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第四十六話 重婚
しおりを挟むこれで本当に終わった。
その後、私はヘリで埼玉に帰還し、後処理は陰陽師と院の者達に任せる。
1週間もすれば、完全に後処理は完了した。
夏休みも1週間をきった日に私はある霊園にやってきている。
私の両手には花を持って、ある墓石の前に立っている。
帰還している時にきいたのだ。
男の死体は院の方で回収して弔ったことを。
詩花を命懸けで守り抜き、次に託す為に死んだ陰陽師の墓石に花を供える。
名前も教えて貰えたが、私にとってあの陰陽師は名を知らないこそいいのだ。
だから、名前は知らない。
知っているのは名字だけだ。
そんな男の冥福を祈った後、私は霊園の端っこまで移動する。
到着するとひっそりと佇んでいる2つの墓石の前に立つ。
その2つの墓石は寄り添うように佇んでいるようにも見える。
この墓石は院を裏切った陰陽師とその妻の墓だ。
私が臨んだのだ。
確かにあの陰陽師は裏切った。
だが、最後に改心し、善を成したのだ。
ならば、死後ぐらいゆっくり眠ってもいいだろう。
それに、あの男の願いは私利私欲ではあったが、自身の妻を生き返らせたというものだ。
私にも気持ちが分かる。
もしもの話だ。
もし、ラナを失った後、そんな美味しい話があったら乗ってしまうだろう。
何よりも代えがたいものだから。
私は裏切った陰陽師とその妻の冥福を祈った後、近くの料亭に向かう。
料亭の女将に山木と伝えると個室に案内される。
到着した個室の中には高級な着物に身を包んだ詩花と詩花の父親が待っていたのだ。
私が席に座ると会食が始まる。
会食の間は和やかな雰囲気で続いたが、会食が終わると何故か詩花の父親が真剣な表情を浮かべていたのだ。
「樹殿。今回、ここに呼んだのはあることを話すためだ」
「あることを?」
「ああ」
詩花の父親は詩花の方を向いてから私の方に向いたのだ。
「詩花と婚約してほしいんだ」
私は思わず驚いてしまう。
いきなり10歳の美少女と婚約して欲しいと言われれば誰でも驚く。
「いやいや、詩花はまだ10歳ですよ。そ、それに私には婚約者がいるのですよ」
詩花の方を向いたが、詩花は顔を真っ赤にして曖昧な笑みを浮かべているだけだ。
「知っている。異世界人のラナ嬢ということを」
「知っているのに、なぜそのようなことを?」
詩花の父親は事情を話してくれる。
詩花の父親の話を纏めると、私の力は人の枠組みから外れていて、安全を確保するために陰陽師の本家のご令嬢である詩花と政略結婚をさせるというものだった。
政略結婚か。
でもな。
「事情は理解しましたが、この現代日本で重婚なんて出来るんですか?」
「ああ、出来る」
そう言いながら、詩花の父親は力強く頷く。
「で、出来るのですか。で、ですが詩花のき」
私の言葉を詩花が樹様と遮ったので、私は詩花の方を向く。
「樹様。わたくしの気持ちは決まっておりますから、どうかお気になさらず」
「気持ちとは?」
「樹様のことを好いているということです」
詩花は真っ赤な顔のまま満面の笑みを浮かべている。
少し時間をくれと言い、私は料亭を後にする。
私にはラナがいるのに重婚か。
どうするべきなんだろう?
考えながら歩いていると後ろから肩を叩かれる。
驚きながら後ろを振り向くと、リーヴがいたのだ。
「どうしたんですか?そんな、悩んでいるような表情を浮かべて」
リーヴか。
そうだ、このことをリーヴにも相談しよう。
そう考えた私はリーヴの家で、重婚のことを話す。
話を聞き終わったリーヴがいきなり椅子から立ち上がったのだ。
「わ、私も樹さんのことが好きです。助けて貰った時から」
リーヴは私の方を向いてくる。
私の方を向いてきたリーヴの顔は真っ赤になっていたのだ。
「ラナさんがいると分かって諦めていましたけど、重婚が出来るなら私も樹さんと結婚したいです。だって、私の初恋なんですから」
リ、リーヴまでもか。
「す、少し待ってくれ。色々と整理したいから、返事は明日でもいいか?」
「はい。どんな返事でも私は受け入れます。これは私の我儘ですから」
リーヴから見送りされ、私は家に向かって歩き始る。
どうやら、私はリーヴと詩花から好かれていたようだ。
気付かなかった。
そうか。
あの時、ラナに疎いと言われたのはこのことだったのか。
つまり、結構前からリーヴは私のことを。
もしかしたら、私は覚悟を決めなくてはいけないかもな。
そんなことを考えていると家に到着していたのだ。
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