異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく

竹桜

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第三十九話 最後の願い

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 夏休みが終わりに近づいている。

 後2週間ぐらいで高校が始まる。

 そんな日に私は家で1人だ。

 母さんとラナと楓は旅行に行ってしまった。

 3人から一緒に来てほしいと言われたが、1人だけ男というのはなんか気まずいから断ったのだ。

 更に仲を深めて欲しいと考えたもあるが。

 だから、家の中に1人だけだ。

 この間に私は夏休みの課題を終わらせている。

 夏休みの課題を終えた頃には夜になっていたのだ。
 
 夕食を食べた後、風呂に入ってからベッドの中に入る。

 寝ようとするとラナからメッセージがくる。

 それから1時間ぐらいメッセージのやり取りをしていたが、ラナからもう寝るというメッセージが来たのでおやすみと返してからスマホを充電器にさす。

 寝ようと思いながら窓の方を向くと小さい何かの影が見えたのだ。

 小鳥かなと思ったが、それは人型だった。

 ベッドから起き上がり、窓側に向かう。

 警戒しながらカーテンを開ける。

 カーテンを開けた窓の外には小さい人型の紙が立っていたのだ。

 驚きながらも窓を開けるとその小さい人型の紙が私の自室に入ってくる。

 「あの山まで来てくれ。直ぐに」

 私は思わず驚いてしまう。

 だって、小さい人形の紙から聞こえきたのだから。

 しかもその声は聞いたことがある。

 直ぐに行く。

 声から危機感を感じ取れたからだ。

 私は寝巻から私服に着替え、窓を閉めてながらスマホを持って、あの山まで急いだ。

 前に出会った場所に向かうと何故か血の匂いがしたのだ。

 目的地に近づくにつれて血の匂いは強くなっていく。

 そして、目的地に到着すると木に寄り掛かりながら座っている男を見つける。

 そして、その男は右手で幼い少女を大事そうに抱きかかえ、左手で傷口を押さえていたのだ。

 直ぐに向かったが、この深手では長くない。

 「よ、よく来てくれた」

 「あまり喋るな。直ぐに救急車を」

 救急車を呼ぼうと思いスマホを取り出す手を傷口を押さえていた左手で掴まれる。

 「俺はもう長くない。救急車を呼ぶ必要は無い」

 「分かった」

 私の右手首には血がついていたが、気にならない。

 それよりも男の傷の方が気になるからだ。

 「さ、最後の願いがある。お嬢様を頼む」
 
 そう言いながら、男は血だらけの左手を縋るように私の方に伸ばしてくる。

 私は思わず息を呑んでしまう。

 この男は次に紡ぐために自分の命を。

 なんて男だ。

 あの衛視と同じように。

 何も迷わずに私は血だらけの左手を握る。

 強く。

 「任せてくれ。貴方の願いを叶えよう」

 「ありがとう」

 男は私の瞳の奥を見てくる。

 「本当に頼む。お嬢様をどうか頼む。次に紡ぐ為に」

 その言葉と共に私の手を握る力は強くなっていく。

 握る力は私の左手を握り潰す勢いだ。

 それ程だということか。

 この男の覚悟は。

 なら、私もこの男の覚悟にこたえなければならない。

 男の瞳の奥を見ながら、手を更に強く握り返す。

 「ああ」

 男は安心したような表情を浮かべ、私の手を強く握りながら、息を引き取る。

 男から手を離し、私は立ち上がる。

 次に紡ぐ為に命を掛けた男に冥福を。

 どうか安らかに眠ってくれ。

 姿勢を正し、深く頭を下げる。

 20秒間下げ続けた。

 頭を上げた私は大事な幼い少女をお姫様抱っこする。

 今気付いたが、この少女、いや、この美少女は着物で身を包んでいるな。

 歳は10歳ぐらいだろうか。

 そんなことを考えている場合ではない。

 この子を安全を確保しなくては。

 私は男の遺体を置いて、直ぐにこの場を離れる。

 避難するといっても家は不味い。

 なら、あそこに行くか。

 事情を話せば、協力してくるはずだ。

 私は美少女をお姫様抱っこしながらある場所に向かう。

 到着したので、チャイムを押すと私服姿のリーヴが出てきてくれる。

 出てきてくれたリーヴはお姫様抱っこされた美少女を見て驚いた表情を浮かべている。

 驚いたのは一瞬で直ぐに察してくれ、家の中に入れてくれたのだ。

 お姫様抱っこしていた少女をベッドで寝かせ、リーヴに今回のことを話す。

 院という組織に所属している男からこの美少女を託されたと。

 私はこの子を保護して欲しいと頼んだ。

 「私は樹さんに沢山助けられました。だから、少しでも恩返しをしたいんです。ですから気にしないでください」

 リーヴは快く承諾してくれた。

 リーヴとの情報交換した私がお茶を入れようと立ち上がると同時に美少女がベッドから起き上がる。

 自然と私とリーヴの視線は美少女に集まる。

 「えっと、申し訳御座いません。私のことをご存知でしょうか?」

 思わず、私はリーヴと顔を見合わせてしまう。

 どうやら、この美少女は記憶がないようだ。
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