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終章 未来に向かって【ミシュリーヌ】
第14話 パーティー
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― 一年後 ―
ミシュリーヌ・フルーナは、カーテンが開け放たれるのを感じて目を覚ました。
「ミシュリーヌ、起きたか?」
隣にあるはずの温もりはなく、姿を探して身体を起こすと、着替えを済ませたオーギュストが窓のそばで微笑んでいた。
「起こして下さいって、いつも言っておりますのに……」
「だから、起こしてあげただろう?」
「一緒に起きたかったんです」
「そうか。それはごめんな」
オーギュストは口先だけで謝って、侍女の代わりにお茶を用意してくれる。ミシュリーヌも本気で怒っているわけではないので、お礼を言ってお茶を受け取った。
これが、王都に戻ってから毎朝繰り返されているミシュリーヌの日常だ。オーギュストは朝食前にも軽く仕事をするので、ミシュリーヌより早く起きていることが多い。
水晶の浄化が終わり仕事の少ないミシュリーヌとは違い、オーギュストは新たな役目も増えて忙しいのだ。それでも、朝の時間だけはミシュリーヌのためだけに使ってくれている。それが分かっているので、文句の言葉も続かない。
「今日はどちらでお仕事ですか?」
「警備の打ち合わせもあるから、あちこち移動かな。ミシュリーヌが準備を終えるまでには帰ってくるよ。どうした? 何か心配事があるなら聞くよ?」
ミシュリーヌはいつもと同じ質問をしたのに、いつもとは違う答えが返ってくる。オーギュストには、ミシュリーヌの気持ちなど筒抜けだ。
「わたくしのためだけにパーティーを開いていただくのは申し訳ないです。正式な社交デビューができなかったのは、わたくしが勘違いして逃げ出したせいですし……」
今日は昨年行えなかったミシュリーヌの社交デビューのパーティーが開かれる。すでに成人王族として認められているが、改めてお祝いをしようとノルベルトが提案してくれたのだ。
「パーティーを楽しんで欲しかったから言わなかったけど、このパーティーは国王の思惑も絡んでいる。だから、そんなふうにミシュリーヌが気にする必要はないよ。『聖女』の名前を出せば、辺境に引き籠もっている連中も王都に出てくるだろう? それが狙いなんだ。でも……、ミシュリーヌが嫌なら、無理する必要はない。兄上のところに行って、パーティの中止を相談してみるよ」
「聖女としての仕事なら、きちんと勤めてみせます!」
ミシュリーヌは慌ててベッドから抜け出してオーギュストを引き止める。
「そうか?」
オーギュストはミシュリーヌの肩にカーディガンを掛けてから、探るように見てきた。
「はい!」
ミシュリーヌは、心配そうに見てくる青い瞳を見つめ返しながら元気よく返事をした。
夕方になり、王宮の一番広い会場でパーティーが始まる。ミシュリーヌはオーギュストとともに他の貴族と同様の入口から入場した。オーギュストは王位継承権を持ったままだが、国王一家の家臣だと示すためだ。
会場に入るとミシュリーヌたち二人に一斉に視線が集まる。気がつくとあっという間に囲まれていた。この分だと、国王一家が入場してくるまで動けそうにない。
「オーギュスト殿下、復興大臣への就任おめでとうございます」
「殿下、おめでとうございます」
オーギュストは魔導師団長と兼務して新しく創設された復興省の大臣も務めている。もっとも、作ったばかりの復興省に専任の職員はなく、魔導師団員が出向という形で動いているのだ。
「魔導師団長との兼務は大変でしょう。ぜひとも補佐官にうちの息子をご活用ください」
「うちの甥もお役に立てると思います」
貴族たちの熱い視線がオーギュストに注がれている。
「オーギュスト様、復興省への入省を希望される方がいて良かったですね。復興関連の事業は地方の巡回ばかりなので人気がないものだと思っておりましたわ。皆様が農村の方々のことをこんなに思って下さっているなんて感激です」
オーギュストはすり寄ってくる貴族たちを前に表情がなくなっている。ここは自分の出番だと、ミシュリーヌは王弟妃らしい微笑みを浮かべた。
「土魔法や風魔法が使える方だと嬉しいですが、魔法がまだ使えなくても、魔力さえあれば、オーギュスト様が優しく教えて下さると思いますよ」
力仕事も多いので、魔力の多い貴族子女が名乗り出てくれるなら正直ありがたい。
創設のきっかけは、フリルネロ公爵領の魔獣反乱だ。犯罪を犯してしまった村人を助けることはできなかったが、一人でも多くの人が安心して暮らせるようにしたい。
オーギュストは、すでに囮捜査で活躍したアダンの故郷で成果を上げている。そのことを集まった貴族に説明すると、親族を売り込んでいた人たちがなぜか静かになってしまった。
まさか、業務を知らないで参加したいと申し出たのだろうか?
ミシュリーヌが首を傾げると、オーギュストが穏やかに微笑む。
「妃殿下、希望されている方の名前を覚えておいたほうがよろしいですよ。後で任命書を送るときに必要になります」
貴族の間を縫うように近づいてきたのはクリストフだ。神官長らしい洗練された衣装を身にまとっている。クリストフは罪を犯したトリスタン・オーキドの代わりにフリルネロ公爵領に移動し神官長となった。
ミシュリーヌが会うのは、公爵領で水晶を浄化したとき以来だ。
「クリストフ、久しぶりね。良い助言をありがとう」
ミシュリーヌがお礼を言って視線を戻すと、貴族たちがサッと視線をそらす。『病弱で旅には耐えられない』『結婚を控えているから王都を離れられない』そんな言い訳を残して去っていった。
「どこまで本気でした?」
「『聖女』の前で声をあげるんだ。それ相応の覚悟を持って来るのが礼儀だろう?」
ミシュリーヌの代わりに、オーギュストが大きめの声で答える。会場の温度が数度下がった気がする。
オーギュストは肩書に釣られているだけだと分かっていたようだが、ミシュリーヌは相手の反応を見るまで信じてしまっていた。
クリストフに小声で白状したらクスクスと笑われた。ミシュリーヌは社交を避けてきたので、貴族の考えを読み取るのが苦手だ。騙されないためにも、もう少し頑張らなければならない。
「ミシュリーヌはそのままで良いよ」
オーギュストの甘すぎる声を聞いても、同意することは出来なかった。
ミシュリーヌ・フルーナは、カーテンが開け放たれるのを感じて目を覚ました。
「ミシュリーヌ、起きたか?」
隣にあるはずの温もりはなく、姿を探して身体を起こすと、着替えを済ませたオーギュストが窓のそばで微笑んでいた。
「起こして下さいって、いつも言っておりますのに……」
「だから、起こしてあげただろう?」
「一緒に起きたかったんです」
「そうか。それはごめんな」
オーギュストは口先だけで謝って、侍女の代わりにお茶を用意してくれる。ミシュリーヌも本気で怒っているわけではないので、お礼を言ってお茶を受け取った。
これが、王都に戻ってから毎朝繰り返されているミシュリーヌの日常だ。オーギュストは朝食前にも軽く仕事をするので、ミシュリーヌより早く起きていることが多い。
水晶の浄化が終わり仕事の少ないミシュリーヌとは違い、オーギュストは新たな役目も増えて忙しいのだ。それでも、朝の時間だけはミシュリーヌのためだけに使ってくれている。それが分かっているので、文句の言葉も続かない。
「今日はどちらでお仕事ですか?」
「警備の打ち合わせもあるから、あちこち移動かな。ミシュリーヌが準備を終えるまでには帰ってくるよ。どうした? 何か心配事があるなら聞くよ?」
ミシュリーヌはいつもと同じ質問をしたのに、いつもとは違う答えが返ってくる。オーギュストには、ミシュリーヌの気持ちなど筒抜けだ。
「わたくしのためだけにパーティーを開いていただくのは申し訳ないです。正式な社交デビューができなかったのは、わたくしが勘違いして逃げ出したせいですし……」
今日は昨年行えなかったミシュリーヌの社交デビューのパーティーが開かれる。すでに成人王族として認められているが、改めてお祝いをしようとノルベルトが提案してくれたのだ。
「パーティーを楽しんで欲しかったから言わなかったけど、このパーティーは国王の思惑も絡んでいる。だから、そんなふうにミシュリーヌが気にする必要はないよ。『聖女』の名前を出せば、辺境に引き籠もっている連中も王都に出てくるだろう? それが狙いなんだ。でも……、ミシュリーヌが嫌なら、無理する必要はない。兄上のところに行って、パーティの中止を相談してみるよ」
「聖女としての仕事なら、きちんと勤めてみせます!」
ミシュリーヌは慌ててベッドから抜け出してオーギュストを引き止める。
「そうか?」
オーギュストはミシュリーヌの肩にカーディガンを掛けてから、探るように見てきた。
「はい!」
ミシュリーヌは、心配そうに見てくる青い瞳を見つめ返しながら元気よく返事をした。
夕方になり、王宮の一番広い会場でパーティーが始まる。ミシュリーヌはオーギュストとともに他の貴族と同様の入口から入場した。オーギュストは王位継承権を持ったままだが、国王一家の家臣だと示すためだ。
会場に入るとミシュリーヌたち二人に一斉に視線が集まる。気がつくとあっという間に囲まれていた。この分だと、国王一家が入場してくるまで動けそうにない。
「オーギュスト殿下、復興大臣への就任おめでとうございます」
「殿下、おめでとうございます」
オーギュストは魔導師団長と兼務して新しく創設された復興省の大臣も務めている。もっとも、作ったばかりの復興省に専任の職員はなく、魔導師団員が出向という形で動いているのだ。
「魔導師団長との兼務は大変でしょう。ぜひとも補佐官にうちの息子をご活用ください」
「うちの甥もお役に立てると思います」
貴族たちの熱い視線がオーギュストに注がれている。
「オーギュスト様、復興省への入省を希望される方がいて良かったですね。復興関連の事業は地方の巡回ばかりなので人気がないものだと思っておりましたわ。皆様が農村の方々のことをこんなに思って下さっているなんて感激です」
オーギュストはすり寄ってくる貴族たちを前に表情がなくなっている。ここは自分の出番だと、ミシュリーヌは王弟妃らしい微笑みを浮かべた。
「土魔法や風魔法が使える方だと嬉しいですが、魔法がまだ使えなくても、魔力さえあれば、オーギュスト様が優しく教えて下さると思いますよ」
力仕事も多いので、魔力の多い貴族子女が名乗り出てくれるなら正直ありがたい。
創設のきっかけは、フリルネロ公爵領の魔獣反乱だ。犯罪を犯してしまった村人を助けることはできなかったが、一人でも多くの人が安心して暮らせるようにしたい。
オーギュストは、すでに囮捜査で活躍したアダンの故郷で成果を上げている。そのことを集まった貴族に説明すると、親族を売り込んでいた人たちがなぜか静かになってしまった。
まさか、業務を知らないで参加したいと申し出たのだろうか?
ミシュリーヌが首を傾げると、オーギュストが穏やかに微笑む。
「妃殿下、希望されている方の名前を覚えておいたほうがよろしいですよ。後で任命書を送るときに必要になります」
貴族の間を縫うように近づいてきたのはクリストフだ。神官長らしい洗練された衣装を身にまとっている。クリストフは罪を犯したトリスタン・オーキドの代わりにフリルネロ公爵領に移動し神官長となった。
ミシュリーヌが会うのは、公爵領で水晶を浄化したとき以来だ。
「クリストフ、久しぶりね。良い助言をありがとう」
ミシュリーヌがお礼を言って視線を戻すと、貴族たちがサッと視線をそらす。『病弱で旅には耐えられない』『結婚を控えているから王都を離れられない』そんな言い訳を残して去っていった。
「どこまで本気でした?」
「『聖女』の前で声をあげるんだ。それ相応の覚悟を持って来るのが礼儀だろう?」
ミシュリーヌの代わりに、オーギュストが大きめの声で答える。会場の温度が数度下がった気がする。
オーギュストは肩書に釣られているだけだと分かっていたようだが、ミシュリーヌは相手の反応を見るまで信じてしまっていた。
クリストフに小声で白状したらクスクスと笑われた。ミシュリーヌは社交を避けてきたので、貴族の考えを読み取るのが苦手だ。騙されないためにも、もう少し頑張らなければならない。
「ミシュリーヌはそのままで良いよ」
オーギュストの甘すぎる声を聞いても、同意することは出来なかった。
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