【完結】異世界から来た聖女ではありません!

五色ひわ

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おまけ3▶出会い【オーギュスト】

出会い(三)【ミシュリーヌ】

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 ミシュリーヌはボンヌに案内されて、離宮にある立派な部屋に落ち着いた。久しぶりにお腹いっぱいになるまで食べたので、なんだか眠たい。そんなことを考えていると、甲斐甲斐しく世話を焼かれて気づいたらふかふかのベッドに横になっていた。

「本当にわたくしで良いのかしら?」

 ミシュリーヌはぼんやりと天井を見つめる。

 ミシュリーヌの母は小さな村で生まれた聖女だった。父である皇帝に見初められたといえば聞こえが良い。実際は売られるように後宮に入れられ、ミシュリーヌを産んで体調を崩してからは、一度も皇帝は会いに来なかったらしい。

 ミシュリーヌがそれを知っているのは、親子を離宮の端に追いやり、ストレスの捌け口にしていた妃や皇女たちのおかげだ。皇帝が命令したのか魔法や所作を教えてくれる教師はいたが、冷遇されている皇女を助ける者は少ない。母が亡くなり、聖女として落ちこぼれの烙印を押されてからは更にひどい扱いになっていた。

『あなたがフルーナ王国に嫁ぎなさい。野蛮な王国には落ちこぼれのあなたで十分だわ』

 異母姉のイヴォンヌが突然やってきて、自分の侍女にミシュリーヌの支度をさせた。母の形見のネックレスを奪われ、それを脅しに使われたが、この国を出られるなら何でも良かった。フルーナ王国の王太子に受け入れてもらえたが、母のネックレスが戻って来ることはないだろう。ミシュリーヌの安全のためなら、天国の母は許してくれると思う。

 ……

 いつの間に寝ていたのだろう。気がついたときには日が暮れかけていた。慌てて飛び起きると、ボンヌが着替えを手伝ってくれる。ここにはムチを振るう者も、蹴りつけて来る者もいない。

 それどころか、ミシュリーヌの言葉を根気よく聞いてくれた。冷遇については隠しておきたかったが、すでに知られているようだ。ミシュリーヌが離宮で暮らすことを改めて了承すると、新しい洋服など生活に必要なものが寝ている間に準備されていたことを知った。ミシュリーヌ自身の荷物についても持ち出しに協力してくれるという。

 ミシュリーヌを先頭に、オーギュストとボンヌを引き連れて後宮の中を歩く。ミシュリーヌには縦に並んで歩いているとしか思えないが、オーギュストの魔法で二人は姿を消しているらしい。その証拠に男子禁制である後宮の門を潜っても、兵たちはオーギュストの侵入を咎めなかった。

【ミシュリーヌ、おかえりなさい。まさか、失敗したとは言わないわよね?】

 ミシュリーヌが廊下を歩いていると、綺羅びやか集団が前方を遮る。帝国語で話しかけてきたのは、ミシュリーヌの異母姉の一人であり、本来なら王国に嫁ぐはずだったイヴォンヌだ。ミシュリーヌが返ってくるのを待ち構えていたのだろう。

「イヴォンヌ皇女」

 背後からオーギュストの警戒する声が聞こえる。

【わたくしがフルーナ王国に行くことに決まりましたわ。王国の皆さんが滞在する離宮に移り住みますので、荷物を取りに参りましたの。お母様のネックレスをお返しいただけますか?】

【ネックレス? 何のことかしら?】

 イヴォンヌが上品に笑って扇子を広げる。その首元には形見のネックレスが輝いていた。やはり、返してくれる気はないらしい。ミシュリーヌはグッとこらえて笑顔を貼り付ける。

【何でもありませんわ。急いでいるので失礼いたします】

 ミシュリーヌはイヴォンヌの横をすり抜けるように歩き出す。ここで揉めれば、殴られるかもしれないし、最悪の場合、どこかに閉じ込められる可能性もある。

【イヴォンヌ様に無礼な!】

 案の定というべきか、侍女の一人が腕を振り上げる。ミシュリーヌは耐えるように目を瞑るが、痛みは一向に襲ってこなかった。

「大丈夫だから行こうか」

 オーギュストの優しい声がして、目を開けると見えない壁の向こうでイヴォンヌの侍女が目を白黒させていた。ミシュリーヌの叩こうとしたが、何かに阻まれたらしい。

「この国では防御魔法は一般的ではないの? 聖魔法でも可能だよね?」

 オーギュストが不思議そうに、侍女たちを眺めている。彼が結界を張ってくれたらしい。知識としては知っていたが、この目で見るのは初めてだ。

「この国には魔導師が少ないのです。聖女が使えるというのは知りませんでした」

「そうなんだ」

 ミシュリーヌは【化け物】とか【気持ち悪い】などの罵声を浴びながら、小声で伝えた。ミシュリーヌは浄化魔法と治癒魔法しか習っていない。侍女の反応から推測すると、優秀だと言われるイヴォンヌも使えないのだろう。

「オーギュスト様、皇女様にお聞かせしたくないので何とかして下さい」

 ボンヌが後ろから声をかけてくる。オーギュストは一瞬分からないという顔をしたが、すぐに魔法を発動させたのか甲高い侍女たちの声が聞こえなくなった。

「ごめんね。こういうのに慣れすぎてて気づかなかった」

「えっ?」

「行こうか。暗くなると荷造りが大変でしょ」

 オーギュストは困ったように笑って歩き出す。ボンヌは怒っているが、ミシュリーヌも言われ慣れていて気にしていなかった。

 オーギュストも同じような経験をしているのだろうか?

 ミシュリーヌはオーギュストの背中を見つめるが、美しい王子にミシュリーヌのような汚点は見つからなかった。
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