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第四十五話 戦闘狂の鬼
しおりを挟む全てを終わったと思い、正拳突きの構えを解こうとすると入り口の立派な門が轟音を上げながら、吹き飛んだのだ。
吹き飛んだ立派な門の材料だった木材は粉々になっている。
更地となった立派な門から何かが入ってくる。
それは鬼だった。
身長は3メートルを超え、赤い肌に筋肉質な体を持ち、頭から2本の角を生やしている。
そして、その鬼の両手には妖怪が握られていたのだ。
両手に握られていた妖怪は既に事切れている。
そのまま鬼は妖怪は喰い始めたのだ。
両手の妖怪を喰い終わった鬼はケップをしてから私達の方、いや、私の方を見てくる。
「強い人間と戦う為に弱い人間に仕方なく従ったが、本当に強い人間がいるとは」
私は正拳突きの構えをとき、無の構えをとる。
「まずは自己紹介をしよう。私の名前は山木 樹だ。空手を百年間修行し続けた者だ」
「お前の言っていることの半分ぐらい理解出来ないが。つまり、お前は百年間修行し続けた人間だということか?」
黙って頷く。
すると、鬼は嬉しそうにニヤリと笑う。
「そうか。それはいいな。まさか、この時代にこんな人間がいるとは」
その表情のまま、両手を強く握りしめ、拳をつくる。
「それに、それは空手の無の構え。その構えは本当の実力者がするものだ。本当に楽しみだ」
「楽しそうのは結構だが、私は名乗ったのだ。だから、自己紹介をしてくれるか?」
「これはすまんな。でもな、俺には名前なんてものは無いんだ。それに名前なんて戦闘の前では意味が無い」
「では、鬼と呼べばいいのか?」
「ああ、それでいい」
「分かった。なら、私のことは樹と呼んでくれ」
「分かった、樹。さて、自己紹介は終わったんだ。早く戦おう。血踊る戦いをな」
「最後に悪いが質問だ。鬼、貴方は戦闘狂か?」
鬼は何も答えず、ただニヤリと笑う。
肯定か。
戦闘狂の鬼。
これは千年、いや、千百年間修行し続けた力を試すにはいい。
この場に静寂が訪れる。
詩花と陰陽師達は黙って、私達の戦いを見守るようだ。
静寂を破ったのは同時。
私の拳と鬼の拳がぶつかり合う。
ぶつかり合った結果、地面がひび割れ、火花が散る。
それから、私は空手で鬼とぶつかり合い続ける。
戦いは拮抗し、どちらも傷をつけることは出来てない。
戦っている最中、鬼はずっと嬉しそうな表情を浮かべている。
多分、私も嬉しそうな表情を浮かべているだろう。
これまでの私は正拳突きだけで倒してきた。
だが、戦いの楽しさを知ってしまったのだ。
もう、この鬼は私のとってただの鬼ではない。
だから、私の全力を持って相手をする。
右手を強く握りながら突っ込んできた鬼に回し蹴りを食らわせる。
回し蹴りを食らった鬼は両手で守ったが、私から距離を離してしまう。
よし、一旦距離が出来た。
無の構えを解いて、鬼の方を向く。
「鬼。1つ言い忘れていたことがある。私は異世界の何も無い真っ白な空間で千年間修行し続けていた。1つのことだけを」
「せ、千年だと?そ、それに1つのことだと?」
「そうだ。そして、私が修行し続けたのは空手の正拳突きだ」
私は正拳突きの構えをとる。
「鬼。これは私の全てを出した一撃だ。だから、貴方も自分の全てを出した一撃を互いに出さないか?」
「戦いというのを分かっているな、樹。こんな時代にここまでの人間、いや、男がいるとは。本当に俺は幸運だな」
鬼は拳を1番強く握りしめる。
鬼は1番早く移動し、一瞬で私の前にいたのだ。
そして、1番強く握りしめていた両手の拳を振り下ろしてくる。
私は両手の拳が振り下ろされる前に正拳突きを建物と詩花と陰陽師だけの方には向けず、空に向かって放つ。
私が放った正拳突きは鬼の体の殆どを吹き飛ばしたのだ。
鬼の体の殆どを吹き飛ばした正拳突きは勢いは衰えることなく、空を割る。
戦闘狂の鬼を倒した私は正拳突きの構えをとく。
満身創痍や鬼は本当に愉快そうに笑っていたのだ。
「最高だ。最高だぞ、樹。お前は」
「それは私もだ。ここまで強い者は貴女が初めてだ。私の戦友よ」
「戦友だと?俺が樹のか?」
「ああ、ここまで戦った仲だからな」
「そうか、戦友か。不思議と悪くないな」
満身創痍な鬼は私の方に視線を向けてくる。
「さらばだ、強者たる俺の戦友よ」
戦闘狂の鬼は本当に嬉しそうにニヤリと笑い、何も残さずに消えていく。
消えたことを見届けた私は割れた空を見上げる。
「ああ、さらばだ。私の戦友よ。どうか、安らかに眠ってくれ」
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