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おまけ1▶アダンの故郷【ミシュリーヌ】全九話
アダンの故郷(三)
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ミシュリーヌはアダンの案内で村の反対端までやってきた。村の中で魔獣の出る森に一番近いところだ。
羊魔獣の牧場は柵で囲まれており、中には四頭の羊魔獣がいた。小さな小屋があるので、夜はそこで過ごすのだろう。牧場と森の間にある平原には、オーギュストたちの姿も見える。かなり遠いので気づかれることはなさそうだ。
「平原に畑を作るそうですよ。完成すれば、村で食べる分以上に収穫できそうな広さです」
マリエルがそっと教えてくれる。余剰分を街で売れば、お金を得ることもできる。村の暮らしが今より楽になるだろう。
ミシュリーヌが平原を見つめていると、オーギュストが一瞬こちらを見た気がする。気のせいだろうか?
「聖女様、本当にありがとうございます」
声をかけられて振り返ると、アダンとよく似た女性が立っていた。羊魔獣を飼っているというアダンの姉のルイーズだ。
「私のことは、見習い神官の『ミーシャ』だと思って気軽に接して下さい。初めての試みなので、上手くいかない可能性もあります。あまり期待しないで下さいね」
ミシュリーヌは念押ししてから、案内された小屋に入る。そこには外にいる羊魔獣より小さい羊魔獣が二頭いた。近づいて見ると小さいのではなく、もふもふの毛を刈りとってしまったからだと分かる。傷の手当てをしたためで、代わりに包帯が巻かれていて痛々しい。
「普通であれば、絞めて食べるべきなのでしょうね。でも、私にとっては他の子たちを守ってくれた大切な仲間なんです。どうしても出来なくて……」
この羊魔獣は雄で、雌や子どもの羊魔獣を守ろうとして傷ついたらしい。
「姉ちゃん、『ミーシャ様』に食べるとか物騒なことを言わないでよ」
「あら、アダン。私だってお肉がもともと生き物だったことくらい知っているわ。浄化の旅を七年もしてたのよ。魔獣を解体するところを見たこともあるの」
「団長は見せたくなかったみたいですけどね」
ミシュリーヌが胸を張ると、マリエルが呆れたように言う。
「オーギュスト様が忙しいときに、こっそり二人で見に行ったのよね」
「共犯みたいに言わないで下さい。私はお止めしましたからね」
「そうだったかしら?」
ミシュリーヌが解体を手伝おうとしたら、マリエルが必死で止めに入ってきたことを思い出す。オーギュストには、マリエルから報告されている気がするが、特に何も言われなかった。
「話が脱線してごめんなさい。怪我が浅い子から診させてもらえるかしら?」
「よろしくお願いします。連れてきますね」
ルイーズが警戒心剥き出しの二頭が入る柵を開ける。彼女には懐いているようで、宥めると一頭が素直にミシュリーヌの近くまでやってきた。
マリエルがミシュリーヌを守るような位置に移動する。羊魔獣はそれを見て唸り声を上げたので、ミシュリーヌは羊魔獣を眠らせるために魔法を唱えた。人間よりは抵抗したが、すぐに羊魔獣はコテンと横になる。
「効いたみたいだわ」
「睡眠魔法ですか?」
「ええ。こんなに簡単にかかるなら、警戒される前に睡眠魔法をかけてあげれば良かったわね」
二頭を引き離したのは、万が一、魔法が効かなかったときのことを考えてのことだ。攻撃されたとしてもミシュリーヌたちは結界を張れば良いだけだが、ひどい怪我をした羊魔獣が結界にぶつかって無事でいられるかは分からない。一頭ずつなら、どちらも怪我をしないように攻撃を防げると思ったからだ。
「では、治療してみますね」
そこからは簡単だった。聖魔法的には人間と羊魔獣はあまり変わらないらしい。完治したかどうかは、羊魔獣にかけた魔法が切れて目を覚ますまで分からないが、ミシュリーヌの感覚的には上手くいったと思う。その証拠に傷もきれいに消えていた。
「聖女様、ありがとうございます。この御恩は一生忘れません」
ルイーズの目には涙が浮かんでいる。
「大袈裟よ。それより、今後は襲われないように対策を練らなくてはいけないわね。アダン、お願いね」
「もちろんです。本当にありがとうございました」
ミシュリーヌには出来ないので丸投げしてしまったが、アダンはキラキラとした笑顔で頭を下げる。オーギュストにも念のために伝えて手伝ってもらおうと思ったのだが……
「妃殿下が関わったことに気づかれずに、団長に上手く相談できると良いわね」
マリエルが悪い笑みを浮かべて言った。顔を上げたアダンから、笑顔が消え去る。
「団長に妃殿下が治療して下さったことを内緒にするんですか?」
「別に話しても良いのではないかしら?」
ミシュリーヌはアダンとともに首を傾げる。今回は特に危険なことはしていない。オーギュストもよくやったなと褒めてくれるだろう。
「安心して下さい。報告したとしても、叱られるのはアダンだけだと思いますよ。魔導師団員にとって、事前の相談や報告は基本中の基本ですからね」
マリエルの言葉にアダンがビクッと反応する。
「マリエル先輩、一緒に団長のところに行って説明して下さい!!」
「自分で説明して報告が遅れたことを謝ったほうが良いと思うわよ」
アダンはぷるぷると震えている。団長としてのオーギュストは、やはり厳しいらしい。フリルネロ公爵領でのブノワやポールの必死な顔が思い出される。久しぶりに怒ったオーギュストの顔も見たいが、ミシュリーヌが居たら叱りにくいだろう。アダンは叱られずに済むわけだが……マリエルを無言で見ると、小さく首を振られた。やはり、ここは心を鬼にするしかないようだ。
「姉ちゃんが一緒に謝ってあげるわよ」
「身内に見られる方が嫌に決まってるだろう!?」
いつも可愛いアダンが乱暴な言葉を発する。ミシュリーヌは少し驚いたが、ルイーズにとっては普段通りなのだろう。驚くことなく、あっさりと受け入れて引き下がっていた。
「謝るなら早いほうが良いですよね。『ミーシャ様』、失礼します!」
アダンはそう言って、風のように走りさった。
羊魔獣の牧場は柵で囲まれており、中には四頭の羊魔獣がいた。小さな小屋があるので、夜はそこで過ごすのだろう。牧場と森の間にある平原には、オーギュストたちの姿も見える。かなり遠いので気づかれることはなさそうだ。
「平原に畑を作るそうですよ。完成すれば、村で食べる分以上に収穫できそうな広さです」
マリエルがそっと教えてくれる。余剰分を街で売れば、お金を得ることもできる。村の暮らしが今より楽になるだろう。
ミシュリーヌが平原を見つめていると、オーギュストが一瞬こちらを見た気がする。気のせいだろうか?
「聖女様、本当にありがとうございます」
声をかけられて振り返ると、アダンとよく似た女性が立っていた。羊魔獣を飼っているというアダンの姉のルイーズだ。
「私のことは、見習い神官の『ミーシャ』だと思って気軽に接して下さい。初めての試みなので、上手くいかない可能性もあります。あまり期待しないで下さいね」
ミシュリーヌは念押ししてから、案内された小屋に入る。そこには外にいる羊魔獣より小さい羊魔獣が二頭いた。近づいて見ると小さいのではなく、もふもふの毛を刈りとってしまったからだと分かる。傷の手当てをしたためで、代わりに包帯が巻かれていて痛々しい。
「普通であれば、絞めて食べるべきなのでしょうね。でも、私にとっては他の子たちを守ってくれた大切な仲間なんです。どうしても出来なくて……」
この羊魔獣は雄で、雌や子どもの羊魔獣を守ろうとして傷ついたらしい。
「姉ちゃん、『ミーシャ様』に食べるとか物騒なことを言わないでよ」
「あら、アダン。私だってお肉がもともと生き物だったことくらい知っているわ。浄化の旅を七年もしてたのよ。魔獣を解体するところを見たこともあるの」
「団長は見せたくなかったみたいですけどね」
ミシュリーヌが胸を張ると、マリエルが呆れたように言う。
「オーギュスト様が忙しいときに、こっそり二人で見に行ったのよね」
「共犯みたいに言わないで下さい。私はお止めしましたからね」
「そうだったかしら?」
ミシュリーヌが解体を手伝おうとしたら、マリエルが必死で止めに入ってきたことを思い出す。オーギュストには、マリエルから報告されている気がするが、特に何も言われなかった。
「話が脱線してごめんなさい。怪我が浅い子から診させてもらえるかしら?」
「よろしくお願いします。連れてきますね」
ルイーズが警戒心剥き出しの二頭が入る柵を開ける。彼女には懐いているようで、宥めると一頭が素直にミシュリーヌの近くまでやってきた。
マリエルがミシュリーヌを守るような位置に移動する。羊魔獣はそれを見て唸り声を上げたので、ミシュリーヌは羊魔獣を眠らせるために魔法を唱えた。人間よりは抵抗したが、すぐに羊魔獣はコテンと横になる。
「効いたみたいだわ」
「睡眠魔法ですか?」
「ええ。こんなに簡単にかかるなら、警戒される前に睡眠魔法をかけてあげれば良かったわね」
二頭を引き離したのは、万が一、魔法が効かなかったときのことを考えてのことだ。攻撃されたとしてもミシュリーヌたちは結界を張れば良いだけだが、ひどい怪我をした羊魔獣が結界にぶつかって無事でいられるかは分からない。一頭ずつなら、どちらも怪我をしないように攻撃を防げると思ったからだ。
「では、治療してみますね」
そこからは簡単だった。聖魔法的には人間と羊魔獣はあまり変わらないらしい。完治したかどうかは、羊魔獣にかけた魔法が切れて目を覚ますまで分からないが、ミシュリーヌの感覚的には上手くいったと思う。その証拠に傷もきれいに消えていた。
「聖女様、ありがとうございます。この御恩は一生忘れません」
ルイーズの目には涙が浮かんでいる。
「大袈裟よ。それより、今後は襲われないように対策を練らなくてはいけないわね。アダン、お願いね」
「もちろんです。本当にありがとうございました」
ミシュリーヌには出来ないので丸投げしてしまったが、アダンはキラキラとした笑顔で頭を下げる。オーギュストにも念のために伝えて手伝ってもらおうと思ったのだが……
「妃殿下が関わったことに気づかれずに、団長に上手く相談できると良いわね」
マリエルが悪い笑みを浮かべて言った。顔を上げたアダンから、笑顔が消え去る。
「団長に妃殿下が治療して下さったことを内緒にするんですか?」
「別に話しても良いのではないかしら?」
ミシュリーヌはアダンとともに首を傾げる。今回は特に危険なことはしていない。オーギュストもよくやったなと褒めてくれるだろう。
「安心して下さい。報告したとしても、叱られるのはアダンだけだと思いますよ。魔導師団員にとって、事前の相談や報告は基本中の基本ですからね」
マリエルの言葉にアダンがビクッと反応する。
「マリエル先輩、一緒に団長のところに行って説明して下さい!!」
「自分で説明して報告が遅れたことを謝ったほうが良いと思うわよ」
アダンはぷるぷると震えている。団長としてのオーギュストは、やはり厳しいらしい。フリルネロ公爵領でのブノワやポールの必死な顔が思い出される。久しぶりに怒ったオーギュストの顔も見たいが、ミシュリーヌが居たら叱りにくいだろう。アダンは叱られずに済むわけだが……マリエルを無言で見ると、小さく首を振られた。やはり、ここは心を鬼にするしかないようだ。
「姉ちゃんが一緒に謝ってあげるわよ」
「身内に見られる方が嫌に決まってるだろう!?」
いつも可愛いアダンが乱暴な言葉を発する。ミシュリーヌは少し驚いたが、ルイーズにとっては普段通りなのだろう。驚くことなく、あっさりと受け入れて引き下がっていた。
「謝るなら早いほうが良いですよね。『ミーシャ様』、失礼します!」
アダンはそう言って、風のように走りさった。
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