娘の婚約解消が向こうの有責で婚約破棄になった。

うめまつ

文字の大きさ
1 / 5

女は怖い

しおりを挟む
「婚約解消だ」

「まあ、そうですの」

わが娘ながらあっさりしたものだ。

男親の私は頭に来てると言うのに。

怒るのに本人の冷めた態度に私の憤りは矛先を失った。

唖然として黙っていると、それでよろしいのでは?と扇を片手に、目には何も関心を映さない。

怒りも悲しみも、興味のなさだけが露だった。

我が国で最も歴史の古い伯爵家の長女として厳しく育てたせいだろうか。

「政略的にはいかがなさいます?そこだけ教えていただければ意に沿うようにいたしますわ」

ソファーに座って扇で感情を隠す様子もなく淡々と告げた。

男なら継がすのにと毎回惜しくなる。

甘えの強い弟より向いている。

「そうだな」

あちらからの手紙をすぐに長女に渡した。

感情のこもらない冷めた目でざっと一読し、一瞬めらっと瞳に強い意思を映した。

だが、それを伏せて隠し、手元の便箋を畳んで返してきた。

婚約解消の申し入れは公爵家からだ。

だが、家同士の政略なので縁続きにすることは変わらない、もう一人の妹を寄越せとご嫡男からの要望だった。

「それで、お父様はアレシアをお渡しになりますの?」

初めて目に怒りを見せて私を見つめる。

「まずはアレシアの話も聞こうと思う」

「ええ、そうですわね。私は席を外します。よくお話になって?」

静かに執務室をあとにした。

ふうっとため息をこぼした。

長女の怒気は恐ろしい。

焼けつくすような熱がある。

そして悩むのはもう一つのある。

姉妹の仲が悪いことだ。

高潔で才能豊かな長女と人付き合いの上手い社交性の溢れた妹。

公爵家に相応しいようにと気位高く育った長女とは真逆に、伯爵家のスペアの妻として次女は身分、年齢と関係なく付き合える高い社交性を身につけた。

親の欲目かもしれないが、二人とも性格はいいのに二人の相性が悪い。

揃うとバチバチと火花が散る。

妻にどうにかならんかと言うが、血が繋がっていても女同士だからと微笑むだけで気にもしないし動じない。

男親の私はなぜ争うのか分からないし、あの空気に晒されると胃がキリキリするのに。

女は怖い。

だが、優しく頼りがいのある妻と才能に溢れる自慢の長女、気遣いの優しい次女。

我が家の美人達だ。

次にアレシアを呼んで同じ話を伝えた。

どう反応するか。

「私が公爵家にですか?」

姉のグロッサと違い、顔と態度が素直。

驚きと困惑で表情は崩れて声も震えている。

「ああ、あちらのご嫡男の要望だ」

「お姉様はご存知ですか?」

「もう伝えてある」

そう言うとうつ向いて顔を伏せた。

「……お父様に、従います」

何か思うところはあるかと尋ねても黙ってうつ向いて何も答えなかった。

それから5日たつが、二人とも部屋から出ない。

話がしたいと呼ぶのに体調が悪い、具合が悪いと断られた。

娘の部屋に無理に押し入る気にもなれず、おろおろと泣く二人より幼い弟と、あらあらとゆったり構えた妻の三人が残された。

「どうにかならんか?」

「気持ちの整理をつけているのでしょう。出てくるのを待つ方がいいと思いますわ。二人とも成人してますけど、まだ若い娘ですもの」

メイドや侍女達が出入りして、目は行き届いてるから大丈夫と微笑む。

肝が座っとる。

何が大丈夫なのだ。

気丈なグロッサは耐えていただけだったかと思うと公爵家に怒りがわくし、なぜかアレシアまで部屋から出なくなってしまうし。

なのに嫡男からは矢継ぎ早の問い合わせだ。

腹の立つ。

この男のせいだ。

公爵家のご当主に問い合わせると、どちらの娘が来てもいいとそれだけ。

我が家の娘達を思えばおおらかを通り越して無神経な対応。

それも頭に来る。

もういっそのこと、二人とも病気だと嘘をついて断ってしまいたいが、そうなると二人の今後の結婚に差し障りが出る。

どうしたものかと頭が痛い。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ことあるごとに絡んでくる妹が鬱陶しいので、罠にかけました

四季
恋愛
わがままに育った妹は、私の大事なものをことあるごとに奪ってくる。しかも父親は妹を可愛がっていてまっとうな判断ができない。 これまでは諦めるだけだった。 でももう許さない。 妹の特性を利用し、罠にはめるーー!

妹は奪わない

緑谷めい
恋愛
 妹はいつも奪っていく。私のお気に入りのモノを……  私は伯爵家の長女パニーラ。2つ年下の妹アリスは、幼い頃から私のお気に入りのモノを必ず欲しがり、奪っていく――――――な~んてね!?

やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。

あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。 そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。 貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。 設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。

妹は謝らない

青葉めいこ
恋愛
物心つく頃から、わたくし、ウィスタリア・アーテル公爵令嬢の物を奪ってきた双子の妹エレクトラは、当然のように、わたくしの婚約者である第二王子さえも奪い取った。 手に入れた途端、興味を失くして放り出すのはいつもの事だが、妹の態度に怒った第二王子は口論の末、妹の首を絞めた。 気絶し、目覚めた妹は、今までの妹とは真逆な人間になっていた。 「彼女」曰く、自分は妹の前世の人格だというのだ。 わたくしが恋する義兄シオンにも前世の記憶があり、「彼女」とシオンは前世で因縁があるようで――。 「彼女」と会った時、シオンは、どうなるのだろう? 小説家になろうにも投稿しています。

妹への復讐と私の幸せ

ぴぴみ
恋愛
ざまぁ “ざまぁの後~妹への復讐と私の幸せ~”でハッピーエンド

妹に幼馴染の彼をとられて父に家を追放された「この家の真の当主は私です!」

佐藤 美奈
恋愛
母の温もりを失った冬の日、アリシア・フォン・ルクセンブルクは、まだ幼い心に深い悲しみを刻み付けていた。公爵家の嫡女として何不自由なく育ってきた彼女の日常は、母の死を境に音を立てて崩れ始めた。 父は、まるで悲しみを振り払うかのように、すぐに新しい妻を迎え入れた。その女性とその娘ローラが、ルクセンブルク公爵邸に足を踏み入れた日から、アリシアの運命は暗転する。 再婚相手とその娘ローラが公爵邸に住むようになり、父は実の娘であるアリシアに対して冷淡になった。継母とその娘ローラは、アリシアに対して日常的にそっけない態度をとっていた。さらに、ローラの策略によって、アリシアは婚約者である幼馴染のオリバーに婚約破棄されてしまう。 そして最終的に、父からも怒られ家を追い出されてしまうという非常に辛い状況に置かれてしまった。

病弱を演じていた性悪な姉は、仮病が原因で大変なことになってしまうようです

柚木ゆず
ファンタジー
 優秀で性格の良い妹と比較されるのが嫌で、比較をされなくなる上に心配をしてもらえるようになるから。大嫌いな妹を、召し使いのように扱き使えるから。一日中ゴロゴロできて、なんでも好きな物を買ってもらえるから。  ファデアリア男爵家の長女ジュリアはそんな理由で仮病を使い、可哀想な令嬢を演じて理想的な毎日を過ごしていました。  ですが、そんな幸せな日常は――。これまで彼女が吐いてきた嘘によって、一変してしまうことになるのでした。

双子の妹が私になりすまし、王子と結ばれようとしています

しきど
恋愛
 私達は、顔が同じ双子の聖女です。  ある日私は王子様から縁談を持ちかけられるのですが、それを妬んだ妹は私になりすます計画を立て、代わりに王子と結ばれようとします。  「残念でしたわね、お姉さま」  妹は笑います。けれども運命というものは、彼女に呆れるような罰を与えたのでした。

処理中です...