ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました

たぬきち

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 俺の人生はひどいものだった。

 古びた屋敷…とはお世辞にも言えない廃屋の中、手元の灯りを頼りに俺はゆっくりと進んだ。
 近日中に取り壊しも決まっているようで、家財道具もほとんど残っていない。ホコリっぽい臭いと、水で濡れたジメジメとしたかび臭い空気が体にまとわりつく。

 運命の歯車がおかしくなったのはいつだったか。小さい頃は、毎日がそれなりに楽しかった。やりたいことや、将来の夢、なんていうのも人並みにあったんだ。

 貴族の息子として産まれた俺。裕福な方ではなかったが、父が治める領地は活気があったし、大好きだった母は人望があり、領民から慕われていた。

 それが、どこでどう間違えたかこのザマだ。

 来ている服はボロボロ…。ほぼホームレス同然の生活。
 仕事がない。
 お金がない。
 外見も悪い。
 頭もよくない。
 こんな俺の事を支えてくれる伴侶も当然ながらいない

 今の俺にはとにかくなんにもない。

 ギシ…ギシ…

 軋む階段を上り、雨漏りがする廊下を歩き、懐かしい部屋の扉をゆっくりと開ける。ドアノブを回すと、ゆっくりと大きな音を立てて扉が開いた。

 ギィイイイィィィィ‥…

 窓ガラスが割れて、天井からは雨漏りが滴り、湿気で重たくなったベッドだけが残されていた。

 俺の部屋だ。…いや、部屋だった。

 小さくなったベッドに腰を下ろして、力なく横たわる。体力も限界だ。もう何日も飲み食いしていないし、流行り病に冒されたこの体はそう長くない、自分の事だからこそわかるんだ。俺は最後に、自分が昔住んでいた家に戻ってきたかった。

「母さん…とう、さん」

 朽ち果てた部屋を見ながら、遠い過去の事を思い出す。不思議と、鮮明に、色鮮やかに映し出されたその世界には、今は亡き父と母、小さな自分と従者がそこにはいた。領内にできた学校、という施設に行くことになり、父と母が身支度を手伝ってくれた時の思い出だ。泣き虫で甘えん坊だった俺は学校に行くのが怖くて母に泣きついていて、それを父が叱っていた。

(勉強も、運動も得意ではなかった俺は学校に居場所がなくて、行きたくなかったんだよな…。)

 視界が涙で歪むとそのままそっと目を閉じた。この30年、いろいろなことがあった。そのすべてが、俺の人生を台無しにしようと、立ちはだかる大きな壁になった。ことごとくその障害に俺は負け、没落し、職を失い、住居を失い、こんなみじめな終わり方をしようとしている。

「っい…て」

 ベッドの上で寝返りを打った時、背中に強烈な痛みが走って唸り声が出た。何かが刺さったようだった。
 腕を背中に伸ばすと、学生時代に同級生の女の子からもらった女神の十字架がそこにあった。
 錆びてボロボロになりながら、中心にはめ込まれた石が淡く青白く光っている。

「可愛かったなぁ。たしか…ステラちゃんだったか…優しくて、母性的で、小さなママって感じの子で、守ってあげたい女子!って感じの子だったなぁ。」

 彼女の姿を思い出しながら、女神の十字架を力強く握りしめると、あつい涙が流れるのがわかった。

(あの頃に、もう一度戻りたい…。こんなクソみたいな人生…やりなおしたい!俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!)

 唇をかみしめながら、寒さに震えながら十字架を握ると、暖かい感触が伝わってくる。どうやら強く握りしめたせいで手が切れたらしい。手のひらが生温かく、ジンジンする。

 過去の記憶が走馬灯のように思い出される中、震えることすらできなくなり、いつの間にか手のひらの痛みも治まっていた。

 喉が渇いた…。時折顔にかかる雨を、魚のように口を力なくパクパクとさせることしかできなかった。

 チ‥…リィ‥‥…ィ‥…ン‥…。

 なにか聞こえたような気がして、重い瞼を動かしてみる。
 ほとんど聞こえなくなった耳。
 ぼやけて滲む視界。
 最後にうっすらと見えたのは黒髪の少女のようなもの…。なにか語り掛けてくれている声…?

 あれから何時間が経過したのか分からないが、もう、疲れたんだ。

 俺は、静かに大きく息を吸い込んだ。

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