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環境変化編 第九章:自分の力で根を下ろす
異世界再認識 店主、再始動
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この世界には魔法は数多く存在する。
しかし、例えば失った命が蘇ったり壊れた物が元通りになるような、時の流れに反する魔法は存在しない。
『法具店アマミ』の扉も、それを利用して時間の進行を遅くすることは出来ても、逆行することはない。
ゆえに、この世界で『死』を迎えることは、店主が住んでいた世界での『死』と同義である。
だからこそこの世界の主流の宗教は『天流教』という名前なのだ。
店主とて、『死』は恐れる。
やりたいことはある。店主が進めている何かをすべて途中で止める、放棄するようなことはしたくない。
何より本能がある。死にたいと思うことがあっても、生きたいという思いは止められない。
しかし『死』を恐れるあまり、やりたいことができないままだったりすべてが中途半端で終わるのなら、その人生には悔いしか残らないではないか。
無念の余り誰かに託すということすら出来ない。
自分の意志で中断するならまだ割り切れる。
それが他者の都合で自分の人生を止めさせられるのだ。
自分に手を下した後、その者はどんな行動をとるだろう?
被害を広げないようにわずかでも抵抗をするという、英雄的な発想は店主にはない。
自分の手掛ける石が持っている力をすべて発揮できるように、自分自身もまた、自分の力をむき出しにして、その恐怖に立ち向かうだけ。店主にはそんな思いしかない。
(そもそも俺が作った道具の持ち主は、死と隣り合わせの仕事を何度もしてきた奴らじゃねぇか。なのにその作り手の俺がびくついたままで仕事して、あいつらに胸を張って持ち主にふさわしい自信作だって言えるかよ!)
店主の思いは強がりかもしれない。店主が腕っぷしで勝てる冒険者など皆無なのだから。
しかし本音でもある。
悔いの残らない、恥ずかしくない、胸を張って誇れる仕事をするだけで十分。
黒い鳥の獣人に襲われてからの自分はどうだったか。
その欠片すらも見つからない心境だったではないか。
この病院を後にしてから数秒しか持たない命であっても、最後はせめて、そう言い切れる自分でありたい。
[ぃよしっ! 店に帰るか! いつまでも燻っていられねぇっ!]
ベッドから降り、立つその足にも力は漲る。
だがしかし。
ぐうぅぅ。
という音が、店主の腹から聞こえてくる。
この世界には、生理現象に逆らう魔法も存在しなかった。
[……昼時か……。飯、食ってからにしようか]
─────────────
「『退院したい』ねぇ……。あたしは反対。まだ顔色、悪いよ? セレナが、帰って来るの、待てないなら、もっと力、つけてから」
外から持ち込んだ弁当などを店主にも分けて一緒に食事をするニィナは、そんな意見を出す。
たしかにそんな顔色で退院した直後に倒れられたら、彼女の夢見も悪かろう。
様子を見に来たジムナーも、ニィナに同意する。
「せめてこけた頬の影が消えてからにしてほしいね。あたしゃ病院の医者みたいに無責任に退院を押し付ける気はないから」
病院の設備や人員にトゲを向けるような言葉にニィナは苦笑い。
ニィナはジムナーの言葉を、分かりやすくゆっくりと店主に伝える。
確かに人に悪い気分をさせてしまえば、その後何をしても胸を張れる行為であるとは言えない。
店主は二人の言うことを聞き分けた。
とは言え、診療所に籠り切りと言うのも心身ともに健全とは言えない。
「え? 『この国の言葉、勉強できる本とか、ほしい。お金ある。買ってきて』だって? ……『店に戻ると、また変な奴と、会うのは、困る』か。……二回くらい書き置きしに行ったんだけどね。まぁいっか。前向きになる事はいいことだ。でも確かに正体不明の奴と出くわす可能性はあるねえ。用心するに越したことないから、明日買いに行ってやるよ。それまでは……放映番組で勉強になりそうなとこつけてやるよ。勉強なら付き合ってやる。あぁ、気にしなくていいよいいよ」
ニィナはジムナーに許可を得て、病室に放映機を持ち込む。
「あたしに兄弟姉妹たくさんいてさ、幼い弟妹にこうして文字の勉強してやったもんだ。なっつかしいなぁ。あははは。下から三番目だったかなぁ、弟なら一番下だったな。今何やってんのかな……。大人びてきたら、だんだん周りに気遣いだしてさ。家を出てったんだ。あたしはもう家から独立してあの店やってたから一緒に住んでたんだけど、あたしにも気遣い始めてさ……今頃何やってんのかねぇ……」
放映機で子供向け番組を見て、昔のことを思い出したのだろうか、ニィナは軽く身の上話を始めた。
「あ、いかんいかん。さ、文字と言葉の勉強だね。それと聞き取りの勉強もしなきゃ普通に会話できねぇぞ?」
店主は文字の勉強以外何もすることがない。
しかしようやく店主の顔に表情が戻って来た。
しかし、例えば失った命が蘇ったり壊れた物が元通りになるような、時の流れに反する魔法は存在しない。
『法具店アマミ』の扉も、それを利用して時間の進行を遅くすることは出来ても、逆行することはない。
ゆえに、この世界で『死』を迎えることは、店主が住んでいた世界での『死』と同義である。
だからこそこの世界の主流の宗教は『天流教』という名前なのだ。
店主とて、『死』は恐れる。
やりたいことはある。店主が進めている何かをすべて途中で止める、放棄するようなことはしたくない。
何より本能がある。死にたいと思うことがあっても、生きたいという思いは止められない。
しかし『死』を恐れるあまり、やりたいことができないままだったりすべてが中途半端で終わるのなら、その人生には悔いしか残らないではないか。
無念の余り誰かに託すということすら出来ない。
自分の意志で中断するならまだ割り切れる。
それが他者の都合で自分の人生を止めさせられるのだ。
自分に手を下した後、その者はどんな行動をとるだろう?
被害を広げないようにわずかでも抵抗をするという、英雄的な発想は店主にはない。
自分の手掛ける石が持っている力をすべて発揮できるように、自分自身もまた、自分の力をむき出しにして、その恐怖に立ち向かうだけ。店主にはそんな思いしかない。
(そもそも俺が作った道具の持ち主は、死と隣り合わせの仕事を何度もしてきた奴らじゃねぇか。なのにその作り手の俺がびくついたままで仕事して、あいつらに胸を張って持ち主にふさわしい自信作だって言えるかよ!)
店主の思いは強がりかもしれない。店主が腕っぷしで勝てる冒険者など皆無なのだから。
しかし本音でもある。
悔いの残らない、恥ずかしくない、胸を張って誇れる仕事をするだけで十分。
黒い鳥の獣人に襲われてからの自分はどうだったか。
その欠片すらも見つからない心境だったではないか。
この病院を後にしてから数秒しか持たない命であっても、最後はせめて、そう言い切れる自分でありたい。
[ぃよしっ! 店に帰るか! いつまでも燻っていられねぇっ!]
ベッドから降り、立つその足にも力は漲る。
だがしかし。
ぐうぅぅ。
という音が、店主の腹から聞こえてくる。
この世界には、生理現象に逆らう魔法も存在しなかった。
[……昼時か……。飯、食ってからにしようか]
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「『退院したい』ねぇ……。あたしは反対。まだ顔色、悪いよ? セレナが、帰って来るの、待てないなら、もっと力、つけてから」
外から持ち込んだ弁当などを店主にも分けて一緒に食事をするニィナは、そんな意見を出す。
たしかにそんな顔色で退院した直後に倒れられたら、彼女の夢見も悪かろう。
様子を見に来たジムナーも、ニィナに同意する。
「せめてこけた頬の影が消えてからにしてほしいね。あたしゃ病院の医者みたいに無責任に退院を押し付ける気はないから」
病院の設備や人員にトゲを向けるような言葉にニィナは苦笑い。
ニィナはジムナーの言葉を、分かりやすくゆっくりと店主に伝える。
確かに人に悪い気分をさせてしまえば、その後何をしても胸を張れる行為であるとは言えない。
店主は二人の言うことを聞き分けた。
とは言え、診療所に籠り切りと言うのも心身ともに健全とは言えない。
「え? 『この国の言葉、勉強できる本とか、ほしい。お金ある。買ってきて』だって? ……『店に戻ると、また変な奴と、会うのは、困る』か。……二回くらい書き置きしに行ったんだけどね。まぁいっか。前向きになる事はいいことだ。でも確かに正体不明の奴と出くわす可能性はあるねえ。用心するに越したことないから、明日買いに行ってやるよ。それまでは……放映番組で勉強になりそうなとこつけてやるよ。勉強なら付き合ってやる。あぁ、気にしなくていいよいいよ」
ニィナはジムナーに許可を得て、病室に放映機を持ち込む。
「あたしに兄弟姉妹たくさんいてさ、幼い弟妹にこうして文字の勉強してやったもんだ。なっつかしいなぁ。あははは。下から三番目だったかなぁ、弟なら一番下だったな。今何やってんのかな……。大人びてきたら、だんだん周りに気遣いだしてさ。家を出てったんだ。あたしはもう家から独立してあの店やってたから一緒に住んでたんだけど、あたしにも気遣い始めてさ……今頃何やってんのかねぇ……」
放映機で子供向け番組を見て、昔のことを思い出したのだろうか、ニィナは軽く身の上話を始めた。
「あ、いかんいかん。さ、文字と言葉の勉強だね。それと聞き取りの勉強もしなきゃ普通に会話できねぇぞ?」
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しかしようやく店主の顔に表情が戻って来た。
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