病弱令嬢ですが愛されなくとも生き抜きます〜そう思ってたのに甘い日々?〜

白川

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本編

13 結婚準備と騎士

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※一部、多少暴力的な穏やかではない場面が出てきます。読まれる方はご了承ください。


 あれからリューヌによって結婚式に向けて準備しなくてはならないこと、当日にしなくてはならないことを呪文のように説明された。
 どれだけ幸せなことでもさすがに頭が痛くなるのだな、と思いながら相槌あいずちを打っていた。
 それともう一つ、イザークさまから告げられたことがある。

「一切外には出なくて良い。ドレスもデザイナーを屋敷に呼び出す」

 招待客リストの作成など打ち合わせは屋敷内で済ませることも多いけれど、いくら貴族だからといって稀少きしょうなデザイナーを呼び寄せるということはほとんどない。
 しかし、これは私を思ってくださるからこそだろう。
 現に軽くこちらからおもむくことを提案してみたら、すぐさま却下されてしまったのである。

「駄目だ。アイリスは無理をしてしまうからな。辛くなれば何も気にせず必ず言え」

 



 そして今そのデザイナーの方が来てくださっているのだけれど……。
 なんと言えばいいのだろうか。

「暑いか?寒くないか?何か飲み物はいるか?」
「ありがとうございます。イザークさまがたくさん気にかけてくださっているおかげで、快適に過ごせていますよ」
「そうか。なら良い」
 安心してもらえるようにつとめてより柔らかい笑みを見せると、心配顔がやっと多少緩和するのだ。
 これが所謂いわゆる「至れり尽くせり」というものだろうか?
 冷徹無慈悲などと思い込んでしまってる人々も、彼の今の様子を見れば必ず誤解が解けると思うのに。


 
「では、早速ですが奥さまはどのようなドレスがお好みで?」
 デザイナーの方は中性的で、同性にも羨望せんぼうの眼差しを向けられるであろう格好良い女性だ。
「貴女がデザインなされたドレスを拝見したのですけれど、どれもとても素敵だったから基本的にはお任せしたいと考えています。ただ一つだけお願いがあって、このお花はどこかにあると嬉しいわ」
「私もそのブレスレットが目に入った時、素敵だと思っていました。……少しずつ浮かんできます。一度持ち帰ってデザインを練りますね。きっと特別なウェディングドレスを作りますので、お任せくださいませ」
 私の話を聞いたやいなや軽く筆を走らせ、風のように帰っていかれた。


「あ、あら。意外とすぐに終わってしまいましたね」
「あのデザイナーは天才肌だからな。あまり長居はしないのだろう。それより要望はあれだけで良かったのか?」
 イザークさまは私を心配そうに伺い見る。
「ええ。彼女はきっと私たちのことをたくさん思って作ってくれる気がするのです。それに、このお花は私たちを結んでくれたと思っているのです。だから充分ですよ」
 そう答えると彼が固まってしまい、急に恥ずかしさが押し寄せる。
(私だけこんなこと言ってしまって重かったかしら?変に思われてしまっていたらどうしましょう……)


「……指輪は俺に任せてくれないか」


 いつにも増して真剣な目を見てしまえば、理由を聞かずとも首を縦に頷いてしまう。

「ありがとう。まだ馬車が出発していないかもしれない。話があるから待っててくれ」
 品を失わない程度の駆け足で出ていくと、入れ替わりにエマが入ってくる。


「お嬢さまの花嫁姿、この世で一番素敵なのでしょうね」
 エマはとても嬉しそうで、寂しそうに見える。
「もう、エマったら。私たちこれからもずっと一緒でしょう?でもエマが結婚して私から離れることになった時は……きっと笑顔で背中を押すわ」
「仮にこれから先結婚したとしても、私がお嬢さまから離れることはありません!」
 少し拗ねたようなエマを見ていると昔を思い出し、私まで何だか言い表せない感情になる。
 以前、他国の書籍に書かれていた言葉があった。
 (いいえ、違うわ。懐かしい気持ちになっただけ。私はマリッジブルーだなんてならないもの)



 
「お届け物です」
 物思いにふけていると、聞き覚えのない声が聞こえた。
 その場に留まるように促され、少し離れて息を潜める。

「どなたからでしょうか」
「結婚式装飾品のご確認をお願いいたします。本日この時間にお届けすることになっておりましたが、出直しましょうか?」
「……確かにそのように話は聞いておりました。私が代理してお受け取りいたします」
「あぁ、イザークさまからご婚約者さまに確認を取ってほしいと伺っております」 

 エマが考えあぐねているのを見て、近づいた。
「どうぞお入りになられて」
「お嬢さま宜しいのですか?」
「ここは騎士団出身の者がいるのよ。信頼された人間しか入れないはず」
 そう言うとエマは納得したように訪問者を招き入れた。

「こちらご確認ください」

「どういうこと?」
 開けられた箱を覗き込むと、それは何一つとして入っていない空箱だった。

 ────振り返ると同時に、刃物が振り下ろされる。

「お嬢さま!!」
 エマが間一髪かんいっぱつ体あたりしてくれたおかげで刺されずに済んだが、すぐに男は立ち上がり私を刺そうとしてくる。
 逃げてもすぐに追いつかれてしまい、エマが何度も間に入ることに男は苛ついた様子で彼女にまで振り下ろそうとした。
「やめて!!」
 近くにあった花瓶を投げつけると、男の手に当たり一筋の血が流れた。

「チッ……」
 流れる血を睨み見ると、縛りが全くなくなったように振りかざす。

(私、こんな所で本当に終わってしまうの?)




 
「だめ!!」
 小さな影が間に入り、鋭い音が聞こえた。
「アダン!?危ないから逃げて!」
 懸命に男と私の間で何度も戦ってくれているが、まだまだ幼子だ。
 今にも震える腕は負けてしまいそうで、アダンが私を守ったがために刺されるのではと恐怖に襲われる。

 ────その時。
 まばゆい光が立ち塞がる。

貴様きさま……!」
 イザークさまが屋敷に戻って音を聞きつけたのか、彼らの間に入り男の刃物を弾き飛ばす。
 すると瞬きをしただけではないか、という程素早く男を拘束した。
「誰の差し金だ」
「言うはずないだろう?」
「答えないというのならば、今この場でしょす」
 出会ってから一度も聞いたことのない、地面に響くような低く冷たい声。

「……直接依頼してきたのは新聞に出てた令嬢だ。しかし、あれは裏がいるな」
「裏だと?」
「騎士団だって目つけてんだろ。そいつらだ」
「……お前の処分はのちに下す」
 手で指示を出し、リューヌ率いる複数の使用人が乱雑にどこかへ連行していく。

 

大事だいじないか?すぐに医者を呼ぶ」
 振り返ってこちらに歩み寄るイザークさまの表情はもう柔らいでいる。
「私は、大丈夫です。また助けてくださってありがとうございます」
 声は意思とは関係なく震えてしまうけれど、こうして生きていられていることが全てなのだ。
「当たり前だ、君の婚約者なのだから。……いや、このようなこと言う資格はないな。またこんな怖い思いをさせてしまってすまなかった」
 何かを躊躇ためらいったように頬に硬いてのひらが添えられる。

 彼にはそんな悲しい瞳をしないでほしい。
 恐れるように触れないでほしい。

「イザークさまは何も悪くないでしょう?こうしていつも私を守ってくださいます」
「いや、悪い。せめて屋敷の中は安心して過ごさせてやりたいのに、俺が目を離したからだ」

 酷く自責じせきする彼に胸が痛み、頬に添えられた手を握る。
 やっと私を見てくれた彼の瞳を想いを込めて見つめた。
 言葉じゃ、伝わらない気がして。


 短くも長い時間をそうしていると彼は一度目を強く瞑って、私の瞳を力強い眼差しで見つめた。

「……必ず守る。こんな思い二度とさせない」
「イザークさま……」
 胸が優しく締めつけられていつまでもそうしていたいと思う。
 けれど、彼の他にも大事な存在がその場にいる。

「アダンとエマが守ってくれました。早く二人もお医者さまに診ていただかないと」

 
 私たちはもちろんのこと、その日の屋敷は止めなく慌ただしかった。



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