美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

文字の大きさ
176 / 290
法王依頼編 第七章 製作開始

碁盤と碁石 作る間に 7

しおりを挟む
 雨音が店内にも聞こえるが、店主の作業の音には負ける。
 時折セレナの「いらっしゃいませ」と言う挨拶もそれに混ざる。
 法王から依頼されたとはいえ、店主がやることは、実質普段とそんなに変わらない作業。
 手にする素材の形や大きさが違うだけ。
 賑わっていた見物客の数も日に日に減っていく。
 買い物客も、店内に並べられてある品物も減る一方。
 新規の依頼は受け付けない。受け付けた依頼は後回し。
 そんな店の状況では、名が広まった店主の店とは言え、次第に関心も薄らいでくる。
 ましてや天気は、傘がないと出歩けない雨模様。
 店としては寂しい限りだが、店主としては作業が捗ってうれしい限りだろう。
 そんな店主から目を離さないシエラ。
 宝石の板から時折コロン、コロンと落ちるのは、型抜きされた碁石の原型。
 店内はそんな音ばかりで、会話のない時間が増えていく。
 セレナは店主の水分補給のために、粉が飛んでこないカウンターに飲み物を用意するが、時々背伸びを店主にはそれに気付かない。

 型抜きされた宝石は二十個以上は転がっているだろうか。しかし前回の続きでもあるその板は、店主の今日の型抜きの作業を始める前からいくつか穴が開いていた。
 四十個くり抜くようにしているその一枚の宝石の板には、隅から隅まで穴が開いている。
 改めて店主はそれを確認する。それから作業道具を床において、両手を上に上げながら全身を伸ばす。その顔いっぱいに皺が見える。

「んあ゛あ゛あ゛ぁぁっ……。っと……。前回のを合わせて四十個出来たな」

「石は何個作るんです?」

「百八十一と百八十。先手の色の方が一個多い。」

 シエラからの質問に素っ気なく答えると周りに落ちた宝石を拾い集め、今までくり抜いて保管していた宝石と一緒にまとめる。

「閉店時間にはまだ一時間くらいあるか。少しでも多く作っとくか」

「その前に水でも飲みなさいよ。ここにあるから」

 店主はセレナが水を汲んで持ってきたコップに手を伸ばし飲み干した後、もうひと頑張りとばかりに床の上に座り直す。

「あ、じゃあ私、店主の布団ベッドの上に移してお客さん用の布団出してくるね。シエラちゃん、ごめん。店番しといて。もう誰も来ないと思うけど」

 いろいろと面倒を見てもらってばかりということに気が付くシエラ。
 セレナの手伝いの一つでもしないと気持ちが落ち着かなくなり後を追おうする。
 しかし店をがら空きにさせてしまうのも心苦しく、結局セレナの言う通りに店番をしながら店主の仕事を見学する。

「ウィーナさんもミールさんも、こんな気持ちになってたのかなぁ……」

 布団の移動をするだけなのに、なかなか降りてこないセレナ。
 突然店の扉が開く。
 買い物客かとシエラは身構えるが、その客の言葉に気持ちが空回る。

「こんちはー。出前お持ちしましたー」

 入って来たのは、いかにも料理人という白い服装の男。

「出前? えーと……」

「はーい、シュライさん、待っててー」
 二階から声と共に下りてくるセレナの片手には財布が握られている。

「はい、じゃあこれ。ありがとね」

「じゃあ食器は明日の朝一番に受け取りに来ますよ。空になったら食器はすすいでもらえます? 洗わなくていいですから。じゃあ失礼しまーす」

 セレナが近所の食堂から出前を注文したようだ。

「ごめん。宿に連絡するの忘れて、今夜だけキャンセルするって今伝えちゃった。問題なかったけどね。で、ご飯作る時間ちょっとないから店屋物にしちゃった」

「そこまで気を遣わなくても……」

「この雨だもん。傘持ってこなかったでしょ。気にしない気にしない。テンシュー。もう閉店にするから一緒に晩ご飯食べよ」

 シエラは恐縮するがセレナは気に掛けず店主にも声をかける。
 すぐに店主もそれに応じ、二人が二階に上がった後に戸締りして二階に上がる。

「んだよ出前か。文句はねぇが、食堂のやつが入ってきたのか? 入り口んとこ足跡あったから何かと思った」

「気付かなかったの? 私の声は聞こえたのに?」

「仕事中は名前を呼ばれると反応するが、それ以外は耳に入らねぇな。どんなに集中しても名前だけは耳に入る」

「そ、それであまり、『話しかけんな』って言うことが多いんですか?」

 恐る恐るシエラが話しかけるのは、まるで機嫌を損ねないように気を付けているため。

「そんなとこだ。セレナ、俺は食ったらシャワー浴びてもう寝るから。明日は早く目覚めるだろうから時間に拘らねぇでそっから作業始める」

 シエラとの会話には言葉は短めになっている店主。
 二人を待たず先に晩ご飯を食べ始める。

「ちょっ。もう少しよく噛みなさいよ。消化に悪いよ?」

 そんな店主の態度がシエラには心に突き刺さる。
 店主が食べ終わるまでの時間はあっという間。まるで飲み込んでいるかのよう。
 そして浴室に入るまで店主を目で追うセレナ。

「……テンシュさんに変なこと言っちゃったから避けられてるのかなぁ……」

「どうしたの? 何かあった?」

 弟子入り宣言の時の目つきには見えた強い意志が、今ぼやいたシエラの目には影も形もない。
 目の前に並べられた料理に手を付けようとしないシエラの悩みに耳を傾けようとするセレナ。

「闘……じゃなくて碁盤でしたっけ? で、テンシュさんの気を悪くするようなこと言っちゃったし、法王にジジィって言ったり『風刃隊』のひよっこ呼ばわりにテンシュさんのこと、なんかこう、疑うようなこと思っちゃったりしたから……」

 しょんぼりしながら胸の内を打ち明けるシエラ。
 皿を取ろうとした手を戻し、両肘をテーブルの上に突き、手に顎を乗せて考え込むセレナ。

「んー……。言葉だけで謝っても聞き流すこと多いからね、テンシュは。逆にテンシュは、こっちが腹立つほど軽口叩きっぱなしだけど、大事な仕事は絶対裏切らないからね。だからこの世界で一番安心できる人、信頼できる人って感じかな」

 顔をしかめながら言葉を選ぶセレナ。
 しかし最後の言葉を言うときには満面の笑顔。

「弟子入りがもし本気なら、その気持ちに沿った行動をし続けるならテンシュもいつか分かってくれると思うよ? まあ間違いなく分かってくれるはず。テンシュなら」

 そう言うとセレナは食事を始める。

「どうしてそうなるって言い切れるんですか? 私は本気ですけど、分かってくれる時が来ないままってこともあるかも……」

「あの人は絶対仕事を裏切らないし、あなたのあの時の気持ちが熱かったからねー。縋れる相手が他にいなくてテンシュに委ねるなら間違いなくテンシュからは信頼されるよ。『風刃隊』がそうだったからね」

 そう言われても、シエラにはその根拠にできるものがない。

「まぁ何でもいいから食べないと。元気も出なきゃ明日からの仕事もついていけないぞ!」

 わざと明るい声を出すセレナに釣られて食事を始めるシエラ。
 突然浴室の扉が開き、シエラの後ろを通りベッドの上に上がる店主。
 その姿を見てシエラは吹き出しそうになる。

「ちょっとテンシュ。いくら他人がいなくても、パンツ一枚だけでうろつかないでくれる? デリカシーってもんがないの?」

「その言葉はまだ辞書で調べてない。バスタオルで体をきちんと拭いたから何の問題もない。そういう問題だ。気にするな。それにシャツはここにあった。じゃ、寝る」

 シエラは言葉を失っている。
 そしてひそかに願う。
 弟子入りするけど、この人格だけはうつりませんように、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

チートツール×フールライフ!~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~

黒片大豆
ファンタジー
「お前、追放な。田舎に帰ってゆっくりしてろ」 女神の信託を受け、勇者のひとりとして迎えられた『アイサック=ベルキッド』。 この日、勇者リーダーにより追放が宣告され、そのゴシップニュースは箝口令解除を待って、世界中にバラまかれることとなった。 『勇者道化師ベルキッド、追放される』 『サック』は田舎への帰り道、野党に襲われる少女『二オーレ』を助け、お礼に施しを受ける。しかしその家族には大きな秘密があり、サックの今後の運命を左右することとなった。二オーレとの出会いにより、新たに『女神への復讐』の選択肢が生まれたサックは、女神へのコンタクト方法を探る旅に目的を変更し、その道中、ゴシップ記事を飛ばした記者や、暗殺者の少女、元勇者の同僚との出会いを重ね、魔王との決戦時に女神が現れることを知る。そして一度は追放された身でありながら、彼は元仲間たちの元へむかう。本気で女神を一発ぶん殴る──ただそれだけのために。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...