【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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終章 未来に向かって【ミシュリーヌ】

第15話 それぞれの始まり〈前〉【オーギュスト】

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 国王一家が会場に揃うと、オーギュストはミシュリーヌとともに国王一家の末席に並んで他の貴族たちからの挨拶を受ける。最近は家臣として参加しているが、ミシュリーヌのためのパーティーなので、今日は特別だ。

 ノルベルトが国王になってから一年も経っているので、順番はもう皆が分かっている。最初に訪れたのは、フリルネロ公爵夫婦だ。

「フリルネロ公爵、遠いところをよく来たな」

「兄上が呼び出したんじゃないですか。今は僕だって忙しいんですよ」

 砕けた口調で話すガエルを、隣に寄り添うオレリーが嗜めるように見つめている。ガエルはオレリーの視線に気づいて微笑むとスッと姿勢を正した。


 前公爵の唯一の子だったエレオノーレ・フリルネロは、恋人の男爵子息とともに公爵邸を出た後、ビビ伯爵領に滞在していたようだ。しかし、そこでもお嬢様らしい我儘を続け、それが通らないと不満をつのらせ頻繁に癇癪を起こした。ビビ伯爵もそんなエレオノーレを持て余し、最終的には、それなりの金額を渡して公爵領に帰れと追い出したようだ。

 しかし、エレオノーレは公爵領に帰っていない。

 国境付近の住民の証言により、エレオノーレと男爵子息らしい二人がソルベ王国へと繋がる森に入ったことまでは分かっている。ただ、軽装だったようなので魔獣の多い森を抜けられたかは不明だ。生存はエレオノーレが隠れて魔法を鍛えていたことに期待するしかない。

 エレオノーレが自分の意思で消えたことは明白であり、国際問題にするような機密も保持していないことから、フルーナ王国では死亡扱いとなった。

 そんな中で、亡くなった公爵の後を継ぐことになったのが、エレオノーレの婚約者で王弟でもあるガエルだ。ガエルはオーギュストに押し付けようとしていたが、それなら魔導師団長になれとノルベルトに言われて公爵を選んだ。


「国王陛下におかれましてはご機嫌麗しく……――」

 ガエルが公爵らしい挨拶をすると、ノルベルトが満足そうに微笑む。オレリーもホッとしたように表情を緩めた。神官が長かったオレリーは、表情が他の貴族子女に比べて分かりやすい。ガエルが楽しそうにオレリーを見ているので、反応を見たくてわざと適当な挨拶をしたのかもしれない。

「ガエル。良い妻をもらったな」

「ええ。国王陛下のご配慮に感謝いたします」

 ガエルは半年ほど前にオレリーと結婚した。オレリーの神官になる前の名前はオレリー・フリルネロ。エレオノーレの再従姉はとこにあたる。フリルネロ公爵家の一族を納得させるための采配で、他にガエルとつり合う独身の女性がいなかったため選ばれたのだが、ノルベルトがオレリーを気に入ったことも大きい。

 昨年、ガエルは公爵領で起こった一連の事件について王都でオレリーとともに事情聴取を受けた。ノルベルトが立ち会ったようだが、ガエルのあしらい方がオレリーは上手かったらしい。そんな背景はあるが、ガエルもオレリーを気に入っているようなので、二人は上手くやっていくだろう。

「統治で困ったことはないか?」

「問題だらけ……いいえ、問題はありません。オレリーやクリストフに助けられてなんとかやっていますよ」

「後でゆっくり聞いてやろう」

「ありがとうございます」

 ノルベルトが含みのある笑顔で伝えると、ガエルは嫌そうな顔を隠さずにお礼を言う。本音では、ノルベルトに相談なんかしたくないのだろう。オーギュストも経験があるが、ノルベルトの指摘で仕事が増える可能性の方が高い。

 ガエルはパーティが始まる前にも、ノルベルトが甘いのはオーギュストに対してだけだと言っていた。後で愚痴を聞かされそうなので、美味しいお酒を用意しておいた方が良いだろう。

 なんだかんだあるが、兄たちと前より本音を言い合えるようになったのは良かったと思っている。


 ガエルが去ると、続いてナチュレ公爵がやってきた。ヘクターの妃だったイレーヌは、夫の罪を共に償うと言って修道院に入ったため、今年からは出席していない。代わりに伴っているのは……

「皇帝陛下にご挨拶申し上げます」

 パーティー会場に可愛らしい声が響く。声の主は、とある侯爵家の令嬢だ。公爵の次女の娘で、二年後にはナチュレ公爵の養女となる予定になっている。

「息災で何よりだ。また、王宮に遊びに来ると良い」

 ノルベルトが伝えると、令嬢は年相応の幼い笑顔を見せる。第二王子が、それをはにかんだ笑顔で見つめていた。

 次期ナチュレ公爵は、ノルベルトの次男である第二王子が務めることになっている。令嬢の養子が成立するのを待って、正式に二人の婚約が結ばれる予定だ。解体された旧第三王子派のことを考えれば、幼い第二王子にかかる期待は大きい。オーギュストも叔父として幼い二人を見守っていきたいと思う。
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