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終章 未来に向かって【ミシュリーヌ】
第13話 神官長【オーギュスト】
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翌日になって、オーギュストは公爵邸の一室で神官長トリスタン・オーキドの尋問を始めた。出席者はオーギュスト、フェラン、クリストフの三名だ。
オレリーも参加したいと申し出てくれたが、ガエルに止められていた。ガエルの見立てでは、トリスタンは粘着質な性格のようで、通報者のオレリーに憎悪が集まると危険だという判断だ。
それを聞いたクリストフも欠席を希望したが、オーギュストが却下した。万が一の場合でも、クリストフなら退けるだけの力がある。
「私が神官長に就任したのは四年前です。前任者の病気が理由で、任命に関して不正はしておりません……――」
ただ、トリスタンへの尋問はガエルの心配をよそに淡々と進められた。神官長の地位にあったトリスタンは、オーギュストに対して貴族の大半と同じような反応を示したのだ。怯えられるのは不本意だが、仕事が捗るなら利用するしかない。フェランはわざとオーギュストに怯える仕草を混ぜて、トリスタンの恐怖心を煽っていた。
「――……せっかく、神官長の地位に就いたのに、復興の最中では贅沢もできない。そんな中で王妃様から声をかけていただいたのです」
トリスタンの話に出てくる『王妃』とは、ヘクターの母である前王妃のことだ。トリスタンの供述はヘクターの部屋から押収された手紙の内容とも一致する。
前王妃はソルベ王国の王弟と手を組んでいた。王弟は前王妃の弟にあたる。前王妃は輿入れの際にソルベから連れてきた侍女を使って、トリスタンが王弟に浄化薬を売る橋渡しを行い、報酬を得ていた。前王妃は、そのお金で高価な宝石を買い集めていたらしい。捜査の中で押収されているが、他国から取り寄せまでしていたようだ。
ソルベ王国では浄化ができる者が少なく、地位のある騎士や魔導師でさえ魔素に侵されて苦しんでいた。王弟から貰った浄化薬で命を助けられれば、王弟側につく者も多かったことだろう。ソルベの王弟は王位を得るために、ミシュリーヌの浄化薬を利用していたわけだ。
ここまでは前王妃と王弟の企みだ。その後、ヘクターが前王妃と入れ替わるように関わってくるわけだが、前王妃の行動に気づいた時期や理由は分かっていなかった。
『そんなことを聞いても意味がないでしょ』
ヘクターはそう言って笑うだけだったのだ。
「ヘクター殿下がいらっしゃったのは一年ほど前です。糾弾されることも覚悟しておりましたが、殿下は私に助言を下さった」
トリスタンは不正に気がついた神官を別の領地に移動させていた。そのせいで水晶の浄化に苦労していたようだ。
『王都の水晶にも綻びがある。水晶の浄化をサボっても、聖女のせいにすれば誰も疑わないよ』
ヘクターはそんなふうに言ったようだ。もちろん、ミシュリーヌの浄化に綻びがあったという事実はない。
真実はどうあれ、トリスタンはヘクターの話を真に受けて水晶の浄化を止めてしまった。ついでに領内の浄化薬の値段も上げ、それもミシュリーヌやオーギュストのせいにしたようだ。
「もう潮時だと私にも分かっていました。金をできるだけ集めてソルベ王国に逃げるつもりだったのです」
トリスタンはソルベからの使者が浄化薬を取りに来たときに、同行を願い出るつもりだったようだ。しかし、定期的に訪れていたソルベの使者がなぜか公爵領に来ない。待っているうちに、魔獣が増えだして逃げ出すのも難しくなってしまったようだ。
「自分で自分の首を絞めたわけだな」
フェランが尋問の最後に挑発するように言ったが、トリスタンは落ち込んだように俯くだけだった。
ただ、実際はどうなのだろう。オーギュストは口を挟まずに考える。トリスタンの供述にあるソルベからの使者が止まった時期には、すでに魔獣の増加が始まっていた。しかし、商会は問題なく出入りしており、王弟の手の者が移動できなかったとは考えにくい。ヘクターが何かしたのか、ソルベ王国内の問題か。いずれにしろ、魔獣の増加以外の何か別の事情が絡んでいたことは確実だろう。
だが、オーギュストがいくら考えても、答えを知る日は来ないのかもしれない。
ノルベルトの方針でソルベ王国からの介入には目を瞑ることになっている。今のフルーナ王国に、他国と争っている余裕はない。この件も探りを入れてソルベ王国を刺激してまで答えを得る必要はないだろう。
オーギュストは、牢屋に戻されるトリスタンを眺めながら、そんなことを考えていた。
オレリーも参加したいと申し出てくれたが、ガエルに止められていた。ガエルの見立てでは、トリスタンは粘着質な性格のようで、通報者のオレリーに憎悪が集まると危険だという判断だ。
それを聞いたクリストフも欠席を希望したが、オーギュストが却下した。万が一の場合でも、クリストフなら退けるだけの力がある。
「私が神官長に就任したのは四年前です。前任者の病気が理由で、任命に関して不正はしておりません……――」
ただ、トリスタンへの尋問はガエルの心配をよそに淡々と進められた。神官長の地位にあったトリスタンは、オーギュストに対して貴族の大半と同じような反応を示したのだ。怯えられるのは不本意だが、仕事が捗るなら利用するしかない。フェランはわざとオーギュストに怯える仕草を混ぜて、トリスタンの恐怖心を煽っていた。
「――……せっかく、神官長の地位に就いたのに、復興の最中では贅沢もできない。そんな中で王妃様から声をかけていただいたのです」
トリスタンの話に出てくる『王妃』とは、ヘクターの母である前王妃のことだ。トリスタンの供述はヘクターの部屋から押収された手紙の内容とも一致する。
前王妃はソルベ王国の王弟と手を組んでいた。王弟は前王妃の弟にあたる。前王妃は輿入れの際にソルベから連れてきた侍女を使って、トリスタンが王弟に浄化薬を売る橋渡しを行い、報酬を得ていた。前王妃は、そのお金で高価な宝石を買い集めていたらしい。捜査の中で押収されているが、他国から取り寄せまでしていたようだ。
ソルベ王国では浄化ができる者が少なく、地位のある騎士や魔導師でさえ魔素に侵されて苦しんでいた。王弟から貰った浄化薬で命を助けられれば、王弟側につく者も多かったことだろう。ソルベの王弟は王位を得るために、ミシュリーヌの浄化薬を利用していたわけだ。
ここまでは前王妃と王弟の企みだ。その後、ヘクターが前王妃と入れ替わるように関わってくるわけだが、前王妃の行動に気づいた時期や理由は分かっていなかった。
『そんなことを聞いても意味がないでしょ』
ヘクターはそう言って笑うだけだったのだ。
「ヘクター殿下がいらっしゃったのは一年ほど前です。糾弾されることも覚悟しておりましたが、殿下は私に助言を下さった」
トリスタンは不正に気がついた神官を別の領地に移動させていた。そのせいで水晶の浄化に苦労していたようだ。
『王都の水晶にも綻びがある。水晶の浄化をサボっても、聖女のせいにすれば誰も疑わないよ』
ヘクターはそんなふうに言ったようだ。もちろん、ミシュリーヌの浄化に綻びがあったという事実はない。
真実はどうあれ、トリスタンはヘクターの話を真に受けて水晶の浄化を止めてしまった。ついでに領内の浄化薬の値段も上げ、それもミシュリーヌやオーギュストのせいにしたようだ。
「もう潮時だと私にも分かっていました。金をできるだけ集めてソルベ王国に逃げるつもりだったのです」
トリスタンはソルベからの使者が浄化薬を取りに来たときに、同行を願い出るつもりだったようだ。しかし、定期的に訪れていたソルベの使者がなぜか公爵領に来ない。待っているうちに、魔獣が増えだして逃げ出すのも難しくなってしまったようだ。
「自分で自分の首を絞めたわけだな」
フェランが尋問の最後に挑発するように言ったが、トリスタンは落ち込んだように俯くだけだった。
ただ、実際はどうなのだろう。オーギュストは口を挟まずに考える。トリスタンの供述にあるソルベからの使者が止まった時期には、すでに魔獣の増加が始まっていた。しかし、商会は問題なく出入りしており、王弟の手の者が移動できなかったとは考えにくい。ヘクターが何かしたのか、ソルベ王国内の問題か。いずれにしろ、魔獣の増加以外の何か別の事情が絡んでいたことは確実だろう。
だが、オーギュストがいくら考えても、答えを知る日は来ないのかもしれない。
ノルベルトの方針でソルベ王国からの介入には目を瞑ることになっている。今のフルーナ王国に、他国と争っている余裕はない。この件も探りを入れてソルベ王国を刺激してまで答えを得る必要はないだろう。
オーギュストは、牢屋に戻されるトリスタンを眺めながら、そんなことを考えていた。
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