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おまけ1▶アダンの故郷【ミシュリーヌ】全九話
アダンの故郷(六)【オーギュスト】
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オーギュストは朝日を浴びて目を覚ました。腕の中では、ミシュリーヌがスヤスヤと眠っている。オーギュストは当たり前になった幸福を噛み締めながら、ベッドを抜け出した。
オーギュストがそばで身支度をしていても、ミシュリーヌは起きそうにない。昨日は羊魔獣の牧場で怪我をした魔獣の治療をしていたと聞いている。慣れないことをして疲れているのだろう。一緒に起きたいというミシュリーヌの要望は、今日も忘れていたことにしょう。
オーギュストは静かに扉を開けて連結してある建物に移った。二年前までは、オーギュストの寝室として使っていた建物だ。今はベッドを撤去し、二人で寛ぐためのソファと、執務用の机が置かれている。
オーギュストはジョエルが来るまで、ソファに座って軽く雑務を終わらせた。
……
「どうして、起こしてくださらなかったのですか?」
オーギュストが食事を済ませてお茶を飲んでいると、ミシュリーヌが起きてきた。マリエルに着せてもらったのか聖女らしいドレスを着ているが、表情は聖女からはほど遠い。
「おはよう」
「おはようございます。一緒にごはんを食べたかったです」
「ごめんな」
ミシュリーヌが隣に座ると、オーギュストはムスッとした頬に口づけを落とす。
「そんなことをしても、誤魔化されませんわ」
「そうなのか?」
オーギュストは明らかに機嫌が良くなったミシュリーヌの前にお茶を置く。昨日も同じような会話があった気がするが、指摘はしないでおいた。
……
「そろそろ、私は行くよ」
ミシュリーヌがお茶を飲み終えるのを待って、オーギュストは席を立つ。
「お見送りします」
「ありがとう」
オーギュストはミシュリーヌをエスコートして出口に向かう。扉を開けると、ミシュリーヌの聖女らしいドレスが爽やかな風を受けてひらりと広がる。
「行ってらっしゃいませ」
ミシュリーヌの可愛らしい笑顔を見て、オーギュストはもう少し留まりたくなった。しかし、村人や魔導師団員たちがそろそろ集まってくる時間だ。オーギュストは名残惜しく思いながら、扉に引っかかりそうなミシュリーヌのドレスの裾を風魔法で部屋の中にさりげなく入れる。
「そうだ。明日からはミーシャの姿で見送ってくれて構わないよ」
「どうしてですか?」
国王であるノルベルトは、聖女と王弟の仲の良さを市井の者に印象付けるようにと言っていた。この見送りも指示された行動の一つだ。
だが、大きな街でならともかく、この村では不要だ。それに指示の本当の理由は、拗らせて離婚騒動まで起こした弟夫婦を心配してのことだと思う。オーギュストとミシュリーヌがきちんと毎日会話をするように仕向けているのだ。今の二人には必要のない配慮だが、それを指摘するには昨年の騒動が大きすぎた。
「似合っていて可愛いけど、着替えるの大変だろう? 村の人には知られているのに、私の前で頑張る必要はないよ」
「マリエルから報告があったのですか?」
ミシュリーヌが探るようにオーギュストを見ている。昨日、慌ててやって来たアダンは、マリエルの助言を受けて報告に来たと言っていた。羊魔獣の治療について、オーギュストが知っていることはミシュリーヌも分かっているだろう。
「いや、特に聞いていないよ。マリエルには危険がありそうなときだけ報告させている。それとも何かあったのかい?」
「な、何もありません!」
「それなら良いんだ」
ミシュリーヌは明らかに動揺していて何かありそうだ。しかし、オーギュストは気づかないふりをした。マリエルなら上手く危険を回避するだろうし、報告を怠るとも思えない。
「オーギュスト様、なんで村の方に変装を見破られたのか分かりますか?」
ミシュリーヌが恐る恐るといった様子で聞いてくる。変装が上手くできているのか不安になっているのだろう。
「普段、村には顔見知りしかいないだろうし、初日に顔見世をしただろう。顔を変えているわけではないんだ。近くで顔を合わせたら分かっても仕方ないよ」
「そういうものですか?」
「ああ。人の多い街なら大丈夫だと思うよ。どこかのご令嬢だとは思われるだろうけどね」
「それではあまり意味がありません」
ミシュリーヌはムスッとしているが、その表情もかわいい。オーギュストは抱きしめたい衝動にかられるが、後ろに気配を感じて表情を引き締める。予定より早いが、一緒に回る村人たちが集まって来たようだ。
「そろそろ行くね」
「はい、行ってらっしゃいませ」
オーギュストは村人に気づいていないふりをして、ミシュリーヌのおでこに口づけを落とす。照れた表情のミシュリーヌに見送られながら出発した。
オーギュストがそばで身支度をしていても、ミシュリーヌは起きそうにない。昨日は羊魔獣の牧場で怪我をした魔獣の治療をしていたと聞いている。慣れないことをして疲れているのだろう。一緒に起きたいというミシュリーヌの要望は、今日も忘れていたことにしょう。
オーギュストは静かに扉を開けて連結してある建物に移った。二年前までは、オーギュストの寝室として使っていた建物だ。今はベッドを撤去し、二人で寛ぐためのソファと、執務用の机が置かれている。
オーギュストはジョエルが来るまで、ソファに座って軽く雑務を終わらせた。
……
「どうして、起こしてくださらなかったのですか?」
オーギュストが食事を済ませてお茶を飲んでいると、ミシュリーヌが起きてきた。マリエルに着せてもらったのか聖女らしいドレスを着ているが、表情は聖女からはほど遠い。
「おはよう」
「おはようございます。一緒にごはんを食べたかったです」
「ごめんな」
ミシュリーヌが隣に座ると、オーギュストはムスッとした頬に口づけを落とす。
「そんなことをしても、誤魔化されませんわ」
「そうなのか?」
オーギュストは明らかに機嫌が良くなったミシュリーヌの前にお茶を置く。昨日も同じような会話があった気がするが、指摘はしないでおいた。
……
「そろそろ、私は行くよ」
ミシュリーヌがお茶を飲み終えるのを待って、オーギュストは席を立つ。
「お見送りします」
「ありがとう」
オーギュストはミシュリーヌをエスコートして出口に向かう。扉を開けると、ミシュリーヌの聖女らしいドレスが爽やかな風を受けてひらりと広がる。
「行ってらっしゃいませ」
ミシュリーヌの可愛らしい笑顔を見て、オーギュストはもう少し留まりたくなった。しかし、村人や魔導師団員たちがそろそろ集まってくる時間だ。オーギュストは名残惜しく思いながら、扉に引っかかりそうなミシュリーヌのドレスの裾を風魔法で部屋の中にさりげなく入れる。
「そうだ。明日からはミーシャの姿で見送ってくれて構わないよ」
「どうしてですか?」
国王であるノルベルトは、聖女と王弟の仲の良さを市井の者に印象付けるようにと言っていた。この見送りも指示された行動の一つだ。
だが、大きな街でならともかく、この村では不要だ。それに指示の本当の理由は、拗らせて離婚騒動まで起こした弟夫婦を心配してのことだと思う。オーギュストとミシュリーヌがきちんと毎日会話をするように仕向けているのだ。今の二人には必要のない配慮だが、それを指摘するには昨年の騒動が大きすぎた。
「似合っていて可愛いけど、着替えるの大変だろう? 村の人には知られているのに、私の前で頑張る必要はないよ」
「マリエルから報告があったのですか?」
ミシュリーヌが探るようにオーギュストを見ている。昨日、慌ててやって来たアダンは、マリエルの助言を受けて報告に来たと言っていた。羊魔獣の治療について、オーギュストが知っていることはミシュリーヌも分かっているだろう。
「いや、特に聞いていないよ。マリエルには危険がありそうなときだけ報告させている。それとも何かあったのかい?」
「な、何もありません!」
「それなら良いんだ」
ミシュリーヌは明らかに動揺していて何かありそうだ。しかし、オーギュストは気づかないふりをした。マリエルなら上手く危険を回避するだろうし、報告を怠るとも思えない。
「オーギュスト様、なんで村の方に変装を見破られたのか分かりますか?」
ミシュリーヌが恐る恐るといった様子で聞いてくる。変装が上手くできているのか不安になっているのだろう。
「普段、村には顔見知りしかいないだろうし、初日に顔見世をしただろう。顔を変えているわけではないんだ。近くで顔を合わせたら分かっても仕方ないよ」
「そういうものですか?」
「ああ。人の多い街なら大丈夫だと思うよ。どこかのご令嬢だとは思われるだろうけどね」
「それではあまり意味がありません」
ミシュリーヌはムスッとしているが、その表情もかわいい。オーギュストは抱きしめたい衝動にかられるが、後ろに気配を感じて表情を引き締める。予定より早いが、一緒に回る村人たちが集まって来たようだ。
「そろそろ行くね」
「はい、行ってらっしゃいませ」
オーギュストは村人に気づいていないふりをして、ミシュリーヌのおでこに口づけを落とす。照れた表情のミシュリーヌに見送られながら出発した。
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