美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

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巨塊討伐編 第二章:異世界と縁を切りたい店主が、異世界に絡み始める

休店開業 8

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 そろそろ自分の世界に帰ろうかと腰を上げた店主にセレナが声をかける。

「テンシュ……」
「何だよ」
「え、えっとね……」

 セレナは言い淀む。

 セレナは困った顔で店主を見る。言わなければならないことがある。でもこの店主に伝わるだろうか。
 どう言い出せばいいか迷うが、店主は彼女がどんな思いを持っているか露知らず。

「帰るか」
「ちょっと!」

 完全にいつもの店主である。

「だってお前何にも言わねぇし、こっちは飯食ったしこの世界の時間もそろそろ夜になる。帰るにはいいタイミングだろ」
「い、言わなきゃいけないことがあるの!」

「知らねぇよ。こっちは戻らなきゃなんねぇんだ。長居してもいいけどよ、その後で俺が戻ったら、ここにいる期間は会いにも来れねぇと思うぜ? そしてお前にはなるべくこっちに来てほしくはない。痛くもない腹探られて迷惑がかかるのは俺の方だからな。俺が行けない間にこっちに会いに来るようなら、あの扉ぶっ壊す。修繕の費用は自腹だが、まぁ仕方ねぇよな」

 店主はそう言いながら階段に向かう。

 店主はすっかり気持ちを切り替えている。しかしセレナは昨夜からのいろんなことが降りかかり、気持ちが落ち着かないまま。
 店主にはもう少しいてもらわないと自分の思いを伝えられない。慌てて店主を追いかける。

「テンシュ、ちょっと待……」
「何か言うと思って待ってたらいつまでも引っ張るしタメるし。付き合いきれねぇっつぅの。俺の仕事は一区切りついたし、あの六人からの依頼ももう少しで終わるから少しくらい休ませろや」

「あ、ありがとうって、言わなきゃって! でも私の気持ち伝わるかどうか分かんなかったからどう言おうかって……」

 階段を下りる店主は後ろにいるセレナに目もくれない。
 頭の中はすでに『天美法具店』での予定を考えている。
 やるべきことは、どんな予定であろうとまずは自分の体調を整えること。

「あぁ? 今日の訳の分からんどこぞの客の件なら別に礼なんて必要ないだろうよ、じゃあな」
「そうじゃなくて! 私のことっ……!」
「はいはい、いつものここでの仕事の事なら普段から言っとけばそんなに思い詰めることもなかったろうよ。お前の普段の行いがそういうことに繋がるんだよ。んじゃまたな。まだ七時前か。早けりゃ明日の朝に来れるってわけだな」
 
 近くにいるのに、すぐに店主のそばに動けないセレナは、自分の思う通りに動かない体にもどかしさを感じる。

「待って! 私っ……!」

 明日になればまた会える。普通にいつもの店主と会話もできる。
 しかしセレナは今しかないと思ったのか、焦りながら出口に向かう店主を追いかける。
 店主は店から出る直前に立ち止まり、セレナの方に体を向ける。

「敵討ちだ何だといきり立つのもいいがな、まず弔ってやれよ。見送って終わりにできるほどドライならいいけどよ、まずお前の気持ちに向き合えよ。弔うってのはな、冥福を祈るだけが全てじゃねぇんだよ。そいつの事だけ思ってやれ。他の奴の事は考えるな。余計なことは考えるな。これまでのその相手とのこと振り返ってよ、まず思い出に浸れ。もっとこうしたかった、こうすれば良かったなんて後悔するわがままが生まれるまでな。そしたらその後で思い直せ。あんなことしなくて良かったってな」

 いつもなら無愛想、つっけんどん、無関心、的外れなことしか言わない店主。
 そんな店主が、彼女と共にあの男を失った悲しみを分かち合っているかのような目をしてセレナを真正面に見据える。
 そしてセレナを案ずるような言葉が口をつく。
 店主からそんな話が出るとは思いもしないセレナはその理解が追い付かず、言葉が詰まる。
 言葉ばかりか、店主を追おうとする動きも止まる。しかし店主は彼女からの反応を待たずに続ける。

「お前が生きようが死のうが別にすごくどうでもいい。だがせめて俺の店の前で居座り続ける宝石の岩、何とかしてからにしろよな。じゃ、明日七時以降に来る。じゃあな」

 別れの間際は結局いつもの店主に戻る。しかしセレナは振り切られ、店主はそのまま向こうの世界に戻っていった。

 それでも店主には何もせずにはいられない。店主を追いかけようとするが、店主に追いついた後の自分は何をすべきか。

 何も思い浮かばない。

 セレナはドアの前で足を止め、力なく佇み俯く。
 自分はどうしたかったのだろう。
 店主から言われた言葉を反芻する。

 ガンッ!

 突然やってきたその音と共に、セレナの頭に身悶えするほどの激痛が走る。
 言葉も出ずセレナはその勢いに負け後ろによろめき、その場でうずくまる。

「痛ぇっ!」

 ドアの外では尻餅をついて頭を抱えている男。
 背中に鳥の羽根がついた鳥妖族、スウォードだった。

「バカだなオイ。だから急ぐなっつったんだ」

「まったく何にぶつかったのやら……って、ちょっとセレナ! 大丈夫?! ってこぶできてるじゃない! 何やってんのよスウォード! まったくもぉ! あ、セレナ、立てる? 早く治さないと!」

 店の前にいる人数が、店から出て言った人数の倍近くいる。

「お、俺の事はいいから……いてて。店主、店主は!」
「うん、あんたのことはいい。セレナの治療の方が先だから」

 出会い頭の衝突事故の原因が放置される。
 頭を抑えたセレナは涙までこぼしている。

「痛い……」
 セレナはほぼ全員に付き添われながら二階に上がっていく。

「……いや、お前ら、少しくらいは俺の事も心配しろよ……」

 痛みが引かない額に両手を当てながら、最後にスウォードが店内に入っていった。
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