【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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終章 未来に向かって【ミシュリーヌ】

第1話 異変

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 ミシュリーヌが宿で朝食をとっていると、マリエルが笑顔でクマのぬいぐるみを連れてやってきた。マリエルは先程までオーギュストと定期連絡をしていたはずだ。ぬいぐるみの瞳の色は茶色なので、オーギュストとの通信は終わったらしい。

「オーギュスト様は何かおっしゃっていましたか?」

「このまま順調に旅が進めば、明日中にはこちらに到着されるようですよ」

「そう。良かったわ」

 ミシュリーヌは不機嫌さを隠して笑顔で返事をする。昨晩、ミシュリーヌもクマに憑依したオーギュストと会ったのに、そんな話は一言もしていなかった。こちらから聞かなかったせいもあるが、大事な報告をミシュリーヌに話し忘れるのはオーギュストの悪い癖だ。会ったら一言言わせてもらいたい。

「今日は三名の治療を予定しています。護衛は最低限で良いので、休める人は休んで下さい」

 ミシュリーヌは食後のお茶を飲み終えて席を立つ。いつもより足取りが軽い自分に気がついて、慌てて歩みを変えた。オーギュストに怒っていたはずなのに、再会が近いと聞いて無意識に浮かれていたらしい。マリエルが微笑ましそうに見ているのに気づいて、赤くなった頬を隠した。

 ……

 ミシュリーヌは予定していた治療を終えると、別行動をとっていたクリストフたちと合流し夕食に向かう。クリストフは毎日、冒険者ギルドで怪我の治療を行っている。怪我をしても治せる環境にあるからか、街の外に魔獣狩りに出る者も増え、この街は到着した数日前より活気づいている。

 本人は言わないがマリエルたちから聞いた話によると、クリストフは患者さんたちとの雑談の中でミシュリーヌやオーギュストの悪い噂を良いものに変えてくれているようだ。クリストフにお礼を言っても恥ずかしいのか聞き流されてしまうが、何度感謝の言葉を述べても言い足りない。

「今日は魔獣肉のソテーにしようかな?」

「私は煮込みの気分」

 魔導師団員たちの和やかな会話を聞きながら歩いていると、マリエルが突然立ち止まる。驚いて隣を振り返ると、マリエルはある方向を睨みつけていた。続いて、前方のクリストフもピクッと反応し、飾りのようになっていた背中の槍に手をかける。

「マリエル先輩、どうしました?」

 他の団員たちが戸惑っていたが、それも少しの間だけだった。街から少し離れた森の方から、良くない魔力が近づいて来るのを感じる。それも一つや二つではない。ミシュリーヌも含めて皆が気づき、同じ方向を見つめて無言になった。

 魔獣草を使った魔獣反乱が起きている。

 誰も口にはしないが思っていることは同じだろう。

「なぜ、この街で……」

 魔獣反乱は聖女の巡礼の旅をなぞるように起こっていた。次に襲われる可能性が高い街には、魔導師団員が他より多く派遣されている。しかし、それはミシュリーヌのいる、この街ではない。

 皆が固まる中、最初に動き出したのはマリエルだ。紙に走り書きをし、他の団員を促して召喚した伝書鳩三羽を暮れかけた空に飛ばす。

「団長と調査隊、魔獣反乱の予想地にいる隊それぞれに状況を報告しました。我々は現場に向かい、魔獣草の対処を行います。クリストフさん、妃殿下をお願いできますか?」

「構わないよ。僕の護衛はどうする?」

 クリストフが後方を見るので視線を追うと、壮年の騎士は落ち着いているが、若い方の騎士がガタガタと震えていた。

「クリストフさんと共に妃殿下の護衛をお願いしてもよろしいですか?」

「ああ。任せてくれ。でも、一人女性がいたほうが良いんじゃないか?」

 壮年の騎士がチラリと端に視線を走らせる。視線の先には王都から同行してくれているジュリーがいて、皆から隠れるようにして震えていた。あとの面々は緊張しているが、冷静な表情を保っている。

「ジュリー、妃殿下のことをよろしくね」

「でも……、なるべく人数が多いほうが良いですよね。私も行きます!」

 ジュリーが青い顔のまま必死に訴える。口には出さないが、ミシュリーヌから見ても、行かせられる精神状態には見えない。

「では、私が代わりにマリエル隊に加わります。よろしいですね?」

 名乗り出たのはクリストフの護衛担当の魔導師団員だ。そこにこの街を担当していた先発隊四名が加わり、九名の隊が魔獣草を焚いている地点に向かうこととなった。

「僕は自分でどうにかするけど、護衛が三人で大丈夫?」

 クリストフがミシュリーヌとマリエルに聞いてくる。ジュリーと若い騎士はしばらく護衛にはならないので、ミシュリーヌの護衛はクリストフと壮年の騎士の二名だ。

 ミシュリーヌの隣のクマが不服そうにしている。オーギュストが憑依しているわけではないので気のせいだが、最強の護衛を忘れてはいけない。オーギュストのクマとローブがあらば、ミシュリーヌは安全だ。

「妃殿下も非常時に我々に心配をかけるような行動を取る方ではありません。むしろ、この人数の方が安全ですよ」

 マリエルが笑顔でミシュリーヌに釘を刺す。ミシュリーヌも一緒に行きたかったが、口に出せる雰囲気ではない。どんなに説得しても許されないことも、そんなことで揉めている時間がないことも分かっていたので黙るしかなかった。

「せめて、加護を送る時間をちょうだい」

 ミシュリーヌは返事も待たずに九人に最上位の加護を贈る。オーギュスト以外の頬に口づけをするのは初めてだ。

「僕は触れずに済む加護が良いです」

 マリエルたちを見送って、クリストフに視線を向けると、先程まで冷静だったのに怯えたように後ずさる。ミシュリーヌが首を傾げると、クリストフがクマの茶色い瞳をチラリと見た。オーギュストのことを気にしているようだ。

「オーギュスト様はそんなことで怒るような方ではありませんよ」

 オーギュストは余裕のある大人だ。そんなことで怒るなんて想像もできない。ミシュリーヌは笑顔で言って、諦め顔のクリストフに守護の加護を贈った。
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