13 / 22
本編
11 イザーク視点
しおりを挟む
「アイリスおはよう。部屋に入っても良いか?」
「本日も来てくださったのですか?申し訳ありません。まだ体調が……。イザークさまはお忙しいのですから、私のことはお気になさらないでください」
あの茶会の日から、アイリスは部屋から出てこず何かに恐れているように見受けられる。
私を避けているというよりは、独りの世界に入って苦しんでいるような────。
ノアの妻は多少のいざこざはあれど、今のところ悪い噂はほとんど聞かない上に、リューヌからはアイリスがとても楽しみにしている様子を伝えられていた。
一体何が彼女を苦しめているのか?
人間は体調を崩せば精神的にも不安定になってしまうものだ。
それは多少仕方のないことなのだが、今回は違うように思えて胸騒ぎがする。
「……聞きに行った方が良さそうだな」
「急な訪問で申し訳ない」
「滅相もありません。ここまでお急ぎとは何かあったのですか?」
「ちょっと聞きたいことがあってな。妻はいるか?」
「ええっと……それがちょっと、なんだか塞ぎ込んでしまっていて、挨拶ができず申し訳ございません」
普段なら妻であるオリヴィアも挨拶を交わすが、塞ぎ込んでいるという言葉とノアの様子から、やはり茶会で何かがあったのだと確信した。
「少しだけ、オリヴィア嬢と話させてもらえないか」
ノアは迷いを見せつつも、オリヴィアの部屋へと案内してくれた。
「オリヴィア、イザーク団長がオリヴィアと話がしたいそうだ。少しだけ話せる?」
扉越しに声をかけると、少しの間が空いてから、ゆっくりとオリヴィアの姿が見えた。
「イザークさま、お出迎えできず申し訳ありません。宜しければお隣の部屋でお話いたしましょう」
「急にすまない」
「いえ。お気になさらないでください」
元々控えめな人だが、今日は一段と静かだった。
紅茶の香りが広がる。
「本日は、アイリスさまのことでしょうか」
オリヴィアが意を決したように、アイリスの名を出す。
「そうだ。茶会の後からどうも体調が優れなくてな」
私の言葉を聞くと目尻を僅かに下げ、息を一つ吐くと事情を話し出した。
「はぁ、実は……」
語られる出来事に体中の血が熱くなっていく。
彼女が一人どんな思いで今日まで過ごしてきたかを考えると、胸が痛くなった。
私はアイリスのことをそんな風に思ったことなど、一時たりともない。
確かに気は遣うが、苦には感じない。
いつも真っ直ぐで頑張り屋で、あんなに心が綺麗な人と今まで出会ったことなどなかった。
だから、俺はアイリスを守らなくてはならないのだ。
「あの、私、申し訳ございません」
自分では分からないが相当険しい顔をしていたのか、酷く怯えている。
「オリヴィア嬢が謝ることなどない。あの場でアイリスの味方をしてくれたのだろう?」
「ですが、友人になってくださったのに、私が突き放す態度をとってしまって傷つけてしまいました……」
突き放したという事実だけを見るのならオリヴィアにも怒りが湧くが、本当に辛そうにしているのを見ると事情があるのではと思った。
「理由があるのなら教えてくれ」
「……夫のノアと、令嬢のノアさまは昔親同士に交流がありました。ただ、ノアは少し周りより成長が遅くて身体も弱かった。同じ名だというのも気に入らなかったのでしょう。……色々とあって、親同士も今は友人関係ではありません。騎士としてここまで来るのも、相当苦労しましたし、結婚したことも気に入らないようです。だから、アイリスさまと一緒にいて、これ以上目をつけられてしまったら、夫に影響が出ると思って、でも私、本当に酷い態度をとってしまいました」
そう語る表情を怒りと悲しみと後悔が混ざり合っている。
この様子なら、アイリスの友人としていても大丈夫だろう
「そうか、私がきちんと対処する。オリヴィア嬢さえ良ければアイリスと今後も仲良くしてやってくれ」
「私でよろしいのですか?」
「ああ、アイリスもそう願っていると思う。ただ、私が対処するとなるとノアにも伝えておいた方が良い」
「本当にありがとうございます。夫には私から全てを伝えます」
深々と頭を下げるオリヴィア嬢とノアの見送りを背に、俺は既にこれからの策を構想していた。
今まで散々アイリスを侮辱し、苦しめてきたのだ。
それにアイリスは今や次期夫人となったのだから、アンスリウム家への侮辱とも言える。
リューヌからの報告でもあの家門らは問題が多いことだし、ここはもう中途半端ではなく徹底的に追い詰めよう。
「本日も来てくださったのですか?申し訳ありません。まだ体調が……。イザークさまはお忙しいのですから、私のことはお気になさらないでください」
あの茶会の日から、アイリスは部屋から出てこず何かに恐れているように見受けられる。
私を避けているというよりは、独りの世界に入って苦しんでいるような────。
ノアの妻は多少のいざこざはあれど、今のところ悪い噂はほとんど聞かない上に、リューヌからはアイリスがとても楽しみにしている様子を伝えられていた。
一体何が彼女を苦しめているのか?
人間は体調を崩せば精神的にも不安定になってしまうものだ。
それは多少仕方のないことなのだが、今回は違うように思えて胸騒ぎがする。
「……聞きに行った方が良さそうだな」
「急な訪問で申し訳ない」
「滅相もありません。ここまでお急ぎとは何かあったのですか?」
「ちょっと聞きたいことがあってな。妻はいるか?」
「ええっと……それがちょっと、なんだか塞ぎ込んでしまっていて、挨拶ができず申し訳ございません」
普段なら妻であるオリヴィアも挨拶を交わすが、塞ぎ込んでいるという言葉とノアの様子から、やはり茶会で何かがあったのだと確信した。
「少しだけ、オリヴィア嬢と話させてもらえないか」
ノアは迷いを見せつつも、オリヴィアの部屋へと案内してくれた。
「オリヴィア、イザーク団長がオリヴィアと話がしたいそうだ。少しだけ話せる?」
扉越しに声をかけると、少しの間が空いてから、ゆっくりとオリヴィアの姿が見えた。
「イザークさま、お出迎えできず申し訳ありません。宜しければお隣の部屋でお話いたしましょう」
「急にすまない」
「いえ。お気になさらないでください」
元々控えめな人だが、今日は一段と静かだった。
紅茶の香りが広がる。
「本日は、アイリスさまのことでしょうか」
オリヴィアが意を決したように、アイリスの名を出す。
「そうだ。茶会の後からどうも体調が優れなくてな」
私の言葉を聞くと目尻を僅かに下げ、息を一つ吐くと事情を話し出した。
「はぁ、実は……」
語られる出来事に体中の血が熱くなっていく。
彼女が一人どんな思いで今日まで過ごしてきたかを考えると、胸が痛くなった。
私はアイリスのことをそんな風に思ったことなど、一時たりともない。
確かに気は遣うが、苦には感じない。
いつも真っ直ぐで頑張り屋で、あんなに心が綺麗な人と今まで出会ったことなどなかった。
だから、俺はアイリスを守らなくてはならないのだ。
「あの、私、申し訳ございません」
自分では分からないが相当険しい顔をしていたのか、酷く怯えている。
「オリヴィア嬢が謝ることなどない。あの場でアイリスの味方をしてくれたのだろう?」
「ですが、友人になってくださったのに、私が突き放す態度をとってしまって傷つけてしまいました……」
突き放したという事実だけを見るのならオリヴィアにも怒りが湧くが、本当に辛そうにしているのを見ると事情があるのではと思った。
「理由があるのなら教えてくれ」
「……夫のノアと、令嬢のノアさまは昔親同士に交流がありました。ただ、ノアは少し周りより成長が遅くて身体も弱かった。同じ名だというのも気に入らなかったのでしょう。……色々とあって、親同士も今は友人関係ではありません。騎士としてここまで来るのも、相当苦労しましたし、結婚したことも気に入らないようです。だから、アイリスさまと一緒にいて、これ以上目をつけられてしまったら、夫に影響が出ると思って、でも私、本当に酷い態度をとってしまいました」
そう語る表情を怒りと悲しみと後悔が混ざり合っている。
この様子なら、アイリスの友人としていても大丈夫だろう
「そうか、私がきちんと対処する。オリヴィア嬢さえ良ければアイリスと今後も仲良くしてやってくれ」
「私でよろしいのですか?」
「ああ、アイリスもそう願っていると思う。ただ、私が対処するとなるとノアにも伝えておいた方が良い」
「本当にありがとうございます。夫には私から全てを伝えます」
深々と頭を下げるオリヴィア嬢とノアの見送りを背に、俺は既にこれからの策を構想していた。
今まで散々アイリスを侮辱し、苦しめてきたのだ。
それにアイリスは今や次期夫人となったのだから、アンスリウム家への侮辱とも言える。
リューヌからの報告でもあの家門らは問題が多いことだし、ここはもう中途半端ではなく徹底的に追い詰めよう。
34
あなたにおすすめの小説
二年後、可愛かった彼の変貌に興ざめ(偽者でしょう?)
岬 空弥
恋愛
二歳年下のユーレットに人目惚れした侯爵家の一人娘エリシア。自分の気持ちを素直に伝えてくる彼女に戸惑いながらも、次第に彼女に好意を持つようになって行くユーレット。しかし大人になりきれない不器用な彼の言動は周りに誤解を与えるようなものばかりだった。ある日、そんなユーレットの態度を誤解した幼馴染のリーシャによって二人の関係は壊されてしまう。
エリシアの卒業式の日、意を決したユーレットは言った。「俺が卒業したら絶対迎えに行く。だから待っていてほしい」
二年の時は、彼らを成長させたはずなのだが・・・。
しつこい公爵が、わたしを逃がしてくれない
千堂みくま
恋愛
細々と仕事をして生きてきた薬師のノアは、経済的に追い詰められて仕方なく危険な仕事に手を出してしまう。それは因縁の幼なじみ、若き公爵ジオルドに惚れ薬を盛る仕事だった。
失敗して捕らえられたノアに、公爵は「俺の人生を狂わせた女」などと言い、変身魔術がかけられたチョーカーを付けて妙に可愛がる。
ジオルドの指示で王子の友人になったノアは、薬師として成長しようと決意。
公爵から逃げたいノアと、自覚のない思いに悩む公爵の話。
※毎午前中に数話更新します。
恐怖侯爵の後妻になったら、「君を愛することはない」と言われまして。
長岡更紗
恋愛
落ちぶれ子爵令嬢の私、レディアが後妻として嫁いだのは──まさかの恐怖侯爵様!
しかも初夜にいきなり「君を愛することはない」なんて言われちゃいましたが?
だけど、あれ? 娘のシャロットは、なんだかすごく懐いてくれるんですけど!
義理の娘と仲良くなった私、侯爵様のこともちょっと気になりはじめて……
もしかして、愛されるチャンスあるかも? なんて思ってたのに。
「前妻は雲隠れした」って噂と、「死んだのよ」って娘の言葉。
しかも使用人たちは全員、口をつぐんでばかり。
ねえ、どうして? 前妻さんに何があったの?
そして、地下から聞こえてくる叫び声は、一体!?
恐怖侯爵の『本当の顔』を知った時。
私の心は、思ってもみなかった方向へ動き出す。
*他サイトにも公開しています
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
【完結】鈍感令嬢は立派なお婿さまを見つけたい
楠結衣
恋愛
「エリーゼ嬢、婚約はなかったことにして欲しい」
こう告げられたのは、真実の愛を謳歌する小説のような学園の卒業パーティーでも舞踏会でもなんでもなく、学園から帰る馬車の中だったーー。
由緒あるヒビスクス伯爵家の一人娘であるエリーゼは、婚約者候補の方とお付き合いをしてもいつも断られてしまう。傷心のエリーゼが学園に到着すると幼馴染の公爵令息エドモンド様にからかわれてしまう。
そんなエリーゼがある日、運命の二人の糸を結び、真実の愛で結ばれた恋人同士でいくと幸せになれると噂のランターンフェスタで出会ったのは……。
◇イラストは一本梅のの様に描いていただきました
◇タイトルの※は、作中に挿絵イラストがあります
王太子妃クラリスと王子たちの絆【完】
mako
恋愛
以前の投稿をブラッシュアップしました。
ランズ王国フリードリヒ王太子に嫁ぐはリントン王国王女クラリス。
クラリスはかつてランズ王国に留学中に品行不良の王太子を毛嫌いしていた節は
否めないが己の定めを受け、王女として変貌を遂げたクラリスにグリードリヒは
困惑しながらも再会を果たしその後王国として栄光を辿る物語です。
【完結】 君を愛せないと言われたので「あーそーですか」とやり過ごしてみたら執着されたんですが!?
紬あおい
恋愛
誰が見ても家格の釣り合わない婚約者同士。
「君を愛せない」と宣言されたので、適当に「あーそーですか」とやり過ごしてみたら…?
眉目秀麗な筈のレリウスが、実は執着溺愛男子で、あまりのギャップに気持ちが追い付かない平凡なリリンス。
そんな2人が心を通わせ、無事に結婚出来るのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる