234 / 290
環境変化編 第九章:自分の力で根を下ろす
再会 次に来たのは「テンシュ」 そして
しおりを挟む
夕刻。
ジムナー魔術診療所に入院している店主の胸に泣きながら飛び込んだ、白銀の鎧を全身に纏っているセレナ。
想像もしない事態に、そして噂を聞いてすぐに駆け付けたくても既に依頼を受けている以上それが出来なかったことを悔いて泣いている。
そして店主は……。
[痛ぇっ……]
頭を押さえてもがいていた。
頭頂部に鈍痛がいきなりやって来たのである。
セレナの出せる限りの全速力の勢いがともなった鎧の金属が、勉強に夢中の店主の頭にぶつかって来たのだから驚くやら痛いやら、一瞬何が起きたのか分からなかった。
店主の頭の痛みがようやく和らいでも、セレナの泣き声は止まらない。
ニィナたちセレナをなだめるが、店主の身に起きたことの原因は自分にあると感じているのか、セレナはそれを受け付けない。
店主は優しくセレナの顔を両手で挟む。
それに気付いたセレナはようやく店主の顔を見る。自分に向けて優しく微笑んでいる店主の顔がそこにあった。
改めて自分への悔恨の思いが強くなる。
店主の両手はセレナの頬から唇の両端に移っていく。
そして……。
「う・る・さ・い」
という店主のゆっくりした言葉と共に、セレナの唇の両端を親指で外側に引っ張る。
「ふぁ?! ふぇんひゅ、ひょっお、ふぇぁぁい、へぇへぇぁーいぇー」
「た・だ・い・ま・くらい、言え」
大陸語の発音も少しは覚えたらしく、たどたどしくも正確に声に出す。
「……性格、変わんないね」
「少しは素直になったかと思ったんですが……。まぁこれはこれでありでしょう。テンシュですし」
「うん、流石テンシュ」
そんな店主の行動と、上手く発音できない「離せー」という声を出すセレナを見ながら、『風刃隊』の面々は呆れながらもある種の安心感を得た。
─────────────
今までニィナ一人きりだけという見舞いの人数の病室に大勢集まっている。
巡回の診察に来たジムナーは目を丸くしたが、いちいち説明するより手間が省けるということで、彼女の診察した結果の説明をする。そのついでに店主からも、身振り手振りと筆談を交え、自分の身に起きた事情と不明な点の推測の話が出、一同は一応理解はできた。
セレナは店主と最初に出会ったときと同じ術をこの病室にかけるが効果がない。
セレナは愕然とする。しかし店主にはそれは予想していたようで、覚えたての言葉を口から出した。
「すごく、どうでもいい」
特に気にすることはなかった。
それに続けてメモに文章を書く。
「まだ何か言いたいことあるのかい? ……『今日の話はここまでで終わる。明日とそのあと、セレナと私だけ知ってる話をする』……ってまだ何かあるのかい。まぁ何にせよもうこんな時間になっちまった。続きは明日だね」
思わぬ見舞客との対面の影響があったか、ニィナがやや疲労を感じた顔で腰を上げる。
「ニィナさん、今までご心配かけてすいません」
セレナが深々と頭を下げる。
彼女にも仕事中噂は耳に届いていた。
連絡を取りたくても取れない状態が続く。
店主には自分の依頼先を伝えていなかったし、ニィナも恐らく不安に思うところもあっただろうという想像は難くない。
逆にニィナは、その顔と言葉でセレナの思いを理解した。
「店の事も気になるだろうけど、今夜はテンシュの傍に居てやんな。……ミュール、これからもしっかりやんなよ。……じゃ、先生、また明日もくるよ」
「……今日はお騒がせしました。セレナさん、テンシュ。俺らも、明日来るから。話、聞かせてよ?」
ニィナの退室に続いて『風刃隊』も病室を出た。
ジムナーはセレナに病室での宿泊の許可を出し、食事も一人分多く手配する。
そして巡回を再開するジムナーも看護師と共にその場を去り、店主とセレナは病室で二人きりになった。
ジムナー魔術診療所に入院している店主の胸に泣きながら飛び込んだ、白銀の鎧を全身に纏っているセレナ。
想像もしない事態に、そして噂を聞いてすぐに駆け付けたくても既に依頼を受けている以上それが出来なかったことを悔いて泣いている。
そして店主は……。
[痛ぇっ……]
頭を押さえてもがいていた。
頭頂部に鈍痛がいきなりやって来たのである。
セレナの出せる限りの全速力の勢いがともなった鎧の金属が、勉強に夢中の店主の頭にぶつかって来たのだから驚くやら痛いやら、一瞬何が起きたのか分からなかった。
店主の頭の痛みがようやく和らいでも、セレナの泣き声は止まらない。
ニィナたちセレナをなだめるが、店主の身に起きたことの原因は自分にあると感じているのか、セレナはそれを受け付けない。
店主は優しくセレナの顔を両手で挟む。
それに気付いたセレナはようやく店主の顔を見る。自分に向けて優しく微笑んでいる店主の顔がそこにあった。
改めて自分への悔恨の思いが強くなる。
店主の両手はセレナの頬から唇の両端に移っていく。
そして……。
「う・る・さ・い」
という店主のゆっくりした言葉と共に、セレナの唇の両端を親指で外側に引っ張る。
「ふぁ?! ふぇんひゅ、ひょっお、ふぇぁぁい、へぇへぇぁーいぇー」
「た・だ・い・ま・くらい、言え」
大陸語の発音も少しは覚えたらしく、たどたどしくも正確に声に出す。
「……性格、変わんないね」
「少しは素直になったかと思ったんですが……。まぁこれはこれでありでしょう。テンシュですし」
「うん、流石テンシュ」
そんな店主の行動と、上手く発音できない「離せー」という声を出すセレナを見ながら、『風刃隊』の面々は呆れながらもある種の安心感を得た。
─────────────
今までニィナ一人きりだけという見舞いの人数の病室に大勢集まっている。
巡回の診察に来たジムナーは目を丸くしたが、いちいち説明するより手間が省けるということで、彼女の診察した結果の説明をする。そのついでに店主からも、身振り手振りと筆談を交え、自分の身に起きた事情と不明な点の推測の話が出、一同は一応理解はできた。
セレナは店主と最初に出会ったときと同じ術をこの病室にかけるが効果がない。
セレナは愕然とする。しかし店主にはそれは予想していたようで、覚えたての言葉を口から出した。
「すごく、どうでもいい」
特に気にすることはなかった。
それに続けてメモに文章を書く。
「まだ何か言いたいことあるのかい? ……『今日の話はここまでで終わる。明日とそのあと、セレナと私だけ知ってる話をする』……ってまだ何かあるのかい。まぁ何にせよもうこんな時間になっちまった。続きは明日だね」
思わぬ見舞客との対面の影響があったか、ニィナがやや疲労を感じた顔で腰を上げる。
「ニィナさん、今までご心配かけてすいません」
セレナが深々と頭を下げる。
彼女にも仕事中噂は耳に届いていた。
連絡を取りたくても取れない状態が続く。
店主には自分の依頼先を伝えていなかったし、ニィナも恐らく不安に思うところもあっただろうという想像は難くない。
逆にニィナは、その顔と言葉でセレナの思いを理解した。
「店の事も気になるだろうけど、今夜はテンシュの傍に居てやんな。……ミュール、これからもしっかりやんなよ。……じゃ、先生、また明日もくるよ」
「……今日はお騒がせしました。セレナさん、テンシュ。俺らも、明日来るから。話、聞かせてよ?」
ニィナの退室に続いて『風刃隊』も病室を出た。
ジムナーはセレナに病室での宿泊の許可を出し、食事も一人分多く手配する。
そして巡回を再開するジムナーも看護師と共にその場を去り、店主とセレナは病室で二人きりになった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる