装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路―

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第5章:「最終局面、そして決着の時」

5-3:「邪と闇」

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「――皇帝、アルデュスクォっ!」

 本来の主たる国王に代わり、傲岸不遜な様で玉座に座す存在に向けて。ミューヘルマはそのその名を発し上げて明かす。

 実の所、突入してからここまで。ミューヘルマ達に祀に分隊各員の、その全員がその圧倒的な存在感に気づいていた。

 壮年になり立てといった様相容姿の。しかし180㎝を優に越える体に、衰えを感じさせない体躯を持つ一人の男。
 覗き見えるその顔には、自然なまでのそれで人に畏怖を覚えさせ、有無を言わせぬ圧を感じさせる顔立ちが覗く。

 それこそ、この異世界を動乱に陥れた元凶。
 ガリバンデュル大帝国皇帝、アルデュスクォであった。

「あれが……!っ――こちらは日本国、自衛隊だ!すでにそちらの帝都は制圧された!そちらの第一皇子はすでに亡く、第二皇女はこちらが身柄を確保している。この王城も間もなく我々の制圧掌握下となる!抵抗は無意味だ、投降しなさいっ!!」

 その事実を知った祀は、次には帝国側の陥っている現状を知らしめ。そして投降を訴える声を張り上げた。

「――我が愚息ゲルティヅフクは、先に果てへ発ったか」

 しかし、その訴えに。そして己が息子の最期を伝えられたアルディスクオが零したのは。あまりに静かで淡々とした一声。
 まるで「今日も朝が来た」と、当たり前の事でも聞かされたかのようなそれであった。

「あら?グリュツリスちゃんは捕まる無様を晒してしまいましたのね。やはり、泣き虫なあの娘にお留守番は酷でしたようね」

 それに付け加えるようにヴェシリアが紡いだのは。己が妹が捕らわれたという事実を、あろうことか嘲笑するような声。

「っ!何を……分かっているのか!?帝国帝都はすでに無く、最早そちらには帰すべき場所も打つ手も無い!素直に投降しなさい!」

 その皇帝に皇女の思わぬ様子態度に、祀は異様なものを感じて少し狼狽えながらも。再度の通告の言葉を張り上げる。

「あの帝都などは、見せかけで愚民を圧するだけの飾り物に過ぎない。失った所で痛手になどならぬ」

 しかし、また静かに皇帝アルデュスクォが返したのはそんな言葉。

「いずれ、全ては『暗黒に帰す』もの――早いか遅いかでしかない」

 そして続け紡がれたそんな言葉。

「何を……皇帝アルデュスクォ……!何を言っている……!?」

 その言葉に、漠然としたそれにしかしミューヘルマは「嫌な感じ」を身に覚え。詰問の言葉を張り上げ向ける。

「――我が目的は、この世界の全てを暗黒に帰すこと」

 それに、アルデュスクォがまた寄越したのは、漠然としたそんな回答。

「!」
「っ!」

 しかし、その言葉一つで。ミューヘルマに祀にこの場の全員が、その意図を理解した。

「意地悪ですわね、お父様。愚かな子たちには、しっかり教えておいたほうが良いと思いますけど――」

 そんなアルデュスクォの言葉を引く次ぐように。また嘲る色の見える声で、ヴェシリアは言葉を紡ぎ始める。

 要は、帝国が。皇帝アルデュスクォが企むは――世界の滅亡、消滅だ。

 ここまでにも観測確認して来た、帝国が手にした『邪法』。
 その力をもって、この醜い有象無象の蔓延る世界を、永遠の安寧の約束される形へと包む。
 それこそ、皇帝の企み。
 帝国の世界への侵攻侵略は、その世界滅亡のために始まった旅路だというのだ。

 皇帝アルデュスクォに、すでにしがみ付くものは何も無い。
 そして元よりその血から、価値観を似たものとする。第一皇子ゲルティヅフクと第一皇女ヴェシリアはそれに賛同。
 ゲルティヅフクは世界が滅亡を迎えるまでのその暇を、戦乱に殺戮暴虐の快楽に身を任せ。ヴェシリアは加虐快楽主義に溺れた。

「そんな……ことを……っ!」

 知らされ明らかになった帝国の、皇帝の真意。
 しかしそれにミューヘルマが覚えたのは、衝撃と――何よりの、激怒だ。
 日々、懸命に行って来た己たちの営みを、その身勝手で破滅的な価値観から一方的に滅そうとする行い。認められるはずが無かった。

「大帝国の皇帝ともあろう者が、安易な破滅主義に堕ちたか!」
「浅はかですこと……っ!」

 それに吐き捨てるように言葉を向けたのは、ミューヘルマを護るために控えていたクユリフにエンペラル。

「この世界は、残酷さの中にも美しさを有する――それを見出すこともできぬ小さな者であったか、皇帝ッ?」
「勝手に決められて終わりにしようとされては、たまったものでは無いな……ッ!」

 そしてまた同行していた魔法使いの少年レーシェクトは、皮肉を一杯に含めた台詞を発し向け。
 同じくの同行者のオークのストゥルは、不服を混ぜた言葉をまた零す。

「笑わせるっ。そんなもの、ただの自棄からの大量破壊行為に過ぎない!」

 そして祀も断ずる言葉を張り上げ。

「世界が酷ェモンなんて誰だって知ってら。でも終わりにしちまうのは何か違うと思うから、皆えっちらおっちら少しでもマシにしようと頑張ってんだよッ」

 さらに分隊から一名の陸士が、呆れを含めた色での訴える言葉を発し上げた。

「皇帝アルデュスクォ……安易に絶望に飲まれての、貴様のその選択――このミューヘルマ、断じて看過せぬっ!」

 そして、ミューヘルマは皇帝アルデュスクォの前に堂々立ち。宣告の言葉を発し張り上げ、叩きつけた。

「――……どこまでも、愚かなものよ」

 しかし、それを受け取った直後。皇帝アルデュスクォは動きを見せる。
 それはただ小さく、片手を翳し上げるもの。
 しかし――それが始まりの合図であった。

「――ッ!?」

 直後。自衛隊側の各員を、言い表し難いまでの悪寒が襲った。
 そして次の瞬間に飛び込み見えたのは。謁見の大広間の四方八方より。溢れ出る勢いで発生出現した、影――闇の浸食。
 それこそ、帝国の手にした『邪法』のそれ。
 皇帝の意志によって、それが発現されたのだ――
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