68 / 130
バンボルト襲来す
しおりを挟む
「……なんだ、あいつは……?」
結界に空いた穴から降りてきた奴、背中の腕がぞわりと蠢くたびに、吐き気がするような威圧が全身を貫いてくる。
顔は──獣人族だ。けど、普通じゃない。
ライオンみたいな鬣に、サメのような鋭い牙。
目つきだけで、全身の筋肉が萎縮しそうになる。視線が刺さるだけで、頭が痺れる。
そんな化け物みたいな奴が、静かに言った。
「抵抗すれば──容赦なく殺す」
……その場が、凍りついた。
誰も声を出せない。生徒も、教師も、息をすることさえ忘れたように固まっていた。
「……あれは、魔王軍の……バンボルト……」
誰かが震える声でそう呟いた。
「殺戮のバンボルト……!」
瞬間、場が崩れた。
生徒たちは悲鳴を上げながら逃げ出し、教師たちも慌てて避難誘導を始める。
だが、誰も“あの男”に立ち向かおうとはしなかった。
俺の隣にいたステラが、顔を青くしてつぶやいた。
「バンボルト……魔王軍の中でも、最も戦闘力に特化した武闘派。交渉も慈悲も通じない、“暴走そのもの”……。あの顔、あの威圧……常人なら、睨まれただけで動けなくなるって……」
その言葉通り、今まさに──俺たちは身動きが取れなくなっていた。
バンボルトが、静かに口を開く。
「轟電次郎って奴を渡せ。そうすれば、俺はここで暴れない」
ただそれだけの言葉。
だが、その“静けさ”が何よりも怖かった。
獰猛な顔でありながら、落ち着いた口調。
そのギャップが、不気味で、異様で、逃げ場を失わせる。
──俺のせいだ。
こいつは、俺を狙ってきた。俺の力が原因で、ここまでの騒ぎになった。
「やっぱり……魔王軍のやつらか……」
唇が震える。手のひらが汗で濡れていた。
「俺のせいで……みんなを危険に晒したってわけだな……」
歯を食いしばる。何とかしなきゃ……俺が。
そのときだった。
空間が震えた。歪み、裂けるように魔法陣が浮かび──
そこから、一人の老人が姿を現した。
白いローブに長い杖。背中はわずかに曲がっているのに、立っているだけで空気が引き締まるような存在感。
「誰じゃ、わしの結界を壊した奴は──」
その声は、雷鳴のように響いた。
周囲がざわついた。誰かが叫んだ。
「モルセウス様……!」
ミカの師匠で、ろくに授業もしやがらない俺達Zクラスの講師だ。モルセウス……そういや名前も初めて聞いたな。
別の講師が駆け寄って、事態の説明を始める。
モルセウスは黙ってそれを聞いていたが──話が終わると、ふいに口元をほころばせて言った。
「ミカ……そんな弟子もおったかのう」
のんきすぎるだろ!? とツッコミそうになったが、次の瞬間、彼の目が鋭くなった。
「電気の男よ。おぬしの“漏れ出す魔力”……いや、“電力”とやらを、ずっと観察してきたがのう……」
「わしには、無理じゃと結論づけたわい」
目が合う。重い……この人もまた、ただ者じゃない。
「悪いことは言わん。おぬし、この場から出て行け」
「そうすれば、再び強固な結界を張り、この獰猛な魔族を──この“バンボルト”とやらを、二度とこの場所には入れさせん」
……言葉が、喉に詰まった。
「これは命令でも忠告でもない。選択じゃ」
「ここに残れば、他の者が死ぬ。出て行けば、おぬしが一人になる」
俺の胸が、痛んだ。
逃げるか。戦うか。守るか。犠牲になるか。
俺の手に、その答えが、握られていた。
結界に空いた穴から降りてきた奴、背中の腕がぞわりと蠢くたびに、吐き気がするような威圧が全身を貫いてくる。
顔は──獣人族だ。けど、普通じゃない。
ライオンみたいな鬣に、サメのような鋭い牙。
目つきだけで、全身の筋肉が萎縮しそうになる。視線が刺さるだけで、頭が痺れる。
そんな化け物みたいな奴が、静かに言った。
「抵抗すれば──容赦なく殺す」
……その場が、凍りついた。
誰も声を出せない。生徒も、教師も、息をすることさえ忘れたように固まっていた。
「……あれは、魔王軍の……バンボルト……」
誰かが震える声でそう呟いた。
「殺戮のバンボルト……!」
瞬間、場が崩れた。
生徒たちは悲鳴を上げながら逃げ出し、教師たちも慌てて避難誘導を始める。
だが、誰も“あの男”に立ち向かおうとはしなかった。
俺の隣にいたステラが、顔を青くしてつぶやいた。
「バンボルト……魔王軍の中でも、最も戦闘力に特化した武闘派。交渉も慈悲も通じない、“暴走そのもの”……。あの顔、あの威圧……常人なら、睨まれただけで動けなくなるって……」
その言葉通り、今まさに──俺たちは身動きが取れなくなっていた。
バンボルトが、静かに口を開く。
「轟電次郎って奴を渡せ。そうすれば、俺はここで暴れない」
ただそれだけの言葉。
だが、その“静けさ”が何よりも怖かった。
獰猛な顔でありながら、落ち着いた口調。
そのギャップが、不気味で、異様で、逃げ場を失わせる。
──俺のせいだ。
こいつは、俺を狙ってきた。俺の力が原因で、ここまでの騒ぎになった。
「やっぱり……魔王軍のやつらか……」
唇が震える。手のひらが汗で濡れていた。
「俺のせいで……みんなを危険に晒したってわけだな……」
歯を食いしばる。何とかしなきゃ……俺が。
そのときだった。
空間が震えた。歪み、裂けるように魔法陣が浮かび──
そこから、一人の老人が姿を現した。
白いローブに長い杖。背中はわずかに曲がっているのに、立っているだけで空気が引き締まるような存在感。
「誰じゃ、わしの結界を壊した奴は──」
その声は、雷鳴のように響いた。
周囲がざわついた。誰かが叫んだ。
「モルセウス様……!」
ミカの師匠で、ろくに授業もしやがらない俺達Zクラスの講師だ。モルセウス……そういや名前も初めて聞いたな。
別の講師が駆け寄って、事態の説明を始める。
モルセウスは黙ってそれを聞いていたが──話が終わると、ふいに口元をほころばせて言った。
「ミカ……そんな弟子もおったかのう」
のんきすぎるだろ!? とツッコミそうになったが、次の瞬間、彼の目が鋭くなった。
「電気の男よ。おぬしの“漏れ出す魔力”……いや、“電力”とやらを、ずっと観察してきたがのう……」
「わしには、無理じゃと結論づけたわい」
目が合う。重い……この人もまた、ただ者じゃない。
「悪いことは言わん。おぬし、この場から出て行け」
「そうすれば、再び強固な結界を張り、この獰猛な魔族を──この“バンボルト”とやらを、二度とこの場所には入れさせん」
……言葉が、喉に詰まった。
「これは命令でも忠告でもない。選択じゃ」
「ここに残れば、他の者が死ぬ。出て行けば、おぬしが一人になる」
俺の胸が、痛んだ。
逃げるか。戦うか。守るか。犠牲になるか。
俺の手に、その答えが、握られていた。
8
あなたにおすすめの小説
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる