異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく

竹桜

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第五十六話 本当の首謀者

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 戦友を倒したことで、全ての妖怪を倒しことになったがまだ気配がする。

 それは陰陽師達も気付いているようだ。

 だから、自然と視線は1箇所に集まる。

 視線の先には僧侶が立っていたのだ。

 あれも妖怪か?

 そんなことを思っていると右手で持っていた錫杖を地面で叩くとシャンシャンと鳴る。

 すると、僧侶の周りに妖怪達が現れたのだ。

 「また妖怪か?」

 「いえ、あれは妖怪ではありません」

 「妖怪ではない?じゃあ、あれは何なんだ?」

 「多分ですが、あの僧侶は既に死んでしまった存在を現世に呼び寄せる力を持っていると思われます」

 「つまり、死者蘇生に近い力ということか?」

 詩花は肯定するように頷いてくれた。

 それでか。

 倒した筈の戦友が蘇ったのはこの妖怪がやったのか。

 そんなことを思っていると僧侶は左手で私達の方を指差してきたのだ。

 すると、僧侶の周りにいた妖怪達は私達に襲い掛かってくる。
 
 私は構えを取らなかった。

 陰陽師達が対処してくれるからだ。

 御札は妖怪達を取り囲み、妖怪達を倒す。

 倒された妖怪達は霧となって消えていく。

 どうやら、本当に1度死んだ存在みたいだ。

 そんなことを思っていると、僧侶がまた錫杖を地面を叩きシャンシャンと鳴らす。

 すると妖怪ではなく、透けている2人の人影だ。

 私はその者達に見覚えしか無い。

 そして、私は無意識に正拳突きの構えを取る。

 「死者を冒涜しているのか?貴方は?」

 怒りが沸々と湧いてくる。

 あの者達は英雄だ。

 名も無き英雄達。

 私が英雄だと思い、凄いと思っている者達だ。

 あの衛視とあの陰陽師を。

 私が敬意を持って弔い、安らかに眠った筈の英雄達だ。

 もし、私が成人していたならば、酒を呑み交わしたと思うような大人達だ。

 職務を忠実に果たした衛視と次に紡ぐ為に命を賭けた陰陽師だ。

 私が憧れた英雄達だ。

 到底許されることではない。

 今までの中で1番強く手を握っているとまた錫杖をシャンシャンと鳴らしたのだ。

 その音が鳴った後、また現れる。

 英雄ではないが、純愛者が。

 「貴方は本当に」

 そう、懲りないことに安らかに眠った筈の元陰陽師を起こしたのだ。

 愛しい妻を蘇生する為に院を裏切ったが最後には改心し、詩花のことを命懸けで守った元陰陽師を。

 なんだ、あのクソ野郎は。

 英雄を安らかに眠った者を戦友を。

 なんの許可も無く蘇生するなんて。

 あの僧侶は私の神経を逆撫でするのが好きみたいだ。

 いや、待って。

 あの僧侶を一撃で倒すのは駄目だ。

 それに完全に倒すなら、陰陽師の力を使うべきだ。

 私は正拳突きを放ち、英雄達と安らかに眠った者達だけを無力化する。

 よし、これでいい。

 正拳突きの構えをとき、無の構えを取る。

 そして、私は地面を蹴る。

 地面を蹴った私は一瞬で妖怪の懐に潜り込んだ。

 これには僧侶は反応出来ていない。

 私はそのまま僧侶の腹を殴る。

 僧侶は何も出来ずに後ろに飛ばされたのだ。

 それからは錫杖を地面を叩く前に肉薄し戦い続ける。

 僧侶に死者を復活させないようにするためだ。

 戦い続けていると僧侶はニヤリと笑う。

 「なに、笑っているんだ?私はただの時間稼ぎだぞ。止めは陰陽師、いや、私の大切な婚約者の詩花だ」

 攻撃のやめ、詩花の方を見ると既に準備は終えていたのだ。

 強力な術の準備が。

 詩花は強く頷いた後、現代語ではない日本語で何かを発すると妖怪は真っ白な光に包まれたのだ。

 真っ白な光に包まれた僧侶は苦悶な声を上げながら、霧となって消えたのだ。

 本当の首謀者を倒した私は英雄達と安らかに眠った者の方を向く。

 そして、私は姿勢を正し、頭を深く下げる。

 「お騒がせしました。原因を倒しましたので、どうか安らかにお眠り下さい」

 私が頭を上げると英雄達と安らかに眠った者は私に向かって会釈していたのだ。

 そして、霧のように消えていく。

 それと同時に陰陽師の術が解除され、現実世界に戻る。

 私は空を見上げる。

 見上げた空には星が広がっている。

 どうか、安らかに眠ってくれ。

 妖怪も英雄も安らかに眠った者も戦友も。

 どうか、ご冥福を。
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