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第四十四話 罪滅ぼし
しおりを挟む[愚か者視点]
私は院という組織に所属している陰陽師だ。
院というのは非現実的な現象や普通に考えて有り得ないことに対応する組織。
私の家は平安時代から続く家で、代々陰陽師を生業にしていた。
陰陽師というのは平安時代から政府に使え続けている者達だ。
現代日本では有り得ないような力を使って。
私は忠実に陰陽師として働いていた。
そんな私には愛しい妻がいる。
妻とは政略結婚だったが、陰陽師らしからぬ優しい性格の妻に私は一目惚れしたのだ。
妻もそんな私を愛してくれた。
私達の夫婦仲はとても良かった。
幸せだなと感じていたが、失うのは一瞬。
私の妻は不幸の交通事故で亡くなってしまう。
失意のうちに全てが終わっていたのだ。
妻の葬式まで。
それから、私は妻を生き返らせる方法を探し始める。
院の資料室や実家の資料で調べ、最後にはネットまでも調べ始める。
頭では理解しているが、止まらないのだ。
私は妻を失った悲しさを紛らわせるように探し続ける。
ある日、私は怪しい者と出会う。
その者は明らかに人間では無かったが、今の私にとって甘い言葉を掛けてくる。
私は愚かにもその話にのってしまう。
私がのったことを確認した者は闇の武器商人と名乗ったのだ。
その日から、私は自身の叶えたい願いを叶える為に闇の武器商人の傀儡となったのだ。
傀儡となった私は院や陰陽師の中から協力者を探す。
案外協力者は簡単に見つかる。
皆、叶えたい願いがあるのだ。
協力者を得た私は武器商人から指示を受けながら、計画を立て、準備を開始する。
そして、計画を実行した。
殆どの陰陽師を無力化し、院を機能停止まで追い込んだ。
これで邪魔されないだろう。
だが、本家の1人が1人の陰陽師と逃げてしまう。
だから、指示を出す。
捕まえろと。
私は生け捕りを命じた筈なのに同じ仲間だった陰陽師の1人を瀕死に追い込んでしまう。
直ぐに見つかったが、既に事切れた仲間だった陰陽師しか居なかった。
遺体を回収しようとしたが、院の者達に任せた方がいいな。
こんな裏切り者に回収されるのは安らかに眠れないだろう。
念には念を入れて、逃げた者を記憶喪失させたから儀式は邪魔されないだろう。
それから、闇の武器商人に受け取ったこの世界の物では無い物を使って、儀式を始めたのだ。
儀式の準備に3日掛かったが、やっと妻に会える。
だが、院に潜入させている密偵からこちらに人が向かっていると報告を聞いたので、正面に妖怪を配置する。
これで大丈夫だろう。
妖怪なら陰陽師以外では対応出来ないからな。
一安心した私は儀式を始める。
空は真っ黒な雲が覆い、紫色の光が空を包んだがそんなことはどうでもいい。
この儀式で妻が。
その時、儀式は完了した。
儀式は成功したが、醜い肉の塊が出来ただけ。
こ、こんなの妻ではない。
だ、騙したのか。
いや、違うな。
私は闇の武器商人に利用されていただけだ。
ああ、なんて愚か者なんだろう。
私は。
全てに絶望していると醜い肉の塊がお嬢様に向かって攻撃していたのだ。
考える前に体が動き出し、お嬢様を庇うように前に立っていたのだ。
そのまま私は醜い肉の塊の攻撃を全身に受ける。
そして、私は全身から血を流しながら地面に倒れる。
私は極楽浄土にはいけないだろう。
行くのは地獄だ。
仲間を家を、いや、自身の信念すら裏切ったのだ。
そして、妻が日頃から私に約束していたことすら。
そんな裏切り者には相応しい末路だ。
だが、最後に少しだけ罪滅ぼしが出来た。
ほんの少しだけだが。
もう痛さは感じないが、凄く眠い。
瞼がどんどんと閉じていく中で、閉じかかっていた瞼が大きく開かせる出来事が起きたのだ。
空に全てを裏切ってまで会いたいと思っていた妻がいたのだ。
そのまま、妻は私のことを抱きしめてくれる。
ああ、裏切り者なのに。
こんな最後を迎えてもいいのか?
そんな時、声が聞こえてきたのだ。
もう一度聞きたいとずっと思っていた声が。
「いいのよ。私は地獄でも貴方についていくわ。だって、貴方の妻なのだから」
そう言い、妻は何度も見たかった笑顔を浮かべたのだ。
ありがとう、妻よ。
貴方の夫で良かった。
そして、最後に罪滅ぼしを出来て本当に良かった。
安らかな気持ちのまま、勝手に瞼が閉じ、私の意識は完全に途切れたのだ。
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