【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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四章 平和を願って【ミシュリーヌ】

第24話 領都の様子【オーギュスト】

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 翌朝、オーギュストたちは姿を消して領都の中に入った。塀を乗り越えることになるかと思ったが、この街にも人の出入りを監視する者はいない。今回は楽ができたが、浄化の水晶がある街だと考えると不用心すぎる。オーギュストはなんとも言えない気持ちで門を潜った。


 街をしばらく歩くと、浄化の水晶が置かれた神殿が見えてくる。ここがフリルネロ公爵領の中央に位置する。聞いてはいたが、浄化のためにミシュリーヌと共に訪れた頃の面影はない。周囲はピリピリとしており、ごろつきのような警備兵がうろついていた。

「神殿とは思えない雰囲気だな」

「ええ。神殿が雇っている警備兵が暴力的なので、市民は滅多に神殿へは近づきません。依然として神殿内部には魔法の気配があり、発動させた魔導師については何も分かっておりません」

「そうか。公爵邸が済んだら、こちらにも着手しないとな」

 市民のためには早く対処すべきだが、公爵邸にいる『聖女』に逃げられる方が困る。それに公爵家を立てるなら、神殿に入る許可取りも必要だ。

「このまま、公爵邸に向かいますか?」

「ああ、それで良い」

 オーギュストたちの目的地であるフリルネロ公爵邸は、神殿からさらに南に進んだ先にあった。この微妙に開いた距離が貴族社会と神殿との心の距離を正確に表している。

 公爵邸の大きな屋敷が見えてくると、フェランがオーギュストを建物の影に誘導する。そこには、数人の魔導師団員が待っていた。フェランからは膠着状態だと報告を受けているが、その後も目立った動きはないらしい。

 調査隊と合流した際に入領許可書を見たが、許可者は公爵が留守をしているときに領地を守る代理人だった。ローランの部下が領都の公爵邸で執事から受け取ったようだ。それを信じるなら、公爵は不在ということになる。

「一度、検索をかける」

 オーギュストは一声かけてから、公爵家の敷地全体を覆うように検索魔法を飛ばす。魔力の大小までしか分からない一般の魔導師とは違い、オーギュストは会ったことがある者なら魔力から相手を特定できる。

 結果、屋敷の中に膨大な魔力の持ち主がいることが分かった。ここにいる精鋭部隊でも勝る者は少ない。オーギュストのよく知る魔力だ。

「どうされました?」

 フェランがオーギュストの表情を見て声をかけてくる。

「屋敷内にガエル兄上がいらっしゃるようだ」

 可能性の一つとしては考えていたが、オーギュストたちにとって良いことなのかどうか分からない。行方不明の兄が見つかったと喜ぶべきか?

 フェランは言葉以上のことを理解して、顔色を悪くしている。ブノワとポールはよく分からないというように顔を見合わせていた。

「我々の検索にはかかりませんでした」

「そうだろうな。知る者は数えるほどだが、ガエル兄上は他の二人の兄よりかなり魔力が多い。ただ、その才能のほとんどを実力を隠すことに費やしているんだ。本人の意向を尊重して、口にする者はいない。少なくとも隠蔽系の魔法の実力は一流だな」

「聞いて良かったのでしょうか?」

 ポールが不安そうにオーギュストを見つめる。

「知らないと戦闘になった場合に対応できないからな。ただ、団員同士でも口に出さない方が良いのは確かだ」

 ガエルの母親は先王の寵愛を受けて強引に妃にされていたが、元はあまり身分の高い人ではない。オーギュストが知る限り野心もなく、今も王宮でひっそりと慎ましく暮らしている。

 ガエルはその母を守るために魔導師としての才能を隠していた。王族は魔力が高いのが普通だが、ノルベルトやヘクター以上だと分かれば、国王にしようと動き出す者が出かねない。魔獣と共に生きるこの国では、国王にも戦闘能力を求める傾向にある。

 ガエルは精鋭部隊の実力者であるフェランにも気づかせない徹底ぶりだ。実力を知っているのは、魔法教育を施した前魔導師団長とオーギュスト、オーギュストが伝えたノルベルトくらいかもしれない。

 オーギュストも本人から聞いたわけではないので、知っていることをガエルには伝えていない。実力を暴いてしまったのは、さらに大きく上回るオーギュストの魔力のせいだ。魔力差がありすぎると隠蔽のような種類の魔法は無力化されてしまう。

 前魔導師団長が知っていると分かったのは、オーギュストが魔導師団長になるときに聞かされたからだ。どういう意図があって伝えてくれたのかは不明である。ただ、今日のような状況を推定していたわけではないと思いたい。

「我々の監視にも気づいておられるのでしょうか?」
 
「たぶんな」

 ガエルは気づいた上で静観している。何を考えているのだろう? 他に知る魔力はなかったので公爵は屋敷にいないが、指示をもらって動いているのだろうか?

「兄上が魔法の修行をどの程度しているのかは分からない。油断しなければ負けないとは思うが……隠れて屋敷内を調べ回るのは危険だな」

 前魔導師団長は基礎しか教えられなかったと嘆いていた。しかし、王族であるガエルなら独自で学ぶ方法はいくらでもある。魔導師としての実力はオーギュストにも未知数だ。

「どういたしますか?」

「公爵邸に先触れを出してくれ。魔導師団長として正面から面会する」

「畏まりました」

 待ち構える相手に正面から対峙するのは危険だが、オーギュストには他の案が浮かばなかった。
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