美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

文字の大きさ
41 / 290
巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇

近所の客一組目 2

しおりを挟む
 店主はこの世界の事や住民達には関心はない。それでも耳に新鮮な話なら自然と入る。

 セレナの年齢は三桁と言う話をどこかですでに聞いている。そんな彼女をちゃん付けで呼ぶ目の前の老エルフ。セレナの年齢を遥かに上回ってはいるように見えるが、五世紀も六世紀も生きてきたのだろうかとふと思う。

「セレナちゃんが行方不明って噂を聞いて、ここら辺の店の者達ゃあ随分心配したんじゃが、すぐ戻って来れたようで何よりじゃったな。けどな、何日か前から店から物を出し入れしとったのを見ての。どっかに引っ越すんかのぉと思うてたが、兄ちゃんの話だと一緒に店続けるっちゅうことかの?」

 セレナは店のリニューアルについては知り合いどころか、近所にも通達していなかったようだ。
 店の名前が変わる。店の中にいる人も初めて見る顔。彼女が客から相当の信頼を得ているなら、ヒューリアのような反応をする者も少なくはないことは目に見えている。店主の仕事に障らないように、そのような来訪者に分かるように説明する役目も兼ねている警備のボランティアの彼女たち。だが近所への報せまで請け負うのは難しい。

「セレナってば、周りに何も言ってなかったのかしら?」
「兼業冒険者だったからねぇ。そこまで気が回らなかったのかも」

「それで、チェリムさん、でしたっけ。何かお買い求めですか?」

 店主はこの世界や近所に無関心でも問題はない。この世界の住人ではないのだから。
 しかしセレナは違う。経営者相手でも冒険者相手でも、もう少し関心を向けるべきだろう。
 何かに夢中になると周囲に目を向けない子供っぽい性格もあるのだろうか。店主は脳内のセレナにダメ出しを何度もくらわすように首を振りながらチェリムに用件を尋ねる。

「孫娘が結婚して嫁に嫁ぐんじゃ。と言っても隣町に住むんで、そんなに嫁に出す寂しさなんて感じんがな。けど孫娘として最後の贈り物(もん)をしたいんじゃよ。キラキラしたもんがええかのと思うての」

「でしたら、装飾品を扱う店に行かれたらいかがでしょう? 店を新しくしたはいいんですが品揃えがまだ十分ではありません。揃える前に依頼を受けてしまったので、チェリムさんが納得がいく物をここで手に入れるとなると式に間に合わせるのも難しいですよ」

 老人は足に肘をつけ頬杖を突く。水平だった耳の向きがやや下に向く。店主は上から見下ろしているため老人の表情は見えないが、少し沈み込んだ気持ちを表しているようだ。

 近所で自営店を開き、次の世代に譲って隠居しているエルフ種の老人チェリム。
 散歩がてらに立ち寄った『法具店アマミ』。
 店主に持ちかけてきた話は、武器や防具などではなく、儀式の際に身に付ける装飾品の製作の依頼。

「結婚式に花嫁が身につける飾り物を扱う店は、貴金属店とか言うのじゃろ? この商店街にはありはせんな。あったとしてもとても値段が届かんし。毎日ここらを散歩しとるんじゃが、あんまり目にせんキラキラしたモンもあったのをここで見かけたんでな。改めて見るとホントに珍しいもんじゃの、あそこに並んでおるやつは」

 ショーケースの中に展示してある数珠のことを指しているのだろう。確かに数珠はこの世界では使うことはないかもしれない。

 宝石の加工が得意の店主が一番数多く手掛けている品物だ。物珍しい物ならばこの世界では唯一無二。贈り物とするなら間違いなく記念品となるだろう。
    
 だがこの世界で何かを象徴しているわけではない。物珍しいだけで関心を惹く物を儀式での贈呈に用いる思い付きは取り下げる方がいいと店主は思う。この世界の習わしに遵う方が無難である。

 何よりもその孫娘の情報が全く入ってこない。そして老人の話はただの雑談のレベルである。

「花嫁かぁ……ちょっと憧れるかなー」
「うん、でもどっちが妹でどっちが姉か分かる人が相手じゃないとヤよねー」

「私は結婚は遠慮しよう。今の冒険者生活の方が楽しいし」

 老人の話に触発された双子が結婚への思いを語り、ヒューラーがそれに混ざる。

「すぐにでもどこかの魔物退治に行けそうな格好で何語ってんだよお前ら」

 彼女たちの脳内と外側が全くの別世界。頭部と指先以外完璧な冒険者としての装備を身につけている四人に向かって店主は呆れ顔。

「ところでチェリムさんはどんなご用事なんですか?」
「用心棒が何で店員みたいなこと言うんだ、白羽根女……」

 バイトがバイトの役目をせずに、警備員が客に用を聞く。そのあべこべな現象に店主は頭を抑える。
 来客の応対ができればどうでもいいかと諦め、『ホットライン』からの依頼の仕事の続きを再開し、老エルフの話の相手を四人に任せた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...