88 / 130
ミカさま決心す
しおりを挟む
♦-/-/-//-/-/--/-/-/--/♦
王都ボルトリアの上空を、影が覆った。
昼下がりの光を一瞬にして奪い取るほどの、巨大な影。
次の瞬間、轟音と共に竜の巨体が城の大広間前に降り立った。
黄金の竜鱗が陽光をはね返し、地を揺らす爪が石畳を削る。
「結界、最大まで強化!」
ミカの号令が響き渡る。魔法陣が何重にも光を帯び、城壁を覆う結界が厚みを増す。
同時に、クレアが長剣を、サンダルフォンは大剣バスターソードを構え、臨戦態勢を取った。
竜は低く喉を鳴らし、熱い息を吐くたびに空気が揺らめく。
ミカは結界越しにその瞳を睨みつけ、威嚇するように声を放った。
「一刻も早く、電のじを助け出さねばならんのに……お前のような化け物に構っている暇はない」
「ここにはお前の望むものは何もない。立ち去るがいい!」
しかし竜は退かない。
その頭部に、小さな人影があることに気づいたのはエネッタだった。
「……あれは、まさか……ステラさん?」
エネッタは目を凝らし、驚きの声を上げる。
竜の背に立つ少女が、こちらに向かって手を振っていた。学園の教室で見慣れた仕草だ。
「知り合いか?」とミカ。
「はい……学友です」エネッタは短く答える。
竜の背から切迫した声が響いた。
「お願いです、入れて下さい! 早く轟電次郎を助けに行かなくては!」
その叫びに、ミカは一瞬躊躇する。
「しかし、そのドラゴンは……」
言いかけたところで、ステラが竜に向かって叫んだ。
「だから言ったじゃないですか! そんな姿じゃ入れてくれないって!」
瞬間、竜の巨体が霞のように消え、空へと二つの影が放り出された。
「このままでは結界に……!」
ミカは結界の一部を一瞬だけ解き、魔力の糸で二人を引き寄せた。
柔らかく地に下ろされた二人を見て、クレアとサンダルフォンも武器を下ろす。
「あなたは……ジェダさん?」
エネッタの問いかけに、もうひとりの影──長身の青年が静かに頷いた。学園で同じクラスだったジェダだった。
ジェダはゆっくりと視線を上げ、ミカに向かって口を開く。
「電次郎さんを助ける手助けをさせて欲しい」
「理由を聞こう」
ミカの声に、ジェダは真剣な表情で語り出す。
「俺の国、竜国でも、大地から魔力が消えていく現象が多発している」
「魔力が……消える?」クレアが眉をひそめる。
「噂は本当だったか……」ミカが低く呟く。
「しかし、それと電のじの救出がどう関係する?」
ジェダは一拍置き、続けた。
「以前、電次郎さんの飛ばした“ドローン”と接触した際、この世界の魔力とは異なる粒子の存在を知りました。それが“電子”という新しい粒子だと知り、魔力の代わりになるかもしれないと考えたのです」
ミカは目を細める。
「若いのに、目の付け所が鋭い……じゃが、竜族には固い掟があると聞くが」
「はい。竜族の掟では他種族との接触は禁止。それを破るくらいなら滅びを選ぶというのが総意です」
サンダルフォンが短く息を呑む。
「だけど俺は、その考えを変えたいと思っている」
ジェダの拳がぎゅっと握られる。
「魔力の枯渇が進めば、俺達は滅びる。だが電次郎さんの“電子”という力があれば、その未来を変えられるかもしれない」
「……魔力の枯渇が本当なら、竜族だけでは済まぬな」ミカは険しい表情を見せた。
「ようするに、おじさまを早く助けようって話ですわよね? ならジェダくんに乗って魔王城へ行きましょう」
エネッタが割って入る。
「愚か者、竜のまま飛べば総攻撃じゃ」ミカが一蹴する。
ジェダは苦い顔をしてうなずいた。
「本当は魔王領で魔物に化けて観察を続けようとしたが、魔力の枯渇が酷く人の姿になるのも一苦労だった。だから一度学園に戻り、ステラに相談した」
ステラが補足する。
「ジェダさんから、魔王領にライオネット先生の気配があると聞きました。すべては先生の計画だったんです。私は先生を止め、電次郎さんを助けるためにエネッタさんを頼ろうと提案しました」
「なるほどね、正解よステラ」
エネッタは自慢げに頷き、他のクラスメイトのことも尋ねた。
「トレス、スイラン、ライミは伸びしろはありますが力不足です。だから声をかけませんでした」
ジェダは淡々と答え、エネッタは小さく頷いた。
「エネッタさんには大魔導士ミカが付いていると聞いていた。きっと助けになってくれると信じて来たのです」
ステラの言葉に、ミカは静かに息を吐いた。
「買い被りすぎじゃ。わしはここを離れられん……しかし……」
そこでふと、ミカの視線がジェダに向く。
「魔力の供給があれば、魔物の姿に変われるのか?」
「はい」
「ステラとやらは、魔王領の者と面識があると?」
「ええ」
「……動かぬよりはマシか」
ミカの声には、覚悟にも似た力が宿っていた。
王都ボルトリアの上空を、影が覆った。
昼下がりの光を一瞬にして奪い取るほどの、巨大な影。
次の瞬間、轟音と共に竜の巨体が城の大広間前に降り立った。
黄金の竜鱗が陽光をはね返し、地を揺らす爪が石畳を削る。
「結界、最大まで強化!」
ミカの号令が響き渡る。魔法陣が何重にも光を帯び、城壁を覆う結界が厚みを増す。
同時に、クレアが長剣を、サンダルフォンは大剣バスターソードを構え、臨戦態勢を取った。
竜は低く喉を鳴らし、熱い息を吐くたびに空気が揺らめく。
ミカは結界越しにその瞳を睨みつけ、威嚇するように声を放った。
「一刻も早く、電のじを助け出さねばならんのに……お前のような化け物に構っている暇はない」
「ここにはお前の望むものは何もない。立ち去るがいい!」
しかし竜は退かない。
その頭部に、小さな人影があることに気づいたのはエネッタだった。
「……あれは、まさか……ステラさん?」
エネッタは目を凝らし、驚きの声を上げる。
竜の背に立つ少女が、こちらに向かって手を振っていた。学園の教室で見慣れた仕草だ。
「知り合いか?」とミカ。
「はい……学友です」エネッタは短く答える。
竜の背から切迫した声が響いた。
「お願いです、入れて下さい! 早く轟電次郎を助けに行かなくては!」
その叫びに、ミカは一瞬躊躇する。
「しかし、そのドラゴンは……」
言いかけたところで、ステラが竜に向かって叫んだ。
「だから言ったじゃないですか! そんな姿じゃ入れてくれないって!」
瞬間、竜の巨体が霞のように消え、空へと二つの影が放り出された。
「このままでは結界に……!」
ミカは結界の一部を一瞬だけ解き、魔力の糸で二人を引き寄せた。
柔らかく地に下ろされた二人を見て、クレアとサンダルフォンも武器を下ろす。
「あなたは……ジェダさん?」
エネッタの問いかけに、もうひとりの影──長身の青年が静かに頷いた。学園で同じクラスだったジェダだった。
ジェダはゆっくりと視線を上げ、ミカに向かって口を開く。
「電次郎さんを助ける手助けをさせて欲しい」
「理由を聞こう」
ミカの声に、ジェダは真剣な表情で語り出す。
「俺の国、竜国でも、大地から魔力が消えていく現象が多発している」
「魔力が……消える?」クレアが眉をひそめる。
「噂は本当だったか……」ミカが低く呟く。
「しかし、それと電のじの救出がどう関係する?」
ジェダは一拍置き、続けた。
「以前、電次郎さんの飛ばした“ドローン”と接触した際、この世界の魔力とは異なる粒子の存在を知りました。それが“電子”という新しい粒子だと知り、魔力の代わりになるかもしれないと考えたのです」
ミカは目を細める。
「若いのに、目の付け所が鋭い……じゃが、竜族には固い掟があると聞くが」
「はい。竜族の掟では他種族との接触は禁止。それを破るくらいなら滅びを選ぶというのが総意です」
サンダルフォンが短く息を呑む。
「だけど俺は、その考えを変えたいと思っている」
ジェダの拳がぎゅっと握られる。
「魔力の枯渇が進めば、俺達は滅びる。だが電次郎さんの“電子”という力があれば、その未来を変えられるかもしれない」
「……魔力の枯渇が本当なら、竜族だけでは済まぬな」ミカは険しい表情を見せた。
「ようするに、おじさまを早く助けようって話ですわよね? ならジェダくんに乗って魔王城へ行きましょう」
エネッタが割って入る。
「愚か者、竜のまま飛べば総攻撃じゃ」ミカが一蹴する。
ジェダは苦い顔をしてうなずいた。
「本当は魔王領で魔物に化けて観察を続けようとしたが、魔力の枯渇が酷く人の姿になるのも一苦労だった。だから一度学園に戻り、ステラに相談した」
ステラが補足する。
「ジェダさんから、魔王領にライオネット先生の気配があると聞きました。すべては先生の計画だったんです。私は先生を止め、電次郎さんを助けるためにエネッタさんを頼ろうと提案しました」
「なるほどね、正解よステラ」
エネッタは自慢げに頷き、他のクラスメイトのことも尋ねた。
「トレス、スイラン、ライミは伸びしろはありますが力不足です。だから声をかけませんでした」
ジェダは淡々と答え、エネッタは小さく頷いた。
「エネッタさんには大魔導士ミカが付いていると聞いていた。きっと助けになってくれると信じて来たのです」
ステラの言葉に、ミカは静かに息を吐いた。
「買い被りすぎじゃ。わしはここを離れられん……しかし……」
そこでふと、ミカの視線がジェダに向く。
「魔力の供給があれば、魔物の姿に変われるのか?」
「はい」
「ステラとやらは、魔王領の者と面識があると?」
「ええ」
「……動かぬよりはマシか」
ミカの声には、覚悟にも似た力が宿っていた。
10
あなたにおすすめの小説
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる