285 / 290
出発・別離・帰宅・番(つがい)編 帰宅
『法具店アマミ』にて その言葉は、待っていたものなら誰でも
しおりを挟む
翌朝、意外なことにウルヴェスがやってきたのは開店前。
いつもは勉強会が終わるあたりか終わった後に来ていた彼女が、店主がこの日最初にあった人物となった。
「シエラ嬢にも伝えねばならんじゃろ?」
面倒くさい役割は真っ平御免な店主。相変わらずである。
それを見越して彼女はやってきたというわけである。
(良かったじゃない。これって説明するの、私だって面倒よ)
セレナはそう言いながら店主の体にまとわりつく。
普通の状態ならうっとおしくて仕方がないだろうが、いかんせん肉体はない。
目の前でうろうろされても、その向こうの景色は透けて見える。何かの邪魔になるようなこともない。
「当事者が面倒がるなよ」
「……声も聞こえん。姿も見えん。じゃがどんな会話をしとるのか、今のテンシュの言葉で大体分かった」
苦笑いのウルヴェス。
「う゛~……いつの間にか眠ってた……あ、テンシュさん、帰ってたの?! それと……ウルヴェスさん?! セ、セレナさんは?!」
寝ぼけ眼で二階から降りてきたシエラは、二人の姿を見て目を覚ます。
昨日この二人が店から去ったあとの、ライリーと二人の店番の仕事にはほとんど気が入らない。
無理もないことだが、だからと言って店をいきなり閉めるわけにはいかない。
それでも閉店時間を迎え、戸締りはするがずっと店のカウンターに座って店主が戻るのを待っていた。
ライリーもそれに付き合うが、いつの間にかカウンターに突っ伏して眠るシエラ。
ライリーは、彼女の名札がかかっている部屋に連れて行きベッドに寝かせた後皇居に戻る。
そして今に至る。
「セレナは俺にまとわりついている」
そういうことを言う店主を凝視する。
シエラには見えない。そこにいるのは店主とウルヴェスの二人だけ。
「な、何言ってるの? そこにいるのはウルヴェスさんでしょ? ま、まさかセレナさん死んじゃって、店主正気失った?! 正気じゃないのはいつものことだけどっ!」
「どさくさに紛れて何口走ってやがんだてめぇ! 一年間ただ働きさせんぞ!」
「そ、そんなこと言ったって……セレナさんどこにいるのよ、テンシュ!」
「落ち着け、シエラ嬢。天流教はそのためにある」
「へ? あ、あぁ、そっか。え? じゃまさかほんとにいるの?」
ウルヴェスの一言でシエラは落ち着きを取り戻した。
この世界で死者は生前縁の深い者がいれば、その者のそばにいることができる。
しかしそれは本人同士にしか分からないこと。
今ここに店主とシエラの二人きりでいたなら、セレナと話をする店主をシエラからは、何もない空間に向かって独り言を普通の声でしているようにしか見えない。
つまり、事情を知らない者がその現象に遭遇すると、まともな神経を持っていないように見えるのである。
その現象を宗教的現象の一つと受け止め、この世界の社会にも受け入れてもらう。
天流教の存在する目的の一つは、その役割を果たすこと。
「そ、そうか……。セレナさん、帰ってきたんだね……」
(ごめんね。こんな姿になっちゃって。って声も聞こえないんだもんね。ごめんね)
涙をこぼすシエラに、セレナはすまなそうに近づき、両手で彼女の頬を包む。
シエラにはそれすら気付かない。
「……ってことを言ってるぞ。お前の目の前で。言葉聞こえないだろうが、勘弁してやれや、シエラ」
そう解説する店主。これも、何も知らない者が聞けば、やはり正気ではないと思われるだろう。しかし店主には目に見えるありのままをシエラに伝えただけ。
「……うん、勘弁とか、そんなんじゃないよ。ただ、寂しいだけ。天流教の解釈がなかったら、それこそ私、荒れてたかも」
「俺の住んでいた日本とこの世界での宗教の定義は違うだろうが、セレナは俺の目の前にいる。それははっきりと断言する」
店主のその言葉に、悲しげではあるが笑顔に変わるシエラは力強く頷いた。
しかしいつまでも感傷に浸ってはいられない。
「ということで、またガキ共が集まってくんぞ」
「待って、テンシュさん。私まだ何も言ってない」
「何を? 何か言い忘れたことでもあったか?」
「うん。……セレナさん、お帰り」
シエラの目から新たに涙が流れる。しかしその言葉は笑顔と共に出た。
(うん、ただいま、シエラちゃん)
シエラにはセレナの姿は見えないが、店主には二人が親しげに挨拶を交わしているように見えた。
そしてセレナの事情を知らない者達にとって、いつもと変わらない一日が始まる。
いつもは勉強会が終わるあたりか終わった後に来ていた彼女が、店主がこの日最初にあった人物となった。
「シエラ嬢にも伝えねばならんじゃろ?」
面倒くさい役割は真っ平御免な店主。相変わらずである。
それを見越して彼女はやってきたというわけである。
(良かったじゃない。これって説明するの、私だって面倒よ)
セレナはそう言いながら店主の体にまとわりつく。
普通の状態ならうっとおしくて仕方がないだろうが、いかんせん肉体はない。
目の前でうろうろされても、その向こうの景色は透けて見える。何かの邪魔になるようなこともない。
「当事者が面倒がるなよ」
「……声も聞こえん。姿も見えん。じゃがどんな会話をしとるのか、今のテンシュの言葉で大体分かった」
苦笑いのウルヴェス。
「う゛~……いつの間にか眠ってた……あ、テンシュさん、帰ってたの?! それと……ウルヴェスさん?! セ、セレナさんは?!」
寝ぼけ眼で二階から降りてきたシエラは、二人の姿を見て目を覚ます。
昨日この二人が店から去ったあとの、ライリーと二人の店番の仕事にはほとんど気が入らない。
無理もないことだが、だからと言って店をいきなり閉めるわけにはいかない。
それでも閉店時間を迎え、戸締りはするがずっと店のカウンターに座って店主が戻るのを待っていた。
ライリーもそれに付き合うが、いつの間にかカウンターに突っ伏して眠るシエラ。
ライリーは、彼女の名札がかかっている部屋に連れて行きベッドに寝かせた後皇居に戻る。
そして今に至る。
「セレナは俺にまとわりついている」
そういうことを言う店主を凝視する。
シエラには見えない。そこにいるのは店主とウルヴェスの二人だけ。
「な、何言ってるの? そこにいるのはウルヴェスさんでしょ? ま、まさかセレナさん死んじゃって、店主正気失った?! 正気じゃないのはいつものことだけどっ!」
「どさくさに紛れて何口走ってやがんだてめぇ! 一年間ただ働きさせんぞ!」
「そ、そんなこと言ったって……セレナさんどこにいるのよ、テンシュ!」
「落ち着け、シエラ嬢。天流教はそのためにある」
「へ? あ、あぁ、そっか。え? じゃまさかほんとにいるの?」
ウルヴェスの一言でシエラは落ち着きを取り戻した。
この世界で死者は生前縁の深い者がいれば、その者のそばにいることができる。
しかしそれは本人同士にしか分からないこと。
今ここに店主とシエラの二人きりでいたなら、セレナと話をする店主をシエラからは、何もない空間に向かって独り言を普通の声でしているようにしか見えない。
つまり、事情を知らない者がその現象に遭遇すると、まともな神経を持っていないように見えるのである。
その現象を宗教的現象の一つと受け止め、この世界の社会にも受け入れてもらう。
天流教の存在する目的の一つは、その役割を果たすこと。
「そ、そうか……。セレナさん、帰ってきたんだね……」
(ごめんね。こんな姿になっちゃって。って声も聞こえないんだもんね。ごめんね)
涙をこぼすシエラに、セレナはすまなそうに近づき、両手で彼女の頬を包む。
シエラにはそれすら気付かない。
「……ってことを言ってるぞ。お前の目の前で。言葉聞こえないだろうが、勘弁してやれや、シエラ」
そう解説する店主。これも、何も知らない者が聞けば、やはり正気ではないと思われるだろう。しかし店主には目に見えるありのままをシエラに伝えただけ。
「……うん、勘弁とか、そんなんじゃないよ。ただ、寂しいだけ。天流教の解釈がなかったら、それこそ私、荒れてたかも」
「俺の住んでいた日本とこの世界での宗教の定義は違うだろうが、セレナは俺の目の前にいる。それははっきりと断言する」
店主のその言葉に、悲しげではあるが笑顔に変わるシエラは力強く頷いた。
しかしいつまでも感傷に浸ってはいられない。
「ということで、またガキ共が集まってくんぞ」
「待って、テンシュさん。私まだ何も言ってない」
「何を? 何か言い忘れたことでもあったか?」
「うん。……セレナさん、お帰り」
シエラの目から新たに涙が流れる。しかしその言葉は笑顔と共に出た。
(うん、ただいま、シエラちゃん)
シエラにはセレナの姿は見えないが、店主には二人が親しげに挨拶を交わしているように見えた。
そしてセレナの事情を知らない者達にとって、いつもと変わらない一日が始まる。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる