しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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おっさん疲労す

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 思った以上に血を抜かれたようだ。
 部屋に戻る足取りは、自分でも笑っちまうほど重くて、まるで鉛の塊でも背負ってるみたいだ。
 視界が少し霞む。頭の奥がじんわりと熱い。
 あのドルガスっていう爺ちゃん、抜く量を間違えてんじゃないのか……。

 朦朧とする意識の中、シービーが横を歩きながら、ちらちらと俺を見上げてるのが分かった。あんなにおしゃべり好きな口の悪い奴が、今は妙に静かだ。何か言いたそうにしてるけど、結局そのまま自室の前まで無言で着いてきた。

 扉を開けて中に入ると、もう我慢できずにソファに腰を下ろした。
 革の背もたれに体を預けた瞬間、全身の力が抜けていくのがわかる。目を閉じれば、そのまま眠れそうだ。いや、もうほとんど落ちかけてるかもしれん。

 「どした? おっさん、疲れたか?」
 入口から声が飛んできた。
 見れば、シービーが腕を組んで立っている。
 少し呆れたような顔。けど、その目は案外優しい。

 「ああ……そうだな。初めての土地だし、学園でも色々あったし……まあ、疲れてるんだろうな」
 自分でも情けないくらい間延びした声が出た。
 するとシービーは肩をすくめて、俺の方へずんずん歩いてくる。

 「なんだよ、ほれ。じゃあ楽に座ってみろ。肩でも揉んでやっから」
 「……は?」
 思わず変な声が出た。
 だってコイツの口から、そんな優しい言葉が出るなんて思ってもみなかったからな。

 「な、なんか怖いな、お前の口からそんなこと言われると。それに気を使わせちまったみたいで悪いし、マッサージチェアでも出して、自分でなんとかするよ」
 軽く断ろうとしたが──

 「遠慮すんなって。魔導具なんかに頼ってたら、いつか痛い目見るぜ」
 「……なんだそりゃ」
 「ほら肩揉むのなんて、猫にでもやってから気にスンナ」
 「俺は猫と同類かよ」
 「猫以下だな」
 即答かよ。
 けど、不思議と腹は立たなかった。
 むしろ、こういう調子で絡んでくるのがちょっと嬉しかった。

 「……じゃあ、ちょっと頼むわ」
 そう言うと、シービーは俺の背後に回って、小さな手をそっと肩に置いた。
 その手は意外なほど温かくて、指先はしっかりとした力を持っていた。

 「お……けっこうこってんじゃねーか。ほら、力抜けよ」
 「抜いてるつもりなんだがな……」
 「つもりじゃダメだって。ほら、息吸って……吐いて……」
 言われるままに深呼吸を繰り返すと、肩の奥に詰まっていた重さがじわじわと溶けていく。
 機械の均一な振動とは違う、人の手の、なんというか生きてる感じの温もりが心地いい。

 「……なんか、人の手って……いいな」
 「そりゃそうだろ。おっさん、こういうの慣れてねーだろ?」
 「まあな……近所のばあちゃんの肩はよく揉んでやってたが……人にやってもらうのは……ほとんど初めてだ」
 こんな優しい娘とか嫁が居たら……なんて思うと、さらに疲れが増したような気がする。

 「そりゃあ……猫以下だわ」
 「なんでだよ」
 ツッコむと同時に自然に笑顔になった。

 まるで昔から知ってる相棒と、どうでもいいやり取りをしてるような──そんな安心感だ。

 気づけば、瞼が重くなっていた。
 視界がぼやけていく。肩に置かれた温もりが、じんわりと全身に染みてくる。

 「……おいおい。寝んなよ、まだ揉んでんだから」
 「……悪い……」
 自分でも、もう夢と現の境が曖昧になっているのがわかる。
 最後に聞こえたのは、呆れたようで、それでもどこか優しいシービーのため息だった。

 「……ほんっと、世話の焼けるおっさんだな」
 俺はもう、その言葉をまともに聞ける状態じゃなかった。
 ただ、その温もりだけを残して、静かに眠りへと落ちていった。
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