美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

文字の大きさ
46 / 290
巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇

幕間 一:近所の客が昔話 1

しおりを挟む
「見事なもんじゃのぉ」

 『法具店アマミ』のカウンターの奥の机の上で一心不乱に店主が作業しているのは、冒険者チーム『ホットライン』からの依頼の件。三人目までの防具や道具の製作を完了させ、今は四人目の製作に取り掛かっている。
 『風刃隊』のメンバーの、爬虫類の獣人族の双子姉妹がバイトに来ていたが、一応最初の一区切りの十日間の期間を終えたところで、せっかくの縁と言うこともあり、『ホットライン』のメンバーから模擬戦の誘いを受けた。今頃はおそらくその二チームは鍛錬所で模擬戦を行っている最中。

 作業している店主の斜め後ろから、帽子屋チェリムが感心しながら見物している。

 店主に言わせれば、なぜかこの老エルフから懐かれてしまった。

 先の結婚式の贈り物の件。結婚する孫娘に贈り物を作ったのはチェリム。
 防寒具なので毛が抜けやすい、擦り減りやすいなどの欠陥を、『法具店アマミ』のオーナーという肩書のエルフのセレナが改良し、二人の合作として完成させた。それを受け取った孫娘夫婦はたいそう喜んだそうだ。

 この成り行きだけを見ると、店主はノータッチである。実際何も手掛けていない。

 だが、なぜかこの老エルフから懐かれてしまった。

 作業に一区切りついた店主は恒例のストレッチを始める。
 そんな店主の心境は、二度ならず三度も四度も同じことを繰り返して言いたい気分。「自分は何も手伝っていなかったのだが」と。

「気にするな。ただワシからそう思われておる。それで十分じゃろ?」
 そんなことをチェリムから言われるが……。

 なぜか懐かれた。

「こっちの作業中を見てるとき、チェリムさんはほとんど動かないからこっちも気にならないので気にしないんですがね」

「ふむ?」

「お茶とかお茶菓子とか何にもなしで見てるってのも大した集中力だなとは思いますが」
「……引退したつもりじゃったがなぁ……孫娘への贈り物を作り上げた後でお前さんの作業見てると、ワシもむくむくと現役続行したい気持ちが湧き上がってきそうでなぁ」

「人生引退しそうな印象受けましたがね。こないだの件の話では」

 長い時間店主の作業を見物あるいは見学するのはその人の勝手ではある。しかしこの店の近所の住人であり、親し気にしてくる相手に何も持て成さないのは流石の店主も悪い気がしたのか、お茶の用意を始める。しかし出てくる言葉はやはり店主節。小声だが。

「ん? なにか―たか?」
「いえ何も」
「ところで今日はテンシュ一人か。セレナ嬢ちゃんはどうしたかの? 孫娘の贈り物作りが終わってから、また見なくなったの」

「またどっかに呼び出されてほぼ一日中いないことが多いですよ。なんかここんとこちょっと落ち込んでるっぽいんで何かあったかなあとは思いますが、こっちはこの仕事をしてるからいられる身なのでね。心配するより仕事優先ですよ」

「何じゃ。お主知らんのか?」

「何が? あ、そうか。チェリムさんには普通に自己紹介してませんでしたね」

 この世界の人間とまともに会話したのって、このエルフが初めてだな。
 そんなことを思いながら、セレナと出会った経緯を語った。

──────────────────────

「そぉうことかぁ。なるほどのぉ」

「何がなるほどなんです?」

「ふむ……ちと話は長くなるが構わんか?」

 『オルデン王国』。

 チェリムはいきなりそんな国名を口にした。
 そして語り始めた中身は、その国の、そんなに遠くない昔の話。

「オルデン・ハンワード。『オルデン王国』の正式な最後の国王の名前だ。ここはその王国の辺鄙な田舎よ。言ったろ? 貴金属店はないと。それほどまでの田舎よ。じゃがな、田舎町も悪くないもんでな。まず農業が盛んで町はほぼ自給自足の生活が成り立っとる」

「普通に生活する分には、他の地域の力を借りずに生きていけるってことですね」

「左様。そればかりか、鉱山から鉱物がたくさん採れて、それが他国に高く売れる。食いもんに売りもんがありゃ町は潤う。高望みしなけりゃ不満はない生活が送れるぞい」

 チェリムの初っ端の話し方で田舎と自虐しているのかと思いきや、この町に愛着があり、誇りに感じているようだ。

「じゃが鉱物が過剰に採れ始めた。それ自体は経済っちゅうもんには大した損害はない」

 いや、損害だろう。
 店主は即座にそう感じた。

 過剰に取れれば希少価値が消える。石や鉱物を見る店主の目には普通の人とは違う価値観を持つ。だが希少価値は、その大小の違いはあるにせよ、なぜ価値が高いかという理由も別になるのだが希少価値の存在は侮れない。

 国や世界の経済については、店主にとっては生活に密着しているようには感じられず、勉強しないと身につかない内容だが、宝石の価値が絡むと強い関心を持ちあれこれと調べ、知識を深めていた。

「いんや。ないんじゃよ。農業に比べればな」
「作物が育たなくなったとか? 例えば土が石に変われば農業に大打撃が起きる」

 発想力が豊かだのぉ。
 そう言いながら笑うチェリム。

「地震じゃよ。しょっちゅう起きる。地中の土じゃったところに大岩が移動する。下手すりゃ岩盤が移動するなんてこともあった。その地震の原因を止めようっちゅう計画があってな」

 地震を止める方法など存在しない。店主の住む日本でも大地震はあちこちに起きた。対抗手段があるとするなら、せいぜい予知の研究くらいではないか。

「有り得ないでしょう。自然のとてつもない力というイメージがあります」

「自然現象ならな。地震を引き起こす輩がいるんじゃよ。しかもそいつは、ただ生きているだけで地震を引き起こす。それだけ巨大なモンが地中にある。退治すりゃ地盤沈下とか、がけ崩れだの地割れだの、いろいろ被害が甚大になるじゃろうな」

 そうなると人が住むどころじゃない。そいつがどんな奴かはわからないが今こうしてあちこちに建物が建っていて人が住んでいる。その暮らし全てをぶち壊すような話ではないか。

「じゃが農業の被害がすでに我々の生活を壊し始めておる。あの忌々しい輩が、人として終わった後もこうして人々を苦しめておるのだからな」

 老エルフが初めて店主に見せる、憎しみがこもった顔。
 もちろん店主に向けられたものではないことは分かっていたが、条件反射で顔を逸らせたくなる。
 辛うじてそれを堪えるが、それでも思わず視線は逸らしてしまった。
 その所作を誤魔化すため、視線の先にあるティーカップに手を伸ばす。
 その間が空くのが、チェリムにとってもいいタイミングであったらしく、彼もお茶を口にする。

「天変は起こらんじゃろうが地異は起きる。それでも構わんとみんな覚悟を決めたと。ま、こういうわけじゃ」

 店主はセレナが自分に語ったことを思い出した。まだ無関心に徹しようと決める前。
 魔物の討伐がどうのと『天美法具店』に初めて彼女が来た時に語っていた。
 店主は、地震の根源と魔物の存在を一致させる。

「で、それを討伐した……? いや待て。あのとき爆発したってセレナが言ってたな。だったらなくなってもおかしくはないが……。まさか、その輩とかいう物はまだ?」

「察しのいいモンは嫌いじゃないぞい。その通り。討伐隊は編成されてそいつ……巨塊(きょかい)とワシらは呼んでいる。ちゅうか、そう呼ばれておるモンじゃが、そいつを倒しに向かったんじゃが」

 巨塊、と店主は口にする。確か誰かからそんな言葉を聞いたような気がする。

 思い返そうとすると、なぜか頭の中に浮かんだのは、セレナの沈んだ顔。
 大勢の願いを達成したなら、少しくらいは明るい表情を見せるはず。
 ということは。

「失敗……しましたか」
「左様。しかも討伐隊も犠牲者を出した。討伐隊っちゅうても、斡旋所で依頼受けて出発する冒険者の集団とは違うぞ。軍隊じゃな。国の軍事力半分以上を討伐隊に組み入れたんじゃ」

「『オルデン王国』自体傾いてしまいそうですね」
「その心配は無用じゃ」

 チェリムは吐き出すように声を出す。
 再びお茶を飲み、静かに言葉を継ぐ。

「とっくにその国は、滅びたんじゃからな」
 チェリムはティーカップを持ちながらやや俯いて、その先の遠くを見るような目つきで力なく言葉をこぼした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...