美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

文字の大きさ
230 / 290
環境変化編 第九章:自分の力で根を下ろす

再会 怒り、涙、笑顔とともに、そして

しおりを挟む
 謎の来訪者の仕業で意識不明になった店主とニィナ。
 間もなく回復したニィナには異変はなかったが、店主はこの国の言葉を理解する力を失ってしまった。
 その力は元々店主の物ではなく、天流法国の法王ウルヴェスから褒美として賜った力。
 だからその力が消えたり奪われたりする可能性はあった。
 この世界に借りを作りたくない店主は、日ごろからわずかな自由時間を見つけ、その中からさらに人目に触れない時間に人知れず、この国の言語を身につける。
 普通に会話を交わすことは出来ないが、筆談や分かりやすい言葉でゆっくり話しかけられたりすれば意思疎通は可能なレベル。
 しかしここでは、存在することは有り得ないと思われている別の世界から来たことになる店主。思わず日本語を出してしまい周囲に怪しまれる。
 更に命の危険が身近に迫っている可能性もあり、そんな切羽詰まりそうな状況の中店主は何とか立ち直る。
 適した施設に入院しており、店主は退院を希望するものの医師のジムナーとニィナによって思い止まり、退院の許可をもらうまでは語学に励むことにした。

 セレナが斡旋所に出掛けて依頼を受けに行き、店主が意識を失わされた日から三日目。
 ニィナがジムナー魔術診療所に入院している店主の見舞いに行くのは、店主の朝食が終わった頃。
 特に店主の健康が損なわれているわけではないが、体力的に衰えているため外出はなるべくしないように言い渡されている。
 そんな店主に代わって、ニィナは大陸語習得の教本を買いに行くため病室を出た。

[やれやれ。早くこの国の言葉にも馴染まないとな。……今の言葉を大陸語に訳すと……]

「やれやれ、早くこの国の言葉に馴染まないと」

(でいいのか? 判定してくれる誰かがいないと、正しいかどうかわからんな)

 病室の外の、遠く離れたところから足音が鳴り響き、何やら近づいて来る様子。

(大勢で押し寄せるって感じだな。そう言えば他にも入院患者はいるんだよな。当然見舞客もいるはずだ。それに気付かなかったとは、今まで随分気持ちに余裕がなかったと……。え?)

 その足音は大きくなり、店主がいる病室の前で消えた。
 その代り、数人が扉の前で何やら騒がしく会話をしている様子が室内からも窺えた。

「テンシュッ!」
「今まで何してたのよっ!」
「心配したんだからっ!」
「水くせぇんだって! ホントにもう!」
「一体どうしたって言うんですか!」

[お……お前ら……]

「噂を聞いて駆け付けたんですよっ! どこからか来た法具屋の店主が、どこの国でもない言葉を口にして、魔術診療所に入院したって! 気まぐれにも程があるでしょう!」

「その噂聞いてよ、ひょっとしたらテンシュのことじゃねぇかってよ!」

「言葉通じないかもしんないけど……思いっきり言わせてもらうわっ! こぉんの……」

「「「「「バカテンシュッ!!」」」」」

 病室に飛び込んできたのは五人。
 その五人が一斉に声を合わせる。
 もちろん店主には、この国の言葉を聞いてもすぐには理解できない。
 だが店主は見覚えのある顔を見渡して、日本語で言い返す。

[名前、覚えてねぇけど、いい加減その道具から卒業しろよ、お前ら]

「……ぷっ。何言ってんのか分かんないけど、言いたいこと分かるわ。名前、覚えてないんでしょう。ホントに相変わらずなんだから、テンシュは」

「『風刃隊』だってばっ。まったくいつになったら覚えてくれるのやら」

「だがそれなりに元気そうでよかった。俺、ここの先生に挨拶してくるわ」

 ワイアットはそう言うとすぐに病室を出る。
 他の四人は、店主が座るベッドの周りに囲うようにそばに寄る。

 懐かしむ顔に囲まれた店主は、異文化交流の場に放り投げられた気分になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...