美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ

文字の大きさ
177 / 290
法王依頼編 第七章 製作開始

献品紛失 碁盤はいずこ 1

しおりを挟む
 かなり早い時間に店主が布団に入る。
 布団に入ると間もなく聞こえてくる店主の寝息。信じられないほど寝付きがいいが、寝付かないときは仕事を続けている店主。眠くなるとどんな時間でも仕事の手は止める。そして布団だろうが椅子に座ったままだろうが、眠くなったらすぐに眠る。
 それが時々セレナを呆れさせるが、寝不足になることはないしそれで体調を崩すことはない。

 作業中に周りで騒がれると作業を中断してしまう店主だが、比較的寝つきがいいせいか眠っている間多少騒いでも眠りの邪魔になる事はないようで、セレナとシエラは何やら女子トークで花を咲かせる。
 しかしその時間も長くない。
 一人ずつ浴室に入り、就寝。
 珍しく一日中降る雨の音は穏やかになっていく。

 予告通り店主はまだ日が昇る前に目が覚める。

「……起きるか。こいつらはまだ寝てるからここで本読むわけにもいかねぇしな」

 壁の時計は四時を回っている。
 いくら無関心で他の者はどうでもいいと思っていても、流石に睡眠時間の邪魔はしない。
 なるべく音を立てず振動も起こさず静かにベッドの上から降りる。
 この時間に出来る作業を考える。

 まずは碁石を一組用意。そのために必要なその原型となる宝石の玉をくり抜く作業。それを終えなければ次の段階に入れない。
 理想は千個以上の碁石の作成完了。しかしそれはいつ終わるか分からない。それでも早めに始めれば早めに終わる。
 そしていつでも取り組めるその作業は、時間の隙間を見つけては進めていかないと、今のところ間に合うかどうかは分からない。
 だからこそ、最低限一組の碁盤と碁石を用意しなければならない。

 作業場に向かうため、静かに階段まで足を進める。

 ふと立ち止まる。

 まだ暗い二階。しかし物陰ならば判別できる。
 その物陰を見ただけでも感じる違和感。
 店主は立ち止まって辺りを見る。

 あるはずの物がない。
 まるで床下から出る音を聞くように耳を床に押し付ける。しかし意識は水平に向いている視線。

 ない。

 線引きをしたはずの碁盤がない。

 余計な気を利かせて下に持っていったか?

 そう思った店主は下に下りて、二階にも照明は届くだろうが眠りの妨げにはならないはずと判断し、一階の照明をすべて点ける。

 作業机の上には最初に作業を一区切りつかせた、昨日そこに置いたままの外観だけ完成された碁盤が一基。
 碁石の原型は容器に入ったまま。

 二階に置きっぱなしの碁盤をどこかに移動させたのかと、一階の床の上を見て歩く。

「そう言えば掃除はしてなかったか。食堂のやつの足跡がそのままかよ」

 出口までゆっくりと移動しながら周辺を探すが、床の上にはないどこにもない。
 作業机まで戻りながら探すがやはり見つからない。
 二階に上がる。
 一階からの照明で仄かに階段付近が照らされる。
 見つからない。

 何かの上に置かれているのだとしたら、二階の照明を点ける必要がある。
 しかしセレナとシエラの睡眠の邪魔になってしまう。

「うん、ジジィの依頼の方が重要だ。こいつらは……すごくどうでもいい」

 その一言と同時に二階の照明をすべて点ける。
 少し時間が経って、二人からうめき声が出る。

「ん……んん……。誰よ……。……テンシュ……? どうしたの……?」

 カーテン越しでも明るさを感じたらしい。
 セレナがカーテンを開けて顔を出す。
 その声も耳に入ったのか、シエラも上半身を起こす。

「……んー……。何ぃ? ……何かあったぁ?」

 店主は二人の反応はお構いなし。
 あらゆる場所に目を配る。
 しかしどこに見当たらない。

「お前ら、俺が寝ている間、碁盤どこにやった?」

「「知らないよ?」」

 二人揃って同じ答え。

「……知らない。つまり触ってないと?」

「碁盤、どうしたの? ……動かした? 昨日私達寝る前もそこにあったのに……?」

 セレナが答える。シエラは頷く。
 それを聞いた店主は走って下に下りていく。

「ちょっと、どうしたの、テンシュ!」

「テンシュさん? 何かあったんですか?」

 駆け下りて出口に向かった店主はそのまま扉に向かう。
 扉を開けようとする。当然開かない。
 施錠されたまま。

 追いかけて来る二人。シエラはセレナから借りた寝巻の姿。しかし二人は今の自分の恰好を気にするどころではない。

「どうしたの? テンシュ」

「テンシュさん、何か起こったんですか?」

 この二人が何も触っていなければ。
 店主は頭の中を落ち着かせて考える。
 そして振り返り、二人に告げる。

「碁盤が、盗まれた」

 二人の顔が青ざめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~

月神世一
ファンタジー
紹介文 「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」 そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。 失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。 ​「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」 ​手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。 電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。 さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!? ​森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、 罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、 競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。 ​これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。 ……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...