上げた騎士が入っていく。オーギュストもすごい速さで扉に滑り込み、ミシュリーヌを入口から一番遠いところに降ろした。
中の構造は、ミシュリーヌが浄化の旅で寝室として使っていたものに似ている。小さめのベッドと机なども置かれており、庶民の部屋の構造を真似た造りなのだと聞いたことがある。
車輪はついているので馬で動かすことも短距離なら可能だろうが、マジックバッグを使う事を前提に作られているものだ。オーギュストはマジックバッグにいくつも入れているが、これも誰かがマジックバッグで運んだのだろう。魔力を魔導師なみに持つ者にしかできないので、おそらく、ヘクターだと思われる。
「安全確認するから、動かないでね」
オーギュストは隣にいて手しか動かしていないが、建物の中を調べているようだ。その近くでは、アダンが丁寧にベッドに寝かされているのが目に入る。
「軍医を連れてまいりますので、しばらくご辛抱下さい」
騎士は紳士的な態度でアダンに告げると建物を出ていった。とても、誘拐犯と繋がっているとは思えない。ヘクターに騙されているのだろうか?
オーギュストの紫に輝く美しい髪が銀色に戻ったと思ったら、アダンがこちらを見て驚いた顔をした。どうやら、隠蔽魔法を解いたらしい。
「結界を張った。自由に話して構わない」
「お、お疲れ様です。こんなところからすみません」
先程までグッタリとしていたアダンが飛び起きる。体調が悪いようには見えないので、本当に演技だったのだろう。
アダンは慌ててベッドから出ようとしていたが、オーギュストに押し止められる。アダンが居心地悪そうにベッドに座っているので、ミシュリーヌたちも椅子を出して座って話すことにした。
「アダン、予想以上の働きだ。ただ、ここから何があるか分からない。私がそばで補佐をするから、もうひと頑張りしてくれ。ナチュレ公爵家の騎士は敵方だと思って動いてほしい」
「はい!」
「小屋ではずっと見張りがいたと聞いている。まずは食事だな」
オーギュストは言いながら、マジックバッグから出したパンをアダンに手渡した。バターのたっぷり練り込まれたパンに分厚い魔獣肉と野菜が挟まれている。アダンは受け取ったまま、ジーッとパンを見つめている。食べるのを躊躇っているようだ。
あのパンは美味しいが、バターが多く使われているので毎日食べると太りやすい。オーギュストは食事が面倒なときに食べているようだが、ミシュリーヌは滅多に口にしない。非常時なのだから、食べても良いと思うがどうしたのだろう?
「なんだ? 苦手なものでも入っているか?」
「まさか! こんな高価なお肉なんて食べたことがありません!!」
お肉はオーギュストが狩ったもので、焼きすぎると不味くなるし、腐りやすいので扱いにくいと言っていた。マジックバッグを持つ者が保管するしかないので、ミシュリーヌたちはよく食べている。
「高いのは足が早いせいだろうな。とにかく、苦手じゃないなら食べろ。疲労回復効果があるから、こういうときにはピッタリだ」
「はい!」
アダンは恐る恐る一口食べて、目を輝かせた。と思ったら、「私の三日分の食費が一口で消えた」と呟いて落ち込んでいる。なんだか忙しそうだが、二つ目もペロリと食べていたので、苦手ではなさそうだ。
「魔導師団員なら新人でも、給料は良いはずだが……」
「すみません。仕送りをしたいので食費は節約しているんです」
「謝ることではない」
オーギュストが肉の塊を出して、遠慮するアダンのマジックバッグに強引に入れている。
アダンは小さな村の出身で、魔獣の増加により村ごと街の中に移住していたのだという。浄化終了によりアダンの家族を含む村人は、村に戻りはじめている。しかし、元の生活とは程遠く、復興にはお金も人手も必要だ。
「支援が追いつかず申し訳ない」
「謝っていただくような話ではありませんよ。魔獣は自然災害ですし、私達の村が特別不幸なわけではありません」
浄化の旅で見てきた放棄された村々がミシュリーヌの脳裏に浮かぶ。今はどうなっているのだろう。王都には立派な橋ができたが、国全体が落ち着くまでの道のりは長そうだ。
「今回の報奨が役に立てば良いが……」
「それは少し期待しています」
アダンがオーギュストに、はにかんだ笑顔を見せる。変装をしているのでミシュリーヌと同じ顔なのに、アダンの笑顔は誰かを守る強さがあって魅力的だ。なんとなく、オーギュストの反応は見たくない。
わたくしも国民の役に立ちたいわ。
ミシュリーヌは嫉妬している自分を恥じて、聖女として復興の協力をしようと心に誓った。
―――――――
【あとがき】
お読みいただきありがとうございます✨明日からは21:50の公開となります。よろしくお願いします。
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