美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

文字の大きさ
108 / 290
巨塊討伐編 第三章:セレナの役目、店主の役目

客じゃない客の置き土産 3

しおりを挟む
 翌朝。つまりトカゲの獣人族の双子姉妹がバイトを始めて三日目の朝。
 店主には珍しく、そのバイト先である『法具店アマミ』に入ると真っ先に二階に上がる。

「あら、おはよう、テンシュ。って、何その荷物」
「おはようございます、テンシュ。なんかいろいろ持ってきたね?」
「おはようございます。何ですそれ?」

 ここで作業するための道具と材料を持ってくるのはいつもの事だが、さらに風呂敷包みを二つ持ってきた。肩に括り付けた一つと、片方の手に持っている一つ。

「本だよ。暇つぶしのためってこともあるし、俺んとことここと変わらない知識とか教養なんぞを身につけるにはいいんじゃねぇかと思ってな。セレナ、空いている本棚のところに適当にぶっこむぞ」

「それはいいんだけど、どういう風の吹き回し? 私達のため?」

「古本屋に持ってったって全部で百円になるかどうか分からん。ま、百円って言葉がお前らに通じるかどうかわからんが……。捨てるにも燃やすとなると自然環境が云々で得にならんことがなくてな。処分に困って持ち込んだってとこだ。それに双子よぉ」

「な、何?」
「私達?」

 持ってきた荷物に自分達とは関係がないと思っていたのか、突然呼ばれた二人は驚き気味の声を上げる。

「教養一つ身につけただけで接客業も良くなるんじゃねえかってな」

「むしろテンシュに必要じゃない? それ」

 店主はミールからの憎まれ口は聞き流し、本棚の空いたところに次々と本を入れていく。
 本棚がすべて埋まり、入りきれなかった本を本棚の上に横積みにする。

「ここでの接客の仕事は、俺にはすごくどうでもいい。むしろお前らがバイト以外でも必要になるだろうよ。どうせここに買い物客が来るなんてこたぁほとんどねぇんだ。掃除とか終わって退屈になったらカウンターでどれか読んでみろよ。ためになるかどうかはお前ら次第。俺は知ったこっちゃねぇがな」

「また適当なこと言うし……」
「でも自分の財産になるんなら得するばかりじゃない。好意は有り難くいただきましょう」

 ウィーナの方は若干物腰が柔らかくなったようだ。

「だがお前らもずいぶん早いな。余分な仕事はもうなかったはずだが」

「掃除は一応きちんと終わらせまし……」
「何ぃ?! 窓も割れてなかったし、壁もヒビ一つはいってなかったぞ?!」

 ウィーナからの返事に、その途中で反応する店主。
 
「またそういうこと言うし。あたし達をどう見てるんですか、テンシュは!」

 今日も朝から普段の店主。その返しもいつものやり取り。
 
「……そいつにはさん付けで呼ぶが俺には呼び捨てにする矛盾を抱えるひねくれ者」
「だってまともに会話しないときあるし……」

「でもそれだけ親しい思いを持たれてるってことなんじゃないの? テンシュさんっ」

 皮肉も若干込めながら、励ますように後ろから肩を軽く叩くセレナ。
 しかし彼女からのフォローは、店主にとって別段ありがたくも何ともない。
 店主ははいはいとやり過ごすといつも通り、作業にかかるため、下に下りる。

「え? 朝ご飯は?」
「朝ご飯は朝に食べる物。知らないのか?」
「またそういうことを言う……。用意できてるわよ? 食べたら?」
 階段に行きかけた店主は戻ってきて席に着く。

「何だお前ら。ジロジロ人の事見て。つーか、お前ら朝早くから何かやってたのか?」
「先に朝ご飯はいただきましたけどね」
「まぁいろいろセレナさんからお話し聞きまして」

 実際彼女らが早く来た理由はバイトの仕事のやる気の現れ。朝食はセレナが食べるその相伴にあずかっただけ。
 だがセレナはその時に調査団に加わった理由を双子に尋ねられ、憧れの存在であるウィリックが亡くなった時の一連の流れの話をした。
 陰から支えてくれた店主のことも話の中に出てきたものだから、昨日の事もあり、改めて店主を見る双子の目が変わる。

「気味悪りぃな、お前ら。人の食ってる姿はあんまりジロジロ見るもんじゃねぇぞ。そういうのも教養の一つだっての」

 店主がそう反応するのも当たり前である。
 二人は店主にそのことを伝えるはずもない。つまり、二人は店主にニコニコ顔を向けるだけだったから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...