美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

文字の大きさ
63 / 290
巨塊討伐編 第二章:異世界と縁を切りたい店主が、異世界に絡み始める

客じゃない客 7

しおりを挟む
「キューリアについてどう思う?」

 『ホットライン』のメンバーについてリーダーから唐突に質問がきた。

「えーと、そいつは……飛べる奴だよな?」
「……テンシュが最初に会った私達のメンバーですよ」
「あ、それは分かりやすい説明だ。で? こないだリーダーの従姉? と一緒に駆けつけてきたっけな。友人思いでいい奴じゃねーの?」

 質問に対する答えとしては、店主は決して間違ってはいない。
 しかしブレイドは肩を落とす。

「いや、テンシュはどう思ってるか、を聞きたいんだが」
「……客だろ? ほかに何も思い当たる節はないが?」

 質問をつけ足したブレイドに、店主はさらに真顔で答える。
 続けた答えにもいつもの店主節はない。
 だが聞きたい答えではない返事に、ブレイドは釈然としない。

「ということは、あまり気にするなってアドバイスでいいんじゃないですか? ブレイク」
「そういうことだな」

「気になるようなことを言うな。まぁ気にしないからいいけど」

「この人は……。彼女が初対面の時のことをちょっと気にしてるような感じなんですよね。まぁ高飛車なところは見え隠れしますがね。でも今回の事でかなり反省はしてるんですよ」

 店主は自分で言った通りほとんど気にしておらず、逆にそう言われてもどうしたらいいか少し困っている。

「じゃあ今日から一か月間、仕事してない日の昼ご飯で最後の一口は絶対禁止というルールで許す。っつかー何を反省しているのかさっぱりわからんが。ここで持ち出す話なのか?」

「どんな意味があるんだそれ……」
「……被害者は被害者意識を持っていない、ということでいいのでしょうか」

 その時突然、彼らの会話を止めるように大きな音を出してドアにぶつかる者がいた。
 痛がりながら店に入って来たのは、やはりチームメイトの超人種のエンビー。

「エンビー……お前何してんの? お前の体でドアにぶつかったらドアがシャレにならんぞ」

「大丈夫。気にするなリーダー。俺に痛みは感じない」
「テンシュさん……。そりゃあなたはそうでしょうよ……」

 一見大柄な人間だが、人を越えた筋力と寿命の人種。けれどもその体を持ってしても痛みを堪えるほどの衝撃を受けた。相当慌ててきたのは理解できる。しかし店主だけはさらに斜め上の反応。

「ドアはもっと痛がってるかもな。でも壊れたら俺、帰れるのかな」
「そりゃまずいだろ。のんびりしてる場合じゃないだろうに」
 そう言うブレイドもなかなかの落ち着きよう。
 しかしエンビーの慌てぶりは止まらない。

「ってぇ……! セレナは……セレナはどこだ!」
「二人の男に拉致監禁された。夜までには解放の確約されてるが。何の用だ? ブレイド」
「「だからテンシュさん……」」

 この三人のやり取りにエンビーは構っていられない。
 
「ウィリックが見つかった!」
「マジか!」
「本当ですか!」
「誰だそれ!」
「……テンシュさん、口調合わせなくていいから……」

「セレナと同郷で、俺達の大先輩の一人だよ」

 店主はセレナから、憧れのお兄ちゃんの名前は聞いていなかった。
「セレナの子供のころから世話になったとかいう、チームを組んだことがなかった冒険者。第二次討伐で行方不明のエルフの男ってことでいいか?」
「知ってたんですか? テンシュ」

 セレナの話と繋がった情報を聞いても、店主の心境には特に変化はない。

「本人からちょっと話を聞いただけ。道具の件はまた後にするか。どっか行くとこあるんだろ? 行ってきな。その間に俺逃げるから」
「テンシュさん……それもういいから」
「すまん、テンシュ! またあとで!」

 三人は慌てて店を後にする。

「見つかった、ねぇ……」

 三人が店から出たあと、店主は腕組みをして思案する。

「遺体が見つかったか、意識はあるか、五体満足か、能力は衰えてないか、普段と変わらないままか。心配のタネは尽きないな」

 そして思考はその話題から今朝食べたおにぎりに移る。
 自分で時々実験をしながら作る。

「ありったけの握力で握って作ったおかげで腹持ちがいい。昼飯抜きでも仕事できそうだ」

 嵐の後の静けさの店内。しかしその嵐は誰にどこまで影響を及ぼすのか。
 そんな心配は転ばぬ先の杖を作る基になる。だが転ぶ先が分かるから杖が役に立つ。転ぶ先も分からないなら杖の用意も目途がつかない。
 ならば今出来ることしかやらないのが、俺の立場じゃそれが正解。

 そんなふうに店主は気持ちを改めて作業を再開した。

───────────────────

「何か、見えづらくなってきたな」

 ふと気づくと店内は薄暗い。
 中から外の様子を見ると、日が沈みかけている。

 夕刻。

 視力が落ちたせいではなかったことに安心し、店内に明かりをつける。
 店主の世界では、電気による明かりがつけられる。スイッチだけで明るくなる。
 この世界では電力ではなく、魔力がそれの代わりになるようだ。

 いつもやっていた作業の途中での体のストレッチをすることもすっかり忘れるほど高まった集中力は、店主自身も久しぶりに感じられた。
 だがその分体は強張っている。
 いつもより丹念に体を解し、再び作業に没頭する。
 常連も一見も、あの後は客は誰も来ない。そんな日は珍しくはないのだが、何となく今日の店内は寂しげに感じる。

 作業の邪魔が入ったわけではない。だからまたすぐに集中力は高まるはず。
 そんな確信を得、現時刻を確認することもなく作業に入る。
 店内に響く、石を削る音。石に穴を掘る音。道具を机の上に置く際に出る音すら店内に響き渡るかのよう。

 店主の体感時間ではそれから間もなく、外はすっかり暗くなってしまっていた。

 チリン、チリン。

 カウンターではなく、店の入り口の呼び鈴がゆっくり鳴る。
 集中しているときは店主の耳に入ることがほとんどない音。しかし作業中の店主は我に返る。
 カウンターを見ると、エルフの二人が立っている。

「……ただいま」

 入り口からカウンターまで距離は相当ある。それでも店主の聞き慣れた声が静かに机の方まで届く。

「……お帰り」

 彼女の後ろにいる人物を店主は予想した。

「そちらは?」

 多分そうだ。きっとそうだ。
 だが一応聞いておくことにした。

「ウィリック。ウィリック=アーワード」

 セレナは名前だけを口にして一旦言葉を切る。

「今朝話をした、憧れのお兄ちゃん」

 彼女がそういうと、後ろのエルフの男は店主に向かって静かに軽く頭を下げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...