87 / 130
おっさん待機す
しおりを挟む
控室は、やけに静かだった。
俺とシービーは椅子に腰を下ろし、隣室から響く金属音や機械の唸りを聞いていた。
家電の分解と解析が続いているらしいが、俺たちは「待機」とだけ言われ、ここに押し込まれている。
そんな中、扉が軋む音を立てて開いた。
黒いローブの長身──インスーラが現れる。褐色の肌に銀縁眼鏡、冷えた視線がまっすぐ俺に向けられた。
「誰かと思えば下等な中年か、目障りだ」
相変わらず口の悪い奴だ。
「はあ? なんだよその言い草」
「お前の力など不要だ。さっさとここから消え失せろ」
「さんざん俺のことを追いまわしといてそりゃねぇだろ」
お前から逃げるためにミカがどんだけ苦労したと思ってるんだ。
「黙れっ、虫唾が走る」
なんだよこいつ……もう言い返す言葉も出ねぇよ。
嫌な空気を切り裂くように、豪快な笑い声がした。
「おいおい、俺様の客人に対して随分と辛辣じゃねぇかインスーラ」
扉を押し開けて入ってきたのは、背中から十本の腕を広げた巨漢──バンボルトだ。
俺の肩に腕を回し、白い歯を見せて笑う。
「安心しろ、お前の力は使える。俺が上に立ったときも、悪いようにはしねぇ」
褒められているのか? 悪い気はしないけど気色悪いな。
「ぬけぬけと……貴様が私の獲物を横取りしなければ……」
インスーラがおっかない顔でバンボルドを睨みつける。
「横取り? 有能な人材を確保しただけだが?」
バンボルドはそんなインスーラを見て楽しそうに笑った。
「力押しだけで魔王領をなんとかできると思うなよ」
「頭だけじゃ今のお前みたいに指咥えることしかできねぇぞ」
なんだよこの二人、仲が悪いのか?
しかも、原因は俺っぽいし。
疑問に思った俺は、隣で寝落ちしそうになっているシービーをつついた。
「なあシービー、なんでこいつら喧嘩してんだ?」
「……ぬぁ? 知らなぇよ」
気の抜けた声を出したシービーは、ソファにだらしなく腰を沈め、肩をすくめた。
「先代魔王の遺言のせいじゃねぇの」
「遺言? まだなんかあんのか?」
「言わなかったっけ?」
「聞いてない」
シービーはめんどくさそうに姿勢を正すと、こう続けた。
「次期魔王はルクス様に定める。ただし条件付き。ルクス様は優しすぎるし女だ。だから、子を産んで母になってもらいたい。そのために、ルクス様が見初めた人物と結婚し、その夫に魔王の座を継がせろって内容だ」
まぁ、一般的な父親の考えだな。
「それに、魔力が高いとはいえ、ルクス様の使える魔法は補助的なものが多い……確か魔物を作り出すとか、複製できるとかって魔法だ」
「へぇ、そんな魔法もあるんだな。便利そうだけど」
「やっぱり力がなきゃ苦労するって、先代も思っていたんだろうな。ルクス様は全然そんなこと思っていないみたいで、一人でなんとかするつもりみたいだけど」
そんで俺は、その魔王争奪戦みたいなのに巻き込まれているってことか……よう分らんが、困っている人がいて、俺の家電達が助けになるなら力を貸さないわけにはいかないよな。
インスーラやバンボルト以外にも、いかつい顔をした幹部っぽい奴らが、研究所に出入りしているのが分かった。
みんな魔王の座が欲しいのか、それとも魔王領を良くしたいのか……。
インスーラとバンボルトの言い合いを見てると、前者な気がしてルクスのことを心配してしまう。
ここは公平を期すために、選挙っぽい仕組みとかを提案してみては、とも思ったが、それもこれもたいして変わらない気がして躊躇う。
「なあシービー、お前の国も色々大変なんだな」
「ああ、だから力を貸してくれって言ってんだ」
こんな小さい子が、魔王の客人の機嫌取りに使われているって現実も普通じゃないし、マジでここを出る前になんとかしてやんねぇといけない気がする。
「よし、大船に乗ったつもりで居ろ。俺に出来ることならなんでもやってやる」
「あんま期待してねぇけど、頼むよおっさん」
俺とシービーは椅子に腰を下ろし、隣室から響く金属音や機械の唸りを聞いていた。
家電の分解と解析が続いているらしいが、俺たちは「待機」とだけ言われ、ここに押し込まれている。
そんな中、扉が軋む音を立てて開いた。
黒いローブの長身──インスーラが現れる。褐色の肌に銀縁眼鏡、冷えた視線がまっすぐ俺に向けられた。
「誰かと思えば下等な中年か、目障りだ」
相変わらず口の悪い奴だ。
「はあ? なんだよその言い草」
「お前の力など不要だ。さっさとここから消え失せろ」
「さんざん俺のことを追いまわしといてそりゃねぇだろ」
お前から逃げるためにミカがどんだけ苦労したと思ってるんだ。
「黙れっ、虫唾が走る」
なんだよこいつ……もう言い返す言葉も出ねぇよ。
嫌な空気を切り裂くように、豪快な笑い声がした。
「おいおい、俺様の客人に対して随分と辛辣じゃねぇかインスーラ」
扉を押し開けて入ってきたのは、背中から十本の腕を広げた巨漢──バンボルトだ。
俺の肩に腕を回し、白い歯を見せて笑う。
「安心しろ、お前の力は使える。俺が上に立ったときも、悪いようにはしねぇ」
褒められているのか? 悪い気はしないけど気色悪いな。
「ぬけぬけと……貴様が私の獲物を横取りしなければ……」
インスーラがおっかない顔でバンボルドを睨みつける。
「横取り? 有能な人材を確保しただけだが?」
バンボルドはそんなインスーラを見て楽しそうに笑った。
「力押しだけで魔王領をなんとかできると思うなよ」
「頭だけじゃ今のお前みたいに指咥えることしかできねぇぞ」
なんだよこの二人、仲が悪いのか?
しかも、原因は俺っぽいし。
疑問に思った俺は、隣で寝落ちしそうになっているシービーをつついた。
「なあシービー、なんでこいつら喧嘩してんだ?」
「……ぬぁ? 知らなぇよ」
気の抜けた声を出したシービーは、ソファにだらしなく腰を沈め、肩をすくめた。
「先代魔王の遺言のせいじゃねぇの」
「遺言? まだなんかあんのか?」
「言わなかったっけ?」
「聞いてない」
シービーはめんどくさそうに姿勢を正すと、こう続けた。
「次期魔王はルクス様に定める。ただし条件付き。ルクス様は優しすぎるし女だ。だから、子を産んで母になってもらいたい。そのために、ルクス様が見初めた人物と結婚し、その夫に魔王の座を継がせろって内容だ」
まぁ、一般的な父親の考えだな。
「それに、魔力が高いとはいえ、ルクス様の使える魔法は補助的なものが多い……確か魔物を作り出すとか、複製できるとかって魔法だ」
「へぇ、そんな魔法もあるんだな。便利そうだけど」
「やっぱり力がなきゃ苦労するって、先代も思っていたんだろうな。ルクス様は全然そんなこと思っていないみたいで、一人でなんとかするつもりみたいだけど」
そんで俺は、その魔王争奪戦みたいなのに巻き込まれているってことか……よう分らんが、困っている人がいて、俺の家電達が助けになるなら力を貸さないわけにはいかないよな。
インスーラやバンボルト以外にも、いかつい顔をした幹部っぽい奴らが、研究所に出入りしているのが分かった。
みんな魔王の座が欲しいのか、それとも魔王領を良くしたいのか……。
インスーラとバンボルトの言い合いを見てると、前者な気がしてルクスのことを心配してしまう。
ここは公平を期すために、選挙っぽい仕組みとかを提案してみては、とも思ったが、それもこれもたいして変わらない気がして躊躇う。
「なあシービー、お前の国も色々大変なんだな」
「ああ、だから力を貸してくれって言ってんだ」
こんな小さい子が、魔王の客人の機嫌取りに使われているって現実も普通じゃないし、マジでここを出る前になんとかしてやんねぇといけない気がする。
「よし、大船に乗ったつもりで居ろ。俺に出来ることならなんでもやってやる」
「あんま期待してねぇけど、頼むよおっさん」
11
あなたにおすすめの小説
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる