55 / 290
巨塊討伐編 第一章:「天美法具店」店主、未知の世界と遭遇
幕間 二:店主が仕事以外の話をしてくるんだけど…… 6
しおりを挟む
「さて……あいつはモフモフとやらをしてるのか?」
そう呟きながら、店主は『法具店アマミ』のカウンターへ向かう。
休憩時間や閉店後の片づけや戸締りなどをしている間、勤務中の緊張がやや解ける従業員の間で交わされる会話に店主は巻き込まれた。
これまでのそんな時間は、彼らの会話はただ聞き流すか話しかけられた時には生返事程度でやり過ごしてきた店主だったが、ぬいぐるみトークでよほど親近感を持たれたらしい。
サブカルチャー発祥の日本語のスラングをいろいろと聞かされた。
とは言っても店主にとって聞かされたたくさんの言葉は、来店する客や取引先も普通の会話の中で何度も耳にしている。
聞いたことがあるというレベルから、実用できるというレベルに引き上がっただけの事。
ただそれらの言葉を使うには、抵抗はないがまだ照れはあるようだ。
従業員が今日すべての業務を終えて帰宅した後、店主は『法具店アマミ』に移動した。
『法具店アマミ』も閉店のプレートがドアにかけられている。
『天美法具店』同様鍵をかけて戸締りも済ませているはずだが、世界間を行き来できる店主とセレナはどんな時でも入店可能になっている。
理屈は店主にとってはやはり理解不能。そういうものだと考えるしかない。
「セレナ、今来たぞ」
何も言わないで店に入るのも心苦しい。
かと言ってわざわざ知らせるように声をかけるのも、店主は彼女に気があるという誤解を招きかねない。
一階にいる者にしか聞こえない声量でそう言いながら入る。
「ま、当然二階にいるよな。飯は済ませたかな?」
店主の世界に来たくなるほど気落ちしている昨日の今日。ぬいぐるみを買ってやったところで早々元気になるとは考えられない。
階段を上り二階での様子を見に行く店主だが、さらに考えられない事態に遭遇してしまった。
「お……お前……ら? なんだこれ……」
「あ……えっと……」
「あ、お邪魔してます……」
「えーっと、ご、ごめんなさいっ」
そこにはセレナのほかに、『ホットライン』のリメイクことリメリアとキューリアの二人。
そして床にはほぼ二階前面にわたって綿が散らばっている。
三人の前には買ったばかりのぬいぐるみが、見るも無残な屍をさらしていた。
しかし店主には、それを見て即座にその現実を受け入れることは出来なかった。
「ま……まず、説明聞かせて……もらえるか……?」
店主が辛うじて口から出た声には、だらりと下げた腕の先の拳同様、怒りの感情が静かに込められていた。
▽ ▽ ▽ ▽
連日の聞き取り調査で一方的に質問攻めにあい疲労困憊だったセレナは、第二次巨塊討伐の結果をようやく聞かされ、仲のいい者達や知り合いの多くが死亡もしくは行方不明であることを知った。
確かめに行こう、会いに行ってみよう。討伐の戦場で亡骸がまだそのままなら、自分の目で確かめに行こう。
そんな決心をするが、戦場は絶対に止めるように国の政治家や最高顧問から止められた。
友人の家々を回ることしかできなかったが、取り調べ中に聞かされたその話は事実であることを知る。
いつもそばにいてくれた、あるいは楽しい時間を共に過ごしてきた友人たち、小さい頃から一緒に遊んでいた幼馴染達が一斉に自分のそばから離れてしまい、再び会うことが出来なくなってしまった。
永遠の別れの時は、生きている者同士なら必ずやって来る。
特に他種族よりも寿命が長いエルフ族である。他の種族と混じっていても、エルフ種が少ししか混じっていなくても、エルフ種と繋がっている者ならばそんな意識は誰にでも強く根付いている。
セレナとて分かっていた。だからこそそんな別れの時を突然迎えても、立ち直るために要する時間は決して長くない。
だが流石に一斉に友人を失う現実はセレナにはあまりに堪えた。
その悲しみのあまり、誰かに縋りたい思いに駆られる。思い浮かんだその相手とも、もう会えないと知る。
セレナばかりではなくエルフという種族自体あまり動揺することがない特徴を有しているのだが、取り調べの途中でその経緯を聞き号泣する。聞き取りを担当する第二次巨塊討伐の調査委員もその取り乱しようを見て、流石に毎日連続して尋ねることは酷と判断。
三日ほど休養期間とし、その後の様子次第では期間の延長や聞き取り調査の時間を、これまでの一日のあたりの時間から半分以上減らす予定にした。
その休養の一日目が昨日の事。
溺れる者は藁をもつかむ。
縋りたい第一候補や第二候補などではなく、縋りたい相手をさんざん探してようやく思い当たった藁が自分であることを知った店主は、セレナの理性がまだ残っていたことに安心する。
見知った人物である店主がいるとは言え、突然見知らぬ世界に連れ出され、何をするのか不安な思いもあったが、まさか自分に慰めになるようなプレゼントを買ってくれるなどと夢にも思わなかった。
しかもその買い物の行先は、この世界には存在しない、触り心地抱き心地がいい、しかも可愛い物がたくさん並んでいるぬいぐるみの売り場である。
店主はそこまでの彼女の話を聞いて、ぬいぐるみを手にした時の喜びように納得した。
△ △ △ △
「うむ。理解できた。大変だったなセレナ。で、それがこの有様なんだが?」
店主の問い詰めに即座に反応したのはリメリアとキューリア。
「「ごめんなさいっ!」」
二人が同時に頭を下げる。
それを見た店主の怒りは少しだけ鎮まる。
セレナがやらかしたとしたらさらにもっと激しい怒りが込み上げてきただろう。
「……二人から説明聞いた方が分かりやすいかな?」
「え……えっと……そ、それはこんなことがありまして……」
二人からの説明が始まる。
そう呟きながら、店主は『法具店アマミ』のカウンターへ向かう。
休憩時間や閉店後の片づけや戸締りなどをしている間、勤務中の緊張がやや解ける従業員の間で交わされる会話に店主は巻き込まれた。
これまでのそんな時間は、彼らの会話はただ聞き流すか話しかけられた時には生返事程度でやり過ごしてきた店主だったが、ぬいぐるみトークでよほど親近感を持たれたらしい。
サブカルチャー発祥の日本語のスラングをいろいろと聞かされた。
とは言っても店主にとって聞かされたたくさんの言葉は、来店する客や取引先も普通の会話の中で何度も耳にしている。
聞いたことがあるというレベルから、実用できるというレベルに引き上がっただけの事。
ただそれらの言葉を使うには、抵抗はないがまだ照れはあるようだ。
従業員が今日すべての業務を終えて帰宅した後、店主は『法具店アマミ』に移動した。
『法具店アマミ』も閉店のプレートがドアにかけられている。
『天美法具店』同様鍵をかけて戸締りも済ませているはずだが、世界間を行き来できる店主とセレナはどんな時でも入店可能になっている。
理屈は店主にとってはやはり理解不能。そういうものだと考えるしかない。
「セレナ、今来たぞ」
何も言わないで店に入るのも心苦しい。
かと言ってわざわざ知らせるように声をかけるのも、店主は彼女に気があるという誤解を招きかねない。
一階にいる者にしか聞こえない声量でそう言いながら入る。
「ま、当然二階にいるよな。飯は済ませたかな?」
店主の世界に来たくなるほど気落ちしている昨日の今日。ぬいぐるみを買ってやったところで早々元気になるとは考えられない。
階段を上り二階での様子を見に行く店主だが、さらに考えられない事態に遭遇してしまった。
「お……お前……ら? なんだこれ……」
「あ……えっと……」
「あ、お邪魔してます……」
「えーっと、ご、ごめんなさいっ」
そこにはセレナのほかに、『ホットライン』のリメイクことリメリアとキューリアの二人。
そして床にはほぼ二階前面にわたって綿が散らばっている。
三人の前には買ったばかりのぬいぐるみが、見るも無残な屍をさらしていた。
しかし店主には、それを見て即座にその現実を受け入れることは出来なかった。
「ま……まず、説明聞かせて……もらえるか……?」
店主が辛うじて口から出た声には、だらりと下げた腕の先の拳同様、怒りの感情が静かに込められていた。
▽ ▽ ▽ ▽
連日の聞き取り調査で一方的に質問攻めにあい疲労困憊だったセレナは、第二次巨塊討伐の結果をようやく聞かされ、仲のいい者達や知り合いの多くが死亡もしくは行方不明であることを知った。
確かめに行こう、会いに行ってみよう。討伐の戦場で亡骸がまだそのままなら、自分の目で確かめに行こう。
そんな決心をするが、戦場は絶対に止めるように国の政治家や最高顧問から止められた。
友人の家々を回ることしかできなかったが、取り調べ中に聞かされたその話は事実であることを知る。
いつもそばにいてくれた、あるいは楽しい時間を共に過ごしてきた友人たち、小さい頃から一緒に遊んでいた幼馴染達が一斉に自分のそばから離れてしまい、再び会うことが出来なくなってしまった。
永遠の別れの時は、生きている者同士なら必ずやって来る。
特に他種族よりも寿命が長いエルフ族である。他の種族と混じっていても、エルフ種が少ししか混じっていなくても、エルフ種と繋がっている者ならばそんな意識は誰にでも強く根付いている。
セレナとて分かっていた。だからこそそんな別れの時を突然迎えても、立ち直るために要する時間は決して長くない。
だが流石に一斉に友人を失う現実はセレナにはあまりに堪えた。
その悲しみのあまり、誰かに縋りたい思いに駆られる。思い浮かんだその相手とも、もう会えないと知る。
セレナばかりではなくエルフという種族自体あまり動揺することがない特徴を有しているのだが、取り調べの途中でその経緯を聞き号泣する。聞き取りを担当する第二次巨塊討伐の調査委員もその取り乱しようを見て、流石に毎日連続して尋ねることは酷と判断。
三日ほど休養期間とし、その後の様子次第では期間の延長や聞き取り調査の時間を、これまでの一日のあたりの時間から半分以上減らす予定にした。
その休養の一日目が昨日の事。
溺れる者は藁をもつかむ。
縋りたい第一候補や第二候補などではなく、縋りたい相手をさんざん探してようやく思い当たった藁が自分であることを知った店主は、セレナの理性がまだ残っていたことに安心する。
見知った人物である店主がいるとは言え、突然見知らぬ世界に連れ出され、何をするのか不安な思いもあったが、まさか自分に慰めになるようなプレゼントを買ってくれるなどと夢にも思わなかった。
しかもその買い物の行先は、この世界には存在しない、触り心地抱き心地がいい、しかも可愛い物がたくさん並んでいるぬいぐるみの売り場である。
店主はそこまでの彼女の話を聞いて、ぬいぐるみを手にした時の喜びように納得した。
△ △ △ △
「うむ。理解できた。大変だったなセレナ。で、それがこの有様なんだが?」
店主の問い詰めに即座に反応したのはリメリアとキューリア。
「「ごめんなさいっ!」」
二人が同時に頭を下げる。
それを見た店主の怒りは少しだけ鎮まる。
セレナがやらかしたとしたらさらにもっと激しい怒りが込み上げてきただろう。
「……二人から説明聞いた方が分かりやすいかな?」
「え……えっと……そ、それはこんなことがありまして……」
二人からの説明が始まる。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる