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おまけ1▶アダンの故郷【ミシュリーヌ】全九話
アダンの故郷(二)
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翌朝、ミシュリーヌはきらびやかなドレスでオーギュストを見送ると、マリエルに手伝ってもらってお忍び服に着替える。この村での滞在は工事終了まで続く。ずっと、建物の中で待機なんて、ミシュリーヌには無理だ。オーギュストも分かってくれているだろう。
ミシュリーヌが寝室として使っている建物を出ると、村長とアダンがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「お出かけですか?」
アダンが困った顔で聞いてくる。確か、アダンはオーギュストに休みをもらっていたはずだ。家族とゆっくり過ごさせると言っていたが、急用だろうか?
「オーギュスト殿下は現場に行かれましたよ」
ミシュリーヌは『ミーシャ』として返事をする。設定は……ミシュリーヌの側仕えで良いだろう。
「いいえ、妃殿下にお願いがあって来たんです」
「そうですか。では、呼んできますね」
「えっ?」
アダンが疑問の声をあげる。アダンは変装の達人なので、変装を見抜いてしまったようだ。ここは協力者になってもらったほうが良いだろう。
ミシュリーヌはアダンに向かってパチンッとウインクで伝えてみる。しかし、アダンは顔を赤くして首を傾げるだけだった。
「アダン、私から話をさせてくれ。聖女様、大変厚かましいお願いなのですが……」
「村長、待って下さい! 聖女は建物の中にいるんです!!」
「ミシュリーヌ様、諦めて下さい」
マリエルに冷静に言われて、ミシュリーヌは落ち込む。今まで、アダン以外にバレたことはなかったはずだ。
「アダンの家族も特殊能力者なのかしら?」
「きっと、そうですよ!」
マリエルの大袈裟な励ましにより、ミシュリーヌは今までもバレていたことを悟る。聖女として挨拶した相手には変装しても無駄なのかもしれない。ミシュリーヌは開き直って対応することにした。
「何かお困りですか? わたくしに協力出来ることなら、話してみて下さい」
「ありがとうございます」
アダンと村長が拝むようにミシュリーヌを見つめる。なんとなく、居心地が悪い。
「先にわたくしからもお願いがあります。わたくしを……いいえ、私を見習い神官の『ミーシャ』として扱ってください」
聖女の力を使うなら、少なくとも神官でなくてはおかしい。側仕え改め神官ミーシャだ。
「分かりました。村人に通達してきます」
村長が恭しく頭を下げて、アダンに目配せする。アダンが走り出しそうだったので、ミシュリーヌは慌てて止めた。
「そこまでしなくて大丈夫です! 堅苦しいのが苦手なだけなので……」
「『聖女様』が歩き回ると、村の皆さんが緊張なさいますからね」
マリエルが一言付け足してくれたことにより、二人も納得したようだ。魔導師団員と同じ服装なので、挨拶を交わした程度の村人なら誤魔化せるだろう。
誤魔化せるわよね?
ミシュリーヌはなんとなく確認できないまま、村長に話を促す。
「今日は説明だけさせて下さい。ちょっと、特殊なので難しければ断って頂いて構いません。お願いするのも失礼にあたるかもしれないのですが……」
「特殊?」
「はい、お願いしたいのは羊魔獣の治療なのです」
アダンがミシュリーヌの反応を伺うように恐る恐る言う。
「魔獣?」
「やはり、難しいでしょうか? 実は……」
アダンの村には魔獣を狩る仕事くらいしかなかった。しかし、力の弱い女性や老人には難しい。そこで、アダンの姉が中心となって羊魔獣を飼いはじめ、セーターやマフラーなどに仕立てて売っているらしい。
普通の羊と違って魔素を多く含む草でも餌にすることができる。男手が出払っている日中は、番犬のような役割も果たしていたようだ。野性の羊魔獣は強いので、家畜化した羊魔獣でも弱い魔獣なら警戒して近づかないらしい。
ところが、先日、狼魔獣が牧場に侵入してしまったようだ。アダンの姉が弓で撃退したようだが、二頭が怪我を負ってしまった。
「魔獣の増殖はある程度抑えられているはずですが、浄化までの期間で生態系が変わって森に食料が不足しているのかもしれませんね」
マリエルが痛ましそうに言う。彼女の地元も同じような規模の村だと聞いたことがある。
「昨日の夜、姉に頼まれて水魔法で治療したのですが、効果がなかったんです」
「家畜とはいえ魔獣ですからね」
マリエルはアダンを気づかいながら肯定する。普通の羊には効果があるらしく、アダンは期待していたようだ。この辺りはマリエルとアダンの経験の差だろう。
「治せるのであれば治してあげたいけど、聖魔法は効くのかしら?」
ミシュリーヌの疑問に、アダンは顔を青くする。聖魔法も万能というわけではない。ミシュリーヌ自身、魔獣の治療をするのはこれが初めてだ。
「断言は出来ませんが、試してみる価値はあると思います。というのも、羊魔獣を最初に家畜化したのは、異世界から来た聖女様だったと伝わっています。羊魔獣の怪我を治療したことがきっかけだったようですよ」
マリエルは羊魔獣の歴史にも詳しいらしい。この国が召喚した聖女のうち一人は、役目を終えると田舎暮らしを希望した。平民と結婚し農業を営んでいたようだ。
その聖女が怪我をした羊の魔獣を治療して、それをきっかけに飼い始めた。その羊が仲間を呼んで増えていったらしい。
「私の生まれた地方に残る伝説の一つですが、野生の羊魔獣を手懐けようとして成功した者はいないので、信憑性は高いと思います」
マリエルの村では『命を捨てる気がないなら野生の羊魔獣には手を出すな』と言われているようだ。聖女が手懐けた羊魔獣たちは、聖女以外が近づくと躊躇なく攻撃していたとも伝わっているらしい。この村にいるのは、普通の羊の血も入った穏やかな羊魔獣だ。
「それなら、きっと大丈夫ね。さっそく行ってみましょう!」
「ちょっと待って下さい! 私としてはありがたいですが、団長に許可を取らなくて大丈夫ですか!?」
ミシュリーヌが歩き出すと、アダンが焦った顔で叫ぶ。
「わたくしはオーギュスト様の部下ではありませんわ。村で過ごすのに許可など必要ありません」
後で危ないことをするなと注意されるかもしれないが、そのときはそのときだ。
「アダン、そこまで頭が回るなら先に団長に相談しなさい。ミーシャ様、私が危険と判断したら引き返して頂きますよ。そのときは、団長に相談しましょう」
マリエルの言葉にミシュリーヌは渋々頷く。マリエルが危険と判断したなら、オーギュストに相談しても許可されることはないだろう。
ミシュリーヌが寝室として使っている建物を出ると、村長とアダンがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
「お出かけですか?」
アダンが困った顔で聞いてくる。確か、アダンはオーギュストに休みをもらっていたはずだ。家族とゆっくり過ごさせると言っていたが、急用だろうか?
「オーギュスト殿下は現場に行かれましたよ」
ミシュリーヌは『ミーシャ』として返事をする。設定は……ミシュリーヌの側仕えで良いだろう。
「いいえ、妃殿下にお願いがあって来たんです」
「そうですか。では、呼んできますね」
「えっ?」
アダンが疑問の声をあげる。アダンは変装の達人なので、変装を見抜いてしまったようだ。ここは協力者になってもらったほうが良いだろう。
ミシュリーヌはアダンに向かってパチンッとウインクで伝えてみる。しかし、アダンは顔を赤くして首を傾げるだけだった。
「アダン、私から話をさせてくれ。聖女様、大変厚かましいお願いなのですが……」
「村長、待って下さい! 聖女は建物の中にいるんです!!」
「ミシュリーヌ様、諦めて下さい」
マリエルに冷静に言われて、ミシュリーヌは落ち込む。今まで、アダン以外にバレたことはなかったはずだ。
「アダンの家族も特殊能力者なのかしら?」
「きっと、そうですよ!」
マリエルの大袈裟な励ましにより、ミシュリーヌは今までもバレていたことを悟る。聖女として挨拶した相手には変装しても無駄なのかもしれない。ミシュリーヌは開き直って対応することにした。
「何かお困りですか? わたくしに協力出来ることなら、話してみて下さい」
「ありがとうございます」
アダンと村長が拝むようにミシュリーヌを見つめる。なんとなく、居心地が悪い。
「先にわたくしからもお願いがあります。わたくしを……いいえ、私を見習い神官の『ミーシャ』として扱ってください」
聖女の力を使うなら、少なくとも神官でなくてはおかしい。側仕え改め神官ミーシャだ。
「分かりました。村人に通達してきます」
村長が恭しく頭を下げて、アダンに目配せする。アダンが走り出しそうだったので、ミシュリーヌは慌てて止めた。
「そこまでしなくて大丈夫です! 堅苦しいのが苦手なだけなので……」
「『聖女様』が歩き回ると、村の皆さんが緊張なさいますからね」
マリエルが一言付け足してくれたことにより、二人も納得したようだ。魔導師団員と同じ服装なので、挨拶を交わした程度の村人なら誤魔化せるだろう。
誤魔化せるわよね?
ミシュリーヌはなんとなく確認できないまま、村長に話を促す。
「今日は説明だけさせて下さい。ちょっと、特殊なので難しければ断って頂いて構いません。お願いするのも失礼にあたるかもしれないのですが……」
「特殊?」
「はい、お願いしたいのは羊魔獣の治療なのです」
アダンがミシュリーヌの反応を伺うように恐る恐る言う。
「魔獣?」
「やはり、難しいでしょうか? 実は……」
アダンの村には魔獣を狩る仕事くらいしかなかった。しかし、力の弱い女性や老人には難しい。そこで、アダンの姉が中心となって羊魔獣を飼いはじめ、セーターやマフラーなどに仕立てて売っているらしい。
普通の羊と違って魔素を多く含む草でも餌にすることができる。男手が出払っている日中は、番犬のような役割も果たしていたようだ。野性の羊魔獣は強いので、家畜化した羊魔獣でも弱い魔獣なら警戒して近づかないらしい。
ところが、先日、狼魔獣が牧場に侵入してしまったようだ。アダンの姉が弓で撃退したようだが、二頭が怪我を負ってしまった。
「魔獣の増殖はある程度抑えられているはずですが、浄化までの期間で生態系が変わって森に食料が不足しているのかもしれませんね」
マリエルが痛ましそうに言う。彼女の地元も同じような規模の村だと聞いたことがある。
「昨日の夜、姉に頼まれて水魔法で治療したのですが、効果がなかったんです」
「家畜とはいえ魔獣ですからね」
マリエルはアダンを気づかいながら肯定する。普通の羊には効果があるらしく、アダンは期待していたようだ。この辺りはマリエルとアダンの経験の差だろう。
「治せるのであれば治してあげたいけど、聖魔法は効くのかしら?」
ミシュリーヌの疑問に、アダンは顔を青くする。聖魔法も万能というわけではない。ミシュリーヌ自身、魔獣の治療をするのはこれが初めてだ。
「断言は出来ませんが、試してみる価値はあると思います。というのも、羊魔獣を最初に家畜化したのは、異世界から来た聖女様だったと伝わっています。羊魔獣の怪我を治療したことがきっかけだったようですよ」
マリエルは羊魔獣の歴史にも詳しいらしい。この国が召喚した聖女のうち一人は、役目を終えると田舎暮らしを希望した。平民と結婚し農業を営んでいたようだ。
その聖女が怪我をした羊の魔獣を治療して、それをきっかけに飼い始めた。その羊が仲間を呼んで増えていったらしい。
「私の生まれた地方に残る伝説の一つですが、野生の羊魔獣を手懐けようとして成功した者はいないので、信憑性は高いと思います」
マリエルの村では『命を捨てる気がないなら野生の羊魔獣には手を出すな』と言われているようだ。聖女が手懐けた羊魔獣たちは、聖女以外が近づくと躊躇なく攻撃していたとも伝わっているらしい。この村にいるのは、普通の羊の血も入った穏やかな羊魔獣だ。
「それなら、きっと大丈夫ね。さっそく行ってみましょう!」
「ちょっと待って下さい! 私としてはありがたいですが、団長に許可を取らなくて大丈夫ですか!?」
ミシュリーヌが歩き出すと、アダンが焦った顔で叫ぶ。
「わたくしはオーギュスト様の部下ではありませんわ。村で過ごすのに許可など必要ありません」
後で危ないことをするなと注意されるかもしれないが、そのときはそのときだ。
「アダン、そこまで頭が回るなら先に団長に相談しなさい。ミーシャ様、私が危険と判断したら引き返して頂きますよ。そのときは、団長に相談しましょう」
マリエルの言葉にミシュリーヌは渋々頷く。マリエルが危険と判断したなら、オーギュストに相談しても許可されることはないだろう。
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