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終章 未来に向かって【ミシュリーヌ】
第7話 討伐【オーギュスト】
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オーギュストは眠るミシュリーヌを抱き上げて、クリストフに視線を向ける。
「ミシュリーヌが迷惑をかけたな」
「いいえ。殿下がいらっしゃるまでは『頼れる聖女様』でしたよ。我々の中で一番冷静だったんじゃないですかね」
クリストフの言葉に壮年の騎士が同意するように頷く。若い騎士が、ごねるミシュリーヌを驚いたようにみていたが、内心は他の者も同じだったのかもしれない。
「そうか」
ミシュリーヌは聖女らしい姿を皆に見せていた。ミシュリーヌが無理をしていたと分かったのに、オーギュストは自分だけに甘えていると知って嬉しかった。
クリストフがオーギュストの反応を見てニヤニヤしている。オーギュストは揶揄われるのは嫌なので見なかったことにした。
「ミシュリーヌの護衛はジュリーに任せる。体調にもよるが、五時間ほどで目を覚ますだろう。その後は、私の結界の中ならミシュリーヌの自由にさせて良い。どうした?」
オーギュストの結界の中ならミシュリーヌは安全だ。相手が人間なら、ジュリーだけで対処できる。オーギュストはジュリーにミシュリーヌを預けようとしたが、ジュリーは手を伸ばしてこなかった。
「団長、申し訳ありません。私、魔獣の気配に怯えてマリエル隊長においていかれたんです。そんな私なんかに妃殿下を任せていただいてよろしいのでしょうか?」
壮年の騎士の補足によると、怯えているのを必死で隠そうとしていたようだ。魔導師団に口を出してしまったと謝られたが、壮年の騎士の冷静な判断にオーギュストは感謝した。
「気にすることはない。私でさえ手が震えた」
「団長もですか!?」
ジュリーが大きな声で言って、慌てて口を閉じる。そろりとミシュリーヌを確かめていたので起こしたかと思ったのだろう。オーギュストの魔法はそんなことでは解けない。
「皆だって必死に隠していただけだと思うぞ。それについては、少しずつ練習するしかない。ジュリーだって、ポールやブノワと組んでいたときなら震えなかったんじゃないか?」
「そう……でしょうか?」
ジュリーは耐えている自分が想像できたのだろう。表情から暗さが消える。実際に、マリエルたちと合流する前のジュリーは、他の者より落ち着いていた。今も落ち着いているようなので、オーギュストは心配していない。
「そういうものだ。自信を持て。我々に何かあったら、ミシュリーヌを連れて逃げなければいけないんだぞ」
「はい」
ジュリーの顔に自信が戻ってきたのを確認して、オーギュストはミシュリーヌを預ける。
「僕らはどうしましょう?」
聞いてきたのはクリストフだ。マリエルにミシュリーヌの護衛を任されていたらしい。
「休んでいて構わないぞ」
「安めと言われるほど疲れてないんですよ。妃殿下に無理やり仮眠を取らされたんでね。そろそろ何かしないと、非常時でさえ働かない神官になってしまいます」
クリストフの隣に控える壮年の騎士がブハッと吹き出す。オーギュストが視線を向けると、騎士らしい表情に戻った。
「私もよろしければ同行させて下さい。交代で休んでいたので、まだ働けます。こいつは妃殿下の護衛につけますよ」
壮年の騎士が若い方の騎士の頭を豪快に撫でる。オーギュストが頷くと、若い騎士は宿に向かい始めたジュリーを追いかけていった。若い騎士には魔獣との戦闘が難しいとの判断だろう。オーギュストの前では落ちついて見えたジュリーとは違い、若い騎士の方は今にも倒れそうな青い顔をしていた。
「では、二人には冒険者の援護に回ってもらおう」
「援護ですか?」
「ああ。私も疲れていて、周りを巻き込まないように加減できるか分からないからな。近くには、いない方が良い」
「相変わらずですね」
クリストフは全て理解したと言う顔で頷いた。嘘を言ったわけではないが、ミシュリーヌに危険がない状況で、他の者に無理をさせるつもりはない。
オーギュストたちは城壁の扉に向かったが、開かないように外側から補強されているのか動かない。仕方がないので、上空に飛び上がり城壁を越えることにした。
オーギュストはクリストフたちを城壁の近くに降ろすと、自分は迫りくる魔獣の背後に転移する。
「久しぶりに暴れるか」
冒険者は城壁の近くに集まっている。周りを巻き込む心配をせずに魔法を放つのはいつぶりだろう。オーギュストはあらゆる魔法を使って、魔獣を殲滅させながら、マジックバッグにしまっていく。
今日の討伐だけでも、かなりの数の魔石が取れている。無理をさせ続けている団員たちに報奨が贈れそうだ。オーギュストには、そんなことを考える余裕が十分にあった。ミシュリーヌが安全な場所にいる。それがオーギュストにとってどれだけ重要なことなのかを実感する。
やがて、魔獣の数が減り始めると、マリエルを含む魔導師団員九名がオーギュストと合流する。ミシュリーヌの護衛をしていたマリエル隊と、あの街に先発隊として入っていた魔導師団先発隊D班が共闘していたようだ。
「派手にやりましたね」
呆れを含んだマリエルの声を聞けば、彼女たちも無事に任務を遂行できたのだと分かる。結界を張って戦う余裕があったようで、ひどい怪我を負った者はいなかった。
「魔獣草を焚いていたのは、そいつ等か?」
「はい。いかがいたしましょう」
D班の班長が魔法で拘束した七名に視線を向ける。自分の足で歩いているようだが、ここにいると庇いながら戦う必要がある。
「邪魔だな」
オーギュストがつい本音を言うと、犯人の半分ほどが震え出す。魔獣がいる中で動揺されると本当に邪魔なので、オーギュストは犯人たちを預かって眠らせ、護送車に押し込めて街の中に転移した。
オーギュストが護送車に結界を張ってから城壁の外に戻ると、魔獣は団員の力でさらに減っていた。その後は疲れが出た者を休ませながら危なげない戦闘が続く。不機嫌さを残したミシュリーヌが合流した頃には、事後処理に入れるくらいに落ち着いていた。
「ミシュリーヌが迷惑をかけたな」
「いいえ。殿下がいらっしゃるまでは『頼れる聖女様』でしたよ。我々の中で一番冷静だったんじゃないですかね」
クリストフの言葉に壮年の騎士が同意するように頷く。若い騎士が、ごねるミシュリーヌを驚いたようにみていたが、内心は他の者も同じだったのかもしれない。
「そうか」
ミシュリーヌは聖女らしい姿を皆に見せていた。ミシュリーヌが無理をしていたと分かったのに、オーギュストは自分だけに甘えていると知って嬉しかった。
クリストフがオーギュストの反応を見てニヤニヤしている。オーギュストは揶揄われるのは嫌なので見なかったことにした。
「ミシュリーヌの護衛はジュリーに任せる。体調にもよるが、五時間ほどで目を覚ますだろう。その後は、私の結界の中ならミシュリーヌの自由にさせて良い。どうした?」
オーギュストの結界の中ならミシュリーヌは安全だ。相手が人間なら、ジュリーだけで対処できる。オーギュストはジュリーにミシュリーヌを預けようとしたが、ジュリーは手を伸ばしてこなかった。
「団長、申し訳ありません。私、魔獣の気配に怯えてマリエル隊長においていかれたんです。そんな私なんかに妃殿下を任せていただいてよろしいのでしょうか?」
壮年の騎士の補足によると、怯えているのを必死で隠そうとしていたようだ。魔導師団に口を出してしまったと謝られたが、壮年の騎士の冷静な判断にオーギュストは感謝した。
「気にすることはない。私でさえ手が震えた」
「団長もですか!?」
ジュリーが大きな声で言って、慌てて口を閉じる。そろりとミシュリーヌを確かめていたので起こしたかと思ったのだろう。オーギュストの魔法はそんなことでは解けない。
「皆だって必死に隠していただけだと思うぞ。それについては、少しずつ練習するしかない。ジュリーだって、ポールやブノワと組んでいたときなら震えなかったんじゃないか?」
「そう……でしょうか?」
ジュリーは耐えている自分が想像できたのだろう。表情から暗さが消える。実際に、マリエルたちと合流する前のジュリーは、他の者より落ち着いていた。今も落ち着いているようなので、オーギュストは心配していない。
「そういうものだ。自信を持て。我々に何かあったら、ミシュリーヌを連れて逃げなければいけないんだぞ」
「はい」
ジュリーの顔に自信が戻ってきたのを確認して、オーギュストはミシュリーヌを預ける。
「僕らはどうしましょう?」
聞いてきたのはクリストフだ。マリエルにミシュリーヌの護衛を任されていたらしい。
「休んでいて構わないぞ」
「安めと言われるほど疲れてないんですよ。妃殿下に無理やり仮眠を取らされたんでね。そろそろ何かしないと、非常時でさえ働かない神官になってしまいます」
クリストフの隣に控える壮年の騎士がブハッと吹き出す。オーギュストが視線を向けると、騎士らしい表情に戻った。
「私もよろしければ同行させて下さい。交代で休んでいたので、まだ働けます。こいつは妃殿下の護衛につけますよ」
壮年の騎士が若い方の騎士の頭を豪快に撫でる。オーギュストが頷くと、若い騎士は宿に向かい始めたジュリーを追いかけていった。若い騎士には魔獣との戦闘が難しいとの判断だろう。オーギュストの前では落ちついて見えたジュリーとは違い、若い騎士の方は今にも倒れそうな青い顔をしていた。
「では、二人には冒険者の援護に回ってもらおう」
「援護ですか?」
「ああ。私も疲れていて、周りを巻き込まないように加減できるか分からないからな。近くには、いない方が良い」
「相変わらずですね」
クリストフは全て理解したと言う顔で頷いた。嘘を言ったわけではないが、ミシュリーヌに危険がない状況で、他の者に無理をさせるつもりはない。
オーギュストたちは城壁の扉に向かったが、開かないように外側から補強されているのか動かない。仕方がないので、上空に飛び上がり城壁を越えることにした。
オーギュストはクリストフたちを城壁の近くに降ろすと、自分は迫りくる魔獣の背後に転移する。
「久しぶりに暴れるか」
冒険者は城壁の近くに集まっている。周りを巻き込む心配をせずに魔法を放つのはいつぶりだろう。オーギュストはあらゆる魔法を使って、魔獣を殲滅させながら、マジックバッグにしまっていく。
今日の討伐だけでも、かなりの数の魔石が取れている。無理をさせ続けている団員たちに報奨が贈れそうだ。オーギュストには、そんなことを考える余裕が十分にあった。ミシュリーヌが安全な場所にいる。それがオーギュストにとってどれだけ重要なことなのかを実感する。
やがて、魔獣の数が減り始めると、マリエルを含む魔導師団員九名がオーギュストと合流する。ミシュリーヌの護衛をしていたマリエル隊と、あの街に先発隊として入っていた魔導師団先発隊D班が共闘していたようだ。
「派手にやりましたね」
呆れを含んだマリエルの声を聞けば、彼女たちも無事に任務を遂行できたのだと分かる。結界を張って戦う余裕があったようで、ひどい怪我を負った者はいなかった。
「魔獣草を焚いていたのは、そいつ等か?」
「はい。いかがいたしましょう」
D班の班長が魔法で拘束した七名に視線を向ける。自分の足で歩いているようだが、ここにいると庇いながら戦う必要がある。
「邪魔だな」
オーギュストがつい本音を言うと、犯人の半分ほどが震え出す。魔獣がいる中で動揺されると本当に邪魔なので、オーギュストは犯人たちを預かって眠らせ、護送車に押し込めて街の中に転移した。
オーギュストが護送車に結界を張ってから城壁の外に戻ると、魔獣は団員の力でさらに減っていた。その後は疲れが出た者を休ませながら危なげない戦闘が続く。不機嫌さを残したミシュリーヌが合流した頃には、事後処理に入れるくらいに落ち着いていた。
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