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巨塊討伐編 第四章:遅れてきた者
非力な力を結集させて 3
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「あたしが全速力で走ると、多分冷たい風がぶち当たってくる感じがするよ? テンシュさん、それでもいいの?」
「チェリム爺さんから防寒具借りた。これを着て重くなるようなら寒いのは我慢するさ」
店主の返事にニードルはケラケラと笑う。
「バカにするんじゃないよっ。テンシュの体重くらいじゃどうこうなる体じゃないんだよっ。そんなことより速さのあまり怖くて、あたしの体によだれつけたりションベンちびったりするんじゃないだろうね? そうなってもあたしは構やしないよ? そんな経験何度もあったからね」
「年頃の女性がションベンなんて言うんじゃねぇよ。お言葉には甘えさせてもらうがな。それより分かってんだろうな? 洞窟の内部はどうなってるか分からねぇんだ。なるべく近づくなよ。十メートルも離れてたって俺は構わねえんだから。ギリギリまで俺らを運ぼうとすんじゃねぇぞ。それよりミュールは大丈夫なんだろうな? 噛まれながら高速で移動すんだからただじゃ済まねぇと思うんだが?」
「高速で地面に引きずられるのは勘弁してほしいんですが、自分の体格上問題ないと思います」
「俺らだって風圧とかは受けるが、普段から体は鍛えられてっからな」
「で、降りた後は三人の場所まで一直線。見つけたら、俺が調査員二人の上半身を両肩に担ぐ、だったな?」
「ワイアットが乗せた調査員の足の方を俺の両肩に担いで、洞窟の外で待機してる車まで運ぶと」
「自分はテンシュさんと組んで、セレナの足を肩に乗せる」
「そういうことだ。車に乗せたら、俺はニードルにまたしがみついて一足先に店に戻る」
「その際には三人がかりでニードルさんの体にテンシュを括り付けるのを忘れないと」
「で、俺は行くときはワイアットとギースを背に乗せて、ミュールを咥えて移動。到着した後は動物車の車引きの動物の手伝いで、一緒に車を引くと」
「あぁ。ライヤーの力が加わるから俺達も同乗できて、三人に余計な衝撃を与えないように見守りながら帰れるってわけだ」
こうして打ち合わせを終え、現場に向かった一行。残った者達は洞窟前に車を待機させるように手配する。
そしてどこからも邪魔が入ることなく計画は遂行され、全員無事に帰還を果たした。
言葉が通じない世界で声をかけられた不安を既に経験済みの店主。その相手がセレナということで、あの時は右往左往するほどの混乱は生じなかったものの今回はそこまで気心の知れた仲ではない。五人は店主の事をどう思っているかは店主は知らないが、店主には、店のスタッフと常連客という間柄なだけとしか感じていない。
意思伝達がほぼ不可能の外界でどう連携を取れるか。店主が経験で得た知恵が生きた形となった。
「大丈夫? テンシュさん。乗り物酔いとかションベンちびったりとかはなかったから、正直あたしは助かったわ。ヨダレついてるのは許容範囲。アンタホントよく頑張ったわ」
ニードルが真剣なまなざしで、うずくまる店主の背中をさすりながら労わる。
「……こ、今回はマジでお、俺が悪かった……。は、鼻水つけちまったかもしんねぇから、シャワーつ……あ……悪ぃ。もう俺の店じゃねぇんだっけか。体洗うのは自分ちでやってくれ……」
「あたしのことはいいからさ、アンタ向こうに急いで戻らなきゃなんないんじゃないの?」
「……うぷっ……。はぁ……はぁ……、ま、まさか一時間とちょっとオーバーする程度で終わらせると思わなかった……ちょっとぐれぇ遅れても問題ねぇよ……。お前の、い、いや……俺の人選で助かった」
店主は一時的な体調不良。ちょっと休めば回復する確信を得たのか、へたばっていても言うことはいつもと変わらぬ減らず口。
この分ならこの人は問題なさそうね、とニードルの独り言。それを耳にした店主は店内の床の上で大の字で体を休める。
「テンシュさん、ただでさえ狭いのにそんな仰向けになったらさらに狭くなる。セレナの部屋借りたらどうだ?でニードル、セレナ達はどうした。お前ら二人だけか?」
打ち合わせは救出に向かった者達だけで行われたため、具体的な動きは店内で待機する者には伝わっていない。スウォードの心配ももっともである。
「スウォード……同じスピードで連れて戻れるわけないでしょう? 遅れて到着するわよ」
二人が戻ったことで、健常者が突然意識不明に陥る危険地帯から被害者救出に成功したことを知った店内外に集まった者達は、ニードルからの報告で胸を撫で下ろす。
「テンシュさん、と言いましたか。この人の言う通り、ここじゃなくてもっとゆったりできるところで休まれたらいかがです? 救出計画の殊勲賞ものです。それくらいしても罰は当たりませんよ」
「バチが当たるのは太鼓だけで十分だ……息も落ち着いてきたしな。で、役人さん、あんたの同僚が見当たらねぇが?」
冒険者と近所の住民達で寄り集まっている『法具店アマミ』店内で、背広にネクタイ姿はここでは珍しい。出発前は三人だったのが、その目立つ姿が一人だけしか見当たらない。
「あの問題を起こしていた彼は、いろいろ訳ありだったようです。あの二人で拘束してちょっと取り調べにね」
役人の話を聞いた店主はその話を聞いてから、ギスモの件は口を閉ざす。事情を深く知ろうとすることで、この世界に関心を持っていると誤解されかねない。
「ま、拘束されたからってあいつの代理に俺がなるわけじゃねぇし……」
店内にいる店主の常連客全員が目を剥く。
「え……? テンシュ……この店、辞めるの?」
「チェリム爺さんから防寒具借りた。これを着て重くなるようなら寒いのは我慢するさ」
店主の返事にニードルはケラケラと笑う。
「バカにするんじゃないよっ。テンシュの体重くらいじゃどうこうなる体じゃないんだよっ。そんなことより速さのあまり怖くて、あたしの体によだれつけたりションベンちびったりするんじゃないだろうね? そうなってもあたしは構やしないよ? そんな経験何度もあったからね」
「年頃の女性がションベンなんて言うんじゃねぇよ。お言葉には甘えさせてもらうがな。それより分かってんだろうな? 洞窟の内部はどうなってるか分からねぇんだ。なるべく近づくなよ。十メートルも離れてたって俺は構わねえんだから。ギリギリまで俺らを運ぼうとすんじゃねぇぞ。それよりミュールは大丈夫なんだろうな? 噛まれながら高速で移動すんだからただじゃ済まねぇと思うんだが?」
「高速で地面に引きずられるのは勘弁してほしいんですが、自分の体格上問題ないと思います」
「俺らだって風圧とかは受けるが、普段から体は鍛えられてっからな」
「で、降りた後は三人の場所まで一直線。見つけたら、俺が調査員二人の上半身を両肩に担ぐ、だったな?」
「ワイアットが乗せた調査員の足の方を俺の両肩に担いで、洞窟の外で待機してる車まで運ぶと」
「自分はテンシュさんと組んで、セレナの足を肩に乗せる」
「そういうことだ。車に乗せたら、俺はニードルにまたしがみついて一足先に店に戻る」
「その際には三人がかりでニードルさんの体にテンシュを括り付けるのを忘れないと」
「で、俺は行くときはワイアットとギースを背に乗せて、ミュールを咥えて移動。到着した後は動物車の車引きの動物の手伝いで、一緒に車を引くと」
「あぁ。ライヤーの力が加わるから俺達も同乗できて、三人に余計な衝撃を与えないように見守りながら帰れるってわけだ」
こうして打ち合わせを終え、現場に向かった一行。残った者達は洞窟前に車を待機させるように手配する。
そしてどこからも邪魔が入ることなく計画は遂行され、全員無事に帰還を果たした。
言葉が通じない世界で声をかけられた不安を既に経験済みの店主。その相手がセレナということで、あの時は右往左往するほどの混乱は生じなかったものの今回はそこまで気心の知れた仲ではない。五人は店主の事をどう思っているかは店主は知らないが、店主には、店のスタッフと常連客という間柄なだけとしか感じていない。
意思伝達がほぼ不可能の外界でどう連携を取れるか。店主が経験で得た知恵が生きた形となった。
「大丈夫? テンシュさん。乗り物酔いとかションベンちびったりとかはなかったから、正直あたしは助かったわ。ヨダレついてるのは許容範囲。アンタホントよく頑張ったわ」
ニードルが真剣なまなざしで、うずくまる店主の背中をさすりながら労わる。
「……こ、今回はマジでお、俺が悪かった……。は、鼻水つけちまったかもしんねぇから、シャワーつ……あ……悪ぃ。もう俺の店じゃねぇんだっけか。体洗うのは自分ちでやってくれ……」
「あたしのことはいいからさ、アンタ向こうに急いで戻らなきゃなんないんじゃないの?」
「……うぷっ……。はぁ……はぁ……、ま、まさか一時間とちょっとオーバーする程度で終わらせると思わなかった……ちょっとぐれぇ遅れても問題ねぇよ……。お前の、い、いや……俺の人選で助かった」
店主は一時的な体調不良。ちょっと休めば回復する確信を得たのか、へたばっていても言うことはいつもと変わらぬ減らず口。
この分ならこの人は問題なさそうね、とニードルの独り言。それを耳にした店主は店内の床の上で大の字で体を休める。
「テンシュさん、ただでさえ狭いのにそんな仰向けになったらさらに狭くなる。セレナの部屋借りたらどうだ?でニードル、セレナ達はどうした。お前ら二人だけか?」
打ち合わせは救出に向かった者達だけで行われたため、具体的な動きは店内で待機する者には伝わっていない。スウォードの心配ももっともである。
「スウォード……同じスピードで連れて戻れるわけないでしょう? 遅れて到着するわよ」
二人が戻ったことで、健常者が突然意識不明に陥る危険地帯から被害者救出に成功したことを知った店内外に集まった者達は、ニードルからの報告で胸を撫で下ろす。
「テンシュさん、と言いましたか。この人の言う通り、ここじゃなくてもっとゆったりできるところで休まれたらいかがです? 救出計画の殊勲賞ものです。それくらいしても罰は当たりませんよ」
「バチが当たるのは太鼓だけで十分だ……息も落ち着いてきたしな。で、役人さん、あんたの同僚が見当たらねぇが?」
冒険者と近所の住民達で寄り集まっている『法具店アマミ』店内で、背広にネクタイ姿はここでは珍しい。出発前は三人だったのが、その目立つ姿が一人だけしか見当たらない。
「あの問題を起こしていた彼は、いろいろ訳ありだったようです。あの二人で拘束してちょっと取り調べにね」
役人の話を聞いた店主はその話を聞いてから、ギスモの件は口を閉ざす。事情を深く知ろうとすることで、この世界に関心を持っていると誤解されかねない。
「ま、拘束されたからってあいつの代理に俺がなるわけじゃねぇし……」
店内にいる店主の常連客全員が目を剥く。
「え……? テンシュ……この店、辞めるの?」
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