しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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電子、存在す

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 ♦-/-/-//-/-/-魔王城 技術開発室-/-/-/--/♦

 魔導顕微鏡の前で、ドルガスが眉間に深い皺を刻みながら、無言で視線を固定していた。
 「……これが、轟電次郎から採取した血か」

 ライオネットが、彼の後ろで白衣の裾をひらつかせながら覗き込む。
 実験室には、この二人だけ。
 静寂の中、魔導顕微鏡のプレパラートには、ごくわずかな血液が、透明なまま揺れていた。

 「これは……マナではないのか? 魔素反応も……ゼロ?」
 ドルガスの声に熱がこもる。
 血液から放たれるはずの魔力波長が、まったく感知されない。

 「バカな。マナは万物の原子に存在している……それがこの世界の“理”だ……いや。アイツは、自分には魔力がないと言っていたわね」
 ライオネットは彼を軽く押しのけると、魔導顕微鏡に目を落とす。

 そこにあったのは、静かに脈打つ“違和感”だった。
 血液の中で、ときおり細かな光がチリチリと弾け、粒のようなものが舞っていた。
 それは、マナ粒子特有の緩やかな波ではなく、より規則的で、力強い動き。

 「……これが、“電子”」
 ライオネットの喉が、微かに鳴った。目が獣のように細められる。

 「アイツが言っていた、マナとは違う粒子……そんなものが、本当に存在するなんて」
 「馬鹿げとる……。だが、この目に映っとるのは……たしかに……」
 ドルガスが呻くように言った。

 ライオネットは、目の奥に微かな火を灯したまま、くるりと踵を返すと
 「思い出したのよ。学園で……アイツが“レモン電池”とやらを見せてたこと」
 そう言いながら、学園から逃亡する際に持ち出した鞄から、電次郎が置いていった美顔スチーマーの残骸を取り出した。そしてかつて電次郎がやったように、銅板と亜鉛を配線でLEDと繋ぎ、電次郎の血液を回路の一部に垂らした。

 そして──

 パチッ……。
 微かな音。
 次いで、小さな光が、暗い室内をやわらかく照らす。
 豆電球が、静かに、しかし確かに灯った。

 「……」
 誰も言葉を発さなかった。
 その灯火が示す意味を、二人とも理解していた。

 「これが、“電子”……。そして、“カデン”と呼ばれる魔導具の……動力源……」
 ライオネットの声が、震えているようにも、笑っているようにも聞こえた。

 「驚いたのう……」
 ドルガスは顎に手を当て、長く深く、うなずく。
 「この世界の理を支えてきたマナ──魔法とは、使い手の意志に応じて力を変えるもの。強くもなれば、弱くもなる。それゆえに不安定じゃ。だが……」
 彼は、光を灯す小さな球を見つめた。

 「この粒子は、物質に一定の力を宿しておる。“意志”も“素養”もいらん。そこにあるだけで……力になる」
 「つまり、誰が使っても……安定して動くエネルギー」
 ライオネットが囁くと、ドルガスはもう一度、ゆっくりとうなずいた。

 「そうじゃ。これは──エネルギーの革命じゃ」
 短い沈黙。
 その中で、ライオネットはくるりと電球を指先で回し、悪戯っぽく笑った。

 「……誰でも扱える、“兵器”が作れる。そういうことよね?」
 「相変わらず恐ろしい思考じゃな、おぬしは。だが、否定はせん」
 そしてふたりの視線が、もう一度、灯りに向けられる。

 「まだ魔王様には言うでないぞ」
 ドルガスは鋭い眼光でライオネットを見た。
 「もちろんよ」
 微笑みながら背を向けた彼女の心の奥で、別の声が囁いていた。
 ──これは私が先に見つけた宝。誰にも渡すものか……。
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