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おまけ3▶出会い【オーギュスト】
出会い(四)
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オーギュストは荷造りをボンヌに任せ、後宮を一人で歩いていた。荷造りとはいえ、マジックバックに放り込むだけなので、力のないボンヌたちだけでも問題ない。持っていこうか悩んだものは全てマジックバッグに入れて後で考えれば良いと伝えてある。あの狭い部屋にある物なら、すべて持っていけるだろう。
「私がされていた冷遇なんてかわいいものだな」
オーギュストは小さくため息をつく。あの状態ならフルーナ王国に連れて行くほうがマシかもしれない。そんなふうに安堵した自分も嫌になる。
「ここだな」
オーギュストは忙しなく侍女が出入りする部屋に忍び込む。イヴォンヌの魔力を追ってきたので、おそらく、彼女の部屋だろう。
ミシュリーヌは何も言わないが、オーギュストとしては『お母様のネックレス』を取り返したい。ミシュリーヌたちが話す帝国語は早すぎて全てを聞き取れたとは言えない。それでも、イヴォンヌがミシュリーヌのネックレスを奪ったことは彼女たちの態度からも明白だった。あの場で何かすれば、ミシュリーヌのせいになるので盗み取らなかったが、今なら問題ないだろう。
ミシュリーヌには連れていきたい者も会っておきたい者もいないという。部屋に入ったときも服などの実用品を最初に手にしていたので、特別な思い入れのあるものは少なそうだ。それならば、せめて……
オーギュストは、すぐにイヴォンヌを見つけた。侍女たちに持ち上げられて機嫌よくお喋りに興じている。ただ、その首元にはミシュリーヌが寂しそうに見つめていたネックレスはない。
「まぁ、そうだよな」
ああいう女は嫌がらせのために取ったものを大事に扱うはずがない。大きな宝石が付いていたので、皇帝からの贈り物だろう。だが、この部屋にあるものを見れば、特別なものとまでは言えない。
オーギュストが室内を見回すと、ネックレスは机の上に投げ捨てるように置かれていた。どうしようか迷っていると、侍女の一人が小さな木箱に入れて運んでいく。後をついていくと、装飾品が並べられた部屋に着き、棚に木箱ごと収められた。オーギュストは侍女が出ていくのを見届けて木箱を開ける。あのときのネックレスで間違いない。
オーギュストは木箱ごとネックレスをマジックバックにしまった。空箱があるより、ネックレスの存在を思い出させる心配が少ないと思ったからだ。木箱を運んできたのはミシュリーヌを馬鹿にするように見ていた侍女の一人だが、処罰されれば目覚めが悪い。
オーギュストは何食わぬ顔でミシュリーヌのもとへ戻って、一緒に離宮へと帰った。
オーギュストたちはそれなりの時間を後宮で過ごしたが、離宮に戻ったときには皇帝に会いに行ったノルベルトはまだ帰ってきていなかった。幼いミシュリーヌは夕食後に休ませたが、オーギュストたち王国の者は落ち着かない時間を過ごした。ミシュリーヌも離宮の雰囲気を察していたようなので、すぐには休めなかったかもしれない。
結局、ノルベルトが帰ってきたのは、日付けが変わった深夜のことだった。ノルベルトは皇帝との謁見までに長時間待たされたことに加え、覆される前にできる手続きを終わらせてきたらしい。
付き合わされた帝国の文官たちには悪いが、フルーナ王国としては当然の行動だ。さすがのノルベルトも疲れた顔をしていた。それでも、話がしたいと言われて、兄弟二人だけでお酒を飲む。
「兄上、ご結婚おめでとうございます。このネックレスは兄上から返してあげて下さい」
オーギュストは後宮での出来事を話した上で、ネックレスの入った木箱を取り出す。ノルベルトは難しい顔をしてオーギュストを見ていた。
「……」
「……兄上?」
「オーギュストにはミシュリーヌ皇女の夫になってもらいたいと思っている。この木箱はオーギュストが渡すと良い。頼めるかい?」
「えっ……?」
ノルベルトはオーギュストに決断を委ねているようでいて、すでにミシュリーヌとの結婚を決めてしまっているような口ぶりだ。
「ようやく、浄化作業が始められるわけだが、魔獣の危機が去ったあとにも戦いは残されている。私には彼女の成長を待つ時間がないのだよ」
「でしたら、ガエル兄上かヘクター兄上にお願いすべきではないでしょうか?」
ノルベルトの言う『魔獣の危機が去ったあとの戦い』とは、国内の貴族や隣国であるソルベ王国との駆け引きを指しているのだろう。ノルベルトの後継者ができれば、落ち着くこともある。
ノルベルトはオーギュストの発言を受けて少し悩んだように沈黙した。しかし、それも一瞬のことで、すぐにオーギュストに視線を戻す。
「夫になる者には、彼女の警護も任せたいと思っている。神殿が聖女を囲い込もうとしても、夫がそばにいれば防げるだろう? ヘクターには国政に関わってもらうつもりだから、浄化の旅への同行は難しい。まさか、ガエルに純粋な皇女の相手を任せられるとは思っていないだろう?」
「ですが、私は疎まれる存在です。ミシュリーヌ皇女がどう思われるか……」
魔素の少ないこの国では起こらないが、祖国に戻れば夜に髪が紫色に輝く。それは架空の存在である魔族を連想させる色だ。魔法で隠せるようにはなったが、いずれミシュリーヌの耳に入ってしまうだろう。知らない国で夫に恐怖しながら暮らすのは可哀想だ。
ヘクターが王都を動けないなら、護衛だけオーギュストが務めれば良い。ガエルには、たくさんの『異性の友人』がいるが、妻ができれば流石に変わるだろう。どちらを選ぶにしろ、オーギュストの妻になるよりは幸せな気がした。
「皇女はオーギュストを信頼し始めているようだと報告を受けている。何より、私が一番信頼しているオーギュストにこの役を任せたいんだ。引き受けてくれるね」
強い意志の籠もった青い瞳が逃さないとでも言うようにオーギュストを見つめている。ノルベルトは何をおいても同腹の弟に任せたいのかもしれない。兄弟仲は良いが、その周囲は複雑だ。
「……はい」
オーギュストは断れないと悟って了承した。そもそも、ノルベルトに魔法以外で勝てるわけもない。
「そうか、良かった。結婚おめでとう。肩の荷がおりたよ。オーギュストも守る相手ができれば無茶はしないだろう」
ノルベルトは嬉しそうに笑う。自分が兄にどれだけ心配をかけていたかを改めて知ることにもなった。
「私がされていた冷遇なんてかわいいものだな」
オーギュストは小さくため息をつく。あの状態ならフルーナ王国に連れて行くほうがマシかもしれない。そんなふうに安堵した自分も嫌になる。
「ここだな」
オーギュストは忙しなく侍女が出入りする部屋に忍び込む。イヴォンヌの魔力を追ってきたので、おそらく、彼女の部屋だろう。
ミシュリーヌは何も言わないが、オーギュストとしては『お母様のネックレス』を取り返したい。ミシュリーヌたちが話す帝国語は早すぎて全てを聞き取れたとは言えない。それでも、イヴォンヌがミシュリーヌのネックレスを奪ったことは彼女たちの態度からも明白だった。あの場で何かすれば、ミシュリーヌのせいになるので盗み取らなかったが、今なら問題ないだろう。
ミシュリーヌには連れていきたい者も会っておきたい者もいないという。部屋に入ったときも服などの実用品を最初に手にしていたので、特別な思い入れのあるものは少なそうだ。それならば、せめて……
オーギュストは、すぐにイヴォンヌを見つけた。侍女たちに持ち上げられて機嫌よくお喋りに興じている。ただ、その首元にはミシュリーヌが寂しそうに見つめていたネックレスはない。
「まぁ、そうだよな」
ああいう女は嫌がらせのために取ったものを大事に扱うはずがない。大きな宝石が付いていたので、皇帝からの贈り物だろう。だが、この部屋にあるものを見れば、特別なものとまでは言えない。
オーギュストが室内を見回すと、ネックレスは机の上に投げ捨てるように置かれていた。どうしようか迷っていると、侍女の一人が小さな木箱に入れて運んでいく。後をついていくと、装飾品が並べられた部屋に着き、棚に木箱ごと収められた。オーギュストは侍女が出ていくのを見届けて木箱を開ける。あのときのネックレスで間違いない。
オーギュストは木箱ごとネックレスをマジックバックにしまった。空箱があるより、ネックレスの存在を思い出させる心配が少ないと思ったからだ。木箱を運んできたのはミシュリーヌを馬鹿にするように見ていた侍女の一人だが、処罰されれば目覚めが悪い。
オーギュストは何食わぬ顔でミシュリーヌのもとへ戻って、一緒に離宮へと帰った。
オーギュストたちはそれなりの時間を後宮で過ごしたが、離宮に戻ったときには皇帝に会いに行ったノルベルトはまだ帰ってきていなかった。幼いミシュリーヌは夕食後に休ませたが、オーギュストたち王国の者は落ち着かない時間を過ごした。ミシュリーヌも離宮の雰囲気を察していたようなので、すぐには休めなかったかもしれない。
結局、ノルベルトが帰ってきたのは、日付けが変わった深夜のことだった。ノルベルトは皇帝との謁見までに長時間待たされたことに加え、覆される前にできる手続きを終わらせてきたらしい。
付き合わされた帝国の文官たちには悪いが、フルーナ王国としては当然の行動だ。さすがのノルベルトも疲れた顔をしていた。それでも、話がしたいと言われて、兄弟二人だけでお酒を飲む。
「兄上、ご結婚おめでとうございます。このネックレスは兄上から返してあげて下さい」
オーギュストは後宮での出来事を話した上で、ネックレスの入った木箱を取り出す。ノルベルトは難しい顔をしてオーギュストを見ていた。
「……」
「……兄上?」
「オーギュストにはミシュリーヌ皇女の夫になってもらいたいと思っている。この木箱はオーギュストが渡すと良い。頼めるかい?」
「えっ……?」
ノルベルトはオーギュストに決断を委ねているようでいて、すでにミシュリーヌとの結婚を決めてしまっているような口ぶりだ。
「ようやく、浄化作業が始められるわけだが、魔獣の危機が去ったあとにも戦いは残されている。私には彼女の成長を待つ時間がないのだよ」
「でしたら、ガエル兄上かヘクター兄上にお願いすべきではないでしょうか?」
ノルベルトの言う『魔獣の危機が去ったあとの戦い』とは、国内の貴族や隣国であるソルベ王国との駆け引きを指しているのだろう。ノルベルトの後継者ができれば、落ち着くこともある。
ノルベルトはオーギュストの発言を受けて少し悩んだように沈黙した。しかし、それも一瞬のことで、すぐにオーギュストに視線を戻す。
「夫になる者には、彼女の警護も任せたいと思っている。神殿が聖女を囲い込もうとしても、夫がそばにいれば防げるだろう? ヘクターには国政に関わってもらうつもりだから、浄化の旅への同行は難しい。まさか、ガエルに純粋な皇女の相手を任せられるとは思っていないだろう?」
「ですが、私は疎まれる存在です。ミシュリーヌ皇女がどう思われるか……」
魔素の少ないこの国では起こらないが、祖国に戻れば夜に髪が紫色に輝く。それは架空の存在である魔族を連想させる色だ。魔法で隠せるようにはなったが、いずれミシュリーヌの耳に入ってしまうだろう。知らない国で夫に恐怖しながら暮らすのは可哀想だ。
ヘクターが王都を動けないなら、護衛だけオーギュストが務めれば良い。ガエルには、たくさんの『異性の友人』がいるが、妻ができれば流石に変わるだろう。どちらを選ぶにしろ、オーギュストの妻になるよりは幸せな気がした。
「皇女はオーギュストを信頼し始めているようだと報告を受けている。何より、私が一番信頼しているオーギュストにこの役を任せたいんだ。引き受けてくれるね」
強い意志の籠もった青い瞳が逃さないとでも言うようにオーギュストを見つめている。ノルベルトは何をおいても同腹の弟に任せたいのかもしれない。兄弟仲は良いが、その周囲は複雑だ。
「……はい」
オーギュストは断れないと悟って了承した。そもそも、ノルベルトに魔法以外で勝てるわけもない。
「そうか、良かった。結婚おめでとう。肩の荷がおりたよ。オーギュストも守る相手ができれば無茶はしないだろう」
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