装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―

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第4章:「終局への序曲」

4-4:「〝誤チェスト〟」

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こ…これ自衛隊モノだよ イ…イカレてるわッ(賃貸だよ風に)


――――――――――


「――――ち え ぇ ぇ ぇ ぇ ぇ――――」


 見上げ見える、〝それ〟の降下の姿。
 合わせて木霊し聞こえ届く――〝鬨〟。


「――す と ぉ ぉ ぉ ぉ お ッ ッ ッ ! ! !」


 それを響き渡らせ届け。〝陸上自衛官〟のものと明確になったシルエットは。
 奇声の域である鬨を伴い、降下急襲。


 ――ズ ッ パ゛ ァ ァ ァ ッ ! !――


 何か――生々しく、しかし勢い付いた音が上がったのは。

 その陸上自衛官が、降下軌道からマンモス騎獣の背上に。ズガダンッ――とその肉をへこませ、背骨を折る衝撃で着地したのと同時。

 改めてマンモスの背上を見れば。
 そこに在るは、OH-6より飛び降り着地した、陸上自衛官である二等陸士の。その何か両腕を突き出した動作直後の姿。
 その手中に在るは――日本刀。

「――……あ゜ぇ゜?」

 そして、相対するはそのマンモス騎獣の主であった亜人将軍。しかし次に亜人将軍から上がったのは何か珍妙な声。いや、音。

 その亜人将軍の体は――脳天から腹に至るまでを。

 ――日本刀に〝ぶった切られて〟文字道理真っ二つにされていた。

「……ぴぉ゜ぽっ!」

 最早、声ともただの血肉の鳴る音ともつかない、珍妙な声を漏らし。
 次には縦に真っ二つになった亜人将軍の「断面」から、臓物が零れ溢れ。膨大な血が噴き出し上がった。

 そして支える力を失い、亜人将軍の真っ二つの体は騎上よりグラリと落下。その先の地面にべちゃりと落ち崩れて、臓物を散らかして鮮血を撒き散らした。

 それを、マンモス騎獣上に代わり一人立った二等陸士は。構えを解き刀を下げつつ、静かな様子で見下ろす姿を見せる。

「……うっ、うわぁぁぁぁぁ!?」
「将軍がぁ!?」
「な、なんだあれぇ!?」

 少しの沈黙の後。その間近に居合せた帝国兵から悲鳴に近い狼狽の声が上がる。それはすぐに周囲に伝播、部隊の帝国兵達を混乱に陥れた。

「ひっ……!?」

 一方。マンモス騎獣に吊るし晒されていた一人の若いダークエルフの女も。下に見えた凄惨な光景に、怯える声を漏らす。

 しかしそれも束の間。直後には、何か破裂音のような音が一鳴聞こえたかと思うと、同時にマンモス騎獣を打ち揺らすような一振動が発生し伝わる。

「!……きゃぁっ!?」

 そして次には、その若いダークエルフの女を始め、吊るし晒されていた民達が動揺の声を上げた。
 己達を吊るし飾っていたマンモス騎獣が、その脚を折って崩れ。音と煙を立てて地面に沈んだのだ。
見れば、崩れたマンモス騎獣の眉間部分には赤黒い大穴が開いていた。


 明かしてしまおう。この帝国軍陣地より離れた場所、そこにある一軒の家屋の屋上。

「――ヒット」

 そこに、三脚により据え設置され鎮座する、12.7mm重機関銃が。そしてそれを扱い構え照準を覗く射手を始め、運用するための陸自隊員チームの姿があった。
 その重機関銃チームが行った精密射撃、それがマンモス騎獣を仕留めたのだ。


 亜人将軍が凄惨な姿を晒し、マンモス騎獣が沈み、混乱が瞬く間に伝播する帝国軍部隊の陣地。しかしそれすらも束の間。
 直後には、重鈍な破壊音と衝撃が巻き起こる。

 交差路を中心としていた帝国軍指揮所陣地だが、その角に位置する建物が内側より爆破の勢いで崩壊。
 その内より、ズォッ――と。10式戦車の巨体が勢いを伴い出現した。

 10式戦車は第12戦闘団の戦車中隊の車輛。ここまでを、建ち並ぶ家屋を突っ切り壊しながら進み、そしてこの帝国軍陣地へと突入したのだ。
 こんなことをされては帝国軍が正面にするバリケードも、それに晒した人達の肉の盾も意味を成さなかった。
 そして現れた10式戦車は間髪入れずにその主砲より咆哮を上げ。向こうに存在した帝国軍の見張り櫓を、砲撃によって木っ端みじんに吹っ飛ばす。

 そこからは、怒涛の展開で状況は引っくり返った。

 別の方向から、しかし今の10式に倣うように。今度は73式装甲車が家屋を突っ切り崩落させて現れ、場に踏み込み突入。
 その備える12.7mm重機関銃が唸り、狼狽え浮足立っていた帝国兵達を容赦なく浚え始める。
 続けて96式装輪装甲車も、家屋に空いた大穴より後続して出現。
 両装甲車からは搭乗していた普通科分隊が、踏み降り飛び降り散会展開。帝国兵を相手取りその無力のための戦闘行動を開始。

 極めつけに、交差路の上空真上には今度はUH-1Jが飛来。
 備えるドアガンであるMINIMI軽機関銃による掃射を、真上からばら撒き帝国兵に浴びせ。攻撃行動を行いながらホバリングへ以降。
 次には複数のファストロープを垂らし、また搭乗していた第12戦闘団の分隊隊員が降下する姿を見せた。

「……!」

 そんな、帝国軍部隊が塵を浚えるように無力化されて行く中。
 驚愕に目を剥いているのは。マンモス騎獣が屠られ崩れたことにより解かれ、地面に足を着きへたり込む、磔にされていたダークエルフ達。

 その視線が集まるは。今程に、日本刀にて亜人将軍をぶった切って見せた二等陸士だ。
 その当人はしかし。足元で真っ二つになり臓物と血を地面にぶちまけた、亜人将軍の体を淡々と見ている。

 ザカザカと。騒がしくもいくつもの足音が聞こえ、複数の人影が駆け込んで来たのは直後。
 それはいずれも第12戦闘団の隊員だ。
 駆け込んで着た隊員等は。その内のメインは周囲へ散会、展開して警戒及び残敵の発見排除に入る。

「――」

 一方、内の数名は。今の日本刀の二等陸士の反対に、亜人将軍の凄惨な死体を挟んで立ち、あるいはしゃがみ。同じくその亜人将軍の死体に、視線を降ろして何か観察するようにじっと見る。

「〝誤チェスト〟にごわす。こや、目当ての皇帝じゃなか」

 そして一拍の後。隊員の内の一等陸尉が顔を上げ、日本刀の二等陸士に向けて告げたのは、薩摩訛りでのそんな言葉であった。

「またにごわすか!」

 その一等陸尉の言葉に、陸士が手中の日本刀を肩に構え直しつつ返したのは。淡々と「やれやれ」といった心内を表す言葉であった。


 先日のガリバンデュル帝国帝都陥落において、しかし肝心の皇帝と皇族の姿は。残されていた第二皇女一人を除いて発見確保には至らなかった。
 行方の確かな情報は知れずじまいだが。後の調査から皇帝と皇族は、各地に向けられた帝国軍戦線のいずれかに赴いている可能性が高いとされ。
 自衛隊各方面各隊には、その発見確保の指示が新たに命じられていた。

 そしてだ。第12戦闘団――内の、九州薩摩の地の〝ぼっけもん〟等は。
 彼らの血と歴史の在り方から、その首級を上げる事に特に並々ならぬ執着を見出し見せ。
 今現在の戦闘に置いても、皇帝を討ちその首級を上げることに注力していたのだ。


 今の隊員等のやり取りは。討った重要人物らしき亜人将軍が、しかしその獲るべき目標たる皇帝皇族では無かった事を確認し、少しの落胆を見せるものであった。

「チェストん前、皇帝か訊くんは女々か?」
「名案にごつ」

 そして、そんなやり取り。
 確認の手間暇をより簡潔にするために二等陸士は発案し、一等陸尉はそれに賛同の声を返す。
 皇帝皇族であろうがなかろうが、どちみち敵は討ち仕留める事に変わりはないのだが。

「……な、なに……?」

 そんなまさに異常なまでの言動、やり取りを見せる第12戦闘団のぼっけもん等の姿に。
 最早呆ける域で驚愕しているのは、近くで捕らわれの立場から解かれ、しかしほとんど放っておかれるダークエルフの民達。
 民達からみれば。その彼等――自衛隊が亜人将軍を屠り、唐突に現れ帝国軍部隊を浚え屠ってしまっただけでも驚きだと言うのに。
 そんな後に、常識から逸脱している域の行いにやり取りを見せる隊員等の姿は。驚き呆けてしまうのも無理はないものであった。

 そんな民達が放っておかれている状態から回収保護されるのは、この帝国軍指揮所陣地が自衛隊の手で制圧され。首級を上げるべく皇族関係者がいないかを、第12戦闘団が念入りに漁り浚えて調べ終えた後であった。


「……〝鬼石曼子グイシーマンズ〟……!」

 そんな、異常なまでとも言える第12戦闘団のぼっけもんの在り方。
 それを、同じくこの場に突入して来た第1水陸機動戦闘団のAAV7の車上で。ちょうど目にした琉球出身の水陸機動団幹部は。
 そんな表現の言葉に、評する旨と一種の皮肉を混ぜて言い表したのであった。
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